表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/208

91

少し立て込んでいて投稿が遅れてしまいました。

よろしくお願いします。

 

 アーディベル邸の門前ではアーディベル一家、そしてリスティアお嬢様の従者たち、その他大勢の使用人たちが集結していた。


「色々な経験を積んできなさい。応援しているよ、リスティア」

「リスティア、体には十分気をつけるのよ?」

「大丈夫よ! わたしには優秀な従者たちがいるもの!」


 ウルリーケ公爵とシェリエルさんはそんなリスティアお嬢様の反応を見て互いに顔を合わせて笑うと、今度は俺たち従者の方へと目を向ける。


「我が娘の従者たち、娘の事をよろしく頼む」

「はい、公爵様。リスティアお嬢様は僕たちが必ずお護りいたします」


 俺たち従者を代表して公爵に返事をするレファリオだが、ここまで気合いの入ったレファリオは中々お目にできないような気がする。


「レファリオ。リスティアを護ってくれるのは有り難いが、君は皇帝候補者でもある。自分の身もしっかり護るように」

「……はい。公爵様のお言葉、しかと胸に刻ませていただきます」

「ふむ。これは言っても素直には従ってくれそうにないな」


 公爵は仕方ないという風に嘆息すると、仕切り直して次は魔馬車の手綱を握るクラルテに視線を移した。


「クラルテよ。改めてヴィッツ公国までの御者と護衛を引き受けてくれた事、誠に感謝する」

「全然問題ないよ! どうせボクもヴィッツ公国に向かうんだからねっ! 安心して! リスティアお嬢様はボクが責任持ってヴィッツ公国まで無事に送り届けるからさっ!」


 クラルテの余裕綽々(しゃくしゃく)な様子を見れば普通は不安に駆られるものだが、クラルテの実力を知る者からすればクラルテのこの返答はとても頼もしく思える事だろう。


 そして公爵がレファリオやクラルテに声を掛ける(かたわ)ら、シェリエルさんはティミとスピラに声を掛けていた。


「二人ともあまり娘を甘やかし過ぎないようにお願いしますね」

「ふぇ……!? が、頑張りますぅ……」

「まぁ、元からわたしは甘やかしてるつもりはねーしな。つーか、甘やかしたらあいつ直ぐ調子に乗るだろ」

「す、スピラさん……!? 公爵夫人ですよ……!? あ、あわわ!? め、メイド長も(にら)んでます!? 謝ってください!? 謝ってください!?」

「ふふっ。これならリスティアもあまり甘やかされ過ぎないで済みそうね」


 そうしてそれぞれが別れの挨拶を終えると、


「皆様、魔馬車の最終点検は済みました。出発に問題はないようです」


 ロルフさんから魔馬車の準備が整った事が伝えられ、俺たちは公爵家の印が入った特別製の魔馬車に乗り込んでいく。


「それじゃあ、お父様! お母様! 行って来ます!」

「ああ。行ってらっしゃい、リスティア」

「リスティア、無事に帰ってくるのですよ」



 ◆◇◆



 アーディベル邸を出発すると暫くはリスティアお嬢様を見送りに集まった領民の姿が大勢見受けられたが、街を出て東に向かう街道を進むと人は徐々に少なくなり、やがて活気だった気配は鳴りを潜めていった。


 魔馬車の中も外に感化されてどことなく寂寥感(せきりょうかん)(ただよ)い、リスティアお嬢様は家族と離れる寂しさからか魔馬車の窓から見えるアーディベル領の景色を眺め、ティミはそんなリスティアお嬢様の様子を見てあたふたとしている。


 スピラは特に気にしていないという風に欠伸(あくび)をしているが、口数が少ないのをみるとやはり兄と姉から離れる事に寂しさを覚えているのかもしれない。


 そしてレファリオはと言うと、周囲の警戒に努めているのかジッと動かないで集中力を高めていた。

 だが、今からそんなに気を張り詰め過ぎてしまえばそのしわ寄せは後に響く事になるようにも思える。


「……だったら、息抜きするには丁度いいかもな。クラルテ、ちょっといいか? 見てほしい物があんだよ」


 俺たちが乗るこの魔馬車は公爵家が腕よりの職人に造らせた特注の品であり、六人が余裕を持って乗車出来る程の大きさなのはもちろん、御者席と魔馬車内は戸を(へだ)てて繋がっている。


 だから俺がこうしてある程度声を張って呼び掛ければ、


「どうしたのー?」


 御者席のクラルテが返事をしながら戸を開いて顔を出した。


「え!? お前、御者だろ!? 何こっち来てんだ!?」


 まさか走行中に御者が御者席を離れるとは予想してなかった俺は驚きの余り大声を出してしまうのだが、


「ん? ああ、大丈夫大丈夫っ!」


 クラルテは指摘をされたところで全く気にした様子を見せない。


 というのも、


「魔馬は御者の魔力で誘導出来るからねっ!」


 どうやら魔馬は他人の魔力から意思を読み取る性質を持つらしく、魔力さえ魔馬に伝えられれば御者としては問題がないのだそうだ。


 更に言えば魔馬は基本的に知能が高く、自身の魔力より低い魔力を持つ相手の命令は絶対に聞かないのだとか。

 それらの性質故に魔馬は自身より強い魔力を持つ御者の指示には必ず従うのだという。


「ほら、ちゃんと手綱は握ってるでしょ? これを通じて魔力を読み取ってくれてるんだよ。それに相当訓練された魔馬みたいだし、手綱を握ってなくても街道を外れる心配はないと思うよっ」

「そ、そういうもんなのか……」


 一先(ひとま)ずクラルテの説明を聞いて安心すると、


「それで、ボクに見てほしいものって?」


 クラルテが脱線していた話を元に戻す。


「そうだった! これなんだけどさ。配達を頼まれてんだけど、危険物かどうか確認してくれねぇか? なんでも手紙みたいなものって話なんだけど……」


 俺はリルドの届け物である魔力小瓶を取り出すとクラルテに渡す。


「小箱と小瓶は普通に売られてるものだね。器から特別な魔力が発せられてるって事はなさそう……。でも、中の液体からは魔力を感じるね。だけど、これも危険物って感じはしないなぁ。魔力の質を見た感じ毒性もないし、起爆するような魔力でもない。手紙って事なら、多分だけど思念をこの液体に宿らせて飲んだ相手に情報を渡すとか、そういう類いのオリジナル魔法なんじゃないかな?」

「流石クラルテ、ありがとな! そういう事なら安心してリルドとの約束は果たせそうだぜ」


 危険物じゃないと確信が持てた事に俺が安堵すると、


「ふ~ん、そのリルドって人は魔力操作にかなり手慣れてるんだね。ところで、オチバはその人と何処で知り合ったの? 使用人じゃないよね? あ、オチバが買い出しに出た時に会った人とか?」


 クラルテから信じられない言葉を耳にした。


「は……? 何言ってんだ? リルドはアーディベル家の使用人だろ。使用人報告会にだって出てたからお前も顔くらい見覚えあるはずだぜ?」

「えー? またまたー。変な冗談は止めてよー? 自慢じゃないけど、ボクは使用人たち全員に魔王因子があるか調べたんだよ? その時に名前だってちゃんと調べたんだから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っ! ……もしかしてオチバ、ボクのことをからかってる?」

「いや、からかってねぇよ。本当にいたって。そうだレファリオ! お前なら分かるよな? ほら、猫人族の奴だよ」


 レファリオも使用人報告会には欠かさず出席していた。

 そして使用人報告会においてレファリオとリルドは隣同士の位置関係にあった。レファリオがリルドの事を知らない訳がない。


 だというのに、


「……オチバさん。本当に冗談じゃないんですか? すみませんが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はぁ……!?」


 クラルテに続いてレファリオもリルドの存在を覚えていなかった。


 そんな馬鹿なとティミにも視線を向けるが、


「あ、あの……ご、ごめんなさい……! わ、私も覚えてないですぅ……!」


 ティミもリルドに関しての記憶はないらしい。


「……言っとくけど、そもそもわたしは使用人の名前なんて誰一人覚えてねーからな」


 続けてスピラも覚えていない(むね)を発言し、


「わたしも知らないわよ。オチバに会ってから使用人たちの名前は覚えるようになったけど、リルドなんて名前の使用人は聞いた事もないわ。……というか、そもそも猫人族の使用人なんてうちにいたかしら?」


 リスティアお嬢様もリルドの存在を覚えていなかった。


 ──────嘘だろ!? んな事ってあり得んのか!?


 あり得るとすれば、それはやはり何らかの魔法だろう。


 それから暫くリルドに関する話をして皆に尋ねてみたものの、“記憶にない存在”をいくら尋ねてみたところで実のある答えを得られる筈もなく、誰もリルドの存在を覚えている様子はなかった。


 つまり、“リルドに関する記憶”が皆の記憶から綺麗さっぱりと抜け落ちているという事だろう。


 しかし、


「……確かにおかしいですね。僕が覚えている使用人報告会に出席していた人の名前と人数が合いません。あと一人、どうしても分からない人がいます。その人がリルドという人物であるとすれば、オチバさんの言ってる事は正しいかもしれません」


 “リルドに関する記憶”が抜け落ちた事によって出来た“記憶の穴”をレファリオが指摘し、その指摘は“リルドという人物がいた”という俺の言葉に強い信憑性(しんぴょうせい)を持たせてくれた。


「あ、あの……! お、オチバさんの話が真実なら……。も、もしかしてまだ公爵邸にそのリルドって人が潜んでいるんじゃ……!? な、何か危害を加えるつもりかも……!?」

「……その可能性は確かにありえますね。ですが、今すぐにその点について心配する必要はあまりないと思います」


 ティミの心配は(もっと)もだが、その心配はないとレファリオが言う。


「僕が覚えている限り、家令(スチュワード)もそのリルドという人物を気に留めていた様子はありませんでした。恐らくは家令(スチュワード)もリルドという人物の事は覚えていないと見るべきです。そう考えると、リルドという人物はいつでもアーディベル家に危害を加える事が出来たという事になります。ですが、今現在そのような事件は起きていません」


 確かにこの半年間、ゲルトナーの騒動を筆頭に色々な事があった。

 もし、リルドが誰かに危害を加えようと画策していたならば容易に実行出来る環境が整っていたように思える。


「ふーん。まぁ、わたしは“今まで事を起こしてないから安心”だなんて思えねーけどな」


 だからと言ってスピラの言う通り確実に安心出来るとは言い切れないのも事実ではある。


 ──────けど、今のところリルドの目的はアーディベル家に直接危害を加える事じゃねぇって可能性が高そうに思えるな。


「……僕は、そのリルドという人物は何かしらの目的を達成したからこそ姿を消したんじゃないかと思いますね。とはいえ、ウルリーケ様に一報を入れるに越したことはないでしょう」


 そうしてこれ以上リルドの事を詮索(せんさく)しても(らち)があかないと結論づけた俺たちは、次の街に着き次第ウルリーケ公爵にリルドの件を報告する手紙を送るという方針を打ち立てる事となり、


「……そんじゃあ、リルドの魔力小瓶(こいつ)はどうしたもんかなぁ」


 俺は手元に残ったリルドが残した魔力小瓶をどう処理すべきか頭を悩ませる事になった。


「もう怪しい道具にしか見えねぇんだけど……。ちゃんと届けるべきか、それともいっそ捨てとくべきか……」


 リルドに不穏な気配を覚えた俺は魔力小瓶の破棄を検討するのだが、


「絶対に捨てちゃ駄目よ! その魔力小瓶はアーディベル家に侵入した賊の手掛かりなんだから!」


 リスティアお嬢様がそれに猛烈な反対意見を表明した。


 そして更に、


「……そうね、決めたわ! その賊はわたしたちの手で捕まえるわよ!」


 リスティアお嬢様は突拍子もない事を宣言し始める。


「り、リスティアお嬢様!? あ、危ない事はしちゃ駄目ですよ……!?」

「危ない事なんてないわ! わたしにはあなたたちがいるもの!」


 ティミが慌ててリスティアお嬢様を止めようと説得するものの、リスティアお嬢様は一度決めたら頑固な面がある。ティミの説得が徒労に終わるのは時間の問題だ。


 しかし、


「でもそうね。わたしもお父様やお母様に心配は掛けたくないわ……。うーん……」


 リスティアお嬢様はここに来て心の成長を見せ、どうすべきか考え込むように(うな)る。


 そしてリスティアお嬢様がどんな決断を下すのか眺めていると、ふと視線を上げたリスティアお嬢様と目が合ってしまった。


「……そう言えば、その魔力小瓶を届ける相手はセアリアス学園にいるのよね?」


 何となく嫌な予感がするが、その答えは既に述べている以上ここで嘘を吐く事に意味はない。


「…………まぁ、リルドが言ってんのが本当ならそういう事になるな」


 俺は正直に答え、それを確認したリスティアお嬢様は口角を上げると俺を指差した。


「じゃあ、その届ける相手は賊の関係者ってことじゃない! 丁度いいわ! オチバ! あなたがその賊の関係者と接触して賊に関する新たな手掛かりを手に入れるのよ! あなたになら任せられるわ! だってあなたは文武両道のわたしの従者だもの!」

「い、いやいや!! 俺よりもっと適任な奴がいると思うぞ? ほらレファリオは俺より冷静だし魔力だってあるじゃねぇか」


 大変名誉でありながら、有難迷惑な役目を任じられそうになり俺は出来る限り拒否しようと踏ん張るのだが、


「無理ね」

「即答だな!?」


 その努力はリスティアお嬢様の一言で絶たれた。


「だってレファリオはわたしの従者でありつつ、生徒として学園に通うってお父様から聞いたわ。それに加えてもう一つ命令なんて、ちょっと負担が大き過ぎるんじゃない?」

「せ、正論過ぎる……!? じゃあ、ティミは……駄目だな」

「ひ、酷いですけど……。は、はい。無理ですぅ……!」

「わ、わたしはいいぜ……? アンタに頼られんならむしろ嬉しいしな! つーか、なんなら二人で一緒に探そーぜ!」

「す、スピラ……!」


 スピラの素晴らしい提案に俺は感激するのだが、


「だ、駄目よ! それは駄目! スピラはわたしと一緒にいなさい! 命令よ!」


 それもリスティアお嬢様に却下されてしまった。


「はぁ!? なんで駄目なんだよ!?」

「そ、それは……」


 却下された理由を問い詰めようとスピラがリスティアお嬢様に顔を寄せるが、


「スピラ、そんな事は少し考えれば分かるでしょう」


 レファリオがそれを止めさせる。


「学園には男子禁制の場も多々ある筈です。そんな時の護衛を考えてあなたとティミさんがいるんじゃないですか。オチバさんが先程ティミさんを駄目と言ったのもそのような理由があるからですよ」

「いや、そんなつもりは────」

「……何だそういう事かよ。はぁ、だったら仕方ねーか」

「そ、そうだったんですね……!? か、勘違いしてました! ご、ごめんなさいぃ!」


 ──────おいおい!? どんどん訂正出来る空気じゃなくなってるって!?


「……それに考えて見れば確かにオチバさんは適任です。要領がいいですから退()(ぎわ)も間違えないですし、リスティア様の護衛を必要以上に削る必要もない」


 ──────え、待て待て!? 何だこの感じ!?


「ま、アンタなら大丈夫だろうしな!」

「が、頑張ってくださいぃ……!」


 ──────嘘だろ!?


「決まりね! オチバ! あなたはアーディベル家に侵入した賊の手掛かりをみつけなさい!」

「………………はい。謹んで承りましたリスティアお嬢様」


 こうして俺の新たな悩みの種がまた一つ増えたところで、


「あっ! 街が見えてきたよっ! 地図で見た距離と今日の進捗距離を照らせば、今日はここで一泊してヴィッツ公国に着くのは明日の夕方になりそうだねっ!」


 次の街が見えたというクラルテの元気な声が聞こえ、たちまち皆の興味は窓の外へと向かっていくのだった。

読んで頂きありがとうございます。

ブックマーク、いいね、評価も大きな励みになってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ