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投稿が遅れてしまいすみません。

よろしくお願いします。

 


「くっ……これは……まずい……っ!!」


 ゲルトナーは背後かろ首を絞める俺よりも走り寄ってくるレファリオを脅威だと感じたのか、片腕を地面に向けて伸ばす。


 しかし、ゲルトナーのその予備動作はもう何度も見てきたものだ。


「そうはさせねぇぜ!」


 俺はより一層の力を込めてゲルトナーの意識を奪うつもりで首を絞め付ける。


「ぐぉ……っ!?」


 するとゲルトナーは反射的に首を絞める俺の腕を掴み、同時にゲルトナーの操る巨大植物はその動きを止めた。


「やっぱりな! あれだけ何度も見りゃ嫌でも分かるぜ! 巨大植物を動かすためには地面に手をついてる必要があるみてぇだな!!」

「ぐ……っ!! オチバ……同志!! 彼はまだ子供だぞ……っ!! 最後まで子供に頼って……情けなくないのか!? 大人としてそれが正しい姿だと……胸を張れるのか!?」


 ゲルトナーは俺を説得しようと懸命に言葉を投げ掛けるが、


「うるせぇ!! こちとら魔力も魔法も使えねぇ体っつー特大のハンデ背負って闘ってんだ!! 今更誰かに頼る事に抵抗感なんてあるもんかよ!!」


 魔法が使える奴に言われても何も響く事はない。


「魔力のない……体? そんな……まさか……」


 ゲルトナーはたいそう驚いてくれるが、それを懇切(こんせつ)丁寧に説明してやれる時間はもうない。


 何故なら、


「行けっ! レファリオっ!!」

「はいっ!!」

「……っ!?」


 俺たちの目の前にレファリオが辿り着いたからだ。


 だが、レファリオとゲルトナーの体格差は一目瞭然だ。


 二人が並ぶとまるで中学生とプロレスラーが向かい合っているかのような様相を想起(そうき)させられる。


 果たしてレファリオの攻撃がゲルトナーに通じるのか、そんな不安が頭を過ぎる中、



「う、浮いた!?」



 ゲルトナーの背中にしがみ付いていた俺の体が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その浮遊感の原因は、レファリオがゲルトナーを打ち上げるように見舞ったボディブローによるものだ。


「う……おぉ……ぉ……」


 鋭く、そして素早く打ち抜かれたレファリオの拳はゲルトナーの腹部に深く刺さり、


「す、すげぇ……」


 体格差を物ともしないレファリオのその一撃は、ゲルトナーにうめき声すら満足に上げさせず膝をつかせる。


 そして、(うずくま)ったゲルトナーを見下ろしながらレファリオは口を開いた。


「ゲルトナーさん。貴方は僕を子供だからと少々見くびり過ぎです。……確かに僕は父上や兄上、そしてアルメヒス家の期待を背負ってアーディベル家の使用人となりました。ですが、リスティアお嬢様の付き人を目指した事や従者に立候補した事、そして今こうして貴方と対峙している事は誰の指図でもなく僕自身が選んだ道です。気遣いには感謝しますが、僕はアーディベル公爵家の使用人です。貴方の思想には共感出来ません」


 苦しげな呼吸を繰り返しているゲルトナーにレファリオの声が届いたかは分からない。


 ────だが、これだけは間違ねぇ。


「ゲルトナー、お前の負けだ。大人しく領域魔法を解除して降参しろ。じゃなきゃ気絶するまでレファリオの攻撃が続くことになるぜ」

「…………そうですね。気乗りしませんが、降参しないようでしたらそうする他ありません」


 俺とレファリオがゲルトナーに降参を促すと、やがて息を整えたゲルトナーが口を開く。


「子供を利用するなんて…オチバ…(きみ)は…なんて酷い大人なんだ。嘆かわしい…情けない──────」


 しかし、ゲルトナーから飛び出したのは降参の言葉ではなく、非難の言葉だ。


「……それは、降参しないということですか?」


 脈絡(みゃくらく)のないゲルトナーの言葉に再度レファリオが問い(ただ)すが、


「──────子供を洗脳し…利用し…その尊い未来を…大人のための駒とする。まるで…帝国貴族そのものだ。度し(がた)い。レファリオも…どうやら既に…帝国貴族の思想に…洗脳されてしまっていたようだな──────」


 ゲルトナーはぶつぶつと非難の言葉を溢し続けるだけでレファリオの問いに答える素振りはない。


「──────公爵様も…人格者として民衆からの人気はあるが…やはり帝国貴族。根底にある思想は…他の帝国貴族と…変わらない──────」


 そして、いよいよ非難の対象がウルリーケ公爵や他の帝国貴族に及ぶとレファリオは表情を険しくさせる。


「……ゲルトナーさん。先程の発言を含め、今の発言は明らかな帝国貴族に対する侮辱です。この事は家令(スチュワード)を通じてウルリーケ公爵様にご報告させて頂きます」


 レファリオがゲルトナーにそう言い渡すものの、変わらずゲルトナーはぶつぶつと(しき)りに呟くばかりでレファリオの言葉に反応を示さない。


「…………仕方ありません。オチバさん、ゲルトナーさんを押さえていて下さい。一回で済ませます」

「お、おう」


 ゲルトナーを気絶させる事にしたレファリオは手刀を構え、ゲルトナーの首筋へと狙いを定める。


「──────貴族は子供を洗脳して…その未来を奪っている。リスティア様も同様に…公爵様に未来を奪われている。ウルリーケ公爵様と言えど…自身の娘を洗脳する帝国貴族の一員なのだ──────」


 俺が押さえつけている間もゲルトナーは帝国貴族に対する非難を続けている。

 帝国貴族としての誇りを大切にしている者が耳にしたらただでは済まされないだろう。


 とは言え、俺にはあまり関係のない話だ。

 アーディベル公爵家の人たちに対しての好感はあるが、帝国自体にはそこまで愛着はない。


 ────むしろ下手に口を挟んでやぶ蛇を突きたくねぇしな。


 だからゲルトナーの非難の言葉は全て無視するつもりだった。


「──────あと一歩でリスティア様を…貴族社会の呪縛から解き放つ事が出来たのに。彼女は…帝国に大きな風穴を開ける逸材として育つべきだった──────」


 突如として聞こえてしまったその()()を聞くまでは。


「はぁ!? リスティアお嬢様があんな暴力的に荒れてた原因ってお前かよ!? あれ、丸く収めんのにどんだけ死の危険を感じたと思ってんの!? お前もいっぺん魔力を使えねぇ状況で火球に狙われる怖さを思い知りやがれ!?」


 ここに来て初めて知った衝撃的な真実に、俺はゲルトナーの首を揺らしてそう叫んでいた。


 思い返してみれば、出会った頃からリスティアお嬢様はお茶会にだけは随分と御執心だった。

 そしてお茶会は基本的に庭園で開催されており、気性の荒いリスティアお嬢様に近づく使用人やメイドは滅多にいないという状況が続いていたと聞いている。


 つまり、ゲルトナーが自然にリスティアお嬢様と接触する機会は何度もあったということだろう。


 だが、このタイミングでそれを叫んでしまったのは完全に俺の失態だった。


「っ!? 受け止められた!?」


 俺の魂の叫びで正気を取り戻してしまったゲルトナーが、首筋を狙って振り下ろされたレファリオの手刀を間一髪のところ額で受け止めてしまったのだ。


「…………あぁ。そう言えば……丁度その頃か。リスティア様の付き人が……オチバ、(きみ)に決まったのは……。なるほど」


 手刀を額で受けたゲルトナーは(おびただ)しい量の血を額から垂れ流しているが、その表情は先程と打って変わってギラギラと瞳を輝かせた晴れやかなものとなり、額の怪我を物ともしていない。


「今……全て……分かった」


 そしてゲルトナーは一人で何かを理解した様子で、


「これは……僕への試練だった」


 誰に言うでもなく独白する。


「これは……僕が新たなクルエル様の使徒となるための儀式だ。クルエル様が……あの方が……僕を……試しているのだ」


 ゲルトナーがそう言った途端、最初に巨大植物が発生した時のような地鳴りが響き渡る。


「この膨大な魔力は……っ!? オチバさんっ!!」

「うぇ!? 何だ何だ!?」


 何かを察知したレファリオが血相を変えて俺に体当たりし、俺たちは(もつ)れるように地面を転がったその直後、


「………………は?」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を俺は目撃してしまった。




 ◆◇◆




 全長十五メートル以上もあるその巨大な何かの先端には巨大な白い花弁が咲き誇っており、その外見は一見して途轍(とてつ)もなく巨大な植物のように見える。


 ただし、これが普通の植物じゃないのは明らかだ。

 普通の植物は人を一瞬にして丸呑みになんて出来る筈がない。


 そんな一連の出来事を目撃してしまい唖然(あぜん)としていると、緊張を帯びたレファリオの声が耳を打った。


「……間違いありません。オチバさん、あれは魔物です」

「ま、魔物……?」


 魔物がどういったものかはリスティアお嬢様の授業に付き添っている時に聞いた覚えがある。


 ────確か、魔力が強い魔物ほど大きな姿で確認される事が多いんだっけか……? そうすると……。


「あの魔物、相当な魔力を持ってるって事じゃねぇかっ!?」

「そういう事です……。ゲルトナーさんが領域魔法をこれだけ長く維持し続けられていたのも、恐らくあの魔物と契約してその魔力を使っていたからでしょう」


 ────契約ねぇ……。また新しい用語が出てきたな。まぁ、今はそれよりも……。


「俺は退避を提案するぞ。ゲルトナーがあんな最期を迎えちまったのは正直まだ信じたくねぇけど……。けど今なら領域魔法は解けてる筈だ。外の奴らと合流して戦った方が絶対に良い」


 俺は考え得る最大の安全策をレファリオに提示するが、


「それが可能でしたら、是非とも僕もその案に乗りたい所ですね……。ですが、そうもいかないようです……」


 それは不可能だとレファリオは告げ、その根拠らしきものへと視線をやる。


「巨大植物の壁……?」


 レファリオの視線の先にあったのは巨大植物の壁だ。

 それも、今出来たという訳ではなく、俺がゲルトナーと対峙した時からずっと存在している壁だ。


 そして巨大植物の壁は、どういう訳か無造作に作られている訳では無く、綺麗に形が整えられた状態を維持していた。


 それは、目の前の魔物から伸びている枝や(つる)が活発に動いているとしても変わらない。


 ゲルトナーの領域魔法で固められた巨大植物の壁は、今も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「まさか……っ!? 領域魔法は解除されてねぇのか……っ!?」


 つまるところ、ゲルトナーは俺たちから逃れるために自らの意思で契約した魔物を動かして呑み込まれたという事なのだろう。


 ────要するに、


「ゲルトナーの奴、仕切り直ししようって魂胆かよ……っ!!」

「そういう事です……っ!!」


 俺とレファリオが目の前にそびえ立つ魔物と戦う覚悟を決めた丁度その時、


「オチバ……僕は君を始末し……この試練を(もっ)て……晴れて僕こそが……クルエル様の使徒だと……証明させて貰う!!」


 十五メートル以上ある魔物の茎の部分が大きく盛り上がり、ゲルトナーの上半身が形成されていくのだった。


読んで頂きありがとうございます。

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