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よろしくお願いします。
ダルメジアとルフナの金貨当て勝負。
出鼻こそダルメジアの策に嵌って反則負けになりかけたルフナだったが、なんとかそれを回避すると遺憾無く伝心魔法の力を発揮し一発でダルメジアが隠した金貨の場所を言い当てた。
とはいえ、まだ勝負が付いた訳では無い。
この金貨当ては、“どちらの方がより多く金貨の隠し場所を当て間違えたか”が重要なのだ。
攻守交代で金貨を受け取ったルフナが黒く染まる球体に覆い隠されると、俺はダルメジアの動向に注意を払う。
このまま順調に事が運ぶのなら相手の心を読めるルフナの勝利は揺るがないだろう。
だが、
──────何となくだが、ダルメジアの奴はまだ何かを狙ってやがる……!
俺の直感はそれでもダルメジアが油断ならない存在であると警鐘を鳴らしていた。
それはダルメジアが見せる余裕の表情にあった。
──────あれが“必勝の策を破られた奴”の顔か……? あれが“今から一回も間違えられないって立場に立たされた奴”の表情か……? 俺にはそうは思えねぇ……。
ダルメジアのその余裕は、“まだこの勝負に勝てる策を隠し持っている”と窺わせるに十分な要素だった。
◆◇◆
そうして金貨当て勝負が始まってから、既に十分以上が経過していた。
「ほほーゥ。今度は右の靴の裏に隠しましたねェ?」
「……っ!!」
ダルメジアが金貨の場所を宣言すると、忽ちルフナを包む球体が弾けて消える。
それはまたしてもダルメジアが金貨の場所を一発で言い当てた事を意味していた。
──────くそ……!? こいつは想定外だぞ……!?
この金貨当てという勝負は、“互いが金貨の場所を当てるまで回答し、間違えた回数の多い方が負け”というルールだ。
だからこそ、心を読めるルフナが必ず勝てるであろう金貨当てによる勝負をダルメジアに持ち掛けた。
だが、ダルメジアもルフナと同様に一回で金貨の場所を言い当てる事が出来る、というのであれば話は大きく違ってくる。
どちらも一回で当て続けるという事は、いつまでも勝敗がつかないという事に他ならない。
今現在、ダルメジアとルフナの金貨当て勝負の回数は優に五十は超えている。
それは俺たちにとって完全に予想だにしていなかった展開だった。
一体何が起きているのか。
簡単な話だ。
──────ダルメジアの奴もルフナと同じように魔法で金貨の場所を探り当ててやがんだ……!
「ははっ! まさか君も俺と似たような手段を持っていたとは驚きだな。ところで提案なんだが、一度ルールを見直して仕切り直さないか? このまま決着のつかない勝負を続けるなんて時間の無駄だろう?」
ルフナは右足の下に隠していた金貨を拾いつつも、金貨の代わりにそんな言葉を投げ掛ける。
しかし、
「ほっほーゥ。その心配は御座いませン。この勝負に決着はあるのですからァ。それにワタシの賭け魔法に引き分けはありませン。どちらかが勝つか負けるまで続けるまでですよォ。あァ、早く金貨を渡しませんとルフナ様の負けとなりますよォ? そういうルールですのでェ」
「……なるほど。そうすると、どちらが先に集中力を切らすかの持久戦という訳か」
引き分けがない事に納得したルフナは金貨をダルメジアに向かって放り投げる。
「ほっほーゥ。それでは続けるとしましょうかァ……!」
ダルメジアが金貨を受け取ると黒く染まった球体がその体を覆い隠していき、ルフナの方も弾けて消えた半透明の球体が再びルフナを覆っていく。
こうして決着の見えない勝負が再開されたのだった。
◆◇◆
両者が相手の隠す金貨の場所を把握しており、それを当てるだけとなった勝負。
それはまさに不毛としか言いようのない勝負だ。
だが、そんな不毛にも思えた勝負もやがて終わりを迎えようとしていた。
「それではァ、次はルフナ様が出題者の番ですねェ」
ダルメジアから金貨を投げ渡されたルフナは、
「っ……!」
それを掴むことが出来ずに膝をついてしまっていた。
その原因に俺は心当たりがある。
「んン? おやおやァ? ルフナ様ァ、ひょっとして魔力がもう無くなりつつあるのではァ?」
それはかつてリスティアお嬢様とスピラが患ったものと同じ症状だ。
──────“魔力切れ”……!
魔力切れを簡単に説明するならば、保有する魔力が枯渇したことによる“息切れのようなもの”との事だ。
だから魔力切れを起こしてしまった場合、大抵は“休めばなんとかなる”とされている。
しかし、魔力切れを起こしても休まずに魔力を使い続ければどうなるだろうか。
賭け勝負に負ける訳にいかないルフナは、魔力切れの予兆を感じても伝心魔法を使い続けなければならなかった。
その結果、最早ルフナは手足に力を入れることすら覚束ない様子で、立ち上がるのは勿論のこと、首をもたげるのも、言葉を発する余裕すらもなくなっていた。
「その様子ゥ……! 早くお休みになられませんと生命に関わるかもしれませんなァ……! あァ……! ですがそれは出来ないのでしたねェ……!! 何故ならこの賭け勝負には時間制限というルールがあるのですからァ……!! ルフナ様が休んでしまえばこの勝負ゥ、時間切れでワタシの勝ちという事になってしまいますゥ……!」
この状況こそがダルメジアの描いていた図なのだろう。その表情と口調からダルメジアが悦に入っているのが見て取れる。
「ほっほーゥ! このような幕引きはワタシとしても非常に心苦しいのですがァ……! これもルールですので悪しからずゥ……!」
「ぐ…………っ!」
ルフナは苦々しい表情でダルメジアを見つめ、しかしそれでも負ける訳にはいかないと目の前に落ちている金貨を拾おうと手を伸ばす。
だが、
「ルフナ!?」
ルフナの足はもうその体を支える力すら残っていなかった。
金貨に向かって手を伸ばしたルフナは崩れ落ちるように倒れ伏してしまう。
「ほっほほーゥ! これは完全に魔力切れの症状ですなァ……!! もう何度も見てきた事ですから断言出来ますともォ……!! アナタのような魔力切れを起こしてきた敗者たちをねェ……! ワタシィ、魔力量には相当な自信があるのですよォ! どうやって増やしたかなんて言わずもがなですよねェ!!」
その言葉から察するに、恐らくダルメジアは賭け魔法によって魔力量を事前に底上げしていたのだろう。
──────魔力量による決着……! ダルメジアの奴は最初からそれを狙ってたって事か……!?
そして、とうとうルフナを包む球体が弾けて消えた。
「ほっほゥ! どうやらこの勝負、ワタシの勝ちという事のようですなァ……!」
それは金貨当ての勝者が確定した事を意味している。
「くそっ……! けどそれより今は……っ! ルフナ! 大丈夫か!?」
うつ伏せに倒れるルフナに走り寄った俺は急いでその安否を確認していく。
「脈はある……。顔色も……汗はすげぇが問題ねぇ……」
淀みなくルフナの容態を確認できたのは、つい先日に受けたメナージュメイド長による従者教育の賜物だ。
「はは……。すまないオチバ……。君がいるというのに負けてしまった……」
「それにどうやら意識もあるみてぇだな……!」
だがそれは命に別条はない、というだけの話だ。
なんとか話すことは出来ているものの、今のルフナの手足にはまるで力が入っておらず、これからすぐに立ち上がるというのは困難であることが窺えた。
──────ルフナを連れて逃げんのはほぼ不可能……ッ!
ルフナは動けず、俺自身もダルメジアと渡り合えるような力はない。
何とか状況を見渡して抜け道がないかと思考を巡らせていると、
「……オチバ、こんな状況だが頼まれてくれないか?」
瀕死と言っても過言ではない状態のルフナが俺に話し掛けてきた。
「……出来る事と出来ない事があるとは先に言っとくぜ」
「ははっ。なら出来る事だと信じて頼むとしよう。……クティを、アリクティ・グローウンを助けてほしい」
「……お前、マジで言ってる?」
「……頼む」
事もあろうかルフナはこの状況で俺にアリクティの救出を頼んできた。
──────無茶言うなっての!? 俺一人ですら逃げる算段もついてねぇんだぞ……!?
思わず頭を抱えたくなるが、そんな隙をダルメジアに見せる訳にはいかない。
まぁ、どちらにせよダルメジアが動く気になれば俺に対処のしようはないだろうが。
「クティは……俺の事情に巻き込まれただけなんだ……。君の心はやはり読めないが、君はまだ逃げていない。恐らく俺を案じて残ってくれたんだろう? 君は俺を連れて逃げる策がある……。違うかな……?」
「全っ然、違ぇから!?」
「ははっ。それはそうだ。ダルメジアの前でする話じゃなかったな……。なら頼む……。仮に誰か一人を連れて逃げれるというのなら……。それは俺じゃなく、彼女にしてほしい……」
「いや、だから……! あーっ! くそっ! 訂正する時間が勿体ねぇな!?」
とにかく状況を把握する事を最優先とした俺は、今度はアリクティの状況も含めて周囲を観察する。
そうして分かったのは、“アリクティを逃がすのだって容易じゃない”ということだ。
ダルメジアの手下に捕縛された状態にあるアリクティだが、今や彼女の首には鉄のような首輪が掛けられていた。
そしてその首輪から伸びる鎖の先はダルメジアの手に握られている。
──────アリクティが賭け魔法の賭け品として受理されちまったからか……。
ダルメジアが一方的に宣言した事とは言え、ルフナはアリクティの所有権を賭けた勝負に負けてしまった。
つまり、今現在アリクティの所有権はダルメジアが得ているということなのだ。
──────そうすっと、アリクティを逃がすにはその所有権をダルメジアから一度取り上げる必要があるって話になる訳だ……。いや、厳しいだろ!?
いよいよ形振り構わず逃げ出す覚悟を固めなくてはならないかと思い始めたところで、
「オチバ様……! 私のことは気にしないでください……!! ダルメジアの狙いはルフナ様です! ルフナ様さえ捕まらなければダルメジアの野望は潰えます!! お願いします! ルフナ様を連れて逃げてください!!」
今度はアリクティが俺にルフナを連れての脱出を願いだした。
──────お前もかよ!? つーか、どっちも無理だよ!?
だが、
「ほっほほーゥ! それはいけませン……!! ワタシがどれだけ今日という日を心待ちにしィ、入念な準備をしてきたことかァ……! どうしても連れていきたいというのであればァ、ワタシに勝つしかありませんねェ……!」
そもそもの話、二人の逃亡をを許すダルメジアではないだろう。
少なくともダルメジアの目的が明確にルフナである以上、俺がルフナを連れて動こうとすれば即座にダルメジアは俺を標的にするに違いない。
そしてルフナとアリクティの二人が動けない状況であると正しく認識したダルメジアは、ここでいよいよ残った俺に意識を向けた。
「それでェ……。アナタはどうしますかァ? ルフナ様のご友人との事ですので特別に賭け勝負をして差し上げてもよろしいですよォ? 勿論のことアナタが勝てばこの兎人族を手に入れる事だって叶うかもしれませんねェ……? まァ、ですが正直なところを申しますとねェ。ワタシはアナタに何の用もないのですよォ。今のワタシは非常に機嫌が良ィ! アナタが今日の出来事を忘れて退散するというのであれば見逃してあげても構いませんよォ?」
ルフナたちを見捨てるのならば見逃す、そうダルメジアは俺を唆すのだった。
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