Section 20 Runner(8)
それでも、体勢を立て直されれば不利な状況に変わりはない。
史郎と美春は、それぞれ周囲を見渡して、状況を打開する方法を探っていた。
とりあえずこの場を切り抜けて、「大人同士の話」に持ち込めば、後始末はどうにかなりそうだった。
それもこれも、ここをなんとかすれば、の話だったが。
聖や一樹は、たぶんそこまで頭が回っていないようだった。というより、大島の真の実力がこの町でどの程度のものなのかを知らないのだろう。
この場でそれを知っているのは、雪奈に刺された権藤と、人ごとのように成り行きを見守っている皆山。そして、史郎と美春。美春は聖を守ってきた立場上、史郎は狼男として大島の周辺を探っていた関係上。
大島は、岸川のような小物ではない。しかも、裏の世界の人間ではないから、冷静になれば明和会も全面戦争しようとはしないだろう。
堅気の実力者を敵に回すのことは、警察などの国家権力そのものを敵に回すことに繋がる。明和会としても、一番避けたいはずだった。
史郎と美春は顔を見合わせ、小さく頷いた。
とりあえずたった今行動不能にさせたうち、小柄な方の男を二人で抱え上げる。単に、大柄な方よりいい服を着ていたからだが。
史郎は男の来ている縞のダークスーツを探り、凶器を持っていないのを確認する。美春は首に右腕を回し、いつでも相手の首の骨を折れる体勢。
そうしておいてから、二人は大声で怒鳴った。
「どっちもそこまで! 」
「ストップ!ストオーップ!! 」
史郎はともかく、美春の声はよく通る声だった。
「いい加減にしろ、お互いに! ケモノじゃねえんだから! 」