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短編、集めました

色の違うジェンガは崩れやすいのか

作者: なおぽん
掲載日:2022/04/02

変な小説です。

 私は見てしまった、私の父が私のパンツを口元に近づけていたのを。私は叫んだり声をかけることなくただただ立ちすくんでいた。しかし、それは拒絶を表しているのではなく、いや、拒絶ではないことだけしか分からなかった。拒絶ではない、何とも不思議な言葉に表せない気持ち、それが芽生えたように感じた。

 

 *数日後*


「今日もおつかれ自分」

 一日の疲れをお風呂で癒す。お風呂に入るとまずは身体にお湯をかけ、タオルを使い泡を作る。その泡で腕から順番に足へと洗っていく。特に汗をかきやすい脇、おっぱいの間、パンツが密着していた股、足の指などは丁寧に洗う。そして、耳の裏まで洗う。

「はぁあ。」

 連日の疲れからか湯に浸かる瞬間に声が出てしまった。数日前のことを考えてため息をつく。お父さんの事を嫌いにはならなかったが少し考えてしまう。いつもは私の後に入る父の姿は脱衣所の戸が完全に閉まっているので見えることは無い。しかし、あの時は違った。いつからしていたのだろう。それが何を意味しているのだろう。私は何を感じたのだろう。あの時の感情が日に日に薄れていく。

 たまたま開いていて、たまたま私が近くを通り、たまたま私の目に入ってしまった。ただそれだけ、ただそれだけ、ただそれだけなのに。沈みそうになるのを上体をあげることで防ぐ。

 

 濡れた身体を乾いたタオルで拭く時の暖かな幸せに包まれている瞬間に私は思った。

「…………。」

 見なきゃよかった。


 ***


「ねぇ、ゆい、聞いてんのぉ」

 友達のりんが肩を大きく揺さぶる。

「昨日さ、お父さんが後ろから急に肩触って来たんだよ。まじで信じられない。気持ち悪いから触んないで欲しい。てか、一メートル、いや二メートルは距離離して欲しい。ほんときもい」

「ああそうだねぇ~」

 愛想笑いで答える。

 数日前あったことは口が裂けても言えない。きっと私に代わって父に反抗するだろう。

「何その適当な返事ぃ、わかるぅ~とかきもいぃ~とか言えないわけ」

 ゆいは少しうつむく。本当に少しだけ、なぜなら。

「ほんと、のほほんとしてるんだから」


 ゆいは二度扉をノックをして先生がいる部屋に入った。

「失礼します」

 私はクラスで宿題を集め、担任に提出しに来た。私の学校では担当している教科ごとに複数の先生が一つの部屋に分かれる。でも、その時は担任の先生以外誰もいなかった。先生にみんなの宿題を提出して、私は男性に聞いてみたい事を聞いた。なるべく私の父に歳の近い大人に。正直、先生に聞くことじゃない気がするけど。

「先生」

「うん、どうした」

「先生は女の子のパンツとか興味ありますか」

 横を向いている先生に向かって言う。

「ふあ!」

 変な声が部屋に響く。

 飲みかけのコーヒーがこぼれる。

「ど、どういう質問なんだそれ」

 先生の左手薬指にはめられた指輪がきらりと光る。先生はまだ三十歳ぐらいで二人の子持ちだ。三人目もお腹に出来たと言っていた。元気ですね先生。

学校では女の子人気が高く、でもそれを知っていても特に自慢するような素振りを見せない。とてもいい先生だ。きっとこんな質問も真摯に答えてくれるだろう。

「なぜそんなこと聞くんだ」

「いや、なんとなく」

「なんとなくの質問には思えないけど、何かわけがあるなら聞くぞ」

「う~ん、そういうサイト見たので」

「あまりよくないな。そう言うのは」

 もしここで本当のわけを言ったら、たぶん誤解されて私の父は社会的に死んでしまうだろう。父と一緒に住めなくなるのは嫌だ。私が嫌に思っていないのだから良いのだ。

「それだけか」

「じゃあ、私のパンツとか見たいですか?」

「うんって言ったら先生終わるぞ」

「じゃあじゃあ最後に、先生という身分を捨てて、男として日頃、私みたいな女の子がこんな感じに近づいて来て、まあまあいい関係だったら、少しは思ったりしますか?」

 そう言うと先生は小声で、

「少しは思うかもな、思うだけだぞ。」

 本当はまずいこともポロッと言うところもこの先生の人気の秘密だ。


 ***


「思うは思うんだねぇ」

 と心の声で言って、今日履いたパンツを洗濯物かごに入れる。私にとっては汚いもの、脱いだら親指と人差し指で摘まむように持つこのパンツを。男の感性はよくわからない。

「今日ももう終わりか。あ、明日英語の単語テストあるわ」

 口元だけを湯に沈めブクブクブクした。


 ***


 その後の週末、私は驚きなものを見た。

 

 私は帰宅部で一ヵ月に一回の部員募集に駆り出されるのみ、土日は自由だ。そんな私の土日の使い方はスマホゲームをひたすらするに尽きるのだが、今の私はネットサーフィンをしていた。しかもそんなに健全そうに見えないサイトを。なぜこのサイトを開いたのかは、スマホゲームをしていた時にゲーム画面の下の方にこのサイトへ繋がる広告が出てきたからだった。そして、その広告には、『私のパンツ欲しい?ハート』とピンク色の文字で書かれていた。私は最近のこともあり、オンラインゲームの途中なのにそれを開いてしまった。後悔はしていない。

 サイト名は『女の子済下着通販ショップ』。名前だけではそんなにやばそうには聞こえないが……いや少し嫌な予感はするか。サイトの周りにはピンク色のハートが浮かんでいて、スクロールするたんびに動く。所々にはエロサイトの広告がある。

 このサイトの主なる内容は使用後の下着を通販で販売するところ。それも、女の人の顔写真と使用後の少しシミのあるパンツの写真が付いている! とてもリアルなのである! 他にはもちろんパンツのみでなく、ブラジャーも売っている。もちろん使用後の。

「……………………………………。」

 それを見てゆいはもんもんとした。恐らく顔は真っ赤だろう。さらに画面をスクロールする。

「ふむふむ、オナニーを致した後のパンツは少し高めで売れるのね……あ、あった。」

 納得するのはそこではない、うん、わかっている。

「それなら、母乳で濡れたブラジャーとかも売れそうね……。」

 考えを巡らすのはそこではない、うん、わかっている。

「生理で汚れたパンツも……初潮の方が高そうね……。」

 う、うん。わかっている。

 そこでスクロールする手を止める。

「…………。」

 そろそろ黙ろっか、私。


 このサイトを見て分かったのは、意外とこの世には使用後の需要があるんだなということだった。

「……………………………………。」

 もんもんとしたこの気持ち、お父さんが帰ってくるまでに収まるかな。


 ***


 時々思い出してはしばらくすると満足して思い出すのを止める事柄がある。まるで何度も何度も思い出すことで記憶を薄れさせないように意識下でしているみたいに。

そして、その記憶はいつも、私が小学生だったころ一人で勉強机に向かっている時に、お母さんが部屋をノックしてきたところから始まる。

 

「ゆいー、あ、いた。リビングに居るのかと思ってたよ」

 お母さんは外から帰って来た直後なのか厚着をして入って来た。頬が少し赤くなっていたのを覚えている。

「ゆいに話したいことがあるの」

「なにー」

 と適当に私は返事をして再び広げていた本を読む。

「新しいお父さんができるのよ、ゆい」

 少しかしこまった声。すぐ本から視線を外し、お母さんの方を私は見る。前に話しだけは聞いていたが顔を見たことが無かった。

「こんにちはー」

 その声と共に扉の裏に隠れていた人が顔を出す。

「こんにちは、君がゆいちゃん? お母さんから君のことはよく聞いてるよ。これからよろしくね」

 そう言いながら私の勉強机にゆっくりと近づいて来て、気づいたら私と同じ目線でしゃべっていた。立膝で話すその男性はその日、私に向かって「今日から君のお父さんになる。しっかりと君のお父さんになれるように僕、頑張るからよろしくね」と言った。かっこよくて、優しそうないい人だった。




「お父さんご飯まだ? お腹減った」

「もう少し待ってな」

 キッチンからお父さんの返事が聞こえる。

「わかったー」

 そう言ってゆいはテレビをつけた。今日、午後8時からやる『スーパー銭湯探偵』は今期一位、二位を争うほど面白い。まだ始まらないと分かると私はスマホを開いた。するとあのサイトが画面いっぱいに出てきた。そう、あの怪しいサイトが。私は驚いてスマホが宙を浮く。しっかりと手に収めると急いでブラウザを消して、ホームに戻った。見られてないよな、と思い周りを見る。

「今日は何してたんだ? ゲームか?」

 見てた??

「げ、ゲームしてたよ。」

 嘘はついてない、途中まではゲームしてたから。そう言うと「うん、そうか」とだけ言ってフライパンを机に置く。

「いただきます。」

「いただきまーす。」

 六畳ほどの家に二人の声が溢れる。

 

 ***


「なあ、明日、服一緒に買いに行かないか。パパ、あ、いやお父さん、新しい服欲しくてな。」

「いいよ。」

 昨日、スーパー銭湯探偵を見た後そう言われた。

 

「なあ、こんなのはどうだ!」

 お父さんはゲームのキャラが印刷されたTシャツを試着室で着て、カーテンを開けながらそう言った。

「ダサい」

「それだけ」

「キャラ物は似合わない」

「そ、そうか」

 腕を組んでお父さんの前に立つ。

「なんでいつも着ているようなの選ばないの?」

「挑戦したくなるだ……ってどこに行く」

「私も服買おうかな」

「お、おう。今行くからちょっと待ってな」

 

「これ良いんじゃないか?」

「センスないね」

 服を色々見ながら言う。

「ひ、ひどくないか。お父さん自信失くすぞー」

 ちょっと言い過ぎたかな。

「ごめん」

 そう言うとお父さんは静かに微笑み、

「大丈夫、大丈夫」

「……。」

 お父さんの笑顔を見ると心が窮屈になる。

「ごめん」


 ***


 来る人来る人みんなが私にお辞儀をする。そして、一言。

「かわいそうに。」

 と言ってくる。まるで、私の気持ちを悟っているかのように言ってくる。その言葉たちに多少なりと苛立ちを覚え始めていた頃に、式は終盤へと差し掛かった。長かったお経が終わり、係の人の「みなさんでお花をこの中に飾ってあげましょう」という声に反応して動き出す。この時の「みなさん」は私に近しい立場の人、つまり家族とかであった。箱を開け、中を見る。その中にはお母さんがいる。「きれいにお化粧をしてもらったんだよ」とさっきお父さんが教えてくれた言葉が蘇る。その後に「とっても綺麗だな」とも言っていた。

 やっぱり、うん、綺麗だった。

 

 花を一つ一つ箱の中に入れていく、始めの方は単純作業で入れてたつもりが、だんだんと気持ちが抑えられなくなってきた。いや、抑えられていたかも怪しい気持ちが、少しづつ少しづつ顔を出してきたと言った方が正しいのかもしれない。そうして顔を出したその気持ちに気付いた時には後は溢れるばかりだった。ついには目から流れる涙となり、気持ちが外に向かって飛び出してくる。花を入れようにも視界がゆがんでよく見えない。最後の花を入れた時には顔のみでなく全身が火照ったように熱かった。

「もう、これからは蓋をしてしまうため、ゆいこ様の顔は見れなくなってしまいます。」

 そう言われ、涙でゆがんだお母さんではなく、クリアなお母さんがどうしても見たくなり、何度も何度も目をこすった。そうして見えたお母さんの顔は、やっぱり綺麗だった。周りの色とりどりな、様々な種類の花で着飾った母の姿は、この世のものではないような印象さえ与えた。

 とっても綺麗だった。


「この後どこ行くの?」

 車に乗った私は隣にいるお父さんに聞いた。

「火葬場って言って、燃やすところに行くんだよ」

「燃やす?」

 少しの間。

 何かを考えるお父さんはゆっくりと口を開いて言った。

「お母さんを」

「あのまま残せないの?」

 思い出した。あの綺麗な母を。

「できない」

「どうして?」

「……。」

 一息。

「これから何度も何度も思い出そうな」

 震える声でそう言って、私の頭を撫でた。私よりすごく大きな手で。

 あの時、お父さんが私の頭を撫でたのは、私も気づかない内に泣いていたからだろう。残っていた、いや、底知れずに残っていた涙が溢れて止まなかったからだろう。


 ***


「今日もおつかれ自分」

 湯気が立ちこもる中で一言言った。

 お父さんが私のパンツを持ち上げ、口元に持ってきていたのを見てから何日も経っていた。その時、お父さんを拒絶しなかったのか、それについて少しだけわかってきたように感じた。

「はぁあ」

 今日のお風呂は少しぬるく感じた。


 ***


「食器片づけてくれ」

「はーい」

 ご飯を食べ終わり、スマホをいじっていた私にお父さんが言ってきた。

食器を片付けた私はお父さんに質問をした。

「ねぇ、ジェンガやらない?」

「え、ああ良いけど。これ洗い終わってからな。」

 そう言われ、私は押し入れに向かった。私が小さい頃によくやったジェンガは埃まみれな状態であった。机に出して、形作る。すると一つだけ色が違うものがあることに気付く。それは、白い木のジェンガの中に黒色と目立っていた。初めは違和感があったけど、積み上げていくとそこまで気にはならなかった。

「出来たよ」

「今行く」

 タオルで手を拭き、こちらに来る。

「よーし。まずはこれかな」

 とお父さんが意気揚々と言って、勝負が始まった。

「お父さんが先攻はずるい」

「ごめん、ごめん」

 一つずつ互いに積み上げ、上に上に高くしていく。中盤に差し掛かると少しづつ揺れだし、六畳の空間に緊張が走る。やり始めと比べ一つ一つをとる時間が少しづつ伸びていく。

 穴だらけになってくると互いにとる時はジェンガを優しく人差し指で突っつく。よさそうな獲物を見つけるまでは優しく突っつく。

「ぅぅーよし! 次、お父さん!」

「やるなぁゆい! じゃあお父さんは」

 お父さんが黒色の木に狙いを定めた時に私は聞いた。

 グラグラと揺れる目の前のジェンガのようにグラグラと揺れる私の気持ちにけじめをつけるために。

「お父さん、私のパンツ口元に近づけてたよね」

 そう言うと、お父さんは積みあがったジェンガに向かっていた手を止めた。

「それは」

正座をしていた足の上に手を置き、こちらを見る。

「見たのか」

「鏡越しに見えちゃった」

 一息。

「何していたの?」

「そ、それは」

 お父さんがうつむく。

「ごめん!」

 大きな声が響く。

「こんなんじゃお父さん失格だよな。

ゆいの下着に興味が出た。なんでかな。絶対ダメだってわかってるけど、ゆいが成長するにつれて無防備なゆいに対して興味が出た。こんなの気持ち悪いよな。ののしってくれ。もう絶縁だってかまわない。きもいよなこんな大人」

 一息。

 その一息は荒々しかった。

 しばらくの沈黙。その沈黙を破ったのはお父さんだった。

「俺、ゆいと家族になってからずっと、ずっと愛してきた。こんな気持ち悪い大人にそんなこと言われても気持ち悪いだけかもしれないが、すごい好きだった、お母さんもゆいも。お母さんが亡くなった時、一人でやっていけるかなって思った。けど、俺は一人じゃなかった。どんな時もゆいがいてくれた。ゆいはとっても真面目で、人思いでゆいに助けられた事が何度もあった。

 そして、成長していくゆいに嬉しさを感じつつも今までの好きが変わっていっていることに気が付いたんだ、あー何言ってるんだろう。いけない事だってわかっていたけど、どうしても思いは、思いは、つ、強くなって、日に日に強くなって……」

 話しの途中、言葉が途切れ途切れになりながらも話し続けた。そして、涙とともに声帯は振るわなくなった。

 しばらくの間、娘の前でお父さんはみっともないほどに泣いていた。

「もういいよ」

 ぐすんとお父さんの鼻をすする音が何度も聞こえる。

「だめだ」

「いいんだよ」

「だめだ。謝って済む話じゃない」

その後も、何度も何度も「ごめん」「だめだ」と言っていた。

その言葉を無視し続けながら私は話すこととなった。

「もういいよ、お父さん。

私、お父さんのその姿を鏡越しで見た時、嫌になんて思わなかったの。むしろ、その自分の気持ちが不思議で不思議でたまらなくて、どうしてだろうってずっと考えてたの。お父さんは私にとってどんな存在なの? ってずっと考えてたの。そして、やっとわかったの。きっと、私」

 ひきつった声でお父さんはひどく泣いている。正座でうつむく顔は見えない。

私は畳の色が変わる所をじっと見ていた。涙がぼたぼたと落ち、畳を濡らしていく所を。

 ぽたぽたと。

 そして、ようやくわかったお父さんに対する自分の気持ちを伝える。

「私、お父さんが好きみたい」

 つぶやいた言葉は嘘みたいに体にすっと染み込むものだった。

「え、」

 泣き声は収まり、声を発したがお父さんは依然としてうつむいている。

 私はお父さんの後頭部を支えて、お父さんのうつむく顔の角度に合わせるようにキスをした。何の好きなのか、お父さんをどう思っているのか、この胸の内の正体は何なのかをわかってもらうために私はキスをした。

 急なことで頭を後ろによけようとするお父さんを距離が変わらないように抑える。唇から伝わってくるお父さんの様子は少し動揺していた。でも、強引に私の気持ちを伝え続けた結果、私の好きにしっかりと応答してくれたのかお父さんの唇の震えはだんだんと収まっていき、私のキスに応じてくれた。

 一度唇を離し、首の角度を変え、またキスをした。

 もうお互いの気持ちがぶつかることは無くなった。力の抜けたお父さんの体を押し倒しお父さんの体にまたがる。その時、机に足をぶつけ、二人で作り上げた一つだけ色の違うジェンガは大きな音をたてて崩れる。その音はまるでお互いの気持ちが混じり合う合図のように感じ、お父さんの口に舌を流し込む。私の口にも流し込まれた舌は、混じり合った証明のように思えた。

「ゆい、愛してる」

「私も」

 味を確かめる。

「好き」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

タイトルだけは凝っている気がするんですよね、タイトルだけは。

最後のシーンめっちゃ好き。

あと、下着のサイト、実話です。実際にスマホゲームしていたら巡り合いました(笑)一瞬しか見てないので、内容は想像で書いています。

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