表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界堕悪  作者: 押入 枕
34/39

サンドストーム


「なっ‼︎ロト‼︎お前……砂嵐に突っ込めって言ってんのか⁉︎ついに狂っちまったのかよ‼︎」

 腹這いになったままウィードが驚愕の声を上げる。


「そりゃあ無茶が過ぎるってもんだぜ、ロト。この辺の出身じゃないお前さんにゃ分からんだろうが、あれの恐ろしさは地元の人間ならハイハイしてる赤ん坊でも知ってる。どう考えたって危険すぎる」

 ユードもそれに続いた。


 二人の口ぶりからして、善仁(よしひと)の提案したアイデアは自殺行為と言えるようなものであるらしい。

 砂嵐を経験した事が無い善仁にはその恐ろしさは良く分からないが、二人が言う通りなら、一つだけ確実に予想できる事が有る。


「じゃあ、もし俺たちがあの中に逃げ込んだら、敵はまず追って来ないって事か?」


 善仁がそう言うと全員が「ハッ!」とした表情で固まった。


「確かにそうだ……俺は〝有り〟なんじゃないかと思うよ、モラン!」


 驚いた事にヴィータが一番最初に賛成の意を表明した。善仁とヴィータの意見が一致するなんて、一体どういう風の吹き回しだろうか?


「俺も賛成だ‼︎どちらにせよ、このままじゃ必ず追い詰められる‼︎」

 ザラスも乗っかって来た。さすがザラス、そのいかつい顔に似合いの怖いもの知らずのようだ。


 数秒考えていたモランだったが、他のメンバーに向かって聞く。

「多数決を採るつもりは全くないが、お前たちはどう思う?トマーゾ?」


「それしか無いってんなら、やるっきゃ無えんじゃねえの?俺は奴らにとっ捕まって縛り首、なんて最期はゴメンだね!」

 トマーゾと呼ばれた男は笑いながら答える。

 その意見を受けてメンバーたちはハンクに視線を集める。

 ハンクは指を二本立てて見せると、その指で何も言わずに砂嵐の方を指差した。


「……決まりだな、こうなったらもうイチかバチか、いっちょ勝負をかけてみるしか無いな」


 正直、思いつきで出てきたアイデアだったのだが、なんだかんだで採用されたらしい。


「ウッソだろ‼︎みんな正気に戻れよ、どう考えても正常じゃないって‼︎こんなの‼︎兄ちゃん、何か言ってやってくれよ‼︎」

「……諦めろ、ウィード。俺はともかくお前は大人しく荷物になるしかないだろ」


 不本意ではあるようだがユードも腹を(くく)ったらしい。


「よし!それじゃ予定通り俺が殿(しんがり)を務めるから他の奴らは行けるだけ先に進むように‼︎決まった以上はビビるなよ!ヴィータは逆に先頭に立って〝ロシナンテ〟で他の疾走竜(ストライゴン)を引っ張ってやってくれ、それじゃ行動開始‼︎」


 モランの号令で全員が疾走竜の鼻先を砂嵐の方に向けた。

 意識していなかったが、砂嵐は最初に見た時よりも、かなり自分達に接近している。

 言い出しっぺの責任として付き合うしかないが、改めて砂嵐の天を()くような巨大さに向き合うと、善仁の背中を冷たい汗が流れていく。


 ヴィータはモランに言われた通り〝ロシナンテ〟の手綱を引くと、その走る速度を上げ始めた。みるみるうちに他の疾走竜を追い抜いて先頭に躍り出る。他のメンバーは〝ロシナンテ〟を先頭に、弾丸のような隊形で固まり、可能な限りお互いの距離を詰め始めた。


 ヴィータは首に掛けていたゴーグルのようなものを目に掛け直し、口と鼻をマフラーのような布で巻いて覆い始めた。そして善仁にも布を渡してくる。

「これを巻いときな、砂で窒息しないように。あと、スプリントを始めたらしゃべっちゃダメだぜ、舌、噛んじまうからな。それと、今回は鞍のベルトじゃなくて、俺に掴まりな。……ただし‼︎変なとこ触ったら、後でぶっ殺してやるからな‼︎いいな‼︎」


 命懸けともなると、多少の事は大目に見てもらえるらしい。ありがたい事だ。そう思いながら善仁は顔の下半分にヴィータに(なら)って布を巻いた。


 そうこうしている間にも砂嵐はこちらに向かってぐんぐん迫って来る。ヴィータは少し前傾し、鞍から少し腰を浮かせた。善仁はその腰に手を回して前側で両手をクラッチする。


(ヴィータの腰、めちゃくちゃ細いな……)


 思わずそんな事を考えてしまっていると、ヴィータがメンバーの方を向いて、布越しでも聞き取れる大声で言った。


「突っ込むぞ‼︎衝撃に備えろ‼︎」


 善仁も目の前の砂嵐、そのモコモコと不気味に動いている表面を注視する。

 彼らはそのまま、砂嵐の中へ突っ込んで行った。




 ランディーヤは賊たちの謎の行動に愕然としていた。奴らは何を思ったのか、方向転換すると、事もあろうに砂嵐に向かって駆け始めたのだ。

 勿論、獲物を逃すつもりなど毛頭無いランディーヤも賊を追って方向転換する。


(恐怖で気でも狂ったのか?……いや、なるほど……一か八かの賭けに出たという事か!)


「た、隊長!奴ら本気で砂嵐に逃げ込むつもりのようです‼︎」

「狂ってる‼︎正気の沙汰じゃない‼︎」

「イカレてやがる‼︎どうかしてるぞ‼︎」


 部下たちの中には地元の者も混じっている。彼らの動揺は当然の事と言えた。


(これが奴らの狙いというわけだ。第13軍も舐められたものだな……)


 兜の面当てで隠れているその下で薄い唇の口角を釣り上げると、ランディーヤは部下たちに命令を下した。


「このまま砂嵐に突入する‼︎着いて来いよ‼︎貴様ら‼︎」


 そして砂嵐は第13軍の兵士たちをも飲み込んで行ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ