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よろしくお願いします。
「……よし、短い時間の中で考えた割には悪くねぇ勝負内容が出来上がったな」
「ははっ! ああ、悪くない。これならダルメジアもそう簡単に対策できないだろうさ」
ダルメジアとする賭け勝負の内容が出来上がると本日三度目となる歓声が賭博場内で巻き起こり、俺たちは舞台上へと視線を向ける。
「これでワタシの三連勝ですねェ。さァ、もう他に挑戦したい方はいないのですかなァ?」
舞台上では敗者から賭け品を徴収し終わったダルメジアが次の挑戦者を求めて賭博場内へと語りかけていた。
「ふむゥ……。皆様ァ、本当に宜しいのでェ? ワタシの財産には金銀財宝や珍しい亜人種に魔獣、他にも高価な魔道具などもあるのですよォ? それがただの一度、ワタシとの賭け勝負に勝てば手に入るゥ……。そんなチャンスを本当に見逃してもよろしいのでェ?」
そしてダルメジアは、更に場内を煽るように殊更大きな声で続ける。
「しかもォ! 本日は取り分け貴重な正真正銘の神の遺産、“隠秘の神 アマウット”が地上に残した“アマウットの翅”を用意したというのにィ……! この翅ェ、その力は何と驚きの魔力封じィ! どんな強者であろうとも魔力を封じられれば赤子同然に等しィ……! これはそんな強力な魔道具なのですよォ……?」
“隠秘の神 アマウット”が残した“アマウットの翅”、その能力がダルメジアの口から話されると場内の熱気は増し、次々と何人もの無法者が舞台に押し寄せるようにしてダルメジアとの賭け勝負に名乗りを上げていく。
「ルフナ、あの魔道具って……」
「ははっ! ああ……! あれこそが俺の求めてた魔道具だ……! オチバ、こうしちゃ居られない。これだけの挑戦者の数、万が一ダルメジアが先に負けるって可能性も無くはない。俺たちも早いとこ名乗りを上げるとしよう」
「おい、ルフナ!? 待てっての!?」
無法者たちにこれ以上先を越されてたまるかと言った具合にルフナは舞台に向かって進み、この場に一人残される危険を考えた俺も急いでルフナの後を追っていく。
そして、
「おやァ? アナタァ、もしかするとかの辺境伯の御子息様では御座いませんかァ?」
とうとう俺たちはダルメジアと対峙する舞台へと上がったのだった。
◇◆◇
「初めまして、ダルメジア殿。お察しの通り、俺は辺境伯ヴォルダム・ネフシャリテの子、ルフナ・ネフシャリテだ」
「ほほゥ! やはりィ! おっとォ、改めましてワタシめはダルメジア。アナタに名前を覚えていただけて大変光栄でございますゥ! ……ところでですがァ、この舞台に上がったという事はアナタ様もワタシとの賭け勝負に興味がある、そう捉えても宜しいのでェ?」
「当然そのつもりだとも。俺は貴殿が所持する“アマウットの翅”を頂戴しにきた」
「なるほどなるほどォ! アナタ様のその目つきィ、確かに本気のようですねェ! 良いでしょウ! それでは早速賭け勝負をするとしましょうかァ! ルフナ様、どうぞお手柔らかにィ……!」
「こちらこそよろしく、ダルメジア殿」
差し出されたダルメジアの手とルフナが握手を交わすと、
「それでルフナ様はいったいどのような勝負をご希望でェ?」
続いて賭け勝負の内容についての話へと進む。
「カード、盤上遊戯、あまりオススメできませんが戦闘でもワタシは構いませんよォ?」
「おっと、それについては俺が話すぜ」
ここで俺が二人の会話に口を挟んだ。
「ふむゥ? その身なりからしてルフナ様の護衛か何かだと思っていたのですがァ……。アナタはどちら様でェ?」
「彼は俺の友人だ。名前はオチバ。貴殿があまりにも賭け勝負に強いものだからな。貴殿に挑む為の勝負内容を共に考えてくれた協力者という訳だ」
「ほウ……! ワタシ如きをそこまで評価してくださるとは大変恐縮で御座いますゥ……! ん……? オチバ……? その名前ェ、何処かで耳にしたような気がァ……。まァ、今は良いでしょウ。そうなりますとワタシめも手を抜くわけにはいかないというものォ……。して、勝負内容は如何なるものにィ?」
一瞬、何やら考え込んだダルメジアだったが直ぐに賭け勝負へと意識を戻すと俺に勝負内容について尋ねてくる。
「俺が提案する勝負内容は、“金貨当て”だ。ルールは至って簡単。体の何処かに隠した金貨の位置を当てる。そんだけの勝負だ」
◇◆◇
俺が提案する“金貨当て”とは、要は宝探しの事だ。
探す宝には予め目印をつけた聖教通貨の金貨を用いる。
対戦形式であるため出題者と回答者に分かれ、出題者は体の何処かに目印をつけた金貨を隠し、回答者は相手に触れる事なく何処に隠しているのかを当てるというゲームだ。
回答者は出題者が隠した金貨の場所を当てるまで回答を続け、当てられたら回答者と出題者を入れ替えてもう一度“金貨当て”を行う。
「そうして最も少ない回数で金貨の隠し場所を当てた側を勝者とする。……大まかにはこんなルールだ。難しくないだろ?」
「ほほゥ……。確かに複雑なルールでは無さそうですねェ。わざわざ他国の通貨である聖教通貨の金貨を採用するのはイカサマ対策という事ですねェ?」
俺が用意した聖教通貨の金貨を確認し終えたダルメジアは金貨を俺に返しながら確認するようにそう言う。
「ああ。聖教通貨の金貨って言ったらロイライハ帝国じゃそもそも使えない通貨だ。アンタは商人だから持っててもおかしくねぇが、少なくとも今この瞬間持ち歩いてる可能性は少ねえし、ここにいる無法者たちだって帝国で使えもしない通貨を持ち歩いてるとは考えらんねぇ。この金貨を採用すんのは単に偽物の金貨を準備出来ねぇようにってだけの話だ」
「ふむゥ……。確かに帝国通貨では無法者でも持っている可能性はあるゥ。それでは勝負に使う金貨が偽造し放題というものォ。考えましたねェ」
「どうも。それとここからは禁止事項について話させてもらうぜ」
「禁止事項ですかァ。つまり、それを違反したら即失格、反則負けという訳ですなァ?」
「そういうこった。つっても、これもそう難しい話じゃねぇ。一つ目は“対戦相手を故意に怪我させることを禁止する”。二つ目に“金貨を破壊することを禁止する”。三つ目は“回答者が回答を答える間に出題者が金貨の場所を移動させることを禁止する”。禁止事項はこの三つだ」
平たく言えば、暴力行為の禁止、金貨を壊す事の禁止、回答中の金貨の移動を禁止、という話だ。
「三つ目の禁止事項はァ、ワタシの液状化魔法の対策かねェ?」
「そう捉えてくれても構わねぇぜ。体内だろうが、一度隠した場所を違う場所に移すってんなら問答無用で反則負け扱いだ。判定はあんたの賭け魔法が公正に判断してくれんだろ?」
「勿論だともォ。ワタシの賭け魔法は、ルール違反であればワタシであろうとも問答無用で公正に判断を下すゥ……。良いでしょウ。ですがァ、気になる点について幾つか質問をよろしいですかなァ?」
「あぁ、いいぜ」
「ではァ、もし金貨の場所を当てるまでの回数が同じでしたらどのように勝敗を決めるのでェ? そして出題者や回答者がいつまでも準備を整えなかったりィ、回答しないという状況が続いたのならばどうなるのかというのも明示していただけたらとォ」
ダルメジアの視点からすればその疑問は尤もなものだ。可能性は低いが、引き分けという事態は起こり得ない訳では無い。
──────それに今の二つ目の質問を深読みすれば、ダルメジアは直接的な攻撃手段以外も持ってる可能性が高そうだな……。
だがそうだとしても、
「そうだな……。同数の場合はどちらかが誤答回数が多くなるまで勝負を続ける。そして出題者が金貨を隠す時間はだいたい三十秒、回答者の回答時間も回答する度に三十秒の制限時間を設ける。こんな感じでどうだ?」
この勝負内容に変更はない。
「ン~~! 仕上がってきましたねェ……! ワタシからは特に言う事はありませんよォ……!」
ダルメジアは新たに追加されたルールを聞いて納得してくれたようだ。
「ではァ……! いよいよ互いの賭け品について話すとしましょうかァ!! ルフナ様は何を欲し、何を賭けてくださるのでェ……?」
ダルメジアは宣誓するように気合の入った声でルフナに問い掛ける。
「俺はさっきも言った通り、隠秘の神であるアマウットの残した“アマウットの翅”を要求させてもらうとしよう。それに見合ったもので俺に所有権があり、貴殿が欲する物があればそれを賭けさせてもらう」
そしてルフナも自身が欲する魔道具と賭け品についての宣言をした。
「なるほどォ……! ではァ──」
すると続いてダルメジアの要求と賭け品についての宣言が発せられる番になるのだが、
「…………ん? おい、待て!? それはいったい!?」
その直前でルフナが何やら驚いた様子を見せた。恐らくダルメジアの内心を読み取ったのだろう。
しかし、ここまで平静だったルフナが取り乱すとはいったいどんな要求なのか。
それは直ぐに分かった。
「ワタシはアナタの従者ァ、アリクティ・グローウンの所有権を要求するとしましょうかァ……!!」
ダルメジアは、ルフナの賭け品として彼の従者であるアリクティを宣言したのだった。
◇◆◇
ダルメジアが醜悪な笑みを浮かべてルフナの賭け品として宣言したのは、ルフナの従者であるアリクティだった。
「アナタたちィ、彼女を連れてきなさイ」
ダルメジアが舞台袖に何やら合図を送ると、無法者に羽交い締めにされ身動きが出来ない状態のアリクティが姿を現した。
「クティ……! 何故君がここに……!?」
「ルフナ様!? いえ、今直ぐにここから逃げて──」
「ほほーゥ。彼女はアナタ様を探してこの裏町にやって来たようでしてェ……」
アリクティはルフナを目にすると懸命に声を上げるが、ダルメジアはそれを遮って口を挟む。
「僭越ながらワタシが部下に命令してアナタ様のいるこの場まで案内して差し上げた次第に御座いますよォ」
しかし、アリクティの様を見ればどう見ても丁重な“案内”で連れて来られたようには見えない。
「……ダルメジア、彼女は俺の従者だ。直ぐに彼女を解放しろ」
「ほほーゥ! 元より彼女がアナタの従者だというのは分かりきっていますよォ。この状況でよくまだそんな台詞を吐けたものですなァ」
「はぐらかすなよ、ダルメジア。俺は彼女を解放しろって言ったんだ」
「ほっほほーゥ! 怖いですねェ……! 解放しないのならどうするのでェ? 力づくですかァ……?」
そんな明らかなダルメジアの挑発に、ルフナは無言でダルメジアとの距離を詰めに動き出す。
「ルフナ様!!」
その歩みを止めたのはアリクティの声だった。
「直ぐにここからお逃げください!! ダルメジアの狙いは最初からあなただったんですっ!!」
「……どうやらそうみたいだな。だが、クティ。俺は君をこんな無法者どもたちの巣窟に置いて逃げることは出来ない」
「……っ!! でしたら、オチバ様!! お願いです! ルフナ様を連れて逃げて!!」
アリクティはルフナの説得が無理だとみると、俺に懇願する。
だが、
──────俺も逃げれるんならそうしてぇよ……。
悲しいことにダルメジアから逃げ切れるだけの力量なんて俺にはない。
「…………なぁ、ルフナ。一応聞くけどアリクティが偽物って可能性は?」
「ないな。彼女は本物だ。心の声を聞けば分かる」
「……けど、この状況はかなりヤバイぞ。どうやってか分かんねぇが、ダルメジアはほぼ間違いなく今日この日にお前が来るよう周到な準備を重ねてやがった。そう考えた方がいい」
「……そうみたいだな。さっきクティを呼ぶ寸前に奴の内から聞こえたよ。俺が欲する魔道具を用意したのも、クティを捕まえているのも、俺をここに呼び出す為の罠だった。……悪かった、オチバ。君を巻き込んだ。君だけでも今から逃げてくれ。もう賭け勝負じゃ済まない」
──────だから俺は一人じゃ安全に帰れねぇっての。
それに、
「お前、やっぱり勘違いしてやがったな」
ルフナは大きな勘違いをしていた。
「……何だと?」
「『もう賭け勝負じゃ済まない』だ? 違ぇよ。むしろその逆だ。もう賭け勝負に勝つしかねぇんだよ。……そうだよな? ダルメジア!!」
「…………はてはてェ? 何を言っているのかワタシにはさっぱりですがァ?」
惚けた振りをするダルメジアだが、その脳裏にはダルメジアの本音が過ぎっているに違いない。
そしてそれを、
「は……ははっ! そうか……! そういう事かよ……! まんまと奴の罠に陥る所だった……! 助かったぜ、オチバ! そうか、もう賭け勝負は始まっていたんだな!」
ルフナは読み取る事が出来る。
「奴は俺に手を出させて反則負けを誘っていた……!!」
「そういうこった。今は勝負に使う金貨がまだ俺の手にあるから出題者と回答者が決まっていない状態だ。だから一見まだ賭け勝負が始まってないように思えたが、とんでもねぇ。既に始まってやがったんだ。ダルメジア、お前結構卑怯な手を使いやがるじゃねぇか」
「…………いえいェ、騙すつもりなんてこれっぽっちだってありませんでしたよォ。ルフナ様と賭け勝負が出来るとなってワタシもついうっかり興奮し過ぎただけに御座いますゥ。ワタシは賭け勝負においてルールを違反したことは御座いませんのでェ。誓って正々堂々と勝負に臨みますともォ」
ダルメジアは白を切って和やかな口調で言葉を綴るが、その節々には僅かな苛立ちが見える。
──────反則負けを狙った奴が正々堂々とは聞いて呆れるぜ……。けど、ルールの穴を突くって点においてはお互い様ってところだな。
「勝負内容を持ち掛けたのこっちだ。出題者、回答者、どっちを先にやるか好きな方をアンタが選んでいいぜ」
「ではァ、先に出題者をやらせていただいてもォ?」
「了解だ。ほらよ」
ダルメジアが出題者を選び、俺はダルメジアに向けて目印の入った聖教通貨の金貨を投げ渡す。
そしてその金貨がダルメジアの手に渡った瞬間、いつの間にダルメジアとルフナを包んでいたのか、二人を包む半透明の球体がそれぞれ視認出来るようになり、ゆっくりとまた見えなくなっていった。
「それでは先ずゥ、ワタシから隠させていただきますねェ」
そうダルメジアが言うと、ダルメジアを包む球体の色が黒に染まっていく。
これはダルメジアが特別何かをしたという訳では無い。
賭け魔法が、“金貨を体をのどこに隠したか相手に分からないようにする”というルールを守らせる為に発生したものだろう。
とはいえ、ダルメジアは恐らくまだ何かしらの秘策を隠しているに違いない。
反則負けを狙ったにも関わらず、いざ賭け勝負をするという段階になっても全く気後れした様子がなかったのがその証拠だ。
──────だが、それでもルフナの心配はいらねぇ……!
そうして出題者による三十秒の金貨を隠す時間が終わると、ダルメジアを包んでいた球体は黒から透明に戻っていく。
「さァ……! 何処にワタシは金貨を──」
「へぇ……。襟の裏に隠したのか。案外素直な場所に隠すじゃないか」
途端、ダルメジアを包む球体が弾けた。
「なにィ……!?」
回答の正誤は賭け魔法が判定する。
賭け魔法の球体が弾けたという事は、賭け魔法がルフナの回答を正解だと判定したという事に他ならなかった。
ルフナの心配がいらない理由。
それは相手の心を読めるルフナが、
──────読み合いを競う勝負で負けるなんてあり得ねぇねぇからだよ!
「ははっ! それじゃあ、攻守交代だ。ダルメジア」
「ぐぐゥ……!?」
ダルメジアから金貨を投げ渡されたルフナの球体が黒く染まる中、俺たちはこの賭け勝負に勝利できるという確信を抱くのだった。
それすらもダルメジアの想定内であったという事に気づかぬまま。
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