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よろしくお願いします。

 

 ゲルトナーは有無を言わさず巨大植物による攻撃を仕掛けて来る。


「うおぉっ!? さっきより狙いが正確になってやがるっ!? いや、それだけじゃねぇっ!?」


 巨大植物の動きはさっきまでの直線的で単調なものから、フェイントを織り交ぜた複雑なものへと変化し、俺が逃げる先々に何度も先回りをしていた。


「どう見てもゲルトナーの精神状態が操作に影響してやがる……っ!!」


 余計な事を言ってしまったと後悔が後を絶たないが、


 ──けど、お陰で解けた謎もある……っ!


 それは、


 ──領域魔法の仕業かは分からねぇが、少なくともゲルトナーがあの巨大植物を操ってるのは確定って事と……っ!!


 そしてもう一つ、


 ──ゲルトナーが操れる巨大植物の数は()()だけって事だ……っ!!


 複数の巨大植物を同時に操れるのならば、俺に逃げ場なんて存在している筈もなく、既に巨大植物に包囲されていてもおかしくない筈だった。


 一見、複数の巨大植物による攻撃があったように思える場面もあったが、


 ──その(じつ)、巨大植物が複数同時に攻撃行動を仕掛けてきたって状況は一回もねぇ……っ!!


 決して状況が好転する謎ではないが、それを知ることが出来たお陰で、


「どの巨大植物を警戒すりゃ良いのかって基準にはなる……っ!!」


 (せわ)しく見渡し、攻撃行動に移る個体を見つけては距離を取り続ける。


 その作戦は単純ながらも上手くいき、俺は巨大植物の攻撃を(ことごと)く回避することが出来ていた。


 だが、この作戦には大きな欠陥がある。


「はぁっ……はぁっ……はぁ……い、息が……っ!! きつ過ぎる……っ!!」


 それは体力の消耗が激しすぎるという点だ。


 集中力を維持しながら激しい運動をするというのは当然ながら体に対する負担が大きい。


 更に言えばレファリオが到着するまで続けなくてはならないという、半永続的に感じられる状況も精神的な面において重く伸し掛かっていた。


 そして、いよいよ集中力も体力も切れた俺は巨大植物の攻撃行動に対して体が追い付かなくなってしまう。


「やばっ……!?」


 迫り来る巨大植物に強い危機感を抱くものの、酷使(こくし)し続けて疲れきった体は思う通りに動かすことが出来ない。


 目を見張ってしきりに打開策を考えるが、


 ──くそっ!! 駄目だっ!! 動けねぇと話になんねぇ……っ!?


 どうすることも出来ない。


 そんな結論に至ったその時、



「おいおい。ちょっとやり過ぎなんじゃないか?」



 緊迫感の感じられない声が響き、巨大植物の動きが止まる。

 巨大植物の動きが止まったのはゲルトナーの意識が俺から逸れたからだろう。


 ゲルトナーも俺も声の主へと視線を注ぐ。


「いやぁ、オチバたちに一杯食わされた俺が口出しするなって話だけどよ。流石に今の攻撃は試験試合の範疇(はんちゅう)を越えてるように見えたぜ?」


 俺の窮地(きゅうち)を救ったのは、試験試合においてゲルトナーと組む事になった相方、衛士のキール・リアドスだった。



 ◆◇◆



 キールの登場は俺にとって本来歓迎出来ない事態の筈だった。


 何故なら、ゲルトナーは試験試合においてキールの相方であり、キールがゲルトナーに助太刀(すけだち)する可能性は非常に高いと思われたからだ。


 だというのに、


 ──まさか助けられちまうとはな……っ!


 キールの登場はゲルトナーの俺に対する意識を逸らし、間一髪のところで俺は危機的状況を脱する事が出来た。


「分かるぜ。お前がオチバを打倒したいって気持ちは、俺にもよーく分かる。けど、命に関わるような攻撃は失格だって話だったろ。それくらいにしておけって。ということでオチバ、降参するのをお勧めするぜ」


 キールに降参を勧められ、改めて状況を確認する。


 疲労困憊(ひろうこんぱい)で満足に動けない体。

 レファリオが現れず、キールが現れ、いよいよ頭数の上でも不利になった戦況。


 ここまで頑張ったが状況を覆せる手立てが全く思いつかない。

 むしろ、ここで降参する事こそが唯一助かる見込みがあるとさえ考えられる。


 数秒考えた振りをして時間稼ぎをしてみるが、やはりレファリオが辿り着く様子もない。


「…………こりゃ、無理そうだな」


 限界を悟った俺が降参を口にしようとすると、


「駄目だ。これは……クルエル様が導いた……僕への試練だ。ここで止めるわけには……いかないっ!」


 そう言ってゲルトナーが再び巨大植物を動かし始める。


「おい!? やり過ぎだって言ったのが聞こえなかったのか!?」


 巨大植物の動きに直様(すぐさま)気付いたキールがゲルトナーに急接近してその肩を掴むが、


「って、びくともしないな!?」


 優秀なアーディベル家の衛士と言えど、圧倒的な体格差のあるゲルトナーを振り向かせることは出来なかったようだ。


 だがその行為はゲルトナーの集中力を乱すことには成功したのだろう。俺に向けて動き始めていた巨大植物は再び静止する。


「邪魔を……するのか?」

「おっと! そんな怖い目つきをするなよ。俺たちは仲間だろ?」


 キールがそう言うのも当然で、ゲルトナーがキールに向ける眼差(まなざ)しはとても仲間に向けるようなものではない。


「というか邪魔も何も、どう見てもオチバは戦える状況じゃないだろ。これは殺し合いじゃない。試験試合だ。……冷静になれよ。お前は勝ちを目前にして頭に血が上ってんだ」

「…………」


 キールの助言を受けたゲルトナーは顔色を変えず押し黙る。


 そして、


「確かに……一理(いちり)ある」


 ゲルトナーはキールの言葉に賛同の意を示した。


「僕は……冷静さを欠いて……ずっと勘違いしていた」


 しかし、その“一理”とは“頭に血が上っていた”というただ一点のみにおいての賛同だった。


「邪魔立てする者も……クルエル様が僕に与えた試練だったと……今理解した」

「……は? クルエルって、あのクルエル教か? それに試練って」

「っ!? キールっ!! 危ねぇっ!!」


 ゲルトナーとキールを見渡せる位置にいた俺は、キール目掛けて動き出す巨大植物を察知して声を張り上げる。


 だが、


「がぁ……っ!?」


 死角から振り抜かれた巨大植物の横薙ぎは無防備なキールの脇腹に直撃し、一瞬にしてキールを壁際まで吹き飛ばす。


「キールっ!?」


 キールに声を掛けるが、倒れ伏したキールは沈黙したまま動かない。


 代わりに口を開くのはゲルトナーだ。


「やっと分かった。全て……全てがクルエル様の……僕に対する試練だったんだ。クルエル様は……僕を常に……見守ってくれていたんだ」


 ゲルトナーは未だかつて見たことのない狂気を含んだ笑顔を浮かべ、次はお前だとばかりに巨大植物を俺に差し向ける。


 そして、


「やはり……これは試練だ」


 突如、ゲルトナーの操る巨大植物は向きを変え、ゲルトナーの背後に忍び寄っていた()を叩きつけた。


「試練だからこそ……必ず来ると……思っていた」


 ゲルトナーはそう言って自身の後方に存在する一本道へと振り返る。


「……やはり僕の奇襲は通じないですか。予想通りですけど」


 その聞き覚えのある声に俺も顔を向けると、


「お待たせしました。オチバさん」


 俺が待ちに待った試験試合の相方、レファリオ・アルメヒスがそこにいたのだった。



 ◆◇◆



「レファリオ……君は子供だから……本当は見逃すつもりだった」


 レファリオの登場にゲルトナーは心底残念そうな表情をしている。


「だが……それも僕の試練という事だ。……子供であろうと……容赦するなと……クルエル様が僕に……告げているんだ」


 ゲルトナーがその台詞を発した直後、巨大植物はレファリオを標的として狙いを定め、動き出す。


「……色々気になる単語が聞こえましたが、それどころじゃなさそうですね。今は貴方に勝つことだけを考えるとします」


 レファリオは再び自身の影を出現させると、二手に分かれて巨大植物を大きく迂回し、ゲルトナーを挟み込むような軌道を描いて走り出す。


 するとゲルトナーの操る巨大植物が僅かに迷う素振りを見せた後、本体であるレファリオを標的に定めた。


「……なるほど。近くにいる僕の影ではなく、離れている僕を狙った。やはりこの植物はゲルトナーさんが操っていると見て間違いないですね」


 レファリオは巨大植物の薙ぎ払い攻撃を跳躍(ちょうやく)(かわ)すと冷静にそう分析し、


「それに今もそうですが、先程のオチバさんへの攻撃を中断して僕の影を攻撃したのと合わせると、複数の植物を操る事は出来ない、そんな所でしょうか」


 更に今の一連の流れだけで、俺が苦労してやっと見つけた巨大植物の欠点をずばり言い当てて見せる。


 ──レファリオの奴……っ! 悔しいが頼りになるぜ……っ!!


 しかし、


「ん? ……おいおいおい!? レファリオ!? お前、何でこっちに来てやがんだっ!?」


 影と二手に分かれたレファリオだったが、巨大植物に追われる本体はゲルトナーに向かわず、俺に向かって走って来ていた。


「いいから走って下さい!!」


 レファリオは走りながら俺にそう指示するが、


「そうするに決まってんだろ!?」


 言われるまでもなく俺は巨大植物に背を向けて走り出している。


「お前、普通ここは選手交代する場面だろうが!? せめて俺を巻き込まないように立ち回るくらいの配慮はしろよ!? このまま逃げ続ける体力なんて俺にはねぇぞ!?」

「僕の影魔法がゲルトナーさんに通じないのはオチバさんも見ていたでしょう。僕が一人でゲルトナーさんを相手しても状況は好転しませんよ」

「正論だなっ!! つーことは、二人ならどうにか出来るって解釈して良いんだな!?」

「恐らくは…………ほら、()()を見てください」

「おい!? なに足止めて……っ!?」


 突然レファリオが足を止めた事に驚かされるが、レファリオが指差した先を見て俺も足を止める。


「これって……」


 レファリオが指差すのは俺たちを攻撃する筈だった巨大植物だ。


 だが、その矛先は既に俺たちを向いていない。


「これ、さっきも似たような事があったぞ……」


 巨大植物はその標的を俺たちから、遠く離れたレファリオの影へと変えていた。


 その現象は、動けない俺に振り下ろした攻撃が外れていた、さっきの巨大植物の不可解な挙動と合致する。


 ──他の何かに引き寄せられていた……?


「走ってもらったのは、この光景を実際に見てもらった方が早いと思ったからですよ。見ても分からなかったようでしたら説明しますけど……」


 レファリオがそう言った直後、俺は巨大植物のその()()に気付かされる。


「…………いや、大丈夫だ」


 その()()こそが、必中で(しか)るべき攻撃を外させ、俺たちから影へと狙いを変えさせた。


 そしてこの性質を理解した事で、


「よっし。これでやっと攻守交代って訳だ」


 俺たちは反撃の糸口を見つける事が出来たのだった。



読んで頂きありがとうございます。

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