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よろしくお願いします。

 

「魔王って……マジかよ!?」


 “魔王”という単語にいち早く反応を示したのはスピラだ。


「こいつは気を引き締めてかねーとな……!」


 スピラは勇者に強い憧れを抱いており、いつか自身も魔王を討伐して勇者になる事を目標にしている。

 彼女にとって今回の出来事は、ある意味で千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスとも言えるのだろう。


「……魔王か。詳しくないが、スピラから相当強いと話に聞いた覚えはあるな」


 ドミはスピラから(いく)つか魔王についての話を聞いた覚えがあるようだが、その反応は薄い。


 しかし、


「敵は一人だが、(つる)の数が多い。……ここは誰かが指揮を取るべきだ」


 持ち前の戦闘の勘に()るものなのか、この戦闘に指揮が必要だと判断したドミは(すみ)やかにそれを提案する。


「そうだね……! ボクも指揮を取る人は必要だと思う! みんな! ここはボクに指揮を任せて欲しいっ!」


 そしてドミの提案に頷いたクラルテは、この場の皆に指揮を取らせて貰うことを申し出る。


 俺たちの中で魔王との戦闘経験があるのはクラルテだけだ。

 その事を知っている俺とスピラとドミは、クラルテが指揮を取ることに反対はない。


 残るはレファリオだが、


「……僕は貴女(あなた)の事をあまり知りません。ですが、オチバさんが信用している方ならここは頼らせて頂きます」


 間もなく蔓の向こう側からレファリオの声が飛んで来た。


 どうやらレファリオもクラルテが指揮を取ることに異議はなさそうだ。


「みんな! ありがとう! それじゃあ、先ずは────」


 そうして全員の同意を得たクラルテが指示を出そうとしたその瞬間、


「ここに辿り着いた事は……素直に驚かされた」


 ゲルトナーに動きが見られた。


「だが……それだけだ。メイドが一人と……研究職が二人。たったそれだけの増援で……状況が変化することは……ない」


 落ち着き払った様子のゲルトナーは、品定(しなさだ)めするように俺たちを見渡すとクラルテのところで視線を止める。


「なるほど……。メイドの君は……多少魔力が他人より多いようだ。しかし……キールから話を聞いているのなら……魔法が通じないことは……承知の筈。おおかた……回復や補助の魔法に……()けているんだろう」


 ゲルトナーはクラルテをそう評すると、両腕をゆっくりと持ち上げる。


「ならば……簡単な話だ」


 それはつい先ほどにも目にした動きであり、ゲルトナーの動きに同調して周辺の蔓が統率された動きをみせる。


「メイドの君さえ仕留めれば……直ぐにまた……瓦解するという事だ」


 ゲルトナーが言葉を発した直後、その両腕が振り下ろされると同時に蔓の大群(たいぐん)がクラルテに向かって押し寄せて来た。


 しかし、



「狙いは悪くなかったけど、相手が悪かったねっ!」



 クラルテは動じることなく、右手を上空にかざす。

 すると、右手の先に直視するのも難しいほど(まばゆ)い光を放つ光球が生み出された。


「魔力を(えさ)にしてる魔物と戦うときはこうするのが一番手っ取り早いんだよねっ」


 クラルテが生み出した光球。


 それは、


「魔力の塊……だと!?」

「その通りっ!!」 


 クラルテに襲い掛かる筈だった蔓の大群は光球の強力な魔力におびき寄せられ、その矛先をクラルテの上空に出現した()()へと変えていたのだ。


 そして、光球の熱量は凄まじいものなのだろう。

 光球に近付いた蔓の大群は、光球に到達する前に焼け落ちていく。

 だが、蔓の大群はその(あらが)えない性質によって光球に近付く事を止めることはない。

 焼け落ちた蔓の先端は直ぐに魔力による再生が行われ、再び光球へと近付いていく。


 光球の魔力に(いざな)われ、近づいては焼け落ち、再生しては誘われる。


 蔓の大群はそんな工程を繰り返し続けていた。


 つまり、


「ここからはどっちが先に魔力が尽きるかの根比べだよっ!」

「無謀な……! 魔物と融合した……僕の魔力に……叶うはずもない……!!」

「そうかもしれないねっ! でもそれはボクが一人で戦う場合だ! それじゃあ、みんな! 指示を出すねっ!」


 クラルテは先ほど出しそびれた指示の続きを今度こそ俺たちに伝えるために声を張り上げる。


「先ずはレファリオくんとの合流を優先! ボクが蔓を引き付けてる間にスピラとドミは連携してレファリオくんまでの道を切り開いて! レファリオくんはボクたちが辿り着くまで無事でいるように!」

「了解した」

「分かったぜ!」

「分かり、ました……!」


 レファリオの荒い息づかいを聞く限り、向こうでも蔓の攻撃が再開されたのだろう。

 ドミとスピラは急ぎ、俺たちを囲む蔓に向かって走り出す。


「フッ……!!」


 そして俺たちを囲む蔓まで辿り着いたドミが拳を次々と蔓に打ち込むと、蔓の囲いに穴が()き、ドミが続けて拳を打ち続ける事でその穴は大きく広がっていく。


「そうは……させない……!」


 だがゲルトナーも俺たちの思い通りにさせるつもりはないと、蔓を操って囲いを修復させつつ、ドミに対しての反撃を試みる。


「クラルテさんの真似だけどよ! ほら! こっちにも魔力があるぜ! って、うわぁ!? すげー来やがった!?」


 しかし、スピラが発動させた魔眼の魔力によって蔓の攻撃はスピラへと流れ、スピラは魔力で身体を強化しながらも魔力を伴わない剣を用いる事でなんとか蔓の攻撃を(しの)ぐ事に成功していた。


「オチバ! 今のうちにレファリオくんと合流するよっ!」

「おう!!」


 クラルテに促されてレファリオの方へと足を進めようとするが、


「…………もしかしてだけど。お前、今動けなかったりする?」


 いつまで経っても動き出す気配のないクラルテにそう尋ねる。


「え、えへへ……。実は結構やばい、かも? 久し振りに凄い魔力を奮発したから気を抜いたら制御が()かなさそうで……」

「マジかよ」

「でも安心してっ! 集中してればちゃんと制御出来ると思うしっ!」


 クラルテは心配ないと言うが、


 ────いや、心配するだろ……。


 確かに蔓の攻撃を受ける事はないだろうが、それは蔓や巨大植物魔物に限った話だ。

 絶対に安全という訳ではない。


「……集中してりゃ制御出来んだな?」

「え? うん。でも、どうしたって走りながらだと集中しきれないし……」

「よし! だったらお前はその光球に集中してろ! 出来るだけ揺らさねぇようにすっから!」

「えぇ!? ちょっと!? オチバ!?」


 俺は直立するクラルテに近付いて抱きかかえると、そのままドミたちが切り開いてくれたレファリオに続く道を目掛けて駆け出す。


「うおぉぉぉ!? やべぇ! 想像以上に怖ぇ! あの蔓ども下に落ちて来たりしねぇよな!?」

「オチバ!? キミって頭が良いと思ってたけど、実はあんまり良くなかったりする!? それともキミの中の魔王因子が暴走してたりするのかなっ!?」

「皆で合流しろって指示はお前が出したんだろ! レファリオと合流してもお前と(はぐ)れちまったら意味ねぇよ!!」

「うぐっ……! そ、それはそうだけど……」

「んなことより、話す余裕があんなら次の指示を考えておいてくれって感じだ!」

「……うん。その通りだね。ありがとうっ!」


 タリスマンの魔力で申し訳程度の身体強化を施した俺は、クラルテを抱えながら疾走し、やっとのことでドミたちの所まで辿り着く。


「……随分引き連れてきたな。クラルテ、指示通り蔓の囲いは壊したぞ」

「クラルテさん!? ずるっ────いや、それならそれで後でわたしも……」


 ドミとスピラは俺たちが辿り着くまでの間に怪我を負ったという様子はなく、蔓による囲いも狙い通り破壊することが出来たようだ。


 むしろ俺たちが近付いた事でスピラに群がっていた蔓が光球に引き寄せられ、二人には多少の余裕が生まれたように思える。


 だがそれはあくまで目の前の光景がそうであるというだけであり、俺たちの上空では今でも無数の蔓が光球に目掛けて飛び交う光景が繰り広げられていた。


 忘れそうになるが、これはクラルテの魔力が切れるまでのその場しのぎに過ぎない。


「二人ともありがとうっ! 次の指示はこのまま前進! レファリオくんを囲う蔓も壊して、レファリオくんとの合流だ!」


 クラルテの指示に従って囲いを脱した俺たちは、続いてレファリオを囲う蔓に向かう。


「ドミ! お願い!」

「ああ、任せろ」


 クラルテの指示に短く返事をしたドミがレファリオを囲う蔓に風穴を開けると、俺たちはやっとレファリオの姿を視界に捉える。


「良かった! レファリオくんも無事みたいだっ!」

「だな! レファリオ! 助けに来たぜ!」

「……ありがとう、ございます。……正直、ギリギリでしたよ」


 レファリオは大怪我こそ負っていないものの、肩で息をするほど満身創痍(まんしんそうい)な様子だ。


 だが、それもここまでだ。


 クラルテの登場によってレファリオを取り巻いていた蔓の大群は既により大きな魔力を放つ光球へと群がり始めている。


 とは言え、俺たちは悠長に時間稼ぎが出来る立場ではない。

 クラルテの魔力が尽きる前に状況打開の手立てを打つ必要があった。


 次の指示を求めて皆がクラルテを見つめると、


「ボクの方針を伝えるね」


 クラルテは直ぐに次の方針を打ち出した。


「今ここで魔王ゲルトナーを討伐する。魔王ゲルトナーは今も成長してて、このまま成長を続ければ植物魔物の壁をより厳重に築くことも出来るようになる。そうしたら誰も魔王ゲルトナーに近付けなくなるだろうし、放置すれば植物魔物の侵食だってどこまで広がるかも分からない。魔王ゲルトナーを倒す好機は今しかない」


 改めて言葉にされると、魔王という存在が本当に一国を滅ぼすだけの力を秘めていることが分かる。


「それじゃあ、魔王を倒す算段について話すね。魔王も魔力を扱う以上、ボクらと同じように魔力を生み出す核が存在するんだ。それを見つけ出して破壊する。基本的にはそれで済むはずだよ」


 ────要はミッドヴィルでのゴーレム戦と同じって訳か。


 よく思い出してみれば、魔力を察知して攻撃する点や魔力に対する防御性能という点についてもゴーレムと巨大植物魔物は酷似(こくじ)しているように思える。

 一番の違いは巨大植物魔物の方が圧倒的に手数が多いという事だろう。


「そうなると……。何はともあれ、魔王の核を探す所から始める必要がありそうですね。普通の魔物であれば体の中心というのが相場ですが……」


 当然、レファリオの言うような問題に最初は突き当たる。

 動物の姿をした魔物は心臓が核になっている事が多いと聞くが、今回は魔王であり、植物の魔物だ。

 核が何処にあるのか一見して想像が出来ない。


 だが、


「うん。だから、その役目をスピラに任せるよっ」


 それについてはスピラがいれば問題ない。


「なるほどな! 確かにわたしの魔眼なら魔力の流れが見える! 魔王の体内で強い魔力が発生してる場所を見つけて報告すりゃ良いんだな!」

「なら、私の役目は魔眼に引き寄せられた蔓の排除、スピラの護衛という事か?」

「頼めるかな?」

「無論、大切な妹の事だ。護り抜いてみせる」


 スピラ、ドミと順調に指示が行き渡り、残るは俺とレファリオに対する指示だ。


 続いてクラルテはレファリオに顔を向ける。


「ちゃんと話すのは初めてだよねっ! ボクはクラルテ・フライハイト! よろしくっ! レファリオくん!」

「…………レファリオ・アルメヒスです」


 指示を貰うと思っていた矢先の唐突な挨拶にレファリオも困惑したのか、その返しは少し遅れていた。


「えーと、驚かせちゃったかな? 急にゴメンね?」

「……別に驚いてませんよ。ただ、こんな時に自己紹介なんて正気を疑いましたけど。それで、時間がないんですよね? 僕への指示は何ですか?」

「あ、あはは……。ねぇ、オチバ。気のせいかこの子ボクに当たりが強くない……?」

「いや、レファリオは初対面の相手には大体こんな感じだぞ。俺の時なんて最初はずっと無視だったし」

「あー、そういえばそうだったね……。ならボクの気のせい、かな……? ううん、まぁいっか!」 


 クラルテは気を取り直して再びレファリオに顔を向ける。


「それじゃあ、本題に入るけど、確かレファリオくんは影を使った魔法を扱えるんだよね?」

「……そうですね。一人につき一つの影ですが、頭数さえあれば複数の影を使役出来ます。ですが、どうやらあの植物との相性は最悪みたいですね。触れただけで魔力を吸収するのか、影が植物に接触すると一瞬で霧散してしまいます。それと先ほど大量に魔力を消費してしまったので今すぐ皆さんの影を作るというのは難しいです」


 レファリオは自身が扱う影魔法とこれまでの経過をざっくりとクラルテに説明する。


「教えてくれてありがとう。それならレファリオくんは魔力回復に専念してほしい。何処かで影魔法を使う機会が来るかもしれないからねっ! 後は、余裕があったらドミの援護をしてほしいかな!」

「……分かりました」

「うん! よろしくねっ!」


 レファリオに対する指示が終わると最後は俺だ。


「オチバは…………今の所はいざって時にボクを移動させる役、かなぁ?」

「役立たず宣言されてるようなもんだから普通に辛いな!? まぁ、実際それくらいしか出来ねぇし、全力で運ぶだけだけどな」

「うそうそ! それだけじゃないよ! オチバには魔王が何か変な動きをしていないか目を光らせていてほしい。オチバは今までもボクが見落してた色んな事に気づいてたりしてたからねっ! 少しでも異常を感じたら教えてくれるかな?」

「なるほどな。そういう事なら任せてくれ!」


 こうしてクラルテの指示が皆に行き渡った今、本格的に魔王ゲルトナーの討伐戦が開始されるのだった。



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