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よろしくお願いします。
「すげー! マジでレファリオの魔力で魔剣が機能しやがった!!」
「ふっ。オチバの推測通りだったみたいだな」
「うんっ! それにあの魔剣からは何か特別な力を感じる!」
新たな姿となった魔剣を見たクラルテたちは、三者三様の反応を示す。
そしてクラルテの言うように、この魔剣は非常に強力な力を秘めているのだろう。
魔剣から溢れ出る青黒い輝きからは、魔力を持たない俺でも異質な何かを感じ取れる。
「けど、どうやってその力を引き出すんだ……? とてもじゃねぇけど、こいつを振り回してゲルトナーと戦うってのは骨が折れるぞ……?」
巨大植物と一体化したゲルトナーを地道に攻撃するとなれば、まず間違いなく俺の体力が先に尽きる事になるだろう。
「……心配いりません」
「レファリオ?」
しかし、そんな戸惑っている俺にレファリオが声を掛ける。
「何故かは分かりませんが、自然と今の僕にはその魔剣の使い方が、僕の属性融合魔法の力がどんなものなのかが理解出来ます。言うなればオリジナル魔法のように、まるで最初から使えて当たり前のような感覚があるんです」
魔力をギリギリまで魔剣に注いだ事で膝をつくレファリオだが、その言葉からは絶対の自信が感じられる。
「オチバさん、その魔剣を地面に突き立てて下さい。それで闇の属性融合魔法による力が解き放たれます」
「……分かった」
レファリオから指示を受け取った俺は、速やかに魔剣を地面に突き立てる。
直後、魔剣を突き立てた地点を中心に闇が地表を塗り替えた。
だが地表を塗り替えた闇は、完全な闇ではない。
闇の中には幾つもの小さな明かりが灯り、星のように瞬いている。
地表に『夜空』が描かれていた。
『夜空』は拡がり、やがて俺たちを取り囲む巨大植物の塔へと到達する。
「闇の属性魔法は、その名の通り闇を司る属性魔法であり、その特徴は精神に影響する魔法が数多く存在することで有名です。……ですが、それだけではありません」
レファリオの淡々と説明する声が聞こえてくるが、俺の視線は魔剣が生み出したこの現象から目を離すことが出来ない。
「魔力は精神に影響されてその力を大きく変えます。つまり、闇の属性魔法は魔力・魔法にも大きな影響を与える事が出来るんです」
俺たちを取り囲んでいた筈の“巨大植物の塔”は、『夜空』によって侵蝕されていた。
“植物の塔”の表面全てが『夜空』に呑まれ、“植物の塔”は植物と定義出来る状態にない“影”と化している。
「この魔剣より発生する『夜空』は、魔力で構成される全ての存在を呑み込む事が出来ます」
それは俺の理解を遥かに超えていた。
そして“植物の塔”であった筈のその“影”は、次第に地表に描かれた『夜空』の中へ沈んでいく。
もう俺たちを囲んでいた“植物の塔”があった場所には、植物の欠片のようなものさえ何ひとつ残っていない。
何が起きているのか説明のしようのない現象に俺は言葉を失っていた。
そして、それはゲルトナーも同様であったようだ。
「な、何だ……!? 今の……魔法は……!? いや……本当に魔法……だったのか……!?」
そこかしこにあった無数の蔓は、植物の塔と共に尽く消え去り、今や巨大植物と一体化したゲルトナーが一人残されるだけとなっていた。
「……どうやら『夜空』の有効射程範囲内にゲルトナーさんは入っていなかったみたいですね。本来ならば既に呑まれた植物と連鎖してゲルトナーさんも呑まれている筈ですが、呑まれた植物との繋がりを断ってそれを回避した、と言ったところでしょうか」
植物との繋がりを断った。
つまり、ゲルトナーは領域魔法を解除したということだ。
事実、ゲルトナーの領域魔法が断たれた影響で、俺たちを逃さないように全体を囲んでいた植物の壁は徐々に枯れていく様子を見せ、外の景色が覗き見えるようになっている。
──────それに他の植物との繋がりを断ったって事は……!!
「スピラっ!! 魔力核は何処にある!?」
「今やってる!! …………見えた!! 根本だ!! 根本に魔力核っぽい反応がある!!」
予想通り、邪魔する蔓が消えたことで魔力核の位置を特定する事も出来た。
「さて、オチバさん。仕上げです。『夜空』には有効射程範囲がありますが、それは指向性を持たせる事で距離を伸ばす事が出来ます」
「っ!! そんな事も出来んのかよ……っ!!」
俺は魔剣を強く握り締めながら、ゲルトナーを強く意識していく。
すると、魔剣を中心にして拡がっていた『夜空』が魔剣の下に集約し、ゲルトナーが同化する巨大植物の根本へと一直線に伸びていく。
「ぐぁぁぁ!? いったい……!? 何なんだ……!? 魔力が……失われていく……!? これは……っ!! 不味い……っ!!」
「あっ!? オチバ!! あいつ、魔力核を根本から上の方に移動させてやがる!!」
「なるほどな……っ! そうやって魔力核を移動させてたからスピラの眼を欺けたって訳か……っ!」
「ですが、この魔剣の前では関係ありません」
レファリオの言葉を証明するように、ゲルトナーが同化する巨大植物の根本に到達した『夜空』は、巨大植物の表面を根本から次々と呑み込んでいき、端から“影”へと変化させていく。
ゲルトナーは迫りくる『夜空』に抵抗して魔力核を上へ上へと退避させるが、植物と一体化した事で動きに制限が出来たゲルトナーに逃げ場は存在しない。
しかし、
「うぉぉぉぉぉ!!!!」
ゲルトナーは雄叫びを上げると共に巨大植物から分離し、迫りくる『夜空』から逃れてみせた。
その直後、ゲルトナーと一体化していた巨大植物は『夜空』に呑まれ、“影”と化し、沈んで消えていく。
「ハァ……ハァ……ハァ……。これは……僕に与えられた……試練なのだ……。僕は……使徒となる存在……だ。君たちが……何をしようと……この膨大な魔力がある限り……無駄な事だ……。何度同じ事を繰り返そうが……」
「……いや、ゲルトナー。お前、自分の足をよく見てみろよ」
俺の指摘にゲルトナーは視線を自身の足へと向ける。
「どういう……ことだ……!? 僕はあの魔法に……触れていなかった筈……!?」
そして、そこでやっとゲルトナーは自身の足が既に『夜空』の侵蝕を受けている事に気付いたようだ。
「植物との繋がりを断てるってことは、お前が植物から抜け出すことも出来るんじゃねぇかって考えたんだよ。だから俺は、植物と一体化したお前じゃなくて、ゲルトナー本人を狙うように強く意識した。そのお陰でどうやら魔剣は植物の中にいるお前に到達するのを優先してくれたみてぇだな」
「ば、バカな……!? いや……まだだ。終わって……いない……。僕には……使命が……」
『夜空』に身体を侵蝕され、領域魔法を解除させられ、巨大植物も消滅し、時間までもがゲルトナーの敵となった。
恐らく、このままゲルトナーから距離を取るだけで勝敗は決するだろう。
そんな空気感が流れたその時、
「みんな、気を緩めないで。戦いは終わってない。魔王因子の気配は強いままだし、魔力核の無力化だって出来てない。魔王には常に細心の注意を払って。まだ何か企んでるかもしれない」
クラルテが油断大敵だと皆に呼び掛ける。
「スピラ、魔力核の位置は?」
そしてスピラに魔力核の正確な位置の確認を取ると、
「あ、ああ。えーと、今は心臓の近くに……って、何だこれっ!?」
スピラは突然大きな声を上げた。
「魔力核からバカみたいに高出力の魔力が集まってやがる! あいつ自爆する気だ!!」
「やっぱり企んでた……っ!」
スピラから告げられた衝撃の事実に俺たちは一気に緊張感を取り戻す。
「魔王の魔力だ! ここら一帯を吹き飛ばすくらいの威力はあるよ……っ!」
「心臓の近くにあるんだな? なら自爆する前に潰せば……」
「待ってドミ姉!! んな事したら衝撃で爆発が早まるかもしんねー!!」
「なら魔剣です! オチバさん! 魔剣をもう一度使って下さい!!」
「分かってる!!」
俺は再び魔剣を握り締めながらゲルトナーへ意識を向ける。
だが、
「させ……ん。せめて……使命を……果たさなくては……」
ゲルトナーへと伸びた『夜空』は、魔力核のある心臓まで届かない。
何か他の力とせめぎ合っていた。
それが何の力なのかは流石に分かる。
魔王の魔力だ。
「駄目だ! 力負けしちまってる!!」
「くっ!! このまま押し負けるのを見届けるよりは……っ!!」
レファリオはヨロヨロの体を引きずって俺と魔剣の所にやってくると、突き立つ魔剣の柄を握り締める。
「……足りないなら、足すしかありませんからね。オチバさん、後は頼みます!」
「レファリオ!?」
そう言ってレファリオは、自身に残った最低限の魔力をも魔剣に注ぎ尽くすとその場に倒れ込み、その体を素早くドミが支える。
「おい!? レファリオ!?」
「……安心しろ。息はある。恐らく只の魔力不足だ」
「だったら心配いらねーな! この場を乗り越えりゃリスティアのメイドが何とかしてくれる!!」
「……っ! ああ!!」
レファリオの安否を確認すると、俺は目の前のゲルトナーに集中する。
しかし、
「くそっ!! まだ足りねぇってのかよ!!」
レファリオの残りの魔力を魔剣に加えても魔王の魔力を突破するには至らない。
それどころか、傍から見ても分かる程にゲルトナーの体は高出力の魔力によって明滅していた。
その圧倒的な魔力を前に、俺の理性は早く逃げろと警鐘を鳴らし続けている。
だが、今更逃げても遅い。
むしろ、正解はその逆だ。
「そうだ! 足りないなら足す! レファリオの言う通りだ!! クラルテ!! スピラ!!お前らの力も足してくれ!!」
「はぁ!? 大丈夫なのかよ!? 属性融合魔法じゃねー魔力を魔剣に注いだらどうなるかなんてオチバも知って……!?」
「それは分かってる!!」
タリスマンと属性融合魔法以外の魔力を魔剣に注げば、魔剣はその性能を維持出来なくなる。
だから、
「魔剣じゃなく、魔剣から伸びてる『夜空』に向かって魔力をぶつけてくれ!! お前らの魔力と『夜空』を融合させる!!」
それは咄嗟の思いつきだ。
そしてその思いつきは、
「そーいう事か!!」
「いいねっ!! さっそくやろう!!」
即断で採用された。
スピラは深紅の魔眼に秘められた魔力を、クラルテは光球を圧縮させた魔力をそれぞれ『夜空』へとぶつける。
二人の魔力が『夜空』に溶け込んでいくと、『夜空』に幾つもの『流星』が流れる。
そしてそれらの『流星』は、
「何故……何故だ……。クルエル様は……僕を使徒として……認めて下さらないと……いうのか……」
突如として『夜空』の中から飛び出し、ゲルトナーに向けて降り注いだ。
「…………っ!! いや……!! これこそが……クルエル様の……導き……か……!?」
ゲルトナーは、瞬く間に『夜空』に侵蝕されていく。
「オチバ……。君は……紛うことなき……クルエル教の先導者だったんだな……。この舞台は……君の使徒としての格を…………更なる高みへ押し上げる…………試練だった…………」
ゲルトナーは何かを呟くが、その言葉は俺の耳に届くことなく、ゲルトナーの全身は『夜空』に包まれていく。
完全に『夜空』に包まれ、“影”となったゲルトナーは、身動き一つ取ることなく、地表に描かれた『夜空』へと沈んでいくった。
そしてゲルトナーが『夜空』に沈みきると、
「……一応報告するぜ。魔力核の反応はもうねー」
スピラが魔力核の消失を確認し、
「……うん。魔王因子の気配も薄れてる」
クラルテも魔王因子の気配が薄まった事を皆に知らせる。
それはつまり、
「みんな、お疲れ様! ボクたちの勝ちだ!」
「よっしゃー!!」
「……すげぇ、疲れた」
クラルテが戦闘終了を宣言すると、俺は一気に脱力感を覚えて座り込み、手元の魔剣が“柄だけの形”に戻っていることに気づく。
周辺に目をやれば、いつの間にか地表に描かれた『夜空』も消失していた。
そして更にもう一つ、
「“『夜空』は、魔力で構成される全ての存在を呑み込む事が出来ます”、だったか……。だから 命までは奪わねぇ筈だって決め打ってたけど、どうやらその予想も的中したみてぇだな」
『夜空』が消失すると、そこには意識を失って倒れるゲルトナーがただ一人残されているのだった。
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