Section.19 天使のウィンク(4)
何を言い出すんだ、と、聖が口にしかけたところで、大島の携帯電話が鳴った。
落語番組の、気の抜けたオープニングテーマ。
気勢を削がれて、聖と一樹は椅子に座り直す。
「ああ、悪い悪い」
さして悪そうな顔もせずに言って、大島が携帯電話を取る。
「……どういたしまして」
聖は思いきり顔をしかめ、雪奈は少しばつが悪そうに頬を染めて俯く。美春は、微笑のような無表情。
大島はさすがに少し声を潜めて、電話に応対する。が、すぐに、待合室全体に響くような大声をあげる。
「……はい、大島です……お、アイコか! 」
「! 」
「どうした、大丈夫なのか? ……そうか、携帯、うちの店に忘れてたのか。よく一樹に電話できたな……たまたま覚えてた? そうかそうか……で、無事なのか、お前さんは」
「マスター! 」
聖が今度こそ一樹をふりほどいて立ち上がり、大島の方に駆け寄り、携帯を奪い取ろうとする。
大島は、サングラスの下の目を細めて聖を制し、アイコと話を続ける。一樹と美春が聖をなだめ、聖も仕方なく大島の方に伸ばした手を引っ込めた。
大島は、手元のナプキンになにやらメモをとりながらアイコの話を聞き、いちいち頷く。やがて大きく頷いて、任せておけ、と答える声。
「俺はそっちをあたるから、お前はそこにいろ。用心棒もいるんだろ?……ああ、わかった」
大島はちら、と、その場にいる面々に視線を走らせてから、言った。
「今ちょうどコーヒー淹れたんで、それを一杯ひっかけたら、すぐに援軍を送る。……美春以外はボロボロだけどな」
「……いや、俺無傷だし」
ちょっと淋しそうに、一樹が唇を尖らせる。
「どうせ役立たずだけど」