Case2:≪無限菓子壺≫⑤
「カタンさん、ここの奥……」
どれどれ、とカタンは長い足を折ってその場にしゃがみ込む。カタンが魔力タンク二つの隙間に、足同様に長い手を差し入れると、色とりどりのマカロンがどっさりと現れた。
あたしとカタンは無言で顔を見合わせた。こんなところから大量にマカロンが発見されるなど何かがおかしい。そんなことをしている間にも、魔力タンクの奥からクリームイエローのマカロンが一つまろび出てきた。
「……ん?」
再び、魔力タンク二つの隙間の奥を手で探り始めたカタンの口から怪訝そうな声が漏れる。隙間から引き抜かれたカタンの手には小ぶりな壺のようなものが握られている。
「≪無限菓子壺≫……?」
「みたいだな。んでもって、これが今回の騒ぎの元凶ってわけだ」
どういうことですか、とあたしが尋ねると、カタンはちょうど≪無限菓子壺≫から湧き出てきた薄茶色のマカロンを指でつまんで口に放り込みながら、
「魔法アイテムっていうのは多かれ少なかれ魔力を含んでいるだろ? 今回はこの≪無限菓子壺≫がマカロンを作り出すときに内部で錬成された魔力が検知されちまったせいで、誰もいないはずなのに魔力反応があるなんて騒ぎになったわけだ」
「でも、カタンさん。誰がこんなところにこんなものを……?」
そんなの決まっているだろと、カタンがにやりと口元を歪めたとき、あたしの背後から声が響いた。
「こんなところで、何してるんですか?」
アネッサはしばらく会議だと言っていたからここに誰かが来るはずはない。まさか、とは思うものの今日は聖夜だ。魔法なんていうものが存在する以上、この世界にそれが存在しないという保証はない。部屋の中はひんやりとして寒いくらいのはずなのに、あたしの背中を汗が伝い落ちていく。
「おっ……おばけぇぇぇぇぇぇ!」
顔を引き攣らせてあたしは叫んだ。咄嗟にあたしはカタンの背中に縋り付く。
「は? おばけってお前……」
あたしが一体何と何を勘違いしたらしいカタンがぶっと噴き出した。
「おーい、リウ。よーく見ろ。あいつちゃんと足生えてるし、透けてもいねえぞ」
「そうですよ」
温度の低い青年の声。白い顔に、心外だとでも言いたげな眼鏡の奥の瞳。
「……って、エメットさん!?」
青年の顔を認めると、あたしは再び声を上げた。カタンの背中から離れると、あたしは後退りながらエメットへと頭を下げる。
「ごめんなさい! おばけだなんて、あたし失礼なことを……」
「大丈夫大丈夫、エメットだし。ってかどうせ普段からアネッサにこき使われて生気のない顔してるんだから、そんなに変わんねえだろ」
愉快そうに笑うカタンが軽いトーンで茶々を入れてくる。人が謝っているところだというのにこれでは台無しだ。
エメットはカタンの手に握られた≪無限菓子壺≫を見やると、
「ああ、それそんなところにあったんですね。そんなに美味しくはないけど糖分は取れるし、昨日の徹夜のお供に持ち込んでたんですよ。明け方にその辺で適当に仮眠取ったときにどっか行っちゃったんでどうしたんだろうとは思ってたんですけど、まあいいやって」
「……」
まあいいやのその精神のせいで社内で面白おかしい騒ぎが起きていることについて、こいつは一体どう思っているんだろうかとあたしは苛立ちを覚えた。アネッサには余計な仕事を押し付けられるし、挙句の果てにはエメットをおばけと間違えるしで散々だ。
「ところで、エメットさん、今日お休みだって聞いてたんですけど、何でこんなところに?」
エメットは何でそんなことをお前に答えなきゃいけないんだとでも言いたげな目であたしに一瞥をくれると、
「用事が済んだんで、仕事の続きやりに戻ってきたんです。魔力タンクのリプレイスのスイッチングコストを抑えるためのモアベター探れだの、この前のストアコンパリゾンの結果を受けてコンバージョン上げたいからまずはシーズをコアコンピタンスとして確立させるためにフィジビリやってくれだのアネッサさんが次々といろんな仕事を投げつけてくるもんで……」
エメットの口からアネッサへの恨み言と愚痴が堰を切ったように流れ出す。つらつらと話し続けるエメットの相手はカタンに押し付けることにして、アネッサへの報告という名目であたしはその場を逃げ出した。




