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よろしくお願いします。
属性融合魔法を使えるとしたら、それはレファリオだ。
ロイライハ帝国が乙女ゲームをモチーフにしていると仮定した時、レファリオは容姿・性格・能力の三点において十分に攻略対象としての条件を満たしている。
しかし、レファリオが属性融合魔法の使い手である根拠を示すのは難しい。
なにせその根拠は、“この世界にない知識”を前提としているからだ。
「……じゃあこれ、皆になんて説明すりゃ良いんだ?」
どこから説明すれば簡単に理解してもらえるかと頭を抱えそうになると、
「大丈夫っ!」
そんな俺を見てクラルテが口を開いた。
「説明出来なくても、オチバの言葉ならボクたちは信じられる! だから変な心配なんていらないよ!」
クラルテは今までの俺の成果を信じて、今度も信じると言う。
──────ったく、俺だって間違いも勘違いもすんだぞ。けど、今はその言葉に甘えさせて貰うとするぜ。
「……レファリオだ。レファリオが属性融合魔法の使い手に違いねぇ」
「レファリオくんが?」
「ああ。ただ、あいつが属性融合魔法らしい魔法を使うところを俺は見たことがねぇ。だから、念の為に一度あいつと話をさせてほしい」
「えーと、とにかくレファリオくんと話をするってことだよね? 了解! レファリオくん! 一旦、退いて!」
クラルテがレファリオに戻るよう指示を出すと、レファリオは迅速に俺たちの所まで後退してくる。
「どうしました? 僕が退いたことでドミさんたちの防御が薄くなりましたが」
涼し気な声で話すレファリオだが、額からはじんわりと汗が浮き出ているのが見て取れる。
「ちょっと作戦会議! オチバから話があるってさ!」
「……やっとですか。それでオチバさん、僕は何をすればいいんですか? 何か思いついたんですよね? 影魔法ならいつでも使えますが」
レファリオは俺に何か作戦があると察してくれたようだが、その前に確認しなければならない事がある。
「レファリオ。お前、属性融合魔法が使えるんじゃねぇか?」
「……属性融合魔法。皇帝候補者の証となる六つの属性魔法のことですか」
俺はレファリオと目を合わせ、レファリオの反応を見逃さないように気を張る。
だが、
「それを僕が使える? 何を言っているんですか? そんな筈ないじゃないですか」
レファリオの反応に誤魔化している様子や嘘の気配は感じられない。
「……冗談じゃねぇんだな?」
「そんな余裕があると思いますか?」
再度の確認も一蹴される。
──────なら、俺は何か見落としてんのか……?
大穴でキールが属性融合魔法の使い手という線も考えてみるが、あらゆる要素を加味してレファリオの方が攻略対象としては相応しいポジションに思える。
──────それとも最初から俺の予想事態が見当違いだったってことなのか?
「何かそれらしい魔法が使えた経験とか、兆候があったこともねぇのか?」
俺の本気を受け取ってか、暫く思い出す素振りをしてくれるが、
「ありませんね」
答えは変わらない。
しかし、
「そもそもの話、僕にとっての魔法は影魔法が全てでしたからね。汎用魔法を使った経験なんて殆どないんですよ」
「え……?」
続けられたレファリオの言葉は、新たな可能性に繋がった。
──────まさか!?
「…………今、この時って事なのか?」
「……いったい何なんですか?」
「確かにそれならあり得なくはねぇ……! いや、むしろシチュエーション的にはバッチリって感じじゃねぇか!!」
レファリオの台詞から思い出されたのは、先ほどのゲルトナーが発した台詞だ。
『これは……僕への試練だった』
ゲルトナーはこの状況を“自らがクルエル教の使徒になるための試練”だと言っていた。
ただの妄言の一つに過ぎないと思っていたが、この状況が仕組まれたものだと仮定すれば、
「試練って可能性は十分にありえる……!」
そして、それはゲルトナーへの試練ではない。
「だから、何なんですか……」
「分かったんだよ! これは、お前が属性融合魔法を使えるようになる為の試練だったんだ!」
頭の中の霧が晴れていき、俺は浮き立つ気持ちでレファリオにその事を伝えるが、
「…………いえ、まるで意味が分からないんですけど」
そうすんなりと伝わるはずもない。
「あー、そりゃそうだよな……。けど、その可能性が高ぇって話なんだ! 詳しい説明はちょっと、いや、かなり複雑なんだが……」
「なるほど。なら説明はもう結構です。要は、僕が属性融合魔法を使えるかどうかを確かめれば済む話、という訳ですよね?」
「あ、ああ。……でもやけに話が早ぇな。確証なんてないんだぜ?」
余裕のないこの状況で、確証のない事に無駄な魔力を消費するのが得策でないのはレファリオも分かっている筈だ。
だから、レファリオがこんな賭けみたいな話をあっさり呑んでくれた事に俺は驚きを隠せなかった。
「そんな事は承知の上です。僕の影魔法はゲルトナーさんに対して効果的じゃないですからね。影魔法が通じない相手である以上、持て余した僕の魔力をイチかバチかの手に使うのは悪くない。そう思っただけです」
「レファリオ……!」
「ですがそうなると、僕の属性融合魔法はいったい何なのか、というのが問題になりますね……。今の僕の魔力は確認するほどの余力がありませんから」
「いや、それについては──────って何だ!?」
その瞬間、俺たちが注意を向けざる得ない程の轟音が頭上から鳴り響く。
何が起きているのかは、周囲に目を向けただけで直ぐに分かった。
「こいつは……!?」
「随分な力業できましたね……っ!」
「不味いっ!! ドミっ!! スピラっ!! 直ぐに退いてっ!!」
全ての蔓がクラルテの作った光球へと群がり、俺たちと光球をまとめて閉じ込める規模の巨大な植物の塔を形成し始めていたのだ。
どうらゲルトナーは、自身の弱点である魔力核を捜索するスピラの排除よりも、防御の要になっているクラルテの魔力を尽きさせる方針へと舵を切ったのだろう。
それを察知したクラルテは直ちにドミとスピラに後退の指示を出し、
「スピラ、退くぞ!」
「くそっ!! まだ、アイツの魔力核は見つけられてねーってのに……っ!!」
ドミとスピラは急いで俺たちの下へと後退する。
二人とも苦虫を噛み潰したような表情をしているが、幸いにして負傷している様子はない。
「良かった! 二人とも無事みたいだね……!」
「……ですが、これで前後左右は完全に囲まれてしまいましたね」
レファリオの言う通り、俺たちの周囲は完全に蔓に覆われ、ゲルトナーの姿を視認すら出来ない状況だ。
「こうなってしまうとゲルトナーさんに接近するのも困難です」
「……だったらどうすんだよ? このままじっとしてるしかねーってのか?」
「そうは言ってません。……まぁ、確かにあなたが魔力核を見つけられていれば話は違っていたかもしれませんけど」
「なっ!? 言いやがったな!? お前なんて魔力核を見つける方法すらねー癖に!」
「…………ならあなたは、“魔力核を見つける方法があったにも関わらず、見つけられなかった無能”、という事になりますね」
「はぁ!? 無能はお前だろ!?」
「まぁまぁ、スピラもレファリオくんも落ち着いて」
スピラとレファリオが騒ぎ出すと、それをクラルテが止める。
「ボクたちは負けた訳じゃない。みんな体力や魔力の消耗はあるけど、誰一人欠けてない! それに、まだオチバの言ってた作戦もある!」
「作戦? あっ! もしかして、またオチバが何か思いついたのか!?」
「うん、そういうことっ! 属性融合魔法って言うみたいだけど、それをレファリオくんなら使える筈なんだって」
「はぁ!? こいつが!?」
「僕に自覚はありませんが、オチバさんの考えではそうらしいですね。……とは言え、いったいどの属性融合魔法を僕が使えるのかはまだ判明していませんし、全ての属性魔法を試す程の魔力が今の僕に残っていないのも深刻な問題ですが」
「お前、そんなんでよくわたしに無能とか言えたな!? え……まてよ? つーか、それって六分の一の可能性に賭けるって事なんじゃ……!?」
「違いますよ。五分の一です。同じ時期に同じ属性融合魔法は存在しませんからね。帝国民でありながらクラウディオ・ドリス様が火の属性融合魔法を使えるという事を知らないんですか?」
「う、うっせーな!? 重要なのはそこじゃねーだろ!?」
「そうですね。重要なのは、水属性、風属性、土属性、光属性、闇属性の五分の一を当てる事です。何とかして絞り込みたいですが……」
知識を総動員して絞り込もうとするレファリオだが、
「いいや、レファリオ。実はその点に関しちゃ心配いらねぇんだ。こいつがあればな!」
そう言って俺が取り出した物を見てクラルテが首を傾げる。
「えーと、それって例のゴーレムの魔力で動くっていう魔道具、だよね? でも確かゴーレムの魔力じゃないと動かないってスピラから聞いたけど……」
「そうだぜ。わたしの魔力を注いでもその魔剣はちゃんとした武器にはなんなかったからな」
「二人の言う通りだ。この魔剣はゴーレムの魔力、つまりタリスマンの魔力を利用しねぇと機能しねぇ魔道具だ。しかも、タリスマンの魔力じゃない魔力が混ざると上書きされて上手く機能しねぇって欠陥もある」
それらの欠陥は、この魔道具を製作したピアード博士直々に教えられた事だ。
そして同時に、
「けど、ピアード博士はこうも言ってたんだ。『せめてゴーレムの魔力を取り込める可能性のある“属性融合魔法”が使えなくては話にならんという訳じゃな!』ってな」
「あっ!? そういや爺の奴、そんな事言ってやがった!!」
極めつけは、
「ピアード博士は、“学園に集う属性融合魔法の使い手たちの魔力でこの魔剣が上手く機能するか確かめてほしい”って俺にこの魔剣を託してくれた。なら、レファリオの魔力とタリスマンの魔力が注がれたこいつは上手く機能する筈だ」
「…………分かりました。なら僕のすべき事は、この魔剣に魔力を注ぐだけです」
「頼む」
レファリオは俺から剣身のない魔剣を受け取ると、その柄を握り締め、次々と魔力を注いでいく。
すると、レファリオの手に握られた魔剣の先に灯火のように揺らめく不安定な剣身が出現する。
「これが、精一杯ですね……。どうぞ、オチバさん」
「お疲れ、レファリオ。次は俺だ」
レファリオから魔剣を受け取った俺は、残るタリスマンに宿るゴーレムの魔力を全て魔剣に注ぎ込む。
魔力を持たない俺の体を仲介し、ゴーレムの魔力は純粋な状態を保ったまま魔剣へと流れていく。
ゴーレムの魔力は、やがてレファリオの魔力によって生み出された剣身と衝突し、呑み込まれ、混ざり合う。
二つの魔力が完全に溶け合うと、揺らめいていた剣身は安定し、次第にしっかりとした芯を持ち始め、そうして出来上がった魔剣は、夜空のような青黒い輝きを放つ美しい長剣へとその姿を変貌させたのだった。
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