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宜しくお願いします。
それと誤字報告ありがとうございます。
「はぁ、参ったな……」
公爵と対話した翌日、俺は毎朝恒例の使用人報告会へ向かう支度をしながら『従者採用試験』というものについて考えを巡らせていた。
次代のロイライハ帝国皇帝を選定するために近い内に降臨するとされるライハ神。
そのライハ神と会うためにはセアリアス学園に行く必要があると分かり、何とかしてセアリアス学園に入り込む方法がないかと探していた所、思いがけず飛び込んできたのが公爵からの褒賞の話だった。
「これでセアリアス学園に行く手立ては得られたって思ったんだけど、そうそう上手くはいかねぇもんだな……」
しかし、いくら公爵と言えども他国の学園に容易に口出しが出来る立場ではないという事だろう。
公爵から出た提案は、俺が公爵の娘であるリスティア御嬢様の従者となってセアリアス学園に付いて行くことだった。
だが、大切な一人娘の従者に使えない人物や信頼出来ない人物を付ける訳にもいかない。
そこで公爵は近日中に実施されるリスティア御嬢様の従者を決める試験への参加資格を褒賞として俺に与えることにしたというのが昨日の話だ。
「参加資格が貰えたってことは、一定の信頼は得られてるって事には違いねぇけど……」
魔力を持たない俺が果たしてその試験を突破出来るのか、今はそれを考えるだけで気が滅入るのだった。
◆◇◆
「それでは、最後に私の方から連絡があります」
使用人寮の玄関ホールで開かれた報告会でいつもとそう変わらない定例報告を聞き終えると、最後にロルフさんがそう発言して注目を集めた。
「旦那様から、学園生活におけるリスティア御嬢様の従者を決めるようにとのお達しがありました。近日中にリスティア御嬢様の従者採用試験を実施する事を報告させて頂きます」
聞くところによると、従者採用試験自体は初の試みという訳ではなく、セアリアス学園に通う事が決まった子息や息女がいる年にはアーディベル家で毎回実施されていたらしい。
ロルフさんの発言に少し周囲がざわつくが、俺の二つ隣(リルドの隣)に立つ、俺やリルドと同じ使用人服を着た少年の言葉で場は静まり返る。
「……家令、宜しいでしょうか?」
「どうぞ、レファリオ殿」
ロルフさんにレファリオと呼ばれた少年は背丈が百六十程で、年齢は中学生くらい、十四、五歳ほどだろうか。
黒髪、翡翠色に輝く瞳、目の下には泣きぼくろ。色白の肌を持ち、綺麗な顔立ちをした少年だが、眉間に皺を寄せる癖があるのか常にムスっとした表情をしていて近寄りがたい雰囲気がある。
そんなレファリオとは、俺が使用人として従事してからというもの、全くと言っていいほど接点がない。
そのため、彼がどんな人物なのかというのも俺は何となくでしか把握出来ていなかった。
それと言うのも、
──どうにも向こうが俺を避けてる節があんだよな……。
魔力を持たず使用人としては大きな欠点を抱える上に、使用人となって直ぐにリスティア御嬢様の付き人になった俺は、それだけで他の使用人たちから不興を買いやすいと予想できた。
そこで俺は積極的に同僚たちの顔と名前、性格の把握に努め、出来るだけ良い関係を築けるように立ち回った。
その成果なのか、それともクラルテの流した俺の噂のお陰なのか分からないが、今のところ多くの使用人たちとは良好な関係が築けている。
その過程でレファリオにも話し掛ける機会があったのだが、毎度最低限の素っ気ない会話で打ち切られてしまい、その後も何度か見掛ける度に声を掛けようとしたのだが、明らかに俺を避けるようにしていたため、そのうち俺もレファリオに話し掛けるのを止めてしまっていた。
そのためレファリオがいったいどんな人間なのか俺はあまり知らず、彼が何を質問するのだろうと注視していると、
「ありがとうございます。僕はてっきりオチバさんが従者に選ばれると思っていたのですが、この従者採用試験は茶番、要するにリスティア御嬢様の付き人が決まった時のような不正はない、と解釈して宜しいのでしょうか?」
──おい、あのガキとんでもねぇ事言い出しやがったぞ。
レファリオから飛び出したのは、俺の不正を疑う発言だった。
前述の通り、俺はレファリオと殆ど接したことがないのだが、どうやら彼は俺を目の敵にしているらしい。
──聞く限りじゃ、俺がリスティア御嬢様の付き人になったのを根に持ってるっぽいな。
「レファリオ殿。まず、従者採用試験は主人を支えるのに最適な人材を従者とするための試験です。従者として相応しくなければ採用されることはありません。不正は誓ってありえません」
不正はあり得ないとロルフさんが答えると、
「それを聞いて安心しました。不正がないのでしたら僕が従者に採用される可能性もあるということですね……」
そうは言うがレファリオの眉間は皺を寄せたままであり、安心している表情とはとても思えない。
というより、彼の中では俺が不正したという事で結論が出ているのだろう。
彼が不満を抱えているのは一目瞭然だ。
ひょっとすると彼のように考える使用人は案外もっといるのかもしれない。
「ふむ。レファリオ殿のようにオチバ殿がリスティア御嬢様の付き人となった事に違和感を覚える者がまだ見えるようですな。では改めて伝えさせて頂きましょう。あなた達は勘違いしています」
「……勘違い、ですか?魔力のない使用人がリスティア御嬢様の付き人に選ばれる。家令、貴方はこれが実力によるものだと本当に仰られるのですか?」
「そうではありません。オチバ殿がリスティア御嬢様の付き人となったのは、リスティア御嬢様の御意志によるもの。付き人が優秀な人材であることに越したことはありませんが、それを決めるのは私たちではなく旦那様や奥方様、そしてリスティア御嬢様なのです。レファリオ殿はリスティア御嬢様が決めた事に何を持って不正と主張なさるおつもりですか?」
「……っ」
ロルフさんの鋭い指摘にレファリオはますます苦渋の表情を浮かべている。
「それにレファリオ殿はオチバ殿以上にリスティア御嬢様と話をする時間はあった筈です。確かに旦那様はレファリオ殿をリスティア御嬢様の付き人にと期待されておりました。しかし、その立場に胡座をかき、リスティア御嬢様の信頼を勝ち取る努力を怠ったのはあなた自身の問題でしょう」
レファリオからすれば、元々内定していた筈の付き人のポジションをぽっと出の俺に奪われたということになる。
レファリオが中学生くらいの年齢で、まだ精神が未成熟と考えれば、
──俺を恨む気持ちが先行しちまうってのも分からなくもねぇか。
「……家令の仰る通りです。オチバさん、大変失礼しました」
表情は変わらないが、自身の非を認めて謝罪をした所を見るに、間違った事が許せない根が真面目な奴なんだろう。
「いえ、気になさらないで下さい」
俺もレファリオの気持ちを汲んで謝罪を微笑んで受け入れたのだが、それをレファリオは自分を侮っていると感じたのか、俺をキッと睨み、しかし落ち着くように一度目を瞑ってから再び俺を視界に捉えると、
「……そういえば、オチバさんは使用人となってまだ一ヶ月でしたね。従者採用試験、これまで通りなら参加資格は一年以上使用人として従事した者だけが得られると聞いています。よく考えれば最初からオチバさんが従者採用試験に参加出来ないのは明白でしたのに不正を疑ったりして本当にすみませんでした」
舌の根も乾かぬ内に煽りだした。
──こいつガキ過ぎんだろ!?つーか、俺参加出来んだけど!?この状況どう答えりゃ円満に済むんだよ!?
俺が返答に困っているのを効いていると勘違いしたのか、レファリオは僅かに広角を上げるのだが、そこにロルフさんが注意を入れる。
「レファリオ殿。それは違います。オチバ殿は今回の従者採用試験に参加する資格を旦那様より頂戴しております。クラルテ殿も同様です」
「……ちょっと待ってください」
「待ちません。まさかとは思いますが、旦那様の決定を不正だと主張するわけではありませんでしょうな?」
今度こそレファリオは黙り込んでしまい、他に質問者がいないのを確認するとロルフさんは再び口を開く。
「さて、今お伝えした通り、今回の従者採用試験にはオチバ殿とクラルテ殿も参加資格を旦那様より与えられております。本来ならばアーディベル家にて一年以上従事した者のみが参加資格を得られるのですが、今回はリスティア御嬢様の成長を促した褒賞として特例で参加資格を与えられた事となります」
レファリオの方から、そんなの不正じゃないですか、と呟く声が聞こえる。
実際のところ、参加資格に関しては堂々と不正してるようなもので、従者を目指す動機もセアリアス学園に行くためという不純なものである。
──改めて突き詰めてみりゃ、俺めちゃくちゃ迷惑掛けてんな……。
レファリオが本来なるべき付き人というポジションを奪ってしまった罪悪感から、少し迷いが生まれるが、
「ですが」
そんな気持ちもロルフさんの次の言葉で一蹴される。
「何よりも優先すべきはリスティア御嬢様を支えることの出来る者が従者となることです。当然ながらオチバ殿にもクラルテ殿にも試験において特別な措置などは施されません。試験は公正に行われます。そしてどんなに志の高い使用人であろうとも、試験を突破出来ない者は従者として選ばれることはありません」
そうだった。そもそも俺は試験を突破出来るかどうかという点で躓いているのだ。
──まずは試験を突破する事に全力を注がなくっちゃな。引け目を感じるとしたらその後だ。
気合いを入れ直した所で、試験の話に集中する。
「それでは、試験について今現在お伝えできる範囲の情報を開示させて頂きます」
▼▼▼
「一、従者採用試験の参加資格は一年以上アーディベル家に従事した者が有す事とします。ただし、旦那様の許しを得た者は特例として参加を認めます」
「二、試験は使用人としての能力と主人を護るための能力を測らせて頂きます」
「三、具体的な試験日はまだ公開出来ませんが、今月中に参加希望者を募り、来月中に試験を実施させて頂きます。試験参加希望者は今月中に私かメナージュメイド長にその旨を報告して下さい」
「四、今回の従者は最大で四人まで採用し、その半数以上はリスティア御嬢様の生活補佐を考慮してメイドの中から採用します」
▲▲▲
ロルフさんは四つの情報をゆっくりと聞き取りやすい声で開示すると、改めて玄関ホールを見渡す。
「以上となります。ここにいない使用人達への連絡も各長職の方は宜しくお願いします。また、私とメナージュメイド長は屋敷の使用人を纏める役割があるので従者採用試験に参加しない事をお伝えしておきます。ですが、他の長職を持つ者に関しては今月中に引き継ぎを完了出来るのであれば参加を認める事とします」
こうして本日の使用人報告会は解散の流れとなったのだった。
◆◇◆
使用人報告会が解散して直ぐ、俺は参加資格を持つ使用人たちの情報を集めなければならなかった。
──くそっ!考えが浅はかすぎた!!何であんな簡単な事実に気付かなかった!?
俺がこんなに焦っている理由はというと、
──リスティア御嬢様の生活補佐を考えりゃ男性使用人の採用率が低いのは当たり前だ!!
最初から倍率は高いだろうと思ってはいたが、この事実だけで男性の採用がゼロになるという可能性に気付いてしまったのだ。
そうと気付いたなら、俺に出来るのは少しでも採用率を高めるために敵情視察するほかない。
他にも自分を高めるという手段も無くはないが、何て言ったって周りの奴等はどいつもこいつも魔法が使えるのだ。
──使用人としての能力はともかく、主人を護るための能力を測るってのはどう考えても荒事に違いねぇからな。
相手の弱点を探るのが俺にとって最大の攻撃であり、防御でもあるのだ。
「つー訳で、リルドは今回の従者採用試験どうすんだ?」
俺が最初に探ることにしたのは、猫人族であり、俺の先輩使用人でもあるリルドだ。
──まぁ、そういう意味じゃあクラルテ以外全員先輩だけどな。
「何が、つー訳ニャのかさっぱり分からんのだけど、俺はそもそも参加資格が無いから関係ニャい話ニャ~」
「相も変わらず『ニャ』が凄い数だな……それ演技なんだろ?疲れねぇ?」
「寧ろ慣れれば楽しくニャって来るニャ~。それより従者採用試験の話はどこ行ったんだニャ~」
「おっと、そうだったそうだった。てか、え?お前参加資格ねぇの?」
「最初に挨拶したときにも行った筈だニャ~。俺は見習い使用人みたいニャもんだってニャ~。俺はまだここに来て一年経ってニャいんだニャ~」
「あー、そうだったのか。まぁ俺としてはライバルが一人減って嬉しい結果みたいなもんか。よし、ありがとな。じゃ!」
「待て待て待って!?待つんだニャ!?」
「うおっ!?引っ張んなよ!?」
「あまりの雑ニャ扱いに流石の俺も驚きが隠せんかったニャ!!」
そうは言っても俺は限られた時間で敵情視察しなければならないのだ。あと数十分もすれば俺はリスティア御嬢様の部屋に迎えに行って今日のスケジュールに付き合わなければならず、無駄話をしている余裕はない。
「オチバ、これも前に言った気がするけど。俺とお前は似た者同士だニャ。だから、お前が敵情視察したいってのは何となく察したニャ。なら俺と取引するのが得策だと思うニャ~」
「取引?」
「こう見えて俺はそれなりに人付き合いが良いんだニャ~。つまり、この屋敷の使用人たちで一年以上働いてる奴も分かるし、警戒した方がいい奴も知ってるニャ~。俺に参加資格がなくてオチバは助かったニャ~」
なるほど、リルドから情報を貰えれば時間を無駄にしなくて済むのは確かだ。
従者採用試験の参加資格を持たないなら俺に嘘を吐く可能性は低く、試験があると明かされた直後のこのタイミングでリルドに話し掛けた人物は俺以外にいない。
つまり誰かと共謀して俺を嵌めるという心配も限りなく薄いと考えられる。
「それで?俺がそれを教えてくれって言ったらお前は何を要求すんだ?」
「話が早くて俺たちって本当に相性が良いニャ~。とっても簡単なお願いだニャ~。オチバが従者にニャってセアリアス学園に行ける事にニャったら届けて欲しい物があるってだけニャ~」
「学園に届け物か……危険物とかじゃねぇよな?」
「ニャハハ、そんな物騒な物じゃニャいから安心して欲しいニャ。なんなら、直前になって物騒な物だって思ったニャら断ってくれても構わニャいニャ」
そこまで言うという事は本当に物騒な代物って訳でもないんだろう。
気になるとしたら、
「届け物を頼むだけなら別に俺じゃなくても、従者が決まった後、そいつに頼むって手もあるんじゃねぇの?」
他にも郵便みたいなのがあればそれを利用すれば解決する話だ。
「そんニャの簡単ニャ話ニャ。対価のニャい頼みニャんて反故にされるのが普通だからニャ。その点、オチバは約束を反故にする奴じゃニャさそうだニャ」
何故か随分と信用されてるみたいだが、どのみち届け物を断る権利が俺にあるのならどうとでもなるだろう。
「……分かった。取引しよう」
「そう来ニャくっちゃだニャ~」
リルドは胡散臭い笑みを浮かべると、早速とばかりに参加資格を持つ使用人たちについての情報を俺に話始めるのだった。
読んで頂きありがとうございます。
つい先日、いいね機能が追加されたみたいですね。
良かった話には是非宜しくお願いします。今後の展開の参考にさせて頂きます。




