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よろしくお願いします。

『是非出来るものならやってみるといい』


 ルーマはその言葉通りに俺の次の動向を待つ構えのようだが、


 ──この状況でいったい何が出来るってんだよ!?


 唯一の攻撃手段であったレファリオが倒され、俺一人になってしまった以上、戦力に関してはほぼゼロになってしまったと言っても過言ではない。


 ──お、落ち着け。まだ考える時間はある……。ルーマが俺を警戒してる今しか考える時間はねぇんだ。


 ルーマが動かない本当の理由は俺の手持ちの道具を警戒しての事だろう。

 外套のお陰でルーマは俺の残りの手持ち道具の数を正確に把握出来ていないという訳だ。


 ──んで、その道具だけど……。


 俺は手持ちの道具を頭の中で整理する。


 ──“催涙風船爆弾”と“新品のナイフ”が一つずつ。


 “催涙風船爆弾”は今の所ルーマに一矢報いれる事の出来た実績のある武器だ。


 ──けど、あと一回しか使えねぇってのは心許(こころもと)ねぇな。それに一度見せちまったからさっきと同等の効果は見込めねぇ。


 “新品のナイフ”は、無いより有った方がマシ、という護身用で持ってきた武器だが、


 ──こんな事ならナイフより催涙風船爆弾を一つでも多く持ってくりゃよかったぜ……。んで後は……。


 レファリオから託された“本の形をした魔道具”と“レファリオの魔力小瓶”が四本。


 ──これが俺の全ての手札だ。


 “本の魔道具”は、この“魔力小瓶”と特定の触媒があれば俺でも使えるとレファリオは言っていた。


 ──けど、これも四回しか使えねぇってなると勝つのはマジで無理なんじゃねぇか……?


 手持ちのどの道具を見てもルーマの魔法を破るだけの威力はなく、出来て精々が時間稼ぎといったところだろう。


 その結論が出たことで、俺の中で一つの意思が固まった。


 ──どうせ勝てねぇなら最小限の怪我で決闘を乗り切る。レファリオには(わり)ぃけど、これが最優先だ……。


 現実的な作戦としては、リーノの近くで戦闘不能を(よそお)って決闘を強制的に終了してもらう事だろうか、などと考えていると。


「……ふむ。これだけ待っても動きがないとすると、やはり君はカウンター、或いは防御を得意とするようだねぇ」


「……っ!?」


 痺れを切らしたのか、ルーマの方から動きが見られた。


「そして、これまでの様子を見るに君は魔法を得意としていない」


 ルーマもただ待ち構えてる訳ではなく、俺の分析をしていたのだろう。

 その内容は的を得ている。


「つまり、君の戦闘スタイルは道具に頼るものであると見て間違いない。ならば単純明快な話だ──」


 そしてこの口振りは間違いなく、


「──私から動いて君に道具を全て使い切らせればいい」


 ──俺の対処法を思いついたって事だ……っ!!


 ルーマは悠然(ゆうぜん)とした足取りで徐々に俺との距離を詰めてくる。


「くっ……!?」


 それは、受け身のスタンスを保ちながら俺の攻め手を潰せる、実に合理的で効果的な作戦だ。


 こうなってしまえば、接近戦が不利な俺は(ただ)ちに道具を使わざるえなくなる。


「仕方ねぇっ!!」


「やはり動いたね」


 最後の催涙風船爆弾を取り出した俺は、それを俺とルーマの中間地点に向けて叩きつける。

 その衝撃で風船爆弾は破裂し、そのまま中の粉塵が宙を舞った。


「ふむ、それは最初の風船爆弾か」


 だが、俺が動くのを確認していたルーマはとっくに粉塵の射程外へと(のが)れている。


「さて、君があと何度それを使えるのか見ものだよ」


 これでルーマの接近を防ぐ事は出来たが、


 ──くそっ!!さっそく道具を一つ使わされちまった……っ!!


 残る道具はナイフと本の魔道具が一つ、そして魔力小瓶が四つ。


 ──それに恐らく直ぐにでも次の攻撃が……っ!!


 とルーマの攻撃を警戒して目で追うが、


 ──あ、あれ?攻撃して来ねぇ……だと?


 粉塵の幕の向こう側にいるルーマは、魔法の予備動作どころか、腕組みをしながら粉塵が落ちきるのを待っているように見える。


 ──いたぶって楽しんでる……?それとも慎重になってんのか……?


「……いや、だとしても誘引魔法を使わない理由にはならねぇ筈だ」


 反発魔法を使わない理由は分かる。

 粉塵がより飛び散ってしまうからだろう。


 だが、誘引魔法は“影魔法による人影”、“充満した煙”、そして“レファリオ本人”までもを引き寄せる事が出来た。


 つまり誘引魔法とは、


 “右手に生成した球体が全方位の魔法や物質を引き寄せる魔法”


 というのが俺の推測だ。


 そして、それが正しければ誘引魔法で粉塵を無力化するのは造作もないはずであり、


「それをしねぇって事は、粉塵は誘引魔法で引き寄せられないってことか……?」


 ──ならその違いは……?


 誘引魔法で引き寄せられる条件を考える中で、俺は“レファリオが誘引魔法で引き寄せられた時”の状況を思い返し、



「え?…………も、もしかしてそれが誘引魔法の弱点なのか?」



 ある可能性にたどり着く。


 ──もしそれが誘引魔法の弱点だってんなら……試してみるか。そんで後は反発魔法の対策だけど……。


 反発魔法の攻略は既に解明済みで、左手の正面に立たないこと、そして反発魔法が付与された対象に近づかないことだ。

 そしてもう一つ、反発魔法を手当たりしだいに使ってない事から“反発魔法で付与出来る対象は一つだけ”という可能性も高い。


 ──こればっかりはルーマの左手を常に注意して見るしかねぇな。


 光明が見えた俺は、さっそくレファリオから託された“本の魔道具”を開くが、


「これ、本じゃねぇじゃん……」


 “本の魔道具”が、実は本の形をしただけの魔道具だと気づく。


「一応、真ん中で見開きのページみたく開けるけど……」


 装丁(そうてい)から本に見えるが、実際は二つの長方形の箱の辺を閉じ合わせたもので、二つの長方形の箱がパカパカと本のように開くため本のように見えていた。


「けど、変なボタンとかねぇし、使い方がシンプルなのは助かる」


 ページに見えた左右の長方形の箱は、片方が魔力を装填(そうてん)する為の魔力箱で、もう片方は触媒(しょくばい)を入れる為の触媒箱となっていた。


 既に触媒箱には土が入っており、後は魔力箱の方にレファリオの魔力小瓶を装填するだけで土を操る魔法が使えるという事だろう。


「これで使えなかったらレファリオお前マジで許さねぇからな……っ!!」


 俺はレファリオの魔力小瓶を一つ魔力箱に装填し、先程のレファリオが土魔法を使ったポーズを真似して左手に魔道具を持ち、右手を地面にかざす。


 すると、


「お、おお!!」


 魔道具から左手を通して体全体へとゾワゾワする感覚が走り、右手をかざした地面がひび割れ、その割れ間から、


「これが、魔法!!……って、んん?」



 小さな砂や砂利が(ちゅう)に浮かび上がった。


「……マジかよ」


 どうやら、魔力小瓶一つで操れる土の大きさには限りがあるらしく、魔力箱に装填したレファリオの魔力が徐々に減っている様子も確認出来る。


 ──いや、試したい事に支障はねぇけど、ヘコむわ……。


 そして俺が魔道具の理解を深めたのとほぼ同時に、俺とルーマを隔てる粉塵の幕もあらかた無くなる。


「っと、時間切れか!」


 最早ルーマの足を止める方法は俺から動くしかない為、俺はさっそく今発動した土魔法で砂嵐を発生させた。


 ルーマは俺が動くのを見て動かそうとした足を止めるが、


「……何をするかと思えば、それはレファリオが持っていた魔道具のようだねぇ。それにまた目眩ましかい?」


 俺が砂嵐を発生させただけだと見切ったルーマは、落胆した声音で右手を差し出すと誘引魔法を発動させた。


 ──よし、やっぱり使いやがった……っ!!


 砂嵐はルーマの右手に出現した誘引魔法によって次々と吸い寄せられ無に帰すが、


「ん?今のは……」


 直後、俺が砂嵐に紛れて投擲したナイフがルーマから大きく離れた場所を通り抜けていく。


「私やティグル兄上を狙ったにしては狙いが()れ過ぎているねぇ。他に狙いがあるようにも思えないが……」


 ルーマはナイフの行方を目で追うが、やがてナイフは自然落下して静止する。


 ナイフに特別な仕掛けが無いのを見届けたルーマは俺が居た場所へと視線を戻し、


「……なるほど」


 俺から目を離している間に発生した“新たな砂嵐”と“いくつもの土壁”、そして俺の姿が見えなくなった状況から俺の作戦を推測する。


「君の目的は“私の注意を逸らし、隠れることだった”という訳だ」



 ◆◇◆



 ルーマの言う通り、ルーマがナイフに気を取られている隙を突いて、俺は砂嵐と土壁を生成した。


 ──つっても、数を優先したから土壁の強度は脆いし、厚さも薄皮一枚くらいしかねぇけどなっ!!…………くそっ!!どこだ!?


 下手をすれば、俺自身が生成した砂嵐によって今にも崩れてしまうだろう。


 ──だが、ルーマも俺を警戒するあまり、そんな脆い土壁でも迂闊に近づきたくねぇ筈だ。…………どこだ!?どこにある!?


 事実、ルーマは近づいてくる様子はなく、


「そうだ。一つ判明した事があるのだが。オチバ、君はもう風船爆弾を持っていないね?ナイフを投げたのがその証拠だ。他に投擲物(とうてきぶつ)が無いのだろう?」


 ──会話を引き出して俺の居場所に見当をつけようとしてやがる。当然無視すっけどな!!…………確かこの辺りだった筈だ!!


「しかし、そのナイフの使い道は無駄使いとしか言いようがないがねぇ。何故なら、私は君が道具を使う邪魔をするつもりがないのだから」


 ──いや、無駄じゃなかった。お陰で確信が持てた。…………あった!!見つけた!!後は……。


 俺は最後の魔力小瓶を魔道具に装填して時を待つ。


「ふむ、だんまりか。……なら良いことを教えよう。実は、私の魔法は込める魔力で強さが増すのだよ。今の会話はその暇潰しに過ぎなかっただけさ」


 ルーマは今までで一番強い誘引魔法を発動し、周囲の砂嵐をあっという間に消滅させ、いくつもある土壁も纏めて破壊する。


 しかし、


「……いない?…………いないだと!?」


 俺の姿が見つからず、ルーマはここに来て初めて大きな焦りを見せた。


「まさか!?」


 それはルーマが合理的な考えを持つ故に、瞬間的に俺の居場所に思い至ったからだ。


 ルーマは勢いよく背後を振り向いて知覚する。


 ルーマから数十メートル離れた位置にいる伏せた俺が、更に十メートルほど先の壁にもたれ掛かるティグルに向けて長銃を構える姿を。



 ◇◆◇



 ナイフを投げた目的の一つは、ルーマの視線を俺から外させることだった。


 そして砂嵐と土壁は確かにルーマの言う通り、ルーマから身を隠すための作戦だった。ただし、ブラフとして。


 本当の俺は遮蔽物のない砂嵐の中を這ってティグルの魔道具を探していたのだ。


 また、これは偶然だったが、ナイフを投げたことでルーマの顔の向きがティグルの方角を教えてくれた。


 だからこうして砂嵐の中でも俺はティグルの方に向けて長銃を構えられている。


 突如として大きな風が発生し、視界を遮る砂嵐が消え失せた。


 ──視界良好……!!


 俺の視界には、壁に背中を預けるティグルの姿が映る。距離はおおよそ十メートルほど。


「お、お前……!?いつの間に!?」


 視界が晴れたことでティグルと視線が合った。この状況ならルーマが俺を見つけるのに数秒もかからないだろう。


 魔力小瓶はいま装填してるもので最後であり、絶対に外せないという状況だ。


 俺は覚悟を決め、引き金を弾いた(・・・・・・・)



 ◇◆◇



「流石にそれを許す訳にはいかないねぇ!!」


 俺が長銃の引き金を弾くのと同時に、ルーマは右手の誘引魔法の出力を引き上げる。


「──っ!!」


 誘引魔法に引っ張られたせいで銃口が振れてしまった。

 放たれた魔力弾は軌道がずらされ、ティグルを(かわ)し、ほど近い地面に着弾してしまう。


 だが俺は、撃ち損じるのを確信した時には既に立ち上がり、ティグルへと突進していた。


「無駄だ!!オチバ、このまま君も引き寄せて終わりだよ!!」


 出力を上げた誘引魔法は、俺より遠くにいるティグルやレファリオをも引き寄せ始める。




 しかし、俺を引き寄せるような力などは存在しなかった。




「なっ……!?そんな馬鹿な!?何故引き寄せられない!?」


 要するに、俺は誘引魔法に引き寄せられていなかった。


 それを見たルーマはありえないものを見たような顔を浮かべている。


 ──誘引魔法は問題なく発動してるぜっ!!


 事実、俺より遠い場所のティグルは誘引魔法に引き寄せられ、俺に迫っている。


 ところで、最初に疑問に感じたのは、レファリオが誘引魔法で引き寄せられているのを思い返した時だった。


 あの時の俺はレファリオを掴んでいたから引っ張られていたが、俺自身はどこにも引っ張られる感覚はなかった。


 だから“誘引魔法が引き寄せない対象”の共通点を考えた時、すんなりとその答えが思い浮かんだ。


 俺がナイフを投げた一番の理由は、その確信を得るためだった。


 俺は、魔力を持たないナイフ(・・・・・・・・・・)が誘引魔法に引き寄せられるのか、を確認したかったのだ。


 ──どうやらドンピシャだったみてぇだな!!


 誘引魔法は、魔力を引き寄せる魔法だった。


 そしてこの世界の生物は魔力を持って生まれてくるのが当たり前とされている。


 ならば魔力を持たない俺という存在は、



 ──誘引魔法が唯一通じねぇ相手ってこった!!



 引っ張られて迫るティグルに向け、俺は長銃をバットのように振りかぶり、


「うおぉぉぉりゃあぁぁぁ!!!!」


 ティグルの腹部目掛けて振り抜いた。


 が、振り抜いた長銃は既のところでティグルの両手に掴まれる。


「痛てぇな……!!だが、お前のような甘い人間の考えは読みやすかったぞ……っ!!お前は頭を狙わず、他の場所を狙うとなっ!!これで私の勝──ぢぃっ!?」


 だから俺はすぐさま長銃を手放し、新しい武器に持ち替え、今度はティグルの頭に目掛けて、分厚い本のような魔道具を振り下ろしていた。


「うるせぇ!!せっかく一瞬で気絶させてやろうとしてやったのに手間取らせやがって!!早くお前を気絶させねぇと追いついたルーマに俺がボコボコにされちまうんだよ!!」


 最初の脳天による一撃で既にティグルは気絶していたが、俺にそれを確認するほどの余裕は無く、殴打は続く。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!?……やっぱり気絶してるわ……!!勝者、レファリオ・アルメヒス、そしてオチバ・イチジク!!」


 そして、急いで駆けつけた審判のリーノが決闘の勝者を宣言したことでようやく俺の殴打が止まった。


「か、勝った……?マジ……?」


 そのあまりにも壮絶な光景は、熱に浮かされていた観客たちの頭を冷やしたかに思えたが、



「「「うううぉぉぉぉぉおおお!!!!!」」」



 この日、俺の名前は帝都中に轟くことになった。






読んで頂きありがとうございます。




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