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よろしくお願いします。

 リーノ──審判による決闘開始の宣言で、


「では行かせて貰うとしようか」


 まず、ルーマが俺に向けて走り出してきた。


「って早速近付いてくんのかよ!?聞いてた話と違ぇぞ!?」


 レファリオから聞いた話では、ルーマの戦闘スタイルは武器や素手といった格闘戦ではないとの話だったが、


「それは少なくとも僕がアーディベル家に来る前までの話だと言った筈です……っ!」


 俺の抗議にレファリオはそう返す。


「だとしても初手で接近戦は予想外過ぎんだろ!?」


「とにかく、オチバさんは身を護るのに専念して下さい!!」


 レファリオはすぐさま俺とルーマの直線上に割り込み、携えた分厚い本を左手で開きながら右手を地面へとかざす。


 するとかざした右手の真下にある地面が割れていき、拳ほどの大きさのある土塊(どかい)がいくつも浮遊したかと思うと、


「土魔法……?」


 瞬間、迫るルーマに向かってレファリオの作り出した土塊が散弾の如く炸裂する。


「!?」


 それはルーマにとって予想外の一手だったのか、目を見張った表情を浮かべるものの回避は叶わず、ルーマは土塊の散弾に見舞われ吹き飛ばされる。


「今のはモロに入ったろ!!行けるんじゃねぇか!?」


 ルーマに先制攻撃を決めることが出来て浮足立ってしまうが、


「この程度の攻撃がルーマ姉上に効いてるとは到底思えません!気を緩めないでください!」


 レファリオはまだ足りないと言う。

 そして、レファリオの言う通り、


「……ふむ、少々驚かされたよ。今の土魔法、君の本来の魔法ではないね。汎用的な魔法にしては強い威力だったが、得意とするにしては弱すぎる」


 土塊の散弾を正面から貰ったにも関わらず、傷どころかローブに汚れ一つないルーマの姿がそこにあった。


「そう言えば、アーディベル家には魔法研究機関というのがあったね。そこが出処であると考えれば……その手に持つ本の力、という訳かな?」


 ルーマの指摘は正しい。

 レファリオが持つ本は、アーディベル家の魔法研究機関によって造られた魔道具だと聞いている。


 具体的な仕組みは分からないが、魔力を本に馴染ませ、本に馴染ませた魔力とその触媒となる特定の物質、この二つを用意する事で様々な魔法の再現が出来るとの事だ。


 ただし、


「おや?随分と汗をかいてるね。その魔道具、どうやら魔力の消耗は激しいようだ」


 ──効いてねぇ上に、燃費が(わり)ぃのも早々にバレちまったか……!?


 加えてあの魔道具の欠点は、複雑な魔法や大出力の魔法の再現は出来ない為、クラルテやリスティアお嬢様の魔法といった魔法の再現は不可能である事だ。


 早くも手の内が見透かされつつあるのだが、


「そう見えますか?僕だってこの一年で成長してますからね。そう見せ掛けているだけかもしれませんよ?」


 レファリオは強気の姿勢でルーマを挑発し、


「そうかい?なら、少し付き合ってあげよう。観客たちもあっさり決着がついてしまったらつまらないだろうし、何より──」


 その挑発に乗ることにしたルーマはレファリオが生み出した土塊を拾い上げ、


「──お返しをしなくては、ね!!」


 それを空中へ放り投げ、左手を前に突き出し、構える。


 ──これは……っ!!


「オチバさん!!こっちへ!!」


 ルーマの魔法の予備動作について事前にレファリオから教えて貰っていたのが役立ち、俺は素早くレファリオの側に駆け寄る。


 直後、空気が破裂したような音と共に、砕けた土塊が俺とレファリオに降り注いだ。


 間一髪でレファリオの魔道具による土壁が間に合い、直撃は免れたが、


「うおおおおおお!?何だあれ!?完全にお前のやってることの上位互換じゃねぇか!?」


「防いだことには変わりないでしょう!!互角みたいなものですよ!」


 レファリオの土塊とは威力が桁違いだった。

 降り注いだルーマの土塊はレファリオの土壁を粉砕し、俺とレファリオに大きなダメージはなかったものの、見てくれだけは既にボロボロだ。


「どこが互角だ!?同じ素材で盾が負けてんだぞ!?負け惜しみすんな!!」


「怪我をしてないんですから上出来じゃないですか!?そもそも魔道具でルーマ姉上の魔法と渡り合えるとは最初から思っていませんよ!!」


「ったく……んで、どうするよ?あの反発魔法(・・・・)ってやつ。あんなの正面から貰ったら確実に戦闘不能になるぞ」


 反発魔法(はんぱつまほう)というのはルーマが得意とする魔法であり、その発動の予備動作の情報と共にレファリオから知らされていた。


 反発魔法は物体に“反発させる性質”を付与する魔法らしく、一度対象に触れて、魔力を帯びさせなければならないとも聞いているが、


 ──考えてみりゃ、レファリオの土塊を防ぎきったのもその魔法だったって訳だ。


「!? オチバさん!上です!!」


 レファリオに指摘されて見上げると、ルーマは空高く跳躍しており、


「その魔法、応用力あり過ぎだろ!?」


 そしてルーマの眼前には先程と同じく土塊が放られ、何を狙っているのかは容易に予想出来る。


 ──流石にあれはヤべぇ!?こんなに早く使うなんて思ってなかったが……仕方ねぇ!!


「レファリオ!!あれ、投げんぞ!!」


「!! 分かりました!」


 俺は咄嗟の判断で昨日リーノから買い叩いた秘蔵の道具をルーマへと投げつける。


「……何を投げたか知らないけど、私の反発魔法のことはレファリオから聞いているんだろう?私には届かないさ」


 ルーマは構わず土塊の雨を降らそうと左手を俺たちに向け狙いを定めるが、タッチの差で俺の投げた投擲物と土塊が先に衝突し、


「なっ!?」


 次の瞬間、俺の投げた投擲物が破裂して、その中身が周囲へと拡散される。


「ぐぁっ!?なんだい!?これは!?」


 それは催涙効果のある粉塵を詰めた目眩ましの風船爆弾だ。本来は野生動物や魔物対策としての防犯グッズとしてカザン亭で販売されている道具であり、ルーマの視界を奪うには十分の威力を持っていた。


 受け身も取れずに落下したルーマだが、落下ダメージよりも目のダメージに苦しみ、のたうち回っている。


 ──や、やり過ぎたか……?


 あまりのルーマの苦しみ様に自分でやっておいて同情する気持ちが湧いてくるが、


「いや、んな心配してる場合じゃねぇ!!」


 上空から降り注ぐ粉塵はルーマだけでなく、俺やレファリオに対しても降りかかろうとしている。


 俺は急ぎ、目を護るため頭部にかけていたゴーグルを装着してレファリオに視線を走らせると、


「オチバさん、ありがとうございます」


 レファリオも俺の掛け声でローブを被って粉塵から目を守る事に成功していたようだ。


「これでルーマの奴は暫く動けねぇ筈だ!ティグルはお前に任せるぞ!!」


「ええ……!ティグルの相手は僕がします。オチバさんが戦闘不能になったら僕たちの負けですのでこの粉塵の中で隠れていてください!」


 短い会話ながらもしっかりと意思疎通を果たした俺たちは、次の方針と役割を再確認し、それぞれの役割を果たす為に動きだす。



 ◆◇◆



 レファリオがティグルのいた方面に向かって走り去ると、やがて粉塵の煙幕によってその姿が確認出来なくなった。


 ──さて、ここまでの流れは悪くねぇ。


 ルーマの強さには驚かされたが、流れは間違いなく俺たちにあった。


 ──当初はルーマとティグルの強さ次第じゃ降参するって手も考えちゃいたが、もうその心配はなさそうだな……。


 未だ粉塵による煙幕で目視による状況確認は出来ていないが、脅威であるルーマの悲鳴は粉塵の奥から聞こえ続け、戦闘に復帰するにはまだまだ時間が掛かると思われる。


 ──後はルーマが回復する前の、この一対一の状況でレファリオがティグルに勝ちさえすれば終わりって話だ。


 と考えている内にも粉塵の向こう側で銃声が聞こえてくる。


 ──始まったか!?


 この銃声は恐らくティグルの長銃によるものだろう。

 レファリオの安否が気になるところだが、こう何度も銃声が聞こえるということは、


 ──レファリオを仕留めきれてねぇってこった。


「頼むからこのまま勝ってくれ──」


 そうレファリオの勝利を祈ったその瞬間、


「──よ……!?」


 俺の頭上を、目で捉えきれない速さの何かが通り過ぎていく。


 そしてその何かが通り過ぎる衝撃によって粉塵による幕が取り払われると、


「おぉ、居た居た」


 長銃を俺に向けるティグルの姿と、その足元で倒れているレファリオの姿が視界に入った。


「こいつで(しま)いだ」


 直後、ティグルのそんな台詞と共に銃声が聞こえたかと思うと、


「がっ!?」


 腹部に尋常じゃない衝撃が走る。


 地面から足が離れ、体が浮き、上下左右の感覚が分からなくなる。


 気づけば、俺は地面に転がっていた。


「おい、審判。オチバ・イチジクはこれで戦闘不能だ」


 手応えを感じたティグルは審判のリーノに向かって決闘の終着の宣言を促そうとするが、


()ってぇぇええ!?」


 俺の叫びがティグルの声を遮る。


 ティグルの銃弾は俺の意識を刈り取れず、命中した腹部に衝撃痕(しょうげきこん)こそ残しているが、重症を負わせる程の結果には至っていなかった。


 これはリーノから買い叩いた外套やアーディベル家の使用人服の魔法に対する防御力の高さのお陰に他ならない。


 ──じ、実弾だったら絶対に怪我じゃ済まなかったぞ!?


 起き上がる俺を見たティグルは、


「なるほど、腹部を狙ったのは私なりの慈悲のつもりだったが……まぁいい。なら次は頭部を狙うだけの話だ」


 冷静にそう分析し、再び長銃を俺に向けると、


「……っ!?」


 突如、ティグルの目の前に黒い人影(・・・・)が出現し、ティグルの持つ長銃に掴みかかった。


「なんだこいつは!?」


 その“黒い人影”は文字通り人の形を取った黒い影そのものであり、目、鼻、口、耳といった部位すらもなく、黒いのっぺらぼうと言っていい。

 分かりやすく俺の世界のもので表現するならば、非常口や信号機、交通標識に描かれる棒人間が近い。


 そんな化物としか形容できない存在がティグルの正面に立ちはだかり、ティグルの動きを阻害する。


 そして、


「ティグル兄上、僕たちの勝ちです。降参してください」


 倒れていた筈のレファリオがティグルの背後を取ることに成功していた。



読んで頂きありがとうございます。


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