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『人目を気にする話題になるだろう。上を使ってくれ。今いる客が捌けたら俺も行く』


 そんなノイギアの言葉により、俺とクラルテはノイギアが用意した軽食を食べて直ぐ二階の住居スペースにて待機していた。


「からかって悪かったよ。ちょっとした悪戯心だったって言ってるだろ?」

「全然悪く思ってないじゃん……全く」


 クラルテは拗ねた様子で目を合わせようとしない。


 なんだかんだ勇者と言えど、まだ中学生くらい年齢の子供だ。少し大人げなかったかもしれない。


「マジで悪かった。最近、ついてなくてさ。クラルテみたいな愉快な奴と会うのは久々で悪のりしちまったんだよ」


 本当に最近の巡り合わせは良くない。

 この世界に来てから遭遇した人々のことを思い浮かべてみるが、殆どいい記憶だと断言出来ないのがその証拠だ。


 すると、クラルテが不思議そうに俺を見つめる。


「ふーん? ボクと話してると楽しい? 特に面白い話してるつもりはないんだけどなぁ。……もしかして、まだからかってる?」


「違ぇって。ノイギアの言葉を借りる訳じゃねぇけどさ。なんだかんだで普通が一番いいんだよ」


 最初に出会ったのがクラルテじゃなかったのが悔やまれる。


 ──何より話してて疲れねぇ。


「クラルテと出会えたのは幸運だったよ」

「いや、それは言い過ぎだって! そんな風に言われたら流石のボクでも照れるからっ!」

「言い過ぎなもんかよ。俺が今まで出会ってきた奇人変人共のこと聞いたらきっとドン引きすんぞ?」


 クラルテはそれでも半信半疑な視線を向けるので、俺は今まで出くわした奇人変人どもの話を披露することにする。


 そして、暫くするとクラルテはお腹を抱えて笑いだすのだった。



 ◇◆◇



「あはははは! 流石に作り話でしょ? ボクを騙そうったってそうは……ぷくく……」

「嘘なもんかよ! 最近だってな? ……まぁ、いいか。そういうわけだから、お前と出会えたのはすげぇ幸運だって思ってんだよ」


 ひとしきり大笑いしたクラルテは、息を整えると打って変わって微笑みを浮かべる。


「出会えた幸運……。うん、それは分かるよ。ボクも師匠に出会えた事はすっごく幸運だったからね……。あっ! ボクの師匠の名前はクライシアって言ってね──」


 クラルテは嬉しそうに笑うと、今度は自分の番だと、数年前に勇者として旅をするいずれ師匠となる人に命を救ってもらったこと。訳あってその師匠と一緒に旅をした事。旅先で色んな出会いがあった事などを楽しそうに話してくれた。


「───つまりさ、ボクにとっての師匠の存在が、オチバにとっては、ボクだったってことなんだよね? それってスゴいよ!」

「すごい? うーん、そう……なのか? まぁ、クラルテは俺を助けてくれたみたいなもんだし、合ってる……のか?」

「──違うよ。凄いのはオチバのことだって。オチバが話してくれたその人たちにとってはさ?オチバと出会えた事は幸運だったんじゃない?」

「───ぇ?」


 クラルテの発した言葉に俺は思わず言葉を失ってしまった。



「だってその人たちは、普通の生き方が出来なくて、誰とも一緒に居られなくて、居場所がなくて困ってたんでしょ? でもオチバはそんな彼らと一緒にいた、居場所を作ってあげてた。それってすごいことじゃない?」



 そんな事は考えたこともなかった。


 あいつらにとっての俺は、“偶然見つけたお気に入りのおもちゃ”くらいのものだと思っていた。


「個性が強い彼らを、キミは普通に受け入れたんでしょ?」


 あいつらは俺のことを、“絡んでも問題ない奴”と舐めているとばかり思っていた。


「彼らに対して、キミは適当に接しなかったんでしょ?」


 あいつらが俺に興味を持つ理由なんてない、そう思っていた。


「誰もが自分の個性を否定してる中で、そんな特別……ううん、普通の反応されたら誰だって仲良くなりたいって思うのには十分な理由だよ」


 でもそれは俺の勘違いで、あいつらはそんな風に思ってたのだろうか?


「うわっ!? どうしたの!? ……もしかしてノイギアの料理に当たっちゃった?」


 この世界に一人で来て、俺は初めてあいつらと同じ気持ちを感じることが出来たのかもしれない。


「嘘ッ!? どうしよう!? ボクもたべちゃったよ!?」


 ──クラルテ、お前はすごい勇者だよ。


「なぁ、おい。こいつはいったいどういう惨状なのか説明してもらおうか?」


 客が捌けたのか、二階に上がったノイギアは俺たちを見て呆れた声を発する。


 どういう惨状なのかと聞かれれば、


「端的に言うなら……クラルテのせいか……?」

「えっ!? またボクのせい!? あっ! またボクをからかったね!?」

「はぁ……もう休憩はいいだろう。さっさと真面目な話に入ってくれ。店を閉めた意味がない」



 ◇◆◇



 改まって全員がテーブルに着くと、クラルテが疑問を口にする。


「えーと、本題の前にちょっと疑問に思っちゃったんだけどさ。どうしてノイギアさんもこの集まりに参加してるの?」

「おいおい、随分な言い草だな。お前らを繋いだのも、場所の提供も俺だってのに」

「ああっ!? いや! そうじゃなくて!? どっちもすごく助かってるから、そこはありがとうって気持ちで一杯なんだけど!」


 ここ数十分で、クラルテがテンパると使い物にならなくなることを察している俺は、助け船を出してやることにする。


「何でこんな物騒な事柄に首を突っ込むのか、ってことだよな。俺も気になるよ」


 ノイギアは、少なくともスクラヴェルバウムやクルエル教の協力者じゃない筈だ。


 けど、それはこの話に首を突っ込む理由にはならない。


 俺とクラルテは固唾を飲んでノイギアの次の言葉を見守ると、


「……身内の恥だから言うつもりは無かったんだがな。流石に説明しないと道理が通らんか」


 観念したのかノイギアはやれやれといった風に、その理由を語り始めた。


『さっきも少し言ったがな。身内にクルエル教徒が居たんだ。もともと、そいつはクルエル教徒なんかじゃなく、クルエル教の教えなんかとは縁がないような優しい性格の奴だったよ』



『そいつと俺は双子の兄弟で、子供の頃は互いに夢を語り合ったりしたもんだ。俺は店を持つんだ、そいつは勇者になるんだってな具合でな』



『だが、現実はそう綺麗なことばかりじゃない。騙されて借金作ったり、色んな所に頭を下げてチャンスを作って、それを逃して後悔してってな。まぁ色々苦労してるのは皆同じだって事だな』



『あいつも同じだった。勇者として認められるよう努力して、もがいて、魔王に負けた。それでも、不幸中の幸いで命があった。俺は兄弟の無事を喜んだよ』



『だがそこからだ。あいつがクルエル教徒とつるむ姿を見るようになったのは。奴らに何か唆されたんだろうよ。強くなるための努力が足りなかったのだと、会う度にぼやいていた』



『気づいたときには手遅れだった……違うな、俺はあいつを見捨てたんだ。たまに俺に会いに来てたのは、あいつなりの救援信号だったと今なら分かる。俺がちゃんとあいつに向き合えてれば気づけたことだったんだよ』



「とまぁ、昔話をさせてもらったが、結局そいつは消息を絶っちまって、クルエル教徒として今もどこかで人様に不幸を振り撒いてるってわけだ」

「そう……だったんだね。だからその人を改心させるために……」

「改心させる? そんつもりはないぞ?」

「……え?」

「あいつがクルエル教徒になったのは誰の責任でもなく、あいつ自身が選んだ道だ。俺がケチをつける筋合いはない。あいつのことを気に止めなかったことは後悔しているが、それは過去の話だ。あいつの今後について首を突っ込むつもりは一切ない。それで死んだとしてもそれはあいつ自身の責任だ」


 中々にヘビィな話をするものだから改心や復讐といった理由かと予想していただけに俺もクラルテも衝撃が大きい。


「な、なるほどな? じゃあ、何で今回は首を突っ込もうって思ったんだ?」

「自分が住む国を守る為に行動するのがそんなに変か? クルエル教徒が幅を効かせることで最終的に困るのは共和国民なんだ。俺の店のあるこの国は、俺にとっては第二の故郷みたいなもんだ。その国が危険な奴らに支配されるかもしれないって時に黙って見ているわけにもいかんだろう。客がいなきゃ店なんか開いても意味がないからな」

「えぇと……つまり、おじさんのツンデレってことか……」

「そっか! そうだよね。大切なお店、大事な人を守りたいって気持ちは当たり前だよ!」

「お前らが何か誤解してるのは分かった。だが、訂正するのも面倒だ。納得したなら次は俺の質問に答えてくれ」


 ノイギアは肩を竦めると、空気を一変させ、俺を鋭い眼光で睨み付ける。


「お前は何者で、何が目的なんだ?」


 そんな事を聞かれても困る。


 でも、


「何者かってのは一言で言えはしねぇけど、俺の名前はオチバ・イチジク。目的は、そうだな……取り敢えず今はクラルテの力になりたいって思ってるよ」

「え……!? またボク!?」


 こいつは、今までの俺の勘違いを解決してくれた恩人だ。


 ──お前の言葉を借りんなら、仲良くなりたい、力になりたいって思うのは当然だ。


 元の世界に戻ることや、俺をこの世界に呼んだ神に会うとか色々考えつくが、今はとにかくクラルテに恩返してやりたい。


 ノイギアは俺の真意を測るように、じっと俺を睨み続けていたが、やがて嘆息と共に目を伏せた。


「バーテンダーとしてこれでも人を見る目は養って来たがね。やはり俺にはお前が何か企んでいる人間には見えんな」


 だって、企んでねぇからな。


「となると風の噂で聞いた、物語の先導者だとでも思うことにしよう」

「物語の先導者? ボクは聞いたことないけど」

「どんな物語にもあるだろう? 物語の主人公が行き詰まった時、都合よく現れる魔法使いや神のしもべと言った存在だ。あれらは物語を円滑に進ませる為のただの仕掛けで、善悪がない。世の中にはそういう輩がいて、道を指し示す存在がいるんだという。まぁ、そういうおとぎ話みたいなものがあるのさ。眉唾物だがね」

「へぇ。それじゃあ差し詰め、俺は勇者の先導者ってことか」

「えー、なにそれー? 面白いけど、オチバはそんな存在じゃないよ。オチバにはオチバの生きてきた道があって、唐突に現れた道具なんかじゃない、そうでしょ?」


 ──ったく。こいつ、マジで天然たらしの才能があるよ。


「そうだな。俺は、ちゃんと今までの人生がある。ノイギアの言うような不思議な仕掛けじゃねぇな」

「あー……なんだ、そういうつもりじゃなかったんだが、すまなかったな」

「気にしてねぇから気にすんな。それより、互いの腹も見せあったし本題に入るとしようぜ」

「そうだな」


 こうして俺たちは次の話題へと移っていく。


(だが、オチバ。お前がやって来たのは、偶然にしては出来すぎてる。どんな事情があるのか知らんが、やはりこの小さな勇者を導くために現れたんだろう?)


 ノイギアがそんな勘違いをしてるとは露知らずに。


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