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3・〔幕間〕公爵閣下は煩悶する

 自室に戻るとアルフレードが、

「お会いできてようございましたね」と言ってきた。

「ああ、元気そうで安心したよ」

 と返して、杖をチェストに立て掛ける。

 アルフレードがやって来て、服を脱がせ始めた。


 イレーネによると、彼女と叔父上はだいぶ長い時間散策をしていたらしい。その間ずっと叔父上が喋りどおしだったとか。彼女はきっと遠慮して、引き上げたいと言えなかったのだろう。ずいぶんと謙虚なところがある。

 そのわりには、ズケズケと踏み込んだ質問をすることもあるようだが。


 とにかくも、彼女はまだたったの十八歳で、どういう訳だか妹の身代わりとなって『死神公爵』に嫁がされたのだ。精神的な疲労も大きいだろう。もっと配慮をすべきなのだ――と叔父上が話していた。


 私はそういうものなのか、と思うことしかできなかった。最低限の人付き合いしかしていない。ましてや女性のことなぞ、わからない。

 結婚した回数は多いけれど、共に暮らしたのは合わせて五ヶ月にも満たないし、どの女性とも義務以上の関係にはなれなかった。


「叔父上が帰ってきてくれて助かった」 

「ジスモンド様は頼りになります」とアルフレード。「ですが、いつまでも頼っていてはなりません。旦那様ももうよいお年です」

「『よい年』か」思わずため息が出た。「妻よりその父親のほうが年が近いとはな。確かにお前の言うとおりなのだろうよ」


 彼女の父親は叔父上の一歳上だという。ならば私とは八歳違う。彼女と私の差は十だ。


「話せば話すほど、彼女が重罰を受けるのは気の毒に思う」

「左様でございますね」

「よい年をした大人として、できる限りのことはしてやりたい」

「陛下の反感を買うやもしれませぬ」

「今とそう変わらないさ」


『出過ぎた口を』と謝るアルフレード。だがそれこそ口先だけだ。

 祖父の代から仕えてくれている彼は、私なんかよりもクラルティの(ぬし)としての存在感がある。七十歳を越えてなお、誰よりも有能なのだから当然のことだ。

 彼の丁寧でありながら迅速な仕事ぶりを見つつ、話を続ける。


「叔父上の話では、ヴィルジニー・カヴェニャックが悪名をはせる一方で、双子の姉についてはなにも知られていなかったそうだ。社交界デビューもしていないのではないかな」

「それは、あなたも」とアルフレード。

「ああ。私たちは似た者同士かもしれない。あくまで推測に過ぎないが」


 着替えが終わり、アルフレードがかしこまる。


「できることなら無理やり暴くのではなく、彼女が自分から事実を打ち明けるようにことを運びたいのだ」

 彼女を『ヴィルジニーではないな』と断じるのは簡単だ。だが知られることを恐れている様子の彼女に、そんなことをしたくない。


「そのためには信頼されないとなりません」とアルフレード。

「信頼か。仕事上ならば得意だが、女性となると」思わずため息が出る。「どうすればいいのか、見当もつかないな。やはり叔父上に頼りたくなる。だが叔父上も笑顔で彼女を追い詰めるからなあ」


 なにか良い方策があればよいのだが――。


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