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少し投稿が遅れてしまいました。

よろしくお願いします。

 

 暫く巨大植物の道を進むと視界の開けた場所に辿り着いた。


 その場所は俯瞰図(ふかんず)で見れば四角形に広がっており、俺が来た道の他に三つの道がそれぞれ別方向に伸びている。


 そしてその場所の中心には、


 ──やっぱ、待ち構えてやがった。


 俺に背を向けて立つゲルトナーの姿が確認出来た。


 ──けど、最悪な展開は回避出来たみてぇだな……。


 見渡した限りではこの場所で争ったような形跡(けいせき)はなく、ゲルトナー以外の人影も見当たらない。


 どうやらレファリオが既にやられているという心配はなさそうだ。


 ──ならこのまま隠れてレファリオが来るのを待つのもありか……?


 幸いなことにゲルトナーは俺が到着した事に気付いていない様子だ。

 ならば、このままゲルトナーの様子を(うかが)いながらレファリオの到着を待つのが得策と言える。


 ──そうと決まれば……。


 後退しようと足を持ち上げたその時、


「……待っていた……オチバ。ようやく君と……話が出来る」


 ゲルトナーが俺に向かって声を投げ掛けてきた。


 ──って、気付いてんのかよっ!?


 その原因は恐らくゲルトナーの魔法だと考えられるが、依然(いぜん)としてその詳細は分からない。


 ──つーか、そうなると逃げんのはほぼ無理じゃねぇかっ!?


 位置がバレているなら当然隠れたところで意味がない。


 ──かと言って、一対一の戦闘でゲルトナーに勝てるビジョンなんて浮かばねぇし……。


 逃げられない。隠れられない。戦えない。


 だとすれば、


 ──それ以外の方法で上手く立ち回る必要があるな……。


 覚悟を決めた俺は、後ろに退くために上げた足を前に出す。


「よぉ、ゲルトナー。俺と内緒話するためだけにわざわざこんな大掛かりな人払いしちまうなんて思いも寄らなったぜ」


 余裕ぶった態度は弱腰な心境を悟らせないための虚勢であり、少しでも会話のペースを握るための小細工だ。


 しかし、


「そうだ。()ず……君に……聞きたいのは……」


 ゲルトナーはそんな俺の駆け引きなど気にも()めず、すぐさま話を繰り出してくる。


「ちょちょちょ!? 待てって!?」

「…………どうした?」

「え……!? いや、あー、そうだ! お前、これから誰にも聞かれたくねぇ話をすんだろ? だったら盗聴を警戒すんのは当然じゃねぇか!」

「そんな事か……それなら問題ない。この場の会話が……誰かに聞かれている……ということはない。それが……僕の魔法……だからだ」


 よっぽど魔法に自信があるのか、ゲルトナーはそう断言する。


 ──実際、その通りなんだろうな。


 魔法分野に関して滅法強いクラルテが外にいるというのに未だ状況に変化がない。

 それはクラルテでもゲルトナーの魔法に手を焼いているという意味に他ならないからだ。


 だが、


「……本当にそうか?」


 それならそれでこの状況を利用するまでだ。


「どういう……意味だ?」

「俺はお前の魔法について詳しく知らねぇからな。だからその言葉を簡単に鵜呑(うの)みには出来ねぇんだよ」

「………………」


 俺の言葉を受けてゲルトナーは目つきを険しいものへと変えていく。


 ──めちゃくちゃ(こえ)ぇ!? けど、まだだ……。


 俺は恐怖を何とか振り切り、屹然(きつぜん)とした態度を保ち続ける。


「お前がいくらオリジナル魔法に自信を持ってたって、公爵が色んな人材を揃えてんのはお前だって知ってんだろ? ならお前の魔法を掻い潜れる奴がいたっておかしくねぇってこった。違うか?」


 かなり強引な難癖をつけているという自覚はある。

 こんな挑発的な会話を続ければ、下手をするとゲルトナーの機嫌を一気に悪くしてしまいかねないのも理解していた。


 それでもこの会話にはそれだけの価値があった。


 それは少しでもレファリオが合流する時間を稼ぐためでもあり、ゲルトナーのオリジナル魔法を暴く切っ掛けを掴むためでもある。


 そしてもう一つ──────。




「………………なるほど」


 ゲルトナーは険しくしていた目つきを解くと相槌を打つ。


「君の言うことは……最もだ。その用心深さは……称賛に値する」




 ──────もう一つ、それはゲルトナーからの()()を得るためだ。


 この会話はそのための布石だ。


 情報を出し渋っているように見せるのではなく、情報の流出を警戒しているように見せること。


 これでゲルトナーは、俺のことを“用心深く、警戒心の強い人物”だと認識した筈だ。


 ──どうだ、ゲルトナー。 いかにも俺が()()()()()()()()()()()()()()


 ここまでくれば、後は俺の覚悟一つで会話のペースを持っていける。


「ゲルトナー。ここは一つ……」


 俺は片手を顎下(あごした)に持っていきながら口を開き、


「会話が聞かれないって言うお前のオリジナル魔法を説明してくれよ」


 ゲルトナーにそう願い出た。


「……!!」


 符号というのは、本来言葉に出せない状況下でコミュニケーションを取るためのものだ。

 クルエル教においては互いをクルエル教徒だと確認するための動作にあたる。


 俺の狙いは、ゲルトナーに“俺が同志である”と信用してもらうことにあった。


 続いて、俺からの符号を受けたゲルトナーも俺と同じように片手を顎下に持っていくと口を開く。


「僕は……君から真実を聞き出して…………見極めたい」


 クルエル教の符号は、片手を顎下に当てながら自分の欲望を口にすることだ。


 これで俺とゲルトナーは互いにクルエル教の符号を交わしたことになる。


 それも、庭園での偶然を合わせれば二回目だ。


 もうゲルトナーは、俺をクルエル教の同志だと認識している筈だ。


 それはゲルトナーの中の俺に対する仲間意識を強くさせ、俺の安全にも繋がってくれる……と思いたい。


 ──その代わり、もう絶対に(しら)を切れねぇ諸刃(もろは)(つるぎ)でもあるけどな……っ!


「……分かった。オチバ同志を信じて……少しだけ僕の魔法について……教えよう」


 だがその甲斐(かい)もあってか、ゲルトナーはオリジナル魔法について話すつもりになってくれたようだ。


「ただし……その次こそ……僕の質問に……答えて貰う」

「ああ。もちろんだ。本来なら交換条件で俺が答える番だったしな」

「それなら……いい」


 ゲルトナーは少し間をおいてから口を開く。


「僕はこの魔法を……領域魔法と……名付けている」


 領域魔法。当たり前だが、全く聞き覚えのない魔法だ。


 ──けど、名前からヤバそうだってのは伝わってくるな……。


「これは……僕の魔力で囲った場所を……僕の領域とする……魔法だ。……この領域内で発生する音は……領域の(さかい)にある……僕の魔力に阻まれて……外に聞こえることはない。……逆も同じだ」


 領域の境にあるゲルトナーの魔力。

 それが外の音がここまで伝わって来ない理由だった。


「そして……この領域内で魔力反応があれば……僕はそれを……(ただ)ちに感知することが出来る。人は誰しも……魔力を持っている。僕の領域に……誰か侵入すれば……直ぐに分かる。今……領域内に存在する魔力反応は……オチバ同志と……レファリオ、そしてキールのものだけだ」


 領域内であれば幾らでも魔力の動きを読んで対応することが出来る。

 見向きもせずにレファリオの動きを読みきった絡繰(からくり)はこれだ。


「今……近くにレファリオも……キールもいない。だから他の誰かに……僕たちの会話が……聞かれている心配は……ない」


 ──つーか、キールもこの迷路のどっかにいんのか。いや、居てもおかしくねぇ状況だったけども……。レファリオより先にここに来たら厄介だな。


 キールの存在は懸念(けねん)すべき事項だが、(おおむ)ね知りたかった事は知ることが出来た。


 残る気掛かりは巨大植物だけだが、


「次は……僕の質問に……答えてもらう」


 ゲルトナーも全てを説明するつもりはないのだろう。


「……分かった。それで何が聞きてぇんだ?」


 俺がゲルトナーの質問に身構えると、




「ひょっとして君は……あの方が僕に寄こした……(つか)いなんじゃないのか?」

「…………え?」




 予想外の質問に、俺は思わず困惑の声を出してしまう。


「最初は……君が何者なのか……全く分からなかった。使用人たちが君のことを……モルテ=フィーレ共和国のクルエル教の拠点を壊滅させた人物だと……噂していたから……敵だとすら思った」


 しかし、ゲルトナーはそんな俺の声になんて全く気にした様子もなく、興奮気味に話を続ける。


「本当は……何故、モルテ=フィーレの拠点を壊滅させたのか……それを聞こうと……思っていた。だが……庭園で……そして今……君はクルエル教の符号を……示した」


 ゲルトナーの気迫に圧倒されるが、仲間意識を高める効果は俺が思った以上に効いているようだ。


「拠点を壊滅させたのは……あの方の計画なんだな?」


 効きすぎてしまったようだ……。


「君は……僕の敬愛する……あの方からの遣いに違いない。クルエル様が僕を……導いてくれた。だから……知っている筈だ。あの方の……行方(ゆくえ)を。あの方は今……どこにいるんだ?」

「…………えっ!?」


 唐突に振られたキラーパスは、ただでさえ困惑している俺を混乱させる。


 心を落ち着けてみても、


 ──んなこと聞かれても知らねぇよ!?


 当然知ってるはずがない。


 そもそもゲルトナーの言う“あの方”という人物がどこの誰なのかという事すらも定かではない。


 ──…………いや、正直に言えば確信めいた心当たりはある。


 俺の知るクルエル教徒で最も印象深い人物と言えば、モルテ=フィーレ共和国でスクラヴェルバウムという高級宿を経営していた翼人の女性だ。


 それは、


 ──多分、ラスバブのことだよなぁ……?


 ラスバブは高いカリスマ性でクルエル教徒を纏めていた。ゲルトナーが信望する相手がラスバブの可能性は非常に高い。


 だが、


 ──ラスバブの行方なんて知るかよ……。


 最後に見たのはリーノに担がれて連れ去られていく姿であり、真面目に考えるなら今頃モルテ=フィーレ共和国の刑務所のような施設にいるだろうと予想は出来る。


 とは言え、


「何故……黙っている? 何故……教えてくれない? あの方は……今何をしているんだ? あの方は……僕に何を伝えようとしている?」


 今のゲルトナーに対してそれを正直に伝えるのはあまりにも無謀が過ぎる。


「僕はあの方に……救われた。あの方は……クルエル様の存在を……僕に説いてくれた。あの方は何処かで必ず……見守ってくれている。だから……こうして君を……オチバ同志を……僕に遣わした。あの方は……あの方は……あの方は…………」


 ゲルトナーはうわ言のように呟きながら頭を抱えて(うずくま)るが、突然ピタリと動きを止める。


「そうか…やっと分かった。オチバ同志は僕を…試しているんだな? 僕が…どれだけあの方を想っているのか…試している。そうだろ? 僕としたことが…クルエル教の流儀を…忘れていた。大切なのは…欲に忠実であることだ。オチバ同志は…僕が敬虔なクルエル教徒だと証明するのを…待っていたんだ。今、証明……しよう」

「た、試す? 証明? お前、何言って」


 直後、ゲルトナーは地面に手を付く。


 すると地面が揺れ、


「なっ!?」


 足元がぐらつくと同時に地面にひび割れが入る。


 そして、


「うぉっ!?」


 俺がバランスを崩すと、巨大植物の根が俺の足元に出来たひび割れた地面を突き破り、今まさに俺がいた場所を下から貫いていた。


「危っぶねぇ!? お、お前!? なにしやがんだ!?」


 俺の足腰が鍛えられてバランスを崩していなかったら巨大植物は完全に俺を串刺しにしていたことだろう。


「何をする……だと? 僕は……オチバ同志と同じ事をしようと……してるだけだ。オチバ同志と同じように……同志を裏切り……殺すという大罪を犯すんだ。今なら分かる。オチバ同志がモルテ=フィーレの拠点を壊滅させたのは……その大罪を犯すためだった。なんて……極悪非道だ。だがそれ故にオチバ同志は……あの方に遣いとして認められたに違いない」


 ──殺してねぇよ!? つーか、それ以外が微妙に(かす)ってんのがムカつくな!?


 ラスバブを騙し討ちして拠点を壊滅に追い込んだのも、順序は違うがラスバブに使徒として祭り上げられそうになったのも本当の事だ。


 明らかに違うのは誰も殺していないという事だが、どのみち今のゲルトナーにそれを伝えても通じないだろう。


「だから僕は……オチバ同志を殺して……僕が敬虔(けいけん)なクルエル教徒だと証明する。そうすればオチバ同志も……僕にあの方の言葉を教えてくれるに……違いない」


 ──なるほど。俺を殺すことで、俺にクルエル教徒だと証明し、俺から話を聞き出すって事か。


「お前言ってる事めちゃくちゃだぞ!?」


 兎にも角にも今は臨戦態勢をとるゲルトナーに対し、俺も動かなければならなくなってしまったのだった。






読んで頂きありがとうございます。

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