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遅れました。でも毎日投稿には間に合いました。

 本題へと移った事で、俺は旅館『スクラヴェルバウム』の受付嬢から受け取った封筒と地図を懐から取り出す。


「これが本題の“スクラヴェルバウム二号店への案内状”ってやつだ」


 ノイギアの話と合わせると、クルエル教の符号を使った者がこの案内状を貰える手筈になっている可能性が高いと思われる。


 偶然だが、俺は誤解であの受付嬢にクルエル教徒だと思われたのだろう。


 とは言え、その事をクラルテたちにどう説明するべきか。


 正直に話してもクラルテは信用してくれそうだ。

 だが、ノイギアは用心深いから鵜呑みにはしてくれない気がする。


「あー。この案内状はノイギアが言ってた通り、旅館『スクラヴェルバウム』で手に入れたんだけど……」


 しかし、『どうして、符号を知ってるの?』という問に対して、いくら考えても説明のつく受け答えが思い付かない。


 いくら真実でも、『偶然、俺が考え事するときの癖と同じポーズだったんだ』という説明は、


 ──自分で言うのもなんだけど、怪し過ぎんな……。


「それでえーと、どうして俺が符号のことを知ってたのか、ってことなんだけど………」


 だが、ノイギアを納得させるような、それらしい理由が思い付かず、俺は言葉を詰まらせる。


「……はぁ。言えない事情があるんだろう? なら言わなくていい」


 俺が言葉に詰まっている様子に見かねたのか、ノイギアが話を遮った。


「お前に対する疑問は、さっきの問答で既に俺の中で結論が出てる。俺に配慮する必要はいらんよ」


 ノイギアのそんな反応を見て、ここまで来てまだ隠し事をしている自分に何となく呆れた気持ちになる。


「………別に言えない事情がある訳じゃねぇよ。ただ俺の考える時の癖が偶然、クルエル教の符号だったってだけだ」

「なら、今はそういうことにしておこう」

「やっぱ信じてねぇじゃねぇか!?」

「ボ…ボクは信じるよ!」

「嘘だろ!? それは信じてねぇ奴の反応じゃねぇか!?」



 ◇◆◇



「それでだ」


 俺は取り出した案内状と地図を三人で向かい合う机の中央に置く。


「この案内状について、まだ俺も中身は確認してない」


 こんな縁起の悪そうなアイテムなんてさっさと捨てたかったが、捨てたら捨てたで祟られそうなアイテムにも思える。とにかく、扱いに困っていた。


「地図は中々精巧に作られてるな。紙やインクの品質を見るに、まず庶民向けの量産品じゃないのは間違いない。これは信憑性が増したな」


 ノイギアは地図を一目見てそう評価する。


「すげぇな。そんな事まで分かんのか」

「こいつと比べてみろ。予想した上で注意深く観れば、素人でもある程度その違いに気づけることはある」


 ノイギアは部屋の隅で無造作に散らばるチラシと比べるように促す。


「へぇ~! ボクにも見せてよ!」


 クラルテと一緒になって地図とチラシを比べれば紙質の違いが分かる。

 文字も、今まで見てきた立て看板などに書かれたものと比較して達筆で読みやすく、丁寧な文言で書かれていた。


 地図の質の高さからやはり高級な素材が使われているのだろう。そのせいか、改めてこれらを受け取った旅館の外観や内装を思い出す。


 あれだけ豪華な建物に、掃除の行き届いたフロント、受付嬢は非常に不気味だったが、顔立ちは美人で、制服も高価そうに見えた。


「なるほどなぁ」

「ボクには全然違いが分からないんだけど……。むむむ……」


 自分だけ分からないという疎外感が気になるのか。クラルテは地図とチラシを両手に持って見比べ続ける。


「その調子で封筒については何か分かるか?」


 次は案内状と言われて渡された封筒についてノイギアに聞いてみる。


「……中身を見ないことには何も言えんが。そうだな、封蝋印はスクラヴェルバウム商会のものに違いないだろう。おかしな所は今の所ないように思える」


 特別に変なものではない、との評価だ。


 しかし、俺がこれを開かなかった一番の理由は、


「……ぶっちゃけ、これ開けて平気だと思う? 呪われたりとかしねぇ?」


 何せ魔法が存在するファンタジー世界だ。それに危険な宗教組織から渡されたアイテムでもある。


 ──どんな危険があるか分かったもんじゃねぇからな……。


「そういうのは専門家に聞け。俺の専門は一般常識と料理を少し齧ったくらいだ」

「専門家って言ってもなぁ……。それこそバーテンダーなんてやってるアンタなら魔法の専門家の一人や二人くらい知らないのかよ?」

「何を言ってるんだ? 魔法の専門家ならここにいるだろう」


 ノイギアには心当たりがあるようで、ノイギアが顎をやる方へと目を向けると、クラルテがまさに今件の封筒を手に取る所だった。


「じゃあ、ボクが開けるね」

「えっ!? あっ、おい!?」


 クラルテがなんの躊躇いもなく封を切ると、中から一枚の紙と共に黒い(もや)が吹き出し、クラルテを取り巻く。


「あー、これマーキング系の厄介なやつだ」


 だがクラルテは平然とした様子のままだ。


「おいおいおい!? 平気なのか!? 厄介なの物ってのは見てくれだけで分かるぞ!?」

「大丈夫、大丈夫っ!」


 クラルテは問題ないと笑いながら返事をし、そのまま自身に取り巻き始める黒い(もや)の解説を始めた。


「これは……まずこの魔法の使い手に位置が割れて、使った本人に解いて貰わないと消えない種類の魔法だね。確かにちょっと呪いっぽいかも。あ、この(もや)が招待状の代わりになるのかな?」


 黒い(もや)はクラルテの周囲を浮遊しつつも、何処かへ導くように靡いている。


 ──う、嘘だろ!? マジの呪いじゃねぇか!?


「うっ……! あー、それとちょっと精神操作みたいな感覚もあるかも……」


 ──なんつーもん渡してきやがったんだ、あの受付嬢!?


「なぁ、それマジで大丈夫なのか?」

「だから大丈夫だよっ! ボク、勇者だから!」


 ──顔色も悪くなさそうだし、本当に平気なのか……。


「何をそんなに心配してるんだ? 勇者を名乗れるって事は、一般人じゃ潜り抜けられないような修羅場を潜り抜けて魔王を討ったって事だ。あらゆる魔物とも戦ってきた事を考えればこいつは魔法の専門家と言っても過言じゃない。常識だろう」

「勇者って凄ぇな!?」

「うーん、やっぱり難しいね」

「何が!? 何かヤベェのか!?」

「いや、そうじゃなくて。この黒い(もや)はボクが出したわけじゃないから、一度消しちゃったらもう出せないと思うんだ。だからいきなりだけど、このままこの(もや)の案内に従って出発する事にするよ」

「待て待て!? 急すぎるだろ!? 作戦とか何も準備出来てないぞ!?」

「え……? あぁ! 大丈夫大丈夫! 二人は着いて来なくて大丈夫だよっ!元々ボクが勝手にしてるだけだし、二人に迷惑掛けちゃうしねっ!」

「そ、そうなのか……? いやでも、そりゃ戦うってなったら足手まといにしかならねぇけど……」


──それで本当にいいのか?


クラルテは笑っているが、その笑顔は先程大笑いしていたような“心の底からの笑顔”でないのは一目で分かる。


──いや、恩人をこんな形で送り出せるかよ!


そう決心した俺が口を開こうとすると、


「……お前がどう思うかは知ったこっちゃない。ここまで話を聞いて首を突っ込む覚悟までしたんだ。俺は何を言われようと着いていくぞ」


ノイギアに先を越される。


「……っ!先を越されたけど俺だって同行するぜ! そもそも俺が貰った封筒なんだ! なのに俺が居なかったら逆に怪しまれんじゃねぇの?」

「二人とも……! でも……」

「あー、面倒なこと考えなくていいっての。俺が協力してぇんだ。邪魔だってんなら勝手に動くだけだから気にすんなよ」


 煮え切らない態度に俺は思わずクラルテを説得しようとその両肩を掴むと、黒い(もや)が俺の腕を伝ってやってきた。


「「あっ!?」」



 ◇◆◇



 メインストリートから大きく外れた場所。

 薄汚れた建物が建ち並び、人の気配も少なく、まるでゴーストタウンのような街並みが広がっている中で、一部の場所にだけ人がだんだんと集まっていく。


 そのほとんどが顔を隠すマスクを装着し、彼らの共通点は一様に高価な衣服を身に着けていた。


 また、その場所に集まる全ての人が体を黒い(もや)に包まれていた。


 だからこそ少数派であるマスクを着けない人物らは目立ち、そして距離を取られていた。


「ちゃんといらしてくださったのですね」


 ひときわ目立つマスクと豪奢なドレスを着用した女性が声を掛けたのは、マスク着けていない黒髪黒目のタキシード姿の青年だ。


 青年の傍らにはマスクを装着した男女二人が控えている。男性は青年と同じタキシードを着用し、女性はドレス姿だ。


「後ろの二人は私の後援者でして」


 青年は顎に手を当てて、たっぷり間を作った後に口を開く。


「是非、主催者様にお目に掛かりたいと存じます」


 青年──オチバが、完璧な符号を豪奢なドレスの女性に送ると、相手もそれを見て左手を首に這わせる。


「御待ちしておりました。どうぞこちらに」


 昼間に会った時と同様、彼女のマスクの奥から覗く血走った目には、歓喜による興奮と狂気が宿っていた。

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