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Section.18 鏡の中の人形(4)

 史郎とアイコは、そのまま、かなり長い間、無駄話を続けた。

 アイコは、膝に史郎をのせているだけで、なんだか妙に嬉しい気分だった。史郎は足の痛みが引くのを待ちながら暇を潰していただけなのかも知れないが。

 史郎は、摩耶の話ばかりを口にしていた。ずっと誰かに話したくて仕方なかった、というように。アイコは、それでも嬉しかった。ずっと謎だった史郎という存在が、急に近くなったような気がした。膝に史郎の体温を感じながら、アイコはぽーっと史郎の話を聞いていた。

 史郎の話は入り組んでいたが、アイコにもなんとなく話の流れはわかってきた。

 史郎と浜橋皆山が親子であること。史郎を生んだ浜橋麻耶はすでに亡くなっていて、その後妻に麻耶の妹・遥がおさまり、摩耶を産んだこと。遥はそれまで岸川とつきあっていたのに、岸川を捨てて浜橋と結婚したこと。その代わりに、摩耶を岸川に養子として与えたこと。。。

 そして史郎は、兄妹とも知らずに摩耶と出会い、淡い恋心を抱いていたことも隠さなかった。それは、摩耶が上泉久にどれほど惚れこんでいたのかを史郎が知っていたからでもあり、摩耶が亡くなってから実の妹だったことを知ったからでもあっただろう。

 岸川は摩耶にとっては理想の父であり、久は、結ばれることのない父の代わりに心を満たしてくれる存在だったのだろうと、史郎は言った。外側からしか岸川をみていないアイコには、とうてい理解できない話だったが。まあ、写真でしか知らないが、仮に生きていたとしても摩耶とは気が合いそうになかったので、アイコはあまり気にしないことにした。

「へへっ」

 鼻歌でも歌い出しそうなくらい上機嫌なアイコに、史郎がおもしろそうに目を細める。

「何がそんなに面白い? 」

「……別にー」

 アイコはふにゃっと笑い返す。それから、急に真顔になって、首を傾げながら史郎の顔をのぞき込んだ。

「でも、わからないことがあります」

「というと? 」

「摩耶さんは何で自殺しちゃったの? 」

「……」

「久さんが好きで、お父さんが好きで、先生に好かれていて。なんで? 」

「そうだな」

 史郎は、ごく普通の声で、答えた。

「岸川が、父親をやめて男になったからだろうな」





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