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奥様は今世紀最強の魔法使い  作者: 周防綾乃
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1章―1


翌日。空は晴れ渡り、一面綺麗なブルーに染まっている。女神リオの祝福を受けているようですね、と空と同じ髪色を揺らしたサーシャが嬉しそうに笑い、リーシャが彼女の頭を撫でていた。可愛い。


その日も朝から慌ただしい。朝イチでお風呂に入り、結婚式の会場の控え室へ。広い部屋の中にオシャレな鏡台が用意されていて、カリーナがメイクを施してくれる。その間にリエルが私の髪のセットをしてくれた。背中を覆う髪を纏め、編み込みを作って手早くヘアセットを進めていく。

ところが、途中でふとリエルが手を止めた。どうしたのかと不思議に思っていたら、鏡越しにリエルと目が合う。彼女の瞳は優しく懐かしそうに、でもどこか寂しげに細まった。


「どうしたの?」

「…お嬢様の髪をセットするのもこれが最後かと思ったら、少し…」

「リエル…」


そういえば、物心ついた時からヘアアレンジはリエルにしてもらっていた。彼女は手先が器用で、いつも可愛い髪型にしてくれていた。小さい私は、リエルが整えてくれた髪で出掛けるのが大好きだったことを思い出す。もちろん大きくなってからも。

そんなことを言われたら、私も寂しくなってきた。我慢しようとしたけど、じわりと瞳に涙が浮かぶ。


「お嬢様、今泣いたらお化粧が崩れてしまいます」

「わかってるわよ…!ぐすっ…」


カリーナの淡々とした忠告に、何とか涙を零すのは堪えた。


「カリーナはお嬢様と一緒にいけるからそんなに余裕なのよ!」

「私も着いていきたかった…」


よく見ると、控えていた双子も大きな目をうるうると濡らし、頬を膨らませている。

私だって、彼女たち全員を連れていきたかった。けど、私専属ではないので、そんなわがまま言えなかったのだ。


「同じ王都内だもの。会おうと思えばいつでも会えるわ」


それは自分にも向けた言葉である。慕ってくれる彼女たちとは、今生の別れじゃないのだと。

私は双子を側へ呼んだ。二人が私の足元に跪いたので、両手で頭を撫でる。


「愛してくれてありがとう。私も貴女たちのことを妹のように思ってるわ。サーシャもリーシャも、リエルも、心から愛してるわ」


ニコッと微笑みつつ言うと、三人はぽっと頬を赤らめた。双子は私の手に頭をすりすりと押し付けていて、可愛くて頬が緩んでしまう。

私は本当に周りの人たちに恵まれた。改めて両親や彼女たち、女神リオに感謝である。



袖を通した真っ白なウェディングドレスは、ため息が出るほど美しかった。上半身はオフショルダーになっていて、スリムでシンプル。腰がキュッと締まっていて、続く下半身部分はふわりと優しく膨らんでいた。

生地はリフェスタの名産である、ステラという高級な織物。柔らかくすべすべとしたきめ細やかな生地で、いつまでも触っていたくなるほど最高の触り心地だ。

スカート部分は、光が当たるとキラリと僅かに反射する。私のワガママで、小さな宝石を散りばめているのだ。

我がフィクシス家は、大きい鉱山をいくつか所有している。そこで取れた美しい宝石の原石は、お抱えの加工師によって素晴らしい加工を施され、国内の女性たちを虜にしている。

その中で商品にならない宝石を持て余していたところ、私が言い値で買い取ったのだ。商品にならないといっても、ほとんどが割れてサイズが小さくなったり、ほんの少しだけくすんでいる程度。美しいのに変わりはない。

それを更に小さく加工し、美しいドレスへと姿を変えた。

加工師のオリバーも手先が器用で、私のワガママを全て受け入れてくれる壮年男性だ。今回も私の提案を少し手を加えて了承してくれた。

ダークグレーの伸ばした髪を項で括り、自分の工場で一生懸命仕事をして。

見学に行った私の、いつも以上に細かい作業になるのだし魔法を使って研磨したら?という無粋すぎる提案に怒ることもなく、「お嬢様のための最後の仕事なので、俺の手で全部こなしたいんです」とニッコリ笑っていた。余計なことを言ったと反省すると、オリバーはそっと頭を撫でてくれた。大きい手のひらは、優しさの塊。涙が出そうだった。

そんなオリバーと縫製士たちが力を合わせて作ってくれたドレスは最高に美しくて、私もため息が出た。一生の宝物だ。侍女たちも全員頬に手を当ててほんのり頬を染め、私と同じように美しさに見蕩れたため息をついていた。お嬢様もドレスもとてもお綺麗です、だって。恥ずかしいじゃないの。

同じ生地で作られた、二の腕まで覆うウェディンググローブを着ければ、ほとんどの準備が終わった。

そのタイミングで、部屋のドアがノックされる。リエルが入室を促すと、男女4人が入ってきた。直ぐに侍女たちは一歩下がり、スカートの裾を摘んでお辞儀をする。入ってきたのは、私の家族たちだからだ。

まずフィクシス家現当主であるお父様、レナート・フィクシス侯爵。アイスシルバーの髪と、少しタレ気味のエメラルドグリーンの瞳。身長は標準くらいで、体型は少しガッチリしてる。全体的にとっつきにくそうな雰囲気の持ち主だが、笑顔を絶やさないとても優しい自慢のお父様だ。

だけどお父様は、リフェスタ王国の中心部を担う役目を受け持っている。

王国には数多くの貴族が存続しているけれど、王家を支える三本柱と呼ばれる3つの家系のひとつが、お父様率いる我がフィクシス家である。王家からの信頼も厚く、国内で割りと発言権を持っている。

ちなみにあとの2本は、私の婚約者の家であるポーラスター公爵家と、アリーズ公爵家。王家とこの3つの家が中心となり、国を動かしているのだ。

お父様とポーラスター家当主様は昔からの顔なじみで、お互い子供を連れて屋敷を行き来したこともある間柄。

私とレイの結婚は、貴族同士の繋がりを更に深める政略結婚である。けど、その政略結婚の相手が幼なじみであり、初恋の相手であるというのは、奇跡だと思った。


そしてお父様の隣に立っているのは、リディア・フィクシス。私のお母様だ。

鮮やかな金髪を上品にまとめ、澄んだサファイアブルーの瞳で花嫁姿を見つめていた。

言動がキビキビしていて、私たちを厳しくも優しく育ててくれたお母様。おかげでどこに行っても恥ずかしくない作法と教養を身につけることが出来た。


その横に立っているスラリと背の高い男性が、イリア・フィクシス。私の5歳年上のお兄様。私とは真逆で、お母様譲りの髪色とお父様譲りの瞳の持ち主。ここまで遺伝子を分け合うとは、と小さい頃に関心したものだ。非常に整った相貌と短く切りそろえた清潔感のある髪型で、昔から女性にモテていた。

お兄様は次期侯爵閣下なのだけれど、三本柱というネーミングが気に入ってないらしい。だせぇから俺らの世代んなったらあいつらと相談して変えよ……と小さい声で呟いていたのを聞いた事があり、お父様には言うなと苦笑しながら口止めされたものだ。

お兄様は社交界など外に出るととても優雅で丁寧だけど、素の状態だと割りと口が悪い。でもとても心優しくて、いつも私を守ってくれた大好きなお兄様だ。


そして最後に、アリーナ・フィクシス。お兄様の奥さんで、私のお義姉様にあたる女性だ。長くて美しい赤い髪を編み込み、肩から胸の方へ流している。

お義姉様はとある伯爵家の娘さんであり、政略結婚が普通のこの時代に珍しく、恋愛結婚である。燃えるような恋に落ち、結婚に至ったのだという。私のお友達の令嬢たちの間でも、二人は憧れの的だ。

お義姉様は少しタレ気味の優しげな目をしていて、性格もとても穏やかで優しく、私にも本当の妹のように接してくれる。

ただ、少々おっとりすぎで、キビキビしているお母様のお眼鏡に叶うかどうか心配していた。

しかしお母様は気遣いの出来るお義姉様のことを気に入ってくれたらしく、すっかり打ち解けて3人でお茶会をすることも珍しくなかった。

私の中で一等光る大切な思い出である。


4人は素敵なドレスやタキシードに身を包み、私を見つめていた。お父様は眩しそうに目を細め、私に向かって両手を広げる。


「おいで」


その一言に、私は迷わずお父様の腕の中へ。この温もりは、なんだかんだで子供の頃以来だ。ぎゅっと抱き締められ、お父様の心臓の音を聞いた。


「ドレス、良く似合っているよ。とても綺麗だ。幸せにおなり」

「えぇ。今までありがとう、お父様」


涙を我慢しつつ、私は顔を上げてお父様の頬に親愛のキスをする。笑顔を見せると、お父様は目尻のシワを深くして微笑んでくれた。

次はお母様。前に立つと、リエルがレースで編まれたヴェールをお母様に手渡した。シンプルながら上品で、どこか可愛らしいデザイン。お母様はそれを私の頭に被せてくれる。カリーナが顔を覆う部分を頭の後ろへ裏返し、お母様の頬にもキス。


「お母様、今までありがとう」

「こちらこそ、私たちの子供として生まれてきてくれてありがとう。今までもこれからも、ユーリもイリアも私たちの自慢の子供よ。さぁ、もっと良く顔を見せて」


頬に触れる母の手に、私は子供のように擦り寄った。


お義姉様は、ハンカチを目元に当てて既に涙を零している。お兄様はお義姉様の肩を抱き、ゆっくり摩っていた。


「アリーナ、泣くのが早すぎる」

「だって、だってユーリが綺麗すぎて……ぐすっ」

「もーお義姉様、そんなに泣かれると行きたくなくなっちゃうわ」

「ユーリィィ」


ぎゅっと抱きついてくるお義姉様を、私も抱き締め返す。慰めるように背中を撫で、お兄様と苦笑を交わした。

すると、再びドアのノックが耳に届く。静かに入ってきたのは、教会のシスターだ。彼女はそろそろ時間だと知らせに来てくれた。その声に従い、お父様たちは先に会場である教会へと向かっていった。

お兄様と、慌てて涙をハンカチで拭き取ったお義姉様が私に手を差し出す。その手を取り、ドレスの裾はリーシャとサーシャが軽く持ち上げてくれた。


「行こうか」


お兄様の言葉に、私は笑顔で頷いた。


思ったより長くなってしまったので、ふたつに分けます…すみません。

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