因果
昔住んでいた家は新興住宅地の真ん中にあった。
と言ってもうちは新興住宅では無く、新築物件を建てた不動産屋や建築屋に土地を売った土地成金。
新築物件が数十軒は建てられるであろう広い土地に、アパートや駐車場を造りその家賃で生計を立てていた。
周りの殆どの家が猫の額くらいの庭だったせいもあり、家の前の駐車場が猫の集会場になる。
集会場にされるのは仕方が無かったが、野良猫が住み着き仔を産むのは迷惑だった。
それで小学4年生だった俺に仔猫を駆除するようにとの指令が家長の爺様から出される。
1匹見つける毎に100円やると言われてやる気になった俺は、小学校から帰宅すると「かくれんぼするぞ、俺が鬼だ」と叫び、仔猫探しを始めた。
見つけた仔猫を爺様に見せ小遣いをゲットしそのあと次の遊びに移行する。
見つけた仔猫を小さなダンボール箱に入れ、家の裏にあった溜池に放り込む。
そのときダンボール箱に火を点け船火事に見立てたり、ダンボール箱に向けて石を投げ海戦に見立てたりした。
ある日見つけた仔猫を籠に入れていたら母猫が現れ、仔猫の1匹を咥え逃走。
逃してなるものかと猫を追う。
家の敷地から道路に飛び出した猫に飛びつき捕まえた時、走って来たダンプカーに猫もろとも轢かれた。
それで俺の人生も終わりかと思ったんだが、気がついたら異世界に転生していた。
自作農の小倅として異世界に前世の記憶を持ったまま生まれる。
自作農とはいえ俺は三男坊、13歳になって成人したとき偶々募集していた兵士に志願。
敵対している獣人が支配している国に攻め込む為の兵士募集。
最初は順風満帆だった。
それなのに最後の決戦で敗れ命懸けのかくれんぼをする破目になる。
俺が隠れている藪の前で牝猫の獣人がスンスンと匂いを嗅ぐ仕草をし、真っ直ぐ俺の方に向かって来た。
牝猫の獣人は隠れていた俺の襟首を掴み藪の外に放り出す。
「見つけたぞ!」
「助けてください、お願いします」
「助けてくれだと?
私の子供たちを面白半分に殺したお前を何故? 助けなくてはならないのだ」
「私は子供なんて殺してません」
「それはこの世界ではだろ。
私が言っているのは前世での事だ」
「え?」
そう言われて思い出した。
獣人の体毛の柄が俺と一緒にダンプカーに轢かれた猫と同じだという事に。
猫も転生していたのか。
必死に助けを求めたが許しては貰えず、蓑を無理やり着せられその蓑に火がつけられた。
転げ回る俺を、牝猫の獣人や周りで見学している獣人たちは笑いながら見ている。
仔猫たちが入ったダンボール箱が燃え上がるのを笑って見ていた昔の俺のように。
死んだと思ったらまた転生していた。
今度こそ死なないようにしようと思ったのに、獣人とトラブルになり殺される。
そしてまた転生し、獣人に殺されるという事を繰り返す。
十数回、転生しては殺される事を繰り返したとき「もう嫌だ! 転生させないでくれー!」と叫んだら、「お前は、面白半分にどれほどの命を奪ったのか忘れたのか?」と誰かに言われた。