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よろしくお願いします。
程なくして新たな使用人服へと着替えた俺とレファリオはアーディベル邸の中庭へと向かっていた。
「なんつーか……色も豪華だし、まさに儀礼用の服って感じだな。肩に飾りまで付いてるし」
そしてその道中、新しい使用人服と今までの使用人服を見比べてふとそんな感想が口をつく。
新しい使用人服は赤紫色をベースにした軍服のような外見で、肩には飾緒という装飾がついており、見栄えという点は格段に良くなっていた。
しかし、それと同時に不安な点もある。
「なぁ?これって性能の方はどうなんだ?いつもの使用人服より重くて動きづらい気がすんだけど……」
「……確かに少し重いようですが、その分防御性も格段に上がってますよ」
そんな俺の疑問に対してレファリオは丁寧に答えてくれる。
「前のと同様に蜘蛛人族の作る魔力繊維で織られているので魔力に強い耐性があるのは勿論ですが、加えて防刃効果のある素材が表面に塗装されてますね」
「へぇ〜、ちゃんと考えて作られてんだなぁ」
この派手過ぎる色合いは、その防刃効果をもたらす素材による副次的なものという事だろう。
「この色合いからすると血液が素材でしょうか……」
「……血液?」
「ええ、そうですよ。血液で服全体を塗装してるんです。長年魔力を蓄えた生物、例えばドラゴンなどの血には特殊な力が宿るというのは有名な話ですよ」
「へ、へぇ……」
魔力が存在してなければそんな物騒な技術が発展しなかったであろう事を思うと、やはり魔力の業は深い。
そんなこんなで俺たちが中庭に到着すると、
「すげぇ人集りだな……」
「それだけ重大な事、ということでしょう」
そこには既に大勢の人たちが集まっており、小さなざわめきと共に公爵が現れるのを今か今かと待っていた。
そうして辺りを見渡していると、
「あっ!オチバじゃん!こっちこっち!」
「この声は……」
声の聞こえる方へと振り向くと、銀のショートヘアと輝くような赤色の瞳を持つ少女──スピラが俺に向かって大きく手を振っていた。
「おぉ!スピラ……だよな?」
ただし、いつものスピラとは装いがまるで違う。いつもの戦いに向いた装束でも、リスティアお嬢様と会う時のドレス姿でもない。
「……なんで白衣?」
初めて見るスピラの格好に疑問を覚えていると、
「白衣は魔法研究機関の制服ですから。僕たちにとっての使用人服のようなものですよ」
横にいるレファリオからそう教えられる。
「そう言えばスピラの所属先がそんな名前だったな……」
言われて辺りをよく見渡せば、スピラ以外にも白衣を着た人があちこちにいるのが分かる。
そんな風にスピラから目を逸らしている内に、
「その服どうしたんだよ!?すっげーな!!」
いつの間にかスピラが俺たちの目前まで近付いてきていた。
そしてどうやらその関心は俺の着ている使用人服に注がれているらしい。
「公爵が用意してくれたみたいでさ。俺もさっき渡されたばっかであんまり詳しくねぇけど、結構な貴重品らしいな」
「貴重品なのは一目瞭然だっての!!」
「そ、そんなにか……」
興奮するスピラに驚かされるが、それだけこの使用人服の性能が良いということだろう。
「そうだ。服装といえばお前のその白衣姿、この数ヶ月で初めて見たぞ?」
ちょうど服装の話題だったので少しからかってみるのだが、
「う、うっせーなっ!これ、汚れが付くと直ぐにゼンが洗えって喧しいからあんま着たくねーんだよ!!…………ドレスよかマシだけど」
思いの外、スピラも窮屈な思いをしているようだった。
「あー、そりゃ悪かったな。確かに動き回るのには適してねぇ服装だもんな。でもドレス姿もそうだったけど、白衣も似合ってるぜ?」
「え…そ、そうか?……その、ありがとな?」
スピラは照れているのか、頬を掻いて口数が少なくなる。
かと思えば、
「あっ!そう言えば帝都の闘技場で活躍したんだって!?」
次第に間が持たないと判断したのか、スピラは焦った様子で話題を闘技場の話へと持っていく。
「聞いてたぜ!二対二の勝負だったんだろ?って事はクラルテさんと一緒に闘ったんだよな?良いなぁ、わたしもクラルテさんと肩を並べてもう一度闘いてー!」
「相変わらず、クラルテの事となると周りが見えなくなんのな……?」
しかし、スピラはどうやら俺と組んだ相手を勘違いしているようだった。
「けど俺が組んだのはクラルテじゃねぇぞ?」
「え……?」
「俺と組んだのはこいつ、俺と同じ使用人のレファリオだよ」
隣に立つレファリオを指差しながらそう言うと、
「初めまして。レファリオ・アルメヒスです」
レファリオが合わせて簡素な自己紹介を済ませる。
しかし、
「…………はぁ!?いや、アンタ、マジかよ!?また増やしたのかよ!?」
スピラは俺とレファリオを交互に見て、頭を抱えだしてしまっていた。
いったいスピラが何に困っているのかは分からないが、折角挨拶してくれたレファリオを放置するのも忍びないので、
「あー、レファリオ。こいつはスピラ。ちょっと口は悪いけど、かなり強くて根性もある奴だよ」
応対出来ないスピラに代わって俺がスピラの紹介をしてやる。
「って待てよ!?そういや確か二人で帝都に行ったって聞いたぞ!?リスティアに続いてもう次の奴を誑し込んだってことかよアンタ!?」
スピラは何かに気付いた様子で俺に詰め寄り、堰を切ったように捲し立てる。
「人聞き悪ぃな、おい!?」
「ホントの事だろ!?……はぁ、でもしょーがねーか。それがアンタの良いところでもあるし、そもそもわたしが言えた義理じゃねーか……」
言いたいことを言い切ったからなのか、少し落ち着きを見せたスピラだったが、
「けど、それはそれとして──」
次の瞬間、スピラは一瞬の内に俺とレファリオの間に体を割り込ませ、レファリオに対して攻撃的な視線をぶつけていた。
「──アンタはちょっと気になるな。気に入らねーけど」
「あっ!?おいっ!?スピラっ!?」
攻撃的な姿勢のスピラを静止させようと背後から肩を掴んでみるが、
「くっ!?こいつ、びくともしねぇ!?」
──って事はこいつ魔力使ってんじゃねぇか!?
そしてその事実に、
「……何のつもりですか?」
レファリオは臨戦態勢を取り、スピラに対抗して攻撃的な雰囲気を醸し出している。
「……へー。中々やるみてーだな、アンタ。レファリオって言ったっけ?良いぜ。ならアンタもわたしのライバルとして認めてやるよ。わたしはスピラだ」
何のライバルだよ!?、とツッコミを入れるには緊迫し過ぎている空気だ。
そこに救世主たちが現れた。
「スピラ、勝手な行動はしないと約束したじゃないですか。ドミ、スピラをお願いします」
「ゼン兄さんの指示だからな。公爵様の話が終わるまでは私が責任持ってお前の手を握らせてもらうぞ」
「ぜ、ゼン!?それにドミ姉もっ!?ちょっ!?今大事なっ!?」
見計らったかのようにゼンとドミがこの場に現れ、あっという間にスピラを大人しくさせたのだった。
◆◇◆
「オチバさん、それにレファリオさんも、お久し振りです」
挨拶するゼンの後方では、ドミがスピラの手を握って物理的に大人しくさせている。
因みに当然の如く、ゼンもドミも魔法研究機関の白衣を身に纏っていた。
「久し振りだな、ゼン。でも出てくんのが遅ぇよ」
「お久し振りです、ゼンさん」
ゼンとレファリオのこの口ぶり、二人は顔見知りなのだろう。
「そう言えば、レファリオさんは私の妹たちと会うのは初めてでしたね。もうスピラとは挨拶を済ませたみたいですが一応、後ろの寡黙な美人さんがドミで、その手に繋がれてる元気な美人さんがスピラです」
──こいつはこいつで妹思いが過ぎてんなぁ……。
「ドミだ。よろしく頼む」
ドミも相変わらず短い挨拶だし、
「は、恥ずい紹介してんじゃねーよ!!」
スピラも頬を赤くしながらゼンを足蹴にしようとして、いつも通りドミの返り討ちにあって悲鳴を上げさせられている。
その様子に少し疲れた様子を見せるレファリオだったが、
「……僕はレファリオ・アルメヒスです」
なんとか無事に初対面の挨拶を終えることが出来たようだ。
「さて。挨拶も済んだ事ですし、次は互いの近況報告、と行きたいところですが、実はオチバさんとレファリオさんにお伝えしたいことがありまして」
最初に話の舵を切ったのはゼンだ。
俺とレファリオは取り敢えずその話に耳を傾ける。
「先程レファリオさんから回収した本の魔道具についてなのですが、こちらでメンテナンスした所どうやら強い衝撃を受けた影響で内部が大きく損傷してしまっているそうなんです」
──あー。やったわ、俺。
損傷の原因は、俺がティグルを殴打するのに使用した事で間違いないだろう。
「あれは……。うん、言い逃れ出来ねぇくらいには俺に責任があるわ。……もしかして何かお咎めがあるって話だったりする?」
俺は潔く罪を認めつつも、罰則に内心ビクビクするのだが、
「いえ、お咎めなんてありませんよ。所長のピアード博士はむしろ今後の研究課題を見つけることが出来たと喜んでいましたから」
「ま、マジ?」
「はい。この件については安心して大丈夫です」
どうやらピアード博士とやらは随分と懐の深い人のようだ。
──ん?けど今の言い方、ちょっと引っ掛るな……?まるで他に何か安心出来ない件があるような……。
気になる点はあるが、ゼンは俺に構わず話を続ける。
「話を戻しますが、私がお伝えしたかったのは魔道具の修理にはかなりの時間を要するので返却にも時間が掛かってしまうという事です」
「……それが僕に伝えたいこと、ということですね。なら僕は問題ありません。魔道具の返却についてはいつでも構わないです。元々あれに頼り切るつもりもないですし」
影魔法が使えるレファリオにとって、魔道具の有無はあまり重要な問題ではないのだろう。
レファリオはあっさりとゼンから伝えられた内容に納得してみせる。
「そう言って貰えるとありがたいです。次はオチバさんにお伝えしたいことなのですが、魔法研究機関所長のピアード博士がオチバさんと是非会ってみたいと希望してまして、どこかで都合つけられませんかね?」
続いて俺に求められたのは、さっきも少し聞いたピアード博士という人物が俺に会いたがっているという話だった。
──引っ掛かったのはこれか。
魔道具が損傷してるという話から、俺の過失をチャラにするという話に繋げ、最後に断り辛い状況を作った上での要望。
──そうなるとめちゃくちゃ怪しいんだよなぁ。
「……因みになんで俺に会いてぇの?」
「なんでも、ピアード博士はオチバさんの“魔力を持たない体質”に興味があるみたいですね」
「うわぁ……行きたくねぇ……」
俺がそうボヤくと、
「オチバっ!わたしはあんまりオススメしねーぞ!ピアードのおっさんはイカれてる!」
「……僕も用が無ければ会いたいタイプの人ではないてすね」
スピラとレファリオまでもがピアード博士とやらを酷評する。
──こりゃ、相当な人物みてぇだな。
流石に公爵令嬢の付き人に拷問じみた人体実験なんてしないと思いたいが、
──君子危うきに近寄らずって諺もあるしな……。ここは悪いけど……。
「ピアード博士は、会って頂けるなら魔道具を融通する準備はできている、と言っていましたよ?」
「絶対に会うぞ」
ゼンのその言葉を聞いた瞬間、俺はそう即答していた。
「えーと、私が言うのもなんですが、本当に良いんですか?」
「ああ。問題ねぇ。魔道具が貰えるなら迷うまでもねぇよ」
リーノから買った道具は勿論だが、レファリオから借りた魔道具も非常に魅力的な道具だった。
魔力のない俺が帝都での決闘で善戦出来たのも、数々の道具があったからこそだと言っても過言ではない。
この先に待ち受ける従者採用試験やセアリアス学園での事を考えれば、
──ここで強力な魔道具を手に入れられるってのは願ってもねぇ話だからな。
「分かりました。では日程はいつ頃にしますか?ピアード博士は、オチバさんに来ていただきたい、とのことでしたが」
「なら俺の方から行くよ。来週の休暇日は俺がリスティアお嬢様に付かなきゃいけねぇ日だから、再来週の休暇日でいいか?」
「問題ないでしょう。それではそう伝えさせて貰いますね」
とゼンがそう言った所で二階のバルコニーからロルフさんが姿を現した。
途端、中庭からざわめきが消え失せ、この場にいる全ての使用人、衛士、研究員たちが列を整える。
ロルフさんは中庭全体を睥睨し、綺麗に整列された状態を確認すると、バルコニーの奥から現れる人物に礼の姿勢を取って動かなくなる。
そして、当然バルコニーに登場したのはウルリーケ公爵とその娘のリスティアお嬢様であり、
「皆、待たせてしまってすまない。しかしよく集まってくれた。これより我が愛娘、リスティアの従者に関する重大な話をさせてもらう」
ウルリーケ公爵の穏やかながらも威厳を感じさせる深い声が中庭に響き渡るのだった。
読んで頂きありがとうございます。




