Section.20 Runner(1)
アイコが「狼男」を連れてケルンに戻ってきた翌日。
岸川の屋敷の前に、七人が立っていた。
いつものライダースジャケットのアイコ。「狼男」こと、新田史郎は古びたオレンジのマウンテンパーカー。片腕を三角巾で吊った聖と史郎は、それぞれ黒革の上下とボマー・ジャケットにジーンズ姿。黒いレースと白いレースでふわふわに膨らんだ雪奈は、まだ眼帯と頭の包帯が痛々しい。それから、GIカットの金髪に黒革のツナギの、肩幅の広い、鞭のような体格の男。ピアスが無ければ、いつもの美春と同一人物だとはとても思えない。
そして、白い麻のスーツにニットタイ、黒いシャツ、ハンティング・ハットの大島。
薄曇りの空に、湿った風が巻いて、それぞれの髪や襟を揺らしている。
大島を先頭に、なんとなく整列しながら、七人は岸川邸の門の前に立った。
かなり広い、広葉樹の植わった英国式の庭があり、その奥にコロニアル様式を模した白い壁の洋風の建物。
警備会社のシールが貼ってある門は、コンクリートの門柱に、重そうな白い鉄フレームの門扉。
大島は、厳かにも見える動作で、呼び鈴を押した。
二度、三度。
インターフォンからの応答は、ない。
大島は、史郎の方を見た。
「監視カメラも、警備会社も、はったりだよ」
以前に屋敷に侵入したことのある史郎が、肩を竦める。
「前回、回路まで確認してる。そもそも契約を切ってるみたいだ」
「じゃあ、勝手に入っても大丈夫だな」
大島は、サングラスをかけ直して、おもむろに門扉を蹴りつけた。
服装に似合わない、使い込まれたドクター・マーチンのワークブーツ。まるで缶蹴りでもするように簡単に蹴り飛ばす。
キイイ、と耳障りな音がして、門扉が開く。
大島を先頭に、奇妙な取り合わせの七人は、特に身構えもせずに門を潜った。
「なんかこういう映像見たことあるような気がするなあ」
ルージュを塗っていないと薄く見える唇……それでもリップクリームは塗っているらしい……を歪めて、美春が小さく笑う。
「あるある、Gメン75」
「再放送でよくケルンで見てたよねえ」
「俺は丹波哲郎じゃねえ」
大島が低い声で反論する。
「だいたい単なる不法侵入者だしな」
一樹が軽口を叩き、ひゅう、と口笛を吹いた。
空気が湿気ているせいで、湿った音がした。
庭の木は妙に緑が濃く、小さな羽虫みたいなものが飛んでいるのが見える。
それから、無数の蜘蛛の巣。
「屋敷の裏に回ろう」
史郎が、大島に言う。
「ベランダのある方からなら、簡単に入れる」
「いよいよプロの犯罪者だな」
聖が、皮肉っぽく言った。
「あたしのマンションにもかるーく不法侵入してなかった? 」
「さあ? 」
史郎は、わざとらしく小首を傾げてみせる。
「人違いじゃないかな? 」
「ふざけんなよ」
「あー、黙れ黙れ」
食ってかかろうとする聖を制して、大島が言う。
「もう裏庭だぞ」