Section 21 夏の終わりのハーモニー(3)
あまり女の子らしくない大口を開けて、アイコはトーストにがつがつと食らいつく。喉にひっかかり、コーヒーで流し込む。ベーコン・エッグをフォークで突き刺し、一口に黄身を片付けた。塩味、胡椒の味。再びコーヒー。
美春が、あきれ顔で言う。
「アイコ、あたしよりよっぽど男らしい食べ方だね」
「そんな喰い方、教えた覚えはないんだが」
史郎は、大仰に天を仰いで、目頭を押さえた。
アイコは史郎にあかんべえを返し、残りのベーコンエッグとトーストをやっつけにかかる。あっという間に皿が綺麗に空になり、アイコは、ふう、と大きく息をついた。
「マスター、ごちそうさまでした! 」
「おう。気持ちいい喰いっぷりだな、相変わらず」
大島はサングラスの下の目を細め、肩を竦める。
アイコは大島ににこりと満面の笑みを浮かべ、史郎にもういちど舌を出してみせると、壁に掛かっている古い時計に視線を走らせた。
日付が1日すすんで、時間は午前10時。
アイコは一瞬信じられない、という顔をし、史郎と美春に尋ねる。
「あたし、ずーっと寝てた? 」
史郎と美春は顔を見合わせ、首を傾げあう。
それから、史郎が答えた。
「ああ、上泉聖と別れてから、ずーっと寝てた」
「ええーっ! 」
アイコは、思わず大声をあげて、史郎の腕を掴む。
「どうして起こしてくれなかったんですか! あのゴスロリは? 皆山先生は? 」
「待て待て、いっぺんに聞くな」
史郎が手をあげて、なだめるようにアイコを制した。
それから、何から話そうか考えあぐねたように眉をひそめ、言葉を探すような顔をした。
「雪奈は、また病院に逆戻り」
美春が、メンソールの煙草に火を点けながら、助け船を出した。
「予土の親父さんにまた面倒をかけた」
「……」
「で、小諸さん……雪奈の親父さん……、珍しくひどく怒ったらしい。けど、雪奈は今のところ岸川孝一郎のことで一杯一杯で、まともに返事もしないらしい」
アイコは、岸川の名前を聞いて、びくりと体を震わせた。
史郎はそっとアイコの頭を抱き寄せて、軽く髪を撫でてやる。
アイコは、一瞬躊躇った後、史郎の胸に頭を任せた。小さくひとつ、しゃくり上げる。それでも、泣かない。
「って、聖から電話で聞いた。聖は親父さんをなだめながら、雪奈についてやってる」
「……そうなんだ」
「雪奈は、自分のせいでこんなことになったんだから、とか言ってたんで、甘ったれんな、って言っといたけどね」
ふう、と、美春が煙を吐き出した。
「史郎さんの妹が死んだのだって、兄貴のせいだとかなんとか。雪奈についてやってるっていうより、ひーちゃんが雪奈にすがりついてる感じだよ」