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3・3 叔父の話

 叔父、ジスモンド・ルセルは先々代のクラルティ公爵が老いてから、後妻との間に生まれた子供なのだそうだ。しかも兄弟の中で一番、クラルティの血筋の証である金髪碧眼が顕著に現れたものだから、父親は彼を溺愛したという。


 過分な愛情を受けて育ったジスモンドは、父に見放されることは絶対にないと思い、心の赴くまま、好きに生きた。が、どうやらやり過ぎてしまったらしい。

 父親は彼を絶縁し、クラルティ邸から着の身着のままで追い出した。


 そんな彼に唯一救いの手を差し伸べてくれたのが、長兄――現公爵のお父様だったそうだ。こっそりと援助をし、自分が爵位を継ぐと周囲の反対を押し切り、クラルティ邸に呼び戻してくれたのだとか。


「だから僕は、リシャールと彼の父親だけは大切にすると決めているんだ」

 そうまとめた叔父は、穏やかな表情だった。


 ただ、私は別のことが気になった。

 金髪碧眼がクラルティの血筋の証となると、黒髪紫瞳の現公爵はどうなるの?

 彼が領地から出ないことと関係があるのだろうか。陛下に私を押し付けられたことは?

 実家の執事調べによると、現公爵のお母様は、陛下の従姉なのよね。


「だから、ヴィルジニーも僕を頼ってくれて構わないよ」と叔父。「もっとも先の奥方たちは、『所帯も持たぬような遊び人は信用できない』と口を揃えて言っていたけどね」

「先妻様たちを、全員ご存知なのですか」

「もちろん。すべての挙式に参列しているからね。どこにいようと、なにをしていようと、可愛い甥のために駆けつけたさ」


 イレーネが私に身を寄せた。こそりと、

「旦那様はジスモンド様の挙式に参列するのを、いまかいまかと待ち望んでおります」

 と耳に囁く。

 なるほどね。


「ジスモンド様はご結婚はなさらないのですか」

「僕にはまだ早いよ」

 イレーネがまた耳元に口を寄せた。

「現在三十五歳にございます」

「ええっ! お父様と一歳違い!」

 とてもそうは見えない。


 けれど叔父は、ひどくショックを受けた顔をしている。

 マズイことを言ってしまったみたいだ。

「お若く見えるのですね」と褒めてみる。

「ヴィルジニー、君のお父上……」と叔父。「いや、そうか。十八だものな。あり得ないことではないか。僕は父親とほぼ一緒、か……」


 イレーネがまたしても囁く。

「ジスモンド様にこれほどダメージを与えた奥様は、ヴィルジニー様が初めてですよ」

「そんな名誉はいらないわ」と囁き返す。

「全部聞こえているよ」と叔父は言って、ため息をついた。「まあ、いいさ。ひとは年をとるものだ。僕を父親代わりに慕ってくれたまえ」

「ありがとうございます」



 それから話題は、公爵の三人の奥様に移った。

 ひとりめのハンナローナ様は侯爵令嬢で、幼少期から婚約をしていたという。先代公爵の喪が明けてすぐに挙式。公爵は二十一歳、ハンナローナ様はまだ十七歳だったそうだ。

 結婚期間はわずか三日。バルコニーから転落して亡くなった彼女をみつけたのは、まだクラルティ邸に滞在していたご両親だったとか。


 ふたりめは、堀に落ちたヘルミナ様。同じく侯爵令嬢で、ハンナローナ様のご実家の紹介だそうだ。先妻の死から一年後に結婚。だけど三ヶ月後に事故死。年は二歳差で、叔父いわく、一番安定していた結婚生活だったとか。


 三人目は、子爵令嬢のホーリー様。彼女との結婚は二年前で、私と同じように陛下からのご命令だったそうだ。ホーリー様がなにかをしでかした訳ではなく、『公爵家の当主の義務として、跡取りをもうけろ』という趣旨だったとか。

 ホーリー様は王宮で侍女勤めをしていて婚期を逃したとのことで、お年は公爵と同じ二十六歳。


 今回の結婚こそはうまくいってほしいと願う周囲の期待とは裏腹に、ホーリー様は最初からひどく怯えていたという。公爵の先妻ふたりともが事故死していることが怖かったらしい。

 そうして彼女自身、挙式からひと月ほどで、マントルピースの角に額を打ち付けて亡くなったのだそう。



「リシャールには幸せになってもらいたいのだけど、うまくいかなくてね」と叔父が顔を翳らせる。「僕が良縁をみつける予定だったのに、またも陛下から勝手に結婚相手が送られてきたんだ」

「すみません。でもそうなると、ホーリー様も陛下にとって『消えてほしい存在』だったのでしょうか」

「こうなってみると」と叔父は私をちらりと見た。「そうかもしれないね」


「公爵閣下と陛下のご関係がよろしくないのは、どうしてでしょう」

「それは話したくないな」叔父はにっこりした。

「立ち入ったことを。失礼しました」

「うん、いい引き際だ。君は素晴らしいお嬢さんだよ。不思議だなぁ」

「不思議、とは?」


 やっぱり疑われているのかしら。

 だけど叔父は答えず、クラルティ邸の歴史について話し始めた。


 叔父との会話は気が抜けなくて、心臓に悪い気がする。



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