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Section.12 Believe……。(3)

「なんか、美春と並べられるのは大人のオンナとして抵抗あるんだけど」

 聖は、ぶー、と頬を膨らませながら、雪奈に言い返した。

「でも、事実じゃん」

 雪奈は、何故かくく、と思い出し笑いしながら言う。

「高校の時から、聖さん、サイキョウ伝説あったし……。あ、サイキョウは最も強い、じゃなくて最も凶悪、または最も凶暴」

「なんで最凶?! 」

 聖は思わず言い返し、さしかかった交差点の信号が黄色いのに気付いて慌ててブレーキを踏む。 ぐん、と、バンの前輪が沈み、雪奈はダッシュボードに額を打ち付けた。ごん、と、割といい音がした。

「いってえ、何すんだよ! 」

「ああ、ごめんごめん、つい気をとられた」

 聖は柄にもなく誤魔化すように笑って、涙目の雪奈の額を撫でてやる。

 雪奈には想定外だったらしく、みるみる、白いファウンデーションを塗った頬が赤くなる。雪奈は、聖の手を払いのけると、窓の外に向き直り、聖に背を向けた。ゴスパンクの、フリルだらけの黒いワンピースの背中は編み上げになっていて、大きく背中が割れている。背中まで、真っ赤になっていた。

「聖さん」

 雪奈は、ぽつり、と聖の名前を呼んだ。

「あん? 」

 聖は、信号が青になったので、シフトをドライブに入れ、左右を確認して車を走り出させながら、聞きかえす。

 雪奈からの答えはなかった。

 その代わり、走り出してしばらくしてから、とす、と、聖に向かって倒れ込み、全体重を預けてきた。

「わ、何する……」

 ついハンドルを取られそうになって怒鳴りつけかけ、聖は口をつぐんだ。

 雪奈は、聖の肩に頭を乗せ、全身を投げ出すように聖に預けていた。

 聖は黙り込み、左手でハンドルを持って、右手で雪奈の頭を撫でてやった。

 雪奈は、聖にもたれかかったまま、子犬のような声を小さく立てて、顔を前に向けた。

「聖さん……」

「……何だ? 」

「あたしね、聖さんに言わなきゃいけないことがある」

「……」

「でも、まだ内緒にしとく」

「なんだよ、そりゃ」

 聖は、思わず雪奈の顔を覗き込んだ。白塗り、濃いマスカラと紫のルージュ。初めて出会った頃から、印象はあまり変わらない。本当はお嬢さん育ちのドジっ子なのに、負けず嫌いで意地っ張り。

 聖は、ふと、ひっかかるものを感じた。

 雪奈は、久のどこが好きだったのだろうか。久は、何故雪奈を選んだのだろうか。

 恋愛というのはそういうものなのかも知れないが、どこにも接点がない二人、という気がしてならなかった。同じ世界で、同じ空気を吸っていても、超えられない壁が二人の間にはあるような気がした。

 久は、他人思いで、情緒は豊かだが感情の起伏はゆったりしていて、度胸と繊細さを兼ね備えていて、なんだか底知れぬ奥行きみたいなものを中学生位の頃から既に漂わせていた。スポーツ万能、学校の成績も上位クラスだが付き合いも悪くなく、ちょっとズレたところはあるがむしろご愛嬌。さすが双子だけあって聖とよく似た端正な顔立ち。よく通る声。小さい頃から、特に本人が自覚しなくてもつねにその場の中心になってしまう才能の持ち主。

 聖は、多分、超えられない壁の、雪奈の側にいる。

 そこからみる久の姿は、良い奴過ぎて、まぶしすぎて、むしろ腹立たしかった。

 あんな兄のそばにいて、雪奈は平気だったのだろうか。自分の心根が恥ずかしくなったり、人間の器の違いに嫉妬に似た憎しみを覚えたりしなかったのだろうか。

 そんなことをつい、聞きたくなって、聖は雪奈に話しかけようとした。

 が、結局、口を噤むしかない。……雪奈は、寝息をたて始めていた。

 明かりの消えた市街地の外れの交差点を右折し、河原に向かう道に入れば、間もなくケルン。

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