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よろしくお願いします。
「おま、お前!?え、は?俺?え、お前何言ってんの!?俺を危険な目に会わせる趣味でもあんのかよッ!?」
リーノの発言は俺の気を動転させるには十分な威力だった。
そして、リーノの考えに抗議を示す人物がもう一人。
「ルーマ姉上は勿論、ティグル兄上も貴族ですから戦闘に関しては侮れません。魔法を使えないオチバさんがいても足手まといになるだけですよ」
レファリオも俺をパートナーにする、という話はよく思っていない様子だ。
事実、俺の戦闘能力はレファリオの言う通り皆無である。
ところが、
「そうでもないんじゃないかしら?」
そこでリーノが俺も忘れかけていた事を口にする。
「かなり前の話になるけど。彼、わたしの一撃を間一髪で躱した事があるのよ。他にもわたしの同僚の魔法を足一つ動かさず避けたり、窮地の際にだってちゃんと動ける度胸もあったわ」
「はぁ?…………あっ」
一瞬、何の話かと呆気に取られてしまったが、遅れて思い出す。
──もしかして……初対面の時のこと言ってんのか!?いや!?あれはどう見ても偶然の産物だろ!?
だが、その遅れて気づいてしまった反応が、むしろリーノの話に信憑性を持たせる結果となってしまい。
「そんなまさか…………でも、中立であるリーノさんが僕に嘘を吐くとは考えにくい……。そうであれば……事実、ということに……分かりました」
レファリオの中でそれが事実であると完全に誤解されてしまった。
「だとすれば、確かに現状はオチバさんにパートナーとなって頂くのが勝率は高いのかもしれませんね…………オチバさん、すみませんでした。いまさら虫のいい話ですが、オチバさんがパートナーになって頂けると……助かります」
皮肉にもその誤解のお陰でレファリオからプラスの評価を受ける事となったが、
──全っ然、嬉しくねぇんだけど!?冷や汗が止まんねぇよ!?
最早、直ぐに誤解を解く訳にはいかないだろう。下手をすれば更に関係を悪化させてしまう恐れがある。
だから、
──レファリオの誤解を解くのは後だ。とにかく今は、“俺が決闘に参加する”って流れを何とかしねぇとッ!
「なぁ、そもそもこの決闘って俺にとっちゃ損しかねぇ話だよな?俺が決闘に参加するメリットもねぇし、決闘に負けたら命を差し出すのと同じ様なもんって話の筈だ。レファリオには悪いけど、俺が命を張ってまで決闘に参加する理由にはならねぇんじゃねぇか?」
我ながらそれなりの正論を取り繕えたと思
う。取り敢えず決闘には参加しないという意思を突きつける事は出来たが、
「リスティア様の付き人、君はオチバだったね。メリットの有無で参加を決断出来ると言うのなら、私から君にメリットの話をさせて頂こう」
決闘相手であるルーマからメリットの話を提示される。
「そうだな。まず、君がこの決闘に参加しないデメリットから説明しよう」
「参加しないデメリット?」
「ああ。君が決闘に参加しなければ、君はある日、偶然不幸な目に遭う確率が高くなる、かもしれない」
──何それ怖い。
「一般的にはそれを脅迫っつーんだけど……因みに理由を聞いてもいいか?」
「私は特別気にしていないのだが、君がレファリオを差し置いてリスティア様の付き人となってしまったのをティグル兄上を含む一部の者がアルメヒス家の名前に泥を塗った、と騒ぎ立てていてね」
「ルーマ、余計な事を言うな」
ルーマの話を止めようとするのはティグルだ。
だが、ルーマは臆した様子もなく饒舌に話を続ける。
「余計な事は言わないとも。彼を説得するのに必要な事を言うだけさ。ティグル兄上としても、彼が決闘に参加してくれた方が都合が良いだろう?」
「……勝手にしろ」
──ガチじゃん!?つーか、俺を逆恨みする奴らも文句言うなら俺じゃなくてリスティア御嬢様に言ってくれよっ!?
ティグルの反応は明らかにルーマの話を裏付けるものだ。
そして付き人の件でレファリオ以外にも知らない奴らから恨みを買っていたという事実に震え上がらざるをえない。
「さて、次はメリットについてだ。君がこの決闘に参加すれば、決闘の結果がどうであれ、彼らは騒ぐのを止め、君に不幸が訪れる可能性も限りなく低くなるだろう」
──決闘の結果がどうであれ?……あぁ、そういう事か。
「要は俺が決闘に参加して、お前らが勝てば逆恨みするそいつらの溜飲は下がるし、負ければレファリオがいたお陰って事で一応の納得はしてくれる、っつー話だな?」
「……君、理解が早いね?本当に平民かい?いや、流石はリスティア様の付き人と言ったところだね」
一見、ルーマの口振りを聞けば俺が決闘に参加するメリットがあるように思える。
「けど、結局俺が決闘に参加したって、俺を逆恨みするそいつらが“綺麗サッパリ逆恨みすんのを止める”って訳にはいかねぇんだろ?それならやっぱり俺が決闘に参加するメリットねぇようなもんだ」
“どっちにしても襲われる”という仮定が成り立つのなら、決闘を辞退した方が確実に一つの危険を避けられる。
「最低でも“決闘に参加するなら俺を襲わない”って保証がねぇと話になんねぇよ」
そんな迂闊な言葉を俺は発してしまっていた。
「うん、全く持って君の言う通りだ。なら、こういうのはどうだろう?君が決闘に参加するのなら、決闘後の君に対して決して危害を加えないと誓う、というのは」
──しまった!?
「勿論、ティグル兄上にも誓ってもらう。ティグル兄上もそれくらい構わないだろう?」
「……良いだろう。私も誓うとしよう」
そう言うやルーマとティグルは、格式張った口調で“俺が決闘に参加すれば報復はしない”という内容の誓いを立てて見せた。
「……優先すべきはルーマとレファリオの決着だ。そして、何れにしてもオチバ、お前には落し前をつけて貰う必要があった。この決闘でその清算が出来ると言うのなら話が早い」
誓いを終えたティグルがそう溢し、
「もう一つ、君の心配事を排除するとしよう。この決闘は、あくまで私とレファリオの決闘だ。だから互いの賭け皿にパートナーの命運まで賭ける必要はないと思うのだよ。違うかね?」
同じく誓いを終えたルーマがリーノに確認を取る。
「そうですね。決闘する両者が了承するのでしたら問題ありません」
その答えを聞いたルーマは、次にレファリオへと質問する。
「ふむ。レファリオ、君はティグル兄上の命運を賭け皿に乗せるつもりが今もあるかい?」
「……いえ、ルーマ姉上の言う通り、この決闘に他者の命運を賭ける事はないと思います」
「なら決まりだ。この決闘で私とレファリオのパートナーの命運は左右されない。さぁ、これでどうだろうかオチバ。最終的に決めるのは君だ。決闘に参加するか、いつ来るとも分からない報復に備えるか、選んでくれたまえ」
破格の条件ではある。
だが、口約束に過ぎないその“誓い”をどこまで信用して良いものか。
そこに疑問を抱いていると、
「オチバ、国にもよると思うけれど、貴族が誓いを自ら破るのは、その家の格を地に落とす行いに匹敵するはずよ」
リーノは俺の不安を見抜いたのか、貴族の“誓い”の重要性を説く。
そして、
「……そうですね。リーノさんの言う通りです。少なくとも、次期当主を目指すティグル兄上が誓いを破る、という心配はないでしょう」
レファリオもティグルの“誓い”は信用に値すると断言する。
──そういや四面楚歌だったわ……。
けど、この様子ならティグルとルーマが誓いを破る心配は本当にないのだろう。
そうであるのなら一考の価値はある。
いや、選択肢は一つしかなくなった。
「…………分かったよ。レファリオのパートナーになってやる」
──だってどう考えても奇襲される方が怖ぇじゃん。
ただでさえ従者採用試験や、クルエル教徒であるゲルトナーの件で頭を悩ませているというのに、加えて襲撃に脅える日常生活なんてまっぴら御免だ。
「話は纏まったな。決闘は明日、帝都の闘技場。時刻は決まり次第、後で出す遣いの者に知らせろ。ルーマ、行くぞ」
ティグルは、話は済んだとばかりに席を立つとルーマに声を掛け店を出ていき、
「はいはい。それじゃあ、二人ともまた明日。楽しみにしているよ」
ティグルに声を掛けられたルーマも、俺たちに一言告げるとカザン亭を後にする。
「……お二人とも、巻き込んでしまいすみません。ですが、僕も負けるわけにはいかないんです。…………決闘の準備をしなくてはいけませんので、これで失礼します」
◆◇◆
レファリオがカザン亭を去り、俺とリーノが残される。
俺も明日に備えて色々と準備しなくちゃならないのだが、その前にリーノに尋ねたい事があった。
「で? やけに決闘に拘ったり、首を突っ込む理由は何なんだよ?何かお前、おかしいぞ?」
リーノはティグルが言うように、どう見ても部外者だった。
それを無理やり俺を起点にしてアルメヒス家と関わりを持とうと画策していたが、決闘を提案してからのリーノの行動は不可解な点しか見受けられなかった。
特に、
「お前が決闘の審判をするに当たって“この店を賭ける”ってのも、“お前自身を賭ける”って話も有効のままだ。それじゃあ、結局この店もお前の命も、レファリオかルーマの自由って事になっちまうんだぞ?」
不可解な点、それはこの決闘において、リーノが審判を務めるメリットが全く見当たらない事だ。
「そうね。このままルーマさんが勝てばカザン亭は大損害間違いなし。わたしも珍しい竜人族の女だから、どんな目に遭うか想像もしたくないわね」
自身の行いが最悪の場合どんな結末を迎えてしまうのか、それはリーノも自覚出来ているようだ。
しかし、リーノは『でも』と続け、
「レファリオさんが、いえ、あなたが勝てば大きなリターンがあるのよ」
俺に微笑みを向ける。
「…………お前、何言ってんだ?」
理解が及ばないが、リーノのその台詞は途轍もなく嫌な予感を俺に抱かせる。
「簡単な話よ?レファリオさんは多分この店を手放すわ。だって彼は使用人としての人生を望んでいるから。なら、このカザン亭を譲る先として有力なのは、主人であるアーディベル公爵、もしくはレファリオさんのパートナーになったオチバ、あなたしかいないのよ」
「……それのどこが大きなリターンなんだよ?」
「まず、わたし自身がアーディベル家との繋がりが持てる。同時にその庇護下にも入ることになるわ」
つまりリーノの目的は、アルメヒス家との繋がりではなく、アーディベル家との繋がりだった、という事だろうか。
それにしては賭けの対象が大きすぎると思うが。
リーノの考えを推し量っていると、次のメリットが提示される。
「そして、あなた自身がこの店を手にした場合、もっと大きな繋がりが持てるわ。アーディベル公爵家に、勇者。それに冒険者たち」
「冒険者……?」
「あなた、ゼンさんや勇者と一緒にゴーレムを倒したでしょ?一攫千金の夢を叶えた冒険者って、モルテ=フィーレ国境沿いの冒険者たちの間じゃ割と有名人よ?」
「マジかよ」
「それだけじゃないわ。何故か分からないけど、最近あなたらしき人物像を崇拝するクルエル教徒たちが所々で目立ってるのよ」
「マジかよ!?……いや、それはデメリットだろ!?」
犯罪者が崇拝する店主の店なんて俺は絶対に行きたくない。
だが、そんな俺の突っ込みに対してリーノは巫山戯た様子もなく、真剣な顔つきで頷いた。
「ええ、普通ならデメリットになるわね。カザン亭オーナーのシャンスさんにも悪いと思ってるわ。でも、わたしにはその繋がりがどうしても必要なのよ。強力な勢力と一度に結び付くチャンスなんて早々ないわ。だから、わたしはあなたに賭ける事にした」
リーノは、他者の利益を度外視し、利用してでも叶えたい目的があるのだろう。
真っ直ぐ俺を見るその瞳から強い意思を感じる。
しかし、リーノの瞳に映る俺はまやかしだ。
「……俺に賭けてくれてるとこ悪ぃけど、マジで全部偶然だぞ?」
だから、俺も正直に真実を伝えるのだが、
「そう?表だけじゃなく、裏の繋がりまで持ってるなんて凄い偶然ね?……いえ、こんなの誰が見ても偶然なんかじゃないって分かるわよ」
リーノが信じてくれる気配はない。
それどころか、
「……腹を割って話さないと駄目って事ね。分かったわ」
もう別の誤解が生まれていた。
「以前は色々省略した自己紹介だったから、もう一度改めて名乗らせて貰うわ」
リーノは息を整え、最初に出会った時の様なファイティングポーズを取り、
「わたしは、龍国ドラゴネシア三大公爵家の一つ、プルプァ家のリーノ・プルプァ。わたしの目的は、わたしを裏切ったドラゴネシアを破滅に追いやる事よ」
──お前、それ国家転覆ってやつじゃん……。
俺は問題が山積みの中、またしても新しい問題を抱える事となってしまったのだった。
読んで頂きありがとうございます。




