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よろしくお願いします。
『お前さんには、魔剣を使って実験の手伝いを頼みたいんじゃ!!』
ピアードの頼みには、どことなく厄介な気配が感じられる。
──わざわざ俺にしか使えねぇ魔剣を作ってまでする頼み事だからな……。安請け合いは出来ねぇ。
「……取り敢えず、どんな手伝いをすんのか説明してくれねぇか?頼みを引き受けるかどうかはそれから考えさせてくれよ」
「ワハハ!そりゃそうじゃのう!なら先ずは、ワシの研究している事についてじゃな!ワシは、他者の固有魔法を誰もが使えるようなる方法を研究しとるんじゃ!」
固有魔法とは、レファリオの影魔法やルーマの誘引魔法・反発魔法といった、他者が真似することの出来ない類い魔法の事だ。
ピアードの研究とは、それらの固有魔法を誰もが使用出来るようにする事だと言う。
「ワシはこの研究を進める中で一つの可能性に行き着いたんじゃ!それが属性融合魔法じゃ!」
「それ、さっきも言ってたよな?属性融合魔法の使い手ならこの魔剣が使えるとかなんとかって。属性融合魔法ってのも固有魔法の一つみたいなもんなのか?」
「いえ、オチバさん。属性融合魔法はどちらかと言うと汎用魔法に近い魔法ですね」
俺の問に答えてくれたのはゼンだ。
「汎用魔法には火、水、土、風、闇、光と六つの属性があるというのはご存知ですか?」
「ああ。それは知ってる」
汎用魔法というのは、多少才能の有無に左右されるものの、勉強すれば誰でも使えるという魔法の事だ。
リスティアお嬢様が受ける魔法の授業の中でも度々耳にしている。
「なら話が早いです。属性融合魔法というのは、ロイ神とライハ神により与えられた加護によって特別強化された魔力による汎用魔法の事なんです。そして属性融合魔法にはその名の通り特異な性質がありまして、他者の固有魔法を吸収して新しい魔法を生み出す力があるんですよ」
──他者の固有魔法を吸収するってところにピアードは注目したって訳か。
「あっ! 強力な魔法って話なら、もしかしてリスティアお嬢様の火の魔法がそうだったりすんのか?」
初めてリスティアお嬢様と会った日に見た、リスティアお嬢様の巨大な火球は相当な威力を持っていたと記憶している。
「それはありえん話じゃな!既に火の属性融合魔法の使い手は判明しとるからのう!」
「判明してるって……属性融合魔法の使い手ってのはそう何人もいねぇってことかよ?」
「ロイ神とライハ神はその加護を各属性につき一人、合計六人に与えるとされていますからね。同じ時代に同じ属性融合魔法の使い手は未だかつて確認されていません。また、この六人こそがロイ神とライハ神から大きな寵愛を賜った者として皇帝候補者としての資格を持つんです」
「そしてその火の属性融合魔法の使い手というのが、皇帝候補者でもあり、リスティア様の婚約者でもある、ドリス公爵家のクラウディオ・ドリス様という訳じゃな!ワハハ!」
「なるほど、属性融合魔法ってのがかなり特別な魔法だってのはよく分かった。…………それで結局俺に手伝って欲しいことってのは何なんだ?」
「なぁに、簡単な話じゃ!お前さんが従者となってセアリアス学園に無事行けた暁には、皇帝候補者たちの魔力を使ってこの魔剣が正常に機能するかどうかを調べて欲しいんじゃよ!今年の学園には皇帝候補者が集まるからのう!」
「要はこの魔剣を皇帝候補者に使わせろって話か?……それってかなりハードル高ぇと思うんだけど」
「ワハハ!お前さんはやはり馬鹿じゃのう!その魔剣はゴーレムの魔力がないと動かせんと言ったじゃろうが!何とかして皇帝候補者たちから魔力を貰ったお前さんが試すんじゃよ!」
「ただでさえ高いハードルが爆上がりしやがったぞ!?何とかして魔力を貰う!?肝心な部分が俺に丸投げじゃねぇか!?」
「言っておくがタリスマンごと皇帝候補者らに使わせようとしても無駄じゃよ!あれを他の者が持ったとしてもゴーレムの魔力は次第に持ち主の魔力に変化するだけじゃからのう!二つの魔力を同時に使えるお前さんしか可能性は無いという事じゃ!ワハハハハ!」
「ひ、他人事だと思いやがって……っ!?」
「他人事じゃと?そんなつもりはないわい!お前さんがこの実験をすることでワシの研究はまた一つ前にすすむんじゃ!お前さんには大いに期待しとるわい!」
「そ、そうか。そりゃ悪かったよ。……けど相手は皇帝候補者なんだろ?流石に見ず知らずの俺の相手をしてくれっとは思えねぇぞ?」
「はは、その心配は恐らくありませんね。オチバさんはクラウディオ様の婚約者であるリスティア様の名誉付き人ですし、帝都でも名を馳せた有名人ですから。少なくともオチバさんの名前を知らない人なんて学園ではまずいないと思いますよ」
「ぐっ!? ま、まぁ勝算がありそうな話ではあるのか……」
「ふむ!これで決まりじゃのう!そうじゃ!折角皇帝候補者が集まる機会なんじゃ、最低二人以上には試して貰いたいのう!ワハハ!」
「おい!追加で条件増やしてんじゃねぇよ!?ゼンっ!他の皇帝候補者ってのはどんな奴がいんだ!?」
「…………個性派揃いとは聞きますね。健闘を祈ります」
「勘弁してくれよ……」
それからも長々と熟考することになったのだが、結局俺は魔道具の誘惑には勝てず、ピアードの実験の手伝いをする事に決め、晴れて二つの魔道具の所有権を獲得したのだった。
◇◆◇
試験試合を控える身であってもリスティアお嬢様の付き人としての仕事の忙しさは変わることなく多忙な日々が続き、俺が二つの魔道具を手にしてから早くも二ヶ月が経過しようとしていた。
それはつまり、リスティアお嬢様が学園に出立するまで残り二ヶ月を切っているという事だ。
そしてそんな節目とも言える本日の最初の予定は定例の使用人報告会ではなく、アーディベル邸の中庭へ向かう事だった。
「やっぱ使用人だけじゃねぇな……」
見渡すと使用人以外にもちらほらと衛士や研究員の姿が見受けられる。
この光景は以前に見たものと似通っており、時期的にも従者試験に何か進展があったと見て良いだろう。
そのように考えていると見知った顔を見かける。
「おっ、スピラ!」
「え……あぁ、オチバか」
しかし、俺の声に振り向いたスピラの表情は大きく曇っていた。
「……どうした?顔色悪いぞ?」
「いや、その、なんつーか……。昨日、わたしの従者採用試験があったんだけど、それが護衛能力を測る対人戦闘の試験でさ」
やはりと言うべきか、水面下ではリスティアお嬢様の従者を決める試験が着々と進んでいたようだ。
「んでわたしの対戦相手がクラルテさんだったんだよ。いや、それはすげー嬉しかったんだぜ!……でも、魔眼を使って全力で挑んでも、全然歯が立たなくて……それが悔しくてさ」
「────」
スピラが本気で悔しがっているのを感じられるだけに、俺は掛ける言葉を失ってしまう。
クラルテは従者採用試験に合格するために本気を出すと言っていた。
スピラが手も足も出なかったとするならば、それは紛れもなくクラルテが本気で戦ったという事だ。
「辛気臭い空気にしちまって悪かったな!あっ、そういやこれからここで従者採用試験の結果が発表されるってのは知ってるか?昨日試験が終わった時に家令の人が教えてくれてさ!わたしに伝えるくらいだし、多分試験に参加した人、全員に伝えてんじゃねーかな」
「スピラ……」
「今日はさ、この悔しさを忘れねーようにするために来たんだ。……クラルテさんはわたしが目標にしてる勇者だけど、同時にわたしが乗り越えたい人なんだってのが“負けて”初めて分かったからさ。…………次はわたしが絶対に勝つ」
そう宣言するスピラの表情はいつの間にか明るさを取り戻しており、瞳の奥には闘志すら燃えているようにさえ感じられる。
「……そっか。お前らしいな」
「だろ?……あっ、家令の人が出てきたみてーだな」
スピラの指摘で中庭で一番目立つバルコニーに目を向けると、家令のロルフさんがまさに言葉を発する所だった。
◆◇◆
「皆様、おはようございます。家令のロルフで御座います。本日は試験試合の出場を目指し予選を勝ち抜いた者、そして従者採用試験の結果を元にリスティアお嬢様の従者となった者についてお知らせさせて頂きます」
ロルフさんが話していることはスピラから教えてもらった通りの展開だが、どうやら俺とレファリオの試験試合の相手を決める予選も既に滞りなく終えていたようだ。
「先ずは試験試合の予選を勝ち抜いたお二方から」
言葉を区切ったロルフさんは視線を巡らせる。
そして、
「ゲルトナー殿。キール殿。おめでとうございます。試験試合へ駒を進めたのはあなた方となります」
とうとう俺とレファリオの対戦相手が確定した。
──けどゲルトナーはともかく、キールってのは初めて聞く奴だな。
キールという人物を一目見ようと辺りを見渡すが、
「よっしゃぁぁぁ!!受かったぜぇぇぇ!!!」
ほどなくキールらしき人物を見つける事が出来た。
──装いを見た感じだと衛士で間違いねぇみてぇだな。
一般的な衛士の装備を身に付けたキールと思わしき人物は、赤みがかったトサカ髪を持つ長身痩躯の男、といった外見だ。見た感じの種族は人間だと思われる。
──気になるのは得物だが……。
流石に公爵の屋敷に刃の付いた武器は持参していないようで、現在の外見からは得物を確認出来そうにない。
しかし、アーディベル家の衛士たちの標準装備は剣か槍が基本装備だ。恐らくそのどちらかだと想像はつく。
しかし、そんな考察は続けて発せられたロルフさんの言葉によって吹き飛ばされた。
「試験試合は明日、衛士宿舎の敷地にある訓練場にて執り行わせて頂きます。また、公正にリスティアお嬢様の従者を決めるという事情から、明日の試験試合においては公開試合とさせて頂く事をお伝えします」
「…………はっ!?明日!?それに公開試合!?」
驚きのあまり思わず口に出してしまったが、バルコニーに立つロルフさんには届いていないようだ。
その代わりに、
「これは僕たちに対戦相手の対策を考える時間を与えないためだと思いますよ。あちらはあちらで予選試合による消耗があるようですし、わざとお互いにハンデがある形にしているのでしょう」
俺の驚きに反応したのは試験試合で俺の相方となるレファリオだった。
「レファリオ!お前、いたなら声かけてくれりゃ良いのに」
「いえ、僕だって空気くらい読めますから。野暮な真似はしませんよ。だって彼女、勝手に僕をライバルに認定しておきながら試験に落ちたんでしょう?僕だったら恥ずかしくて顔なんて合わせられないですよ」
スピラに向かって肩を竦めるレファリオの態度は挑発以外の何物でもない。
「お、お前それは……」
「て、テメー!?言って良いことと悪いことがあんだろーが!?」
スピラが目くじらを立てる様子を見たレファリオは、はぁ、ため息を吐くと頭を下げる。
「少し言い過ぎました。……この間のあなたの攻撃的な挨拶の意趣返しですよ。ですが僕のライバルを称するのでしたら、そしてオチバさんの隣に立つ事を目指しているのでしたら、あなたはそのクラルテって方以外にももっと目を向けた方が良いとは思いますけどね」
「え……あ、ああ。分かった。えーと、これってありがとう、で良いのか?」
怒っていた矢先に謝られ、挙げ句に助言のようなものを貰ったスピラはすっかり拍子抜けしてしまっている様子だ。
「……話を戻させて貰いますよ。公開試合についてですが、これは僕らが闘技場で活躍したからですね。僕らが勝てばそれで良し、相手が勝てば帝都の闘技場で活躍した僕らを下したと箔が付きますから」
そうレファリオが説明したところで、ロルフさんの声が再び中庭に響き渡る。
「続いて、従者採用試験の結果によりリスティアお嬢様の従者となったニ名を公表します」
俺たちも会話を止め、ロルフさんの言葉を待つ。
誰もが固唾を呑んで見守る中、ロルフさんの声がその静寂を突破った。
「ティミ殿。スピラ殿。リスティアお嬢様をよろしくお願いします」
「「「…………え?」」」
それはあまりにも予想外過ぎる結果でありながらも、心のどこかでは有り得ると予感していた結果だった。
──く、クラルテ!?お前、落ちてんじゃねぇか!?
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