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先週で投稿して一周年だったみたいです。

よろしくお願いします。

 ウルリーケ公爵の声が中庭に反響し、中庭にいる全員の視線がバルコニーに立つ公爵へと吸い寄せられる。


「先日、長職たちから聞き及んだ者も多いだろうが改めて説明しよう。我が娘のリスティアはおよそ五ヶ月後、ヴィッツ公国にある帝国貴族の名門校──セアリアス学園へ入学する。セアリアス学園は全寮制であり、卒業までの六年間は基本的に外部からの干渉を受けることが出来ない生活を余儀(よぎ)なくされる」


 六年制の学校、つまり中高一貫校のようなものという事だろう。


「これはセアリアス学園の理念の一つに、“初代ロイライハ皇帝のような自立心を養う”というものがあるからだ。しかし、初代ロイライハ皇帝も最初から全てを自身の力だけで乗り越えた訳ではない。彼には頼りになる親友たちの支えがあった。それがロイ神とライハ神、(のち)の第二代ロイライハ皇帝とその后妃(こうひ)だ」


 ──確か、第二代ロイライハ皇帝がヴィッツ公国を作ったんだっけか。


 その話はリスティアお嬢様が受けていた授業で聞き覚えがある。


「セアリアス学園はこの伝承に(なら)い、生徒一人に対して四人までの従者を認める“従者制度”というものを取り入れている」


 従者採用試験の合格人数か四人だったのはこれが理由なのだろう。


「そしてそのリスティアの従者を決める試験について、私はロルフに一任していた。だが昨日(さくじつ)より、とある使用人たちをリスティアの従者にと推す声が我がクラウディオ派閥の中から多数出てきたのだ。その使用人というのが──」


 直後、ウルリーケ公爵の視線が俺とレファリオを居抜き、


「──オチバ・イチジク、レファリオ・アルメヒスの両者だ」


 周囲の視線までもが俺たちに集約される。


「両者は昨日、帝都における闘技場で素晴らしい闘いを披露してくれた。その武勇はまたたく間に帝都中に(とどろ)いている。そこで皆には申し訳ないが、従者採用試験の内容に大きな変更を加えることにした」


 ──この展開……っ!やっぱ期待して良いよな!?


「まず試験は男女別とし、女性従者については従来通りマナーと護衛能力の試験により二名を選出する。そして──」


 しかし、


「──男性従者については、オチバ・イチジクとレファリオ・アルメヒスの両者を暫定的(ざんていてき)な従者とし、期間内に実施する両者との試験試合で勝利したどちらか二名を改めて従者として認める事とする」


 その期待は裏切られた。


 ──嘘だろ!?試験試合って、また戦わなきゃいけねぇってことじゃねぇか!?


「男性従者に必要なのは娘を護るだけの能力を持っているかどうかだ。その点、オチバとレファリオは帝都の闘いでその力を存分に示してくれており、このまま従者として決めてしまうという手もあった」


 ──今からでも遅くねぇよ?考え直してくんねぇかなぁ?


「しかし、そう決め打ってしまうのは(いささ)性急(せいきゅう)でもある。事は娘の将来に関する大事であり、オチバとレファリオのような強者がまだ(みな)の中にいる可能性も十分に考えられるからだ。試験試合でそれを確かめられるというのなら、やらない手はない」


 それがウルリーケ公爵の親心なのだろう。リスティアお嬢様の事を心から心配しているのがよく分かる。


 ──くぅぅ、こうなったら切り替えてくしかねぇな……。


「では早速だが、試験試合に臨む意思がある者はこの場に残ってもらいたい。それ以外の者は通常業務に戻ってくれ」


 ウルリーケ公爵のその言葉でいくらかの使用人や研究員、そして女性たちが中庭から去っていき、残ったのは俺とレファリオ、そして自信に満ちた数十名の従者希望者たちだ。


 彼らは揃いも揃って俺とレファリオに挑戦的な視線を向けており、


「──っ……!?」


 その中でも特別に異様な気配を俺に向ける巨漢がいた。


 ──そういや、こいつがいたんだったな……っ!!


 巨漢──ゲルトナーも当然の(ごと)く従者希望者としてこの場に留まっていた。


 アーディベル家の庭師であるゲルトナーは、人畜無害の優しい人物として使用人たちの間で評判だ。

 しかしその正体は危険な思想を持つクルエル教の信奉者だ。


 改めてゲルトナーに対しての警戒を高めていると、


「これだけの者が娘の従者を希望してくれるとは、頼もしい限りだ。心より感謝する」


 その声に皆の視線は再び公爵へと戻っていき、公爵の雰囲気がより厳しいものへとガラリと変わる。


「先程も言ったが、男性従者に必要なのは“娘を護れるだけの能力”があるかどうかだ。よって、この試験のルールも能力を重視したシンプルな試合形式を取らせてもらう。これより数週間に渡る予選試合を執り行い、予選通過者二名を決めさせてもらう。予選通過者二名には、最後に従者の席を懸けてオチバとレファリオ、両名との二対ニの試験試合に臨んでもらい、勝った二名をリスティアの従者として認める事とする」


 要は、俺は予選試合に参加する必要がなく、俺とレファリオの二人で予選に勝ち上がった二人との試験試合に勝てば良い、という話なのだが。


 ──こりゃ、分が(わり)ぃぞ……。


 従者希望者の面子を見渡し、俺は不利を確信する。


 というのも、殆どの従者希望者が近接戦闘を得意とする衛士たちであり、俺とレファリオは近接戦に対して滅法弱い二人だからだ。


 ──帝都の決闘じゃ、俺もレファリオもルーマの接近を許して強烈な一撃を貰っちまったからな……。対近接戦の対策を考えとかねぇと。


「リスティアの従者についての知らせは以上だ。改めて、娘の従者となるために立ち上がってくれた君たちに感謝する。その力を存分に示し、娘の従者の座を勝ち取ってくれ」


 ウルリーケ公爵が中庭にいる者たちへ激励の言葉を送ると、


(わたくし)も皆様の健闘を祈らせて頂きますわ」


 続けて公爵の脇に控えていたリスティアお嬢様も耳慣れない丁寧な言葉で激励を送り、二人はバルコニーの奥へと下がっていった。


 そして、二人の代わりにロルフさんがバルコニーの中央へと立つ。


「予選試合の日程、組み合わせについては後日お知らせさせて頂きます。それでは解散し、持ち場に戻って下さい」


 ロルフさんの解散宣言で少しずつ中庭から人が消えていき、


「どうやら、そう上手い話はないみたいですね……。オチバさん、試験試合でもよろしくお願いします」


 レファリオも俺にそれだけ言って中庭から去っていく。


 帝都から帰ったばかりで早く部屋で休みたいところだが、


「俺の持ち場って言うと、リスティアお嬢様のとこだよな……。絶対に休めねぇじゃん……」


 直ぐにお茶会の準備で忙しくなるんだろうな、と予感しながら邸内へ足を踏み入れると、


「オチバっ!決闘って何っ!?ボク聞いてないんだけどっ!!」


「アンタ、リスティアの従者になるってマジかよ!?聞いてねーぞ!?」


 邸内ではクラルテとスピラが俺を待ち構えており、帝都での出来事や従者の件について根掘り葉掘りと質問攻めにされ、続け様に忙しない状況へと突入していくのだった。



 ◆◇◆



「ふーん、まぁオチバの事だから決闘に負けるとかは思ってなかったけど……本当に怪我とかはないんだよね?」


「少なくとも傷跡が残るような大怪我はしてねぇから安心してくれって」


「それなら良いけど……。でも無理はしないようにね?」


 帝都での出来事を分かりやすく要約して説明すると、クラルテは呆れたような表情をしながらも納得してくれたようだった。


 だが、


「わたしは納得してねーぞ!付き人の次は従者って、従者になったら六年もセアリアス学園(向こう)で過ごすって話じゃねーか!」


 スピラは俺が従者になるという話そのものが初耳だったようで、強く反対する姿勢を見せている。


「六年だぞ!?アンタ、クラルテさんと旅してんだろ!それに……わたしが勇者になんのに付き合ってくれんじゃなかったのかよ……!!」


 ──いや、そんな約束した覚えねぇんだけど。つーか、前にもそのくだりやらなかったか……?


 という様に、多少ツッコミどころのあるスピラの主張だが、実際に六年という期間は長い。


 俺の目的は俺をこの世界に連れてきた神を見つけ出す事であり、セアリアス学園に行きたいのは同じ神であるライハ神から新たな手掛かりを得られる可能性があると感じたからだ。


 手掛かりを得られたのならそう何年も学園に足を止められる訳にはいかない。


 そして、その問題については既に俺の中で一つの答えを見つけている。


「スピラ。結論から言っとくけど、俺は六年間ずっとセアリアス学園にいるつもりはねぇぞ」


 それは“従者”であるからこそ出来る抜け道だ。


「はぁ……?従者になったら六年間セアリアス学園にいなきゃなんねーって話じゃねーのかよ?」


 俺の答えにスピラは戸惑いの表情を浮かべているが、俺は自信を持って答える。


「それはあくまで生徒の話だろ?従者は学園の生徒じゃねぇから学園の出入りに関して制限なんてねぇんだよ」


「そ、それは屁理屈が過ぎんじゃねーか……?」


「全然。そもそも従者制度ってのは、生徒じゃない外部の人間を学園に出入りさせるための措置だぜ?」


「えぇ……?」


 スピラはそんな俺の主張を聞いても半信半疑の様子で、頬を引き()らせて僅かに引いているように見える。


「いや本当に屁理屈なんかじゃねぇんだって。ちゃんとセアリアス学園の従者の扱いについては図書室で調べたし、ロルフさんやリスティアお嬢様の先生たちにだって確認したからな」


 聞くところによると、従者を外部との連絡手段にしている生徒はごまんといるとか。


 このことからも従者が学園の規則に囚われていない存在だというのが分かる。


「兎に角、従者は出ていこうと思えば好きな時に学園から出ることが可能って事なんだよ」


 ただこの方法を実行するには、別の問題が立ちはだかる。


「そ、そーなのか……。それなら…………ん?ちょっと待てよ……おい、それってっ!?」


 ホッと胸を撫で下ろしたスピラだが、ふと何かに気付くと血相を変えて俺に詰め寄ってきた。


 恐らく、その問題に気付いたのだろう。


「それってっ!?リスティアの奴を途中で放り出すって事じゃねーよな!?アンタが六年間拘束されないってのは嬉しーけど、リスティアが悲しむのは嫌だぜ!?」


 その問題とは、“俺が学園から離れることについて、リスティアお嬢様にどう納得してもらうか”、という問題だ。


「落ち着けって。俺だってリスティアお嬢様を悲しませたい訳じゃねぇんだ。少なくとも学園を離れるのは、ちゃんとリスティアお嬢様に納得して貰ってからにするつもりだよ」


 ──この問題とは何処かで向き合わなきゃなんねぇだろうな。


「つっても、まだ従者に決まった訳じゃねぇし、気が早ぇ話だけど」


「…………ちゃんとアイツのこと考えてくれてんだな。ま、アンタの事だし何とかなんじゃねーの?リスティアを頼んだぜ?」


 スピラは俺が従者になるのを認めてくれたのだろう。その言葉にはいつもと同じ気安い調子が戻っていた。


「あっ!でもそうするとクラルテさんはどーすんだ!?クラルテさんはオチバが従者になっても良いのかよ!?」


 スピラはクラルテの心配をするが、


「えーと、それは特に気にしてないかな?オチバが従者に立候補するって知ってたからボクも女性従者の枠に立候補してるんだよね。だからボクもセアリアス学園行くつもりだし」


「はぁ!?クラルテさんも従者になんのかよ!?聞いてねーぞっ!?」


 どうやらそれが今日一番スピラを驚かせた情報だったようだ。


 そして、


「ねぇ、折角だしスピラも従者採用試験受けてみない?もしかしたら暫く会えなくなるだろうし、今なら本気のボクと手合わせ出来るよ?」


「!?」


 そんなクラルテの言葉が秒でスピラの今日一番の驚きを更新させ、


「受けるっ!!わたしも従者採用試験受けてやるっ!!」


 スピラは当然の如くそう宣言し、


「それじゃあ、スピラはボクのライバルってことだねっ。受けて立つよっ!」


 クラルテも意気揚々とそれに応じるのだった。

読んで頂きありがとうございます。



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