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よろしくお願いします。

 取引が成立するとリルドはまず長職の人達について話し始めた。


 長職と呼ばれる彼らは、当然ながら一年以上アーディベル家に仕えている忠臣たちであり、実力でその座を勝ち取った者達だ。


 彼らは俺の前に立ちはだかる壁の中でも取り分け大きな障害になるだろうと、心してリルドの話に耳を傾けたのだが、


「取り敢えず、ほとんどの長職は気を付けニャくても問題ニャい筈ニャ〜」


「筈って……いきなり不安な情報だなぁ」


「根拠はあるニャ〜。家令とメイド長は不参加を表明してるニャ。フォルカー衛士長は急に居ニャくニャったりしたら衛士全体の指揮系統が纏まらニャくニャるし、料理長のセイヴァリーは『公爵家の料理長』って立場を手放したくニャい筈ニャ」


 つまり、長職たちはそれぞれの役職とリスティア御嬢様の従者という役職を天秤にかける必要があるという訳だ。


『公爵家の使用人の長職』と『公爵令嬢の従者』、どちらの位が高いかと言えば、それは前者であるのは間違いない。


 立場を重視する人ならば、そう簡単に長職を手放してまで従者採用試験に参加することはないと考えられる。


「確かに理屈は通ってるな……ん?そうすると、ゲルトナーはどうなるんだ?」


 ゲルトナーはアーディベル家の庭師をしている青年だ。


 彼も毎朝使用人報告会に顔を出しているため、『庭師たちの長』と言っても過言ではない。

 仮に試験に参加するのならその役目を他に譲る事になるのだろうが、


 ──ゲルトナーがリスティア御嬢様の従者になりてぇだなんて話は聞いた事ねぇし、従者になったら庭を触る機会も減る筈だ。


 そう考えれば……。


「ゲルトナーがリスティア御嬢様の従者に立候補するメリットは薄い、か……?」


 俺なりにゲルトナーの行動を予測してみるが、


「確かにゲルトナーは従者にニャろうニャんて考えてニャいと思うニャ。でも俺はゲルトナーが試験に参加する可能性は高いと踏んでるニャ。その動機にも心当たりがあるニャ」


「動機?」


 ここでリルドから新たな情報が伝えられた。


「そうニャ。前に夢の話をしたのを覚えてるかニャ?思い出してほしいのはゲルトナーの語った夢ニャ」


 それは俺がリルドにアーディベル邸を案内され、その途中でゲルトナーと三人で雑談した時の事を言っているのだろう。


「覚えてるよ。子供への暴力が無くなる世界にしたいってやつだったよな?」


 だが、急になんでこんな話をするのか。


 ──いや、このタイミングで全く無関係の会話を繰り出すとも思えねぇ。


 意味があるのだろうと考えを巡らせてみると、


「…………あー、なるほど」


 俺もリルドの言っていた『心当たり』に思い当たる。


「気付いたかニャ?」


 ゲルトナーの夢は庭に関する事じゃなかった。


「ああ。ゲルトナーは今の庭師って立場に執着がねぇんだな?だから切っ掛けさえあれば従者採用試験に参加する可能性も十分にありえるっつー訳だ」


「そういう事ニャ。そしてその動機こそ、ゲルトナーの妹の存在ニャ」


「ゲルトナーには妹がいたのか。けど、それが動機って……?」


「ゲルトナーの妹はオチバもよく知ってる相手、メイドのティミだニャ」


「ティミって……え、あのティミか?」


「少ニャくともこの屋敷で働く使用人で、ティミって(ニャ)前は一人しかいニャいニャ」


「まじか……あの二人、兄妹だったのか。そんな素振り全然感じなかったぞ……」


 ティミはリスティア御嬢様の付きメイドだ。

 俺もリスティア御嬢様の名誉付き人という立場上、リスティア御嬢様と行動を共にする事は少なくなく、同じ付き人としてティミとはこの一月(ひとつき)の間で何度も行動を共にしてきた。


 その上でティミを語るなら、彼女は引っ込み思案に見えてリスティア御嬢様に関する事なら非常に頑固な一面を持つ女性だという事だ。


「けど、そうか。それならお前の言う通りゲルトナーが従者採用試験に参加する可能性は高くなるな」


 ティミは間違いなく従者採用試験に参加する。

 そして、ゲルトナーの性格なら妹を手助けする為に試験に参加するなんてのは十分に考えられる展開だ。


「すると、一番の難敵はゲルトナーになりそうだな……」


 ゲルトナーの能力について分析してみる。

 魔法の実力は定かではないが、庭師としての実力は公爵家の庭を見ればその高さが分かる。性格も温厚で体格も優れている事から従者としては申し分ない。


 しかし、実際に従者としての腕前はどうだろうか。

 彼の会話も行動も、その動きは非常にマイペースで、あまり対人に慣れているとは言えない所作だ。


 庭師としての実力なら兎も角、リスティア御嬢様を補佐する能力という点なら俺の方が優ってる自身がある。


 なんて高を括っていると、


「ゲルトナーが(ニャん)敵?ニャに言ってるニャ?最初に言った通り、長職の連中はほとんど眼中に入れニャくていいニャ。ゲルトナーは参加するかもしれニャいけども、恐らくティミのサポートに徹する筈ニャ。オチバが注意すべき相手は他にいるニャ」


 リルドから冷静な指摘が入った。


「ま、そう甘くはねぇよな……ならお前の見立てじゃ誰が一番厄介な相手になるんだ?」


「ずばり、レファリオだニャ」


 俺の問にリルドが逡巡(しゅんじゅん)することなく告げた名前は、先程の報告会でも一悶着あった少年使用人、レファリオだった。


「あいつかぁ……。俺あいつについてはまじで何も知らねぇんだよなぁ」


「ニャら、レファリオについて話すとするニャ」



 ◆◇◆



 アルメヒス家は代々アーディベル家に仕える男爵家であり、次男以下から優秀な子供をアーディベル家に仕えさせる風習があるという。


 アーディベル家に仕える今の家令はその風習によってアーディベル家に仕える事となり、その仕事ぶりを公爵に認められ家令にまでなった。


 そして当代のアルメヒス男爵の次男、レファリオ・アルメヒスもその風習に習い、アーディベル家に仕える事となる。


 レファリオはアルメヒス家の次男であるが故に、貴族でありながら幼い頃から使用人となるための教育が施されてきた。


 そのため、他の大人の使用人たちと比べて引けを取らない程の使用人としての技術を持ち、公爵からは年齢も近い事から娘の付き人にしたいという声まで掛けられ、自身が公爵令嬢の付き人となるのを信じて疑わなかったという。


 しかし、突如アーディベル邸に現れたどこの誰ともしれない平民により公爵令嬢の付き人の立場を取られてしまい、生家であるアルメヒス家からは平民に後れを取ったとして落胆されてしまったのだとか。


「貴族としての誇りも、使用人としての誇りも傷つけられたレファリオは、その原因である平民(オチバ)を好敵手に定めて、従者採用試験で名誉挽回を図る事にしたのニャ〜」


「くっそ迷惑なんだが!?つーか、お前はお前でよくそんな事情知ってたな!?」


「それは俺の魔法の秘密に関わるから教えられニャいニャ~」


「出たなッ……魔法……ッ!!」


「まぁ、実際オチバはかニャり怪しい(ニャ)り上がり方してるニャ。正直、オチバがクルエル教の誰だったかを捕まえたって噂があるお陰でみんな(ニャっ)得してる所があるニャ」


 ──えっ……まさかあの噂がこんな所で役に立ってたとは……。


「と、まぁレファリオについてはこんニャ感じニャ」


 纏めると、レファリオはアルメヒス家の中でも優秀な魔法を持っていて、使用人としての技術も()追随(ついずい)を許さない程の能力を持っており、


 ──挙げ句、俺に対して並々ならぬ執着を持っている、と。


「はぁ……レファリオが難敵だってのがよく分かったよ」


「オチバも使用人としては優秀だと思うニャ。でもレファリオと比べられたらかニャり劣ると思うニャ」


 聞く限りじゃ、俺がレファリオに使用人の能力で勝つ事はほぼ不可能ということだろう。


 ならば、


「俺は使用人としての能力を競う舞台で勝負しちゃ駄目だってこったな」


「どうやら戦い方が見えてきたみたいだニャ〜」


「ああ。今の俺がどれだけ使用人としての技術を向上させても、多分他の使用人共と比べりゃ負けちまう。だったらこの際、俺は護衛としての能力を示す場で他の奴らを圧倒するしかねぇ」


 ──その方法もまだ思いつかねぇって新たな問題が出てきたけどな……。


 しかし、その問題のヒントも直ぐに提示される。



「よく気付いたニャ。ニャらおまけで良いことを教えてあげるニャ。貴族はどんニャに弱小でもプライドが根底にあって、自分の魔法を心から信じてるものニャ。それによっぽど格上の相手でもニャい限り、事前に相手を入念に調べる、ニャんてのもしニャいニャ」



 ──なるほど。それは良いことを教えて貰った。


「さてさて、俺が教えられるのはこれくらいかニャ〜」


「え、他に注意しといた方がいい奴とかいねぇのかよ?」


「そんな心配いらニャいニャ〜。男性使用人で選ばれるとしたらレファリオしかいニャいニャ。だから実質オチバはレファリオを上回る事に集中すればいいんだニャ」


「……言ってる事は分からなくもねぇけど」


「あ、でもメイドでヤバそうニャのは確かにいるニャ〜。それもオチバのよく知る相手ニャ〜」


「……おい、それって」


「想像通りニャ。家令と互角に渡り合ったクラルテだニャ〜。使用人としての能力があんまり良くニャいみたいだけども、それを上回る戦闘能力が評価されてるみたいだニャ〜」


「あいつに勝てる奴なんて誰もいねぇんじゃねぇの……?」


「だから、オチバは大人しく打倒レファリオに専念するのが得策なんだニャ〜」


 なるほど、それは正論だ。


 こうして俺はリルドから試験に参加する相手の情報を仕入れると、今後の方針について頭を悩ませつつ、リスティア御嬢様の下へと向かうのだった。



 ◇◆◇



「わたしの従者を決める試験をするって聞いたわ。二人とも試験を必ず突破しなさい」


 リスティア御嬢様の部屋に辿り着いた所で、ティミを伴ったリスティア御嬢様が俺とティミに向かってそう命令した。


 おそらくは、早速ティミ辺りがリスティア御嬢様に従者採用試験が行われる事を伝えたのだろう。


「……え、えと!……が、頑張りますっ」


 ティミが頼りなさげな様子で答えるが、こう見えて付きメイドに選ばれるだけの実力者だ。全く侮れない。


「ええ!頑張りなさい!オチバ、あなたもよ!」


『俺だって簡単に採用されるもんならされてぇけど、それを公爵に頼むもんなら命を賭けなきゃならねぇ事になんだよ』


 なんて言うものならリスティア御嬢様の事だ、公爵に特攻しに行ってもおかしくない。軽口でもそんな台詞は控えた方が良いだろう。


「心配すんな。少なくとも試験の対策はもう始めてっから」


「し、心配なんてしてないわっ!ただ……万が一にもあなたが従者になれなかったら……その……あなたの目的(・・)にも関わるだろうし……わたしの将来にも……って!?何言わせるのよ!!」


「えぇ……」


 無難に安心してもらえる言葉を発したつもりだったが、リスティア御嬢様の反応を見るに予想以上に心配して貰えているらしい。


「と、とにかく!!あなたを名誉付き人に任命した意味が無くなっちゃうじゃない!!だから絶対に従者になりなさい!!あーもう!先生が来ちゃうから行くわよっ!!」


 リスティア御嬢様はまくし立てるように言い放つと、肩で風を切るようにして俺とティミを置いて歩き出す。


 言葉の節々のニュアンスにやはり違和感を覚えたが、リスティア御嬢様なりの思惑があるのだろう。


「っと、今はそれよりも情報収集だな」


 現状、俺が試験のライバルとして注意すべき相手はティミ、ゲルトナー、レファリオ、そしてクラルテだ。


 ──特にレファリオには注意しろって話だったけど。


 手始めにティミの能力について調べるため、リスティア御嬢様を追い掛けるティミへと接触を試みるのだった。


読んで頂きありがとうございます。

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