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遅れてしまい申し訳ございません。

大変お待たせ致しました。

よろしくお願いします。


●一部ばらつきがあった主人公からの呼び名を統一するように修正しました。話の内容に影響はありません。


・ウルリーケ公爵→ウルリーケ様、公爵

・シェリエル夫人→シェリエルさん、公爵夫人


「二人ともご苦労様。同じ敷地にいながら顔も合わせることが出来ずごめんなさいね」


 公爵に続いて俺たちに(ねぎら)いの言葉をかけたのは公爵夫人であるシェリエルさんだ。

 公爵夫人も公爵と同様、会うのは一月(ひとつき)ぶりになる。


 公爵夫人は元々体が弱く、リスティア御嬢様を産んでからというもの敷地内の療養所から滅多に出られない生活を送っているのだとか。


 だから以前俺が公爵夫人に招かれた時も、扉と扉を繋げる事の出来る希少な魔道具によって療養所にいる公爵夫人の部屋とアーディベル邸の部屋の扉を繋げていたらしい。

 この事は俺がリスティア御嬢様の名誉付き人となって程なくして教えられた事だ。

 恐らくこの部屋もその魔道具によって繋げられている療養所の一室なのだろう。


「察しているとは思いますが、今日貴方たちを呼んだのはリスティアの事についてです」


「君たちのお陰でリスティアが素直になったと聞いてな。よくやってくれた。心から感謝する」


 公爵夫妻の言葉からも何かお叱りを受けるって心配はなさそうだと安堵するも、次に公爵から伝えられた情報で僅かな緊張が走る。


「最近では帝都でもリスティアの噂で持ちきりでな。私を訪ねて来る者は必ずリスティアの話題を出すほどだ」


「………噂ですか?」


 俺の知る限りリスティア御嬢様は特別変なことはしていない。もし、根も葉もない噂で公爵が勘違いしてるのならしっかり訂正しようと意気込むが、


「はは、安心してくれ。良い噂だ。なんでもリスティアの教師として招いた方々(かたがた)が帝都のあちこちでリスティアを褒め称えて下さっているらしく、噂はそれに尾ひれがついたもののようだ」


 ──どうやら取り越し苦労で済んだみてぇだな。


「しかし、噂の中のリスティアがあまりにも夢物語の淑女のように囁かれていたのには驚かされた。曰く、その美貌は会った者全ての心を掴むのだとか。曰く、人並み外れた洞察力は優秀な能力の平民を取り立てただとか。曰く、慈愛と正義の心から悪人を魔法で成敗しただとか」


 ──尾ひれ付きすぎだろ。


「その噂の内容は喜ばしいが、付随してリスティアとの面会を求める声も増えてしまってな。一つ一つを断るのに苦労している。公爵家と繋がりを持つ絶好の機会であるため仕方のない事だと割り切るしかないがな。クラウディオ君とリスティアが許嫁(いいなずけ)であることを公表していなかったのが裏目に出てしまったよ」


 クラウディオという人物は、以前公爵夫人から聞き及んだ名前だ。

 アーディベル家と並ぶ有力貴族ドリス公爵家の長男で、リスティア御嬢様の許嫁。そして、アーディベル家が支援する皇帝候補者でもある。


 許嫁であることを公表していなかった理由は、素行の悪かったリスティア御嬢様と許嫁の関係であると公表してしまえば、クラウディオの皇帝候補者としての評判を落としてしまう可能性があったからだろう。


 そして、公爵は俺たちを呼びつけたその本題について触れる。


「前置きが長くなったが、私が知りたいのはリスティアの噂の真偽。そしてリスティアの素行が改善された経緯、オチバがリスティアの教育係として着任した最初の日についてだ。ロルフに尋ねても良かったが、やはりここはリスティアに直接影響を与えてくれたオチバとクラルテの口から是非聞きたいと思ったというわけだ。聞かせてくれるか?」


「……なるほど、そういうことでしたか。それくらいお安いご用です」


 ──………んな訳ねぇんだよ!?何だこれ?『お宅の御嬢様にいきなり命を狙われたんで、強い仲間を集めて御嬢様の精神をボコして、弱った所を言葉巧みに付け込みましたぁ~』ってな事を説明しなきゃならんの?そんな鋼の心なんて持ってねぇよ。無理に決まってんだろ。


 先ずは慎重に噂の真偽について説明して、教育係としてリスティア御嬢様と対面した日については脚色を加えて話そう等と考えていると、


「えっと……最初にリスティア御嬢様と会ったのはオチバだよね?確かロルフさんに連れられてリスティア御嬢様の部屋に行ったって。それでひどい目に遭ったんだよね?」


「お前っ!?クラルテ!?」


 正直者で恐れ知らずな勇者クラルテが、早速爆弾を放り投げる。


「……オチバ、それは本当か?」


 ──どうしたクラルテ?お前の一言で公爵も剣呑な雰囲気になってんぞ?


「えっ!?そ、そうですねぇ!?どうなんでしょう!?……い、言うほどひどい目になんて遭ってなかったような気もしますが……」


「えー!?オチバ忘れちゃったの!?いきなりリスティア御嬢様の魔法が顔の真横に飛んできたって僕に話してくれたじゃんっ!?」


 ──お前ひょっとして俺を追い詰めるゲームでもしてんの?周りよく見てみ?公爵はしかめっ面だし、公爵夫人も卒倒しかけてんよ?


「あぁ、とうとうリスティアが人に向けて魔法を……」


「ち、違いますよ!何を仰いますか奥方様!えーと、そうっ!?ほら!?私もクラルテも国外から長旅をして屋敷に来ましたでしょう!?どんな病原菌を持っているか分からないではありませんか!?リスティア御嬢様はいつも側に居てくれる付きメイドのティミの身を案じ、私が国外から持ち込んだかもしれない病原菌を魔力で殺菌してくれたのです!!」


「え、そ、それを本当にリスティアが?」


 公爵夫人は疑惑の目を向けてくるが、もう引き下がれない。


「ええ!!リスティア御嬢様は確かに私に向けて魔法を放ちました!ですが、ほらこの通りっ!!何処にも傷は御座いませんでしょう!?」


 何処にも傷がないことをアピールすると公爵夫人も落ち着いた様子を見せる。


「そう、ですね……全く驚かされました」


 ──あっっっぶねぇ!?自分で言った事だけど、魔力ってマジで便利な言い訳だな!?


「ふむ、リスティアが病原菌や殺菌といった知識を身に付けていたのには驚いたな。もしかすると薬学分野に興味があるのかもしれん。今度、薬学の先生も招待するのがいいかもな」


「そうね。リスティアが薬学に興味があるなんて私も知らなかったわ」


 目先の危機を回避できた代わりに些細な勘違いを生んでしまったかもしれないが、大事の前の小事だ。


 ──つーか、そんな事よりクラルテの暴挙についてだ。


 アーディベル夫妻が娘の秘められた才能に興奮してくれている間にクラルテを問い詰める。


(おいクラルテ!?お前、どういうつもりだ!?)


(どういうつもりって……だって公爵が知りたいって言ってるのにオチバが忘れちゃったみたいだから手助けしようと思って……)


 ──マジか、マジに悪気ゼロなのかっ!?


(それにしても公爵夫妻も大袈裟だよねっ?魔法の暴発くらいよくある事なのにっ!)


 この一月(ひとつき)の間、安定した生活に慣れてすっかり忘れていたが、


 ──こいつ(クラルテ)、そう言えば危険と隣り合わせの冒険をずっとしてたんだった!?危険の基準値が高すぎる!!


(……よし。お前の気持ちは十分伝わった。けどここは俺に任せてくれ。勇者として、俺を助けると思って静観していてほしい)


(う、うん……分かった。オチバがそう言うなら見守るけど、困ったらちゃんと僕に合図してねっ)


 ──うーん、不安!! けど、俺がしっかり話の主導権を握れれば問題ねぇ筈だ。


 絶対にクラルテに合図は送らないと心に決めてから、チラと公爵の傍らに控えるロルフさんの様子を窺う。

 ロルフさんは目を伏せたまま微動だにせず、先ほどの俺の説明に口を挟む様子も見られなかった。


 ──つまり、ロルフさんとしても公爵夫妻に不必要な気苦労をかけるのは本意じゃねぇって事だ。ロルフさんが黙認してくれるってんならやり易い。


 俺はこの機を逃してはならないと矢継ぎ早に話題を進めていく。


「それでですね。部屋に案内された私ですが、やはりリスティア御嬢様は聡明な方でした。私が公爵様よりリスティア御嬢様の教育係を承ったことを瞬時に理解すると、その役目に相応(ふさわ)しいかリスティア御嬢様自身で見極(みきわ)めんと私に試練を与えたのです。あの日何かと騒がしかったのはそれが原因なのです」


「私は朝早くから帝都に向けて出発していたから知らなかったが、そう言えば確かにオチバたちが来た日の翌日は騒ぎがあったという報告があったな」


「ええ、あの日は私もロルフにオチバを連れてきてもらって話をしたので覚えています。けれど、あの騒ぎはリスティアがまた何事か我が儘を言って使用人たちを困らせたと聞いていたのだけれど」


 ──くっ、ちっとばかし話に食い違いが出てきたか。おいクラルテ!『そうだったっけ?』みたいな顔すんな!!


 だが、あの騒ぎが公爵夫妻の耳にも入っていたのなら下手に隠さなかったのは正解だった。

 それに公爵夫妻があの騒ぎを知ってなお、リスティア御嬢様に何も処罰を下していないということは、そこまで大きな問題として報告されていなかったということでもある。


 ──ならこのまま突き進ませてもらう!!


「奥方様にはその様に報告がいっていたのですね。ですがそれも間違いではないと思われます。リスティア御嬢様が私に与えた試練は多くの使用人たちと衛士たちを巻き込みましたので、恐らくその事ではないかと」


「ふむ、それでリスティアはいったいどんな試練を?」


 公爵夫人に説明し終えると、次は公爵から質問が飛んで来る。


 ──どんな試練って、そりゃあ………。


「……追いかけっこ、ですね」


 ──ダサいってのは分かってんだよ!?けど咄嗟にそれっぽい名称が思い浮かばなかったんだからしょうがねぇだろ!!クラルテお前笑ってんじゃねぇ!?


「お、追いかけっこ……」


 流石の公爵もこれには困惑しているようだ。

 だが、俺は何食わぬ顔で話を続ける。


「はい。私が逃げる役で、捕まらずに私が教育係として相応しいとリスティア御嬢様に認めさせなければならない、という条件付きでしたが」


「……こうして私の目の前にリスティアの付き人としているからにはリスティアに認めさせることが出来たのだろうが、どうやって認めさせたのか気になるな。オチバは魔法が得意でも、武術に特別自信があるという訳でもないだろう?」


 俺が戦いに不向きなスペックであることは初日の時点で調べられているため、当然の疑問だ。


「考える中で最も現実的なのは、言葉巧みにリスティアを説得した、といったところか?」


「半分正解です」


 ──リスティア御嬢様が最初からちゃんと会話の出来る相手だったならあんなに苦労しなかっただろうな。


「捕まってしまうと不味いので、先ず最初にしたのはリスティア御嬢様の体力を削ることでした。その為に私はクラルテや魔法研究機関のゼンたちの力なんかも借りまして、するとリスティア御嬢様も使用人や衛士たちを動員して対抗してきました」


「それが先ほど言っていた騒ぎに繋がる訳か」


「はい。そうなれば後は互いに消耗戦となりますが、此方には勇者や魔法研究機関の面々といった一騎当千の猛者たちがいましたからね。戦況が不利だと理解したリスティア御嬢様は話し合いの場を設けるのに反対しませんでした」


 ──終盤が見えてきたな。後は口を挟まれないように捲し立てるのみ!!


「話し合いの場が用意出来れば此方のものです。リスティア御嬢様の心が荒れている原因を解き明かし、その原因を取り除く為の助力をお約束し、取り立てて頂く次第となりました。私はリスティア御嬢様の付き人ですので、約束の詳細につきましては公爵様と言えども私の方からお話しすることは出来ません。公爵様ご自身がリスティア御嬢様にお聞きになられると良いでしょう」


「ふむ、肝心のリスティアの素行が改善された理由については分からずじまいか。しかし、リスティアとの約束ならば仕方ないな。分かった。真相は私自身でリスティアに確認するとしよう」


 ──これで一難去ったってとこだな。つーか、何で俺だけこんなに焦んなきゃなんねぇんだ?


 隣に目を向けると欠伸を噛み殺している勇者がいる。


 ──欠 伸 す ん な ! ! ……違ぇ!?合図じゃねぇよ!?


 俺はこの無敵の勇者をいつかぎゃふんと言わせたいと強く心に誓い、


「……そう言えば魔法研究機関にスピラという子がおりまして、リスティア御嬢様のお気に入りみたいです。リスティア御嬢様の素行が改善されたのも彼女という友人が出来たからかもしれませんね」


 どうしても道連れが欲しくてスピラの名前を公爵夫妻に売ったのだった。


 ──さて次は噂の真偽についてだな。

読んで頂きありがとうございます。



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