Section.19 天使のウィンク(5)
アイコの電話を受けてからの大島の動きは、いつもの何割か増しでせわしなかった。立て続けに何本も電話をかけ、時には怒鳴り散らしたりもしながら、テキパキと段取りをつけていく。普段は聖たちには見せない、地元の有力者としての顔と財力にものを言わせているようだった。
聖たちはしばし、ぽかんとして大島の動きを見ていた。
何本目かの電話を切って、ふう、と息をついた大島は、ぽかんとしている、自分の子供のような仲間たちを不思議そうに見た。
「おい、お前たち」
「……はい? 」
声をかけられて、ようやく聖が返事を返す。
大島は人差し指で聖たちを指して、言った。
「いつまでここでぼーっとしてる? ケルンにはアイコもいるし、狼男もいるんだぞ! 」
「はあ? なんだよそれは! 」
「話はケルンでアイコたちから聞け! それととりあえず、急いで店に行ってやれ! 」
「……どういうことだよ」
美春が、低い声で尋ねる。大島は肩を竦めて、やれやれ、というポーズを作る。
「……あいつら、明和会に狙われてる。少しでも大人数で守ってやれ」
「本社があのガキを狙う? なんで? 」
「岸川も明和会も、目当てはアイコじゃない。狼男の方だ」
ヒステリックな声を上げて、自分の声の響きで傷が痛んだだらしい雪奈に、大島が言う。
「明和会は狼男がある人物の居場所を知っていると勘違いしているようだし、岸川は狼男をこれ以上その人物に近づけたくないと思っている。方向は正反対だが、結論は同じ」
「うがあ! 」
聖が、牙をむいて吠えた。
「あたしの獲物に、手ぇ出すとはいい度胸だ! おまけにあたしの舎弟巻き込んでくれるってか! 」
「おおっ! いいぜ聖」
美春が、ぎらりと眼を輝かせて、ぱん、と拳を平手に打ち付ける。
「虎姫復活だな! 」
「聖さん! 」
雪奈も、高揚した声で聖の名を呼び、よろめきながら立ち上がる。
「あたしは、強いあんたに近づきたくて、久さんの名前を利用してた。恋人だったなんて、嘘までついて。あたしはあんたに並びたかった。……あたしの、虎姫」
「馬鹿やろ! 知るかよ! 」
聖は唇の端を吊り上げて不敵に笑い、一樹の腕を振り払う。
「もう、難しく考えるのは止めた! とにかく、ぶっ飛ばしてから話を聞いてやる! アイコも、狼男も! 」
「……盛り上がりすぎだよ、聖さん……」
一樹だけが、ついていけなくて頭を抱えた。
だいたい、満身創痍の聖と雪奈が、本物のヤクザ相手にどれだけ戦力になるというのか。
それでも、アイコを放っておく訳にはいかない。
一樹は天井を見上げて、深々とため息をついた。