42
今週も遅れてすみません。
よろしくお願いします。
先に動いたのは既に臨戦態勢のリスティア御嬢様だ。
リスティア御嬢様は掌の先に留まらせていた青白い火球をスピラに向けて飛ばし、それを瞳を深紅に輝かせたスピラが瞬時に回避する。
スピラは回避行動の勢いをそのまま加速に利用してリスティア御嬢様への接近を試みるが、
──青い炎ってことは、単純にさっきよりも熱い炎に過ぎねぇって勝手に思ってたが、それだけじゃねぇのかよ……ッ
青白い火球の大きさは、俺を追いかけ回してた時のバスケットボールほどの大きさの火球や暴走時に生み出してた気球ほどの大きさではなく、野球ボールやテニスボールのような掌サイズにまで小さくなっていた。
──〝小さく圧縮すれば威力が向上する〟ってのはよく聞くような話だ……だが、
「それは明らかにチート過ぎんだろッ!?いったいどんな理屈だッ!?」
リスティア御嬢様の放つ青白い火球は、初弾から間を置かずに連射され続けているのだ。
連射される火球はスピラがリスティア御嬢様に接近するのを阻み、近接戦を主体にするスピラは火球の回避に専念せざるをえない状況だ。
さらには連射の最中にもリスティア御嬢様の周囲には次弾となる青白い火球がいくつも生成され、休む間もなく連射が続いている。
「くそ……不満を言っても仕方ねぇか」
──幸いなことに、俺はどうやらリスティア御嬢様の攻撃対象にされてねぇ。だったら今のうちになんとか策を考えるのが賢明だ。
俺は改めてスピラとリスティア御嬢様の戦況を俯瞰的に観察してみる。
──スピラは、やっぱ攻め手に欠けてるな。
だが、回避にはまだ余裕がある。
スピラの魔眼は魔力の流れを見たり、自分の魔力を活性化させるという能力があった筈だ。
上手く立ち回れているのは魔眼による恩恵のお陰だろう。
──つまり、スピラの魔力切れがタイムリミットって訳だ。
対して、リスティア御嬢様の様子はというと、
──明らかに成長してやがるな……俺を追いかけ回していた時とは戦い方がまるで違う。
リスティア御嬢様は、火球を攻撃と防御の両方で活用していた。
スピラが近接主体の戦い方を得意とすると見抜いているのか、遠距離から火球でスピラを攻めつつ、火球でスピラの移動先を制限することでスピラの接近を許していない。
「けど、あれだけの火球の連射だ。魔力の消費は激しいに違いねぇ」
俺はリスティア御嬢様が火球の使いすぎで魔力を温存しようとしていたのを知っている。
「だから、リスティア御嬢様もこのままだと遠からず魔力切れになる……と思うんだが」
それにしてはリスティア御嬢様の連射する火球に躊躇がない。
──それに、いくらなんでもそろそろ魔力切れしてもおかしくねぇ頃合いなんじゃねぇか……?
リスティア御嬢様の放つ火球の数が、邸内でぶっぱなしていた時の火球の数を上回っている事くらいは
魔力や魔法に関しての知識がない俺でも気づいている。
それに連射している火球が邸内の時よりも威力が高いというなら、それだけ魔力の消費量だって大きくならなければおかしい。
俺の知らない魔法や魔力の法則があるからだとか、リスティア御嬢様が覚醒して超パワーを手に入れたからだ、なんて話なら本当にお手上げだ。
──だが、そんな事はありえねぇ。
もしそうなら、気球サイズの火球で逃げ場ごとまとめて攻撃するだけで決着は着く。
クラルテ製の短剣は壊れ、今のスピラにはその大きさの火球を防ぐ手立てはないからだ。
それをしないのは気まぐれか、万が一だがリスティア御嬢様が周囲を気遣っているからか、それとも出来ないからか、だが。
──恐らく、出来ねぇからだ。
どちらにせよ、リスティア御嬢様にとって戦いが長引くことのメリットは少なく、それなら最善手は短期決戦しかない。
──なのにそれを未だにそれをしねぇってのが、リスティア御嬢様が突如常識外の力を手に入れた訳じゃねぇって証拠だ。
だが、糸口になる〝魔力切れを起こさない理由〟が分からない。
あんなに火球を連射すりゃ、むしろ外した火球の数だけ魔力が無駄に消費されてるのは明らかだ。
「それでも魔力切れを起こさねぇってんなら、どこかに必ずカラクリがある筈だ」
どんなカラクリだ?
連射なら魔力切れを起こさないのか?
魔力が一つ一つの火球に分散されてる事に秘密がある?
「……分散?もしかして、そういう事か?」
俺はリスティア御嬢様の放つ青白い火球を目で追う。
放たれる火球はスピラへと真っ直ぐ飛び、スピラはそれを見切って回避する。
そして、避けられた火球は地面へと衝突して爆ぜる。
続いてスピラの回避先に射出された別の火球も、スピラは体を仰け反らせぎりぎり回避に成功させる。
この避けられた火球も地面に衝突すると爆発を見せた。
「おい、なんだよ……」
俺は地面に残る爆発痕を注視して絶句する。
「弱すぎるだろ……」
どうやら、俺たちはまんまとリスティア御嬢様に勘違いさせられていたようだ。
「スピラッ!!」
カラクリに気付いた俺は、今も火球からの回避を続けるスピラに声を投げ掛ける。
「何か分かったか!?こっちは回避すんのも結構しんどくなって来たとこだぞッ!!」
スピラのスタミナも人並み以上にあるとは言え、回避の連続と身体強化のための魔力消費で随分と疲労が蓄積しているのだろう。
──決め時は今しかねぇって訳だッ!
「ああ!石ころでも木の枝でも何でもいいッ!向かってくる火球にぶつけてみてくれ!!」
俺の指示にスピラは怪訝な表情を浮かべるが、それも一瞬の事で即座に八重歯を見せるような笑みに変える。
「任せろッ!!」
スピラは、襲い来る火球を走りながら回避し続けると、やがて回避の直後に転倒する。
それは致命的なタイムロスだった。
既に青白い火球が迫り、もはや避ける時間などない。
「ッと!!こうだなッ!!」
しかし、スピラは透かさず振り向き様に拾った衛士たちが扱う訓練用の剣を迫る火球に投擲する。
──あの連射される数々の火球を回避しながら周囲の地形、物の配置を覚えたってのか!?
そして、リスティア御嬢様の青白い火球とスピラの投擲した剣の衝突の結果を見て、スピラもリスティア御嬢様の仕掛けたカラクリに気付いたようだ。
衝突の末に、青白い火球が爆発し、剣は破壊もされずにただ弾かれるという結果に。
これがどんな意味を示しているのかは明白だ。
「……わたしの魔眼で見た限りじゃ、アンタの火球にはしっかり魔力が込められてたように見えてた。けど、それは魔法でそう見せかけてただけって事か。化かしやがって。随分と走らせてくれたじゃねーか」
「あら?あなたがこれをただの〝見掛けだけの魔法〟だって見抜けなかっただけでしょ?」
そう、あの青白い火球はただのハリボテだったのだ。
連射されていた青白い火球には殆ど殺傷能力がなく、リスティア御嬢様の魔法で見た目だけは威力のあるように見せかけてたというのが真相なのだろう。
──中身のない火球だったからこそ、あれだけの数の連射をしてもバテなかったって訳だ。
しかし、連射の秘密が暴かれて不利になった筈のリスティア御嬢様は、
「ふふっ、それよりもあなた、多少は動けるみたいだけど、それだけなのね。もっと有能なのかと思ってたわ」
落ち着いた様子を崩さない。
それどころか、
「あなた、とっても滑稽よ?」
「な……ッ!?」
スピラの敵愾心を煽る余裕を見せている。
「だってそうでしょう?オチバに『殺すなよ』なんて注意を受けておきながら、わたしに手傷どころか届きさえしないんだもの。あなた、もしかしてわたしより弱いんじゃないかしら?」
だが、それはあからさま過ぎるほど目に見えた挑発だ。
──こんな分かりやすい挑発………。
「あー、そういう目的だからそんな戦法だったのか。アンタ、意地が悪いな…………頭来た」
──そういやお前はやたらと〝強い〟とか〝弱い〟ってのに拘る奴だったなッ!?
スピラの視線はリスティア御嬢様に釘付けだ。隙あれば突っ込もうという気概を感じる程に。
「落ち着けスピラッ!あれはお前の冷静さを失わせようってリスティア御嬢様の作戦だ!」
俺の声はスピラの耳に届いているだろうが、やはり視線をリスティア御嬢様から外そうとしない。
「ふぅ……………そうだな。アンタの言うとおりだ」
だが、遅れて俺の注意が効いたのか、スピラは深い呼吸を入れると落ち着きを取り戻した様子を見せ、リスティア御嬢様から視線を外して俺を見る。
「……あれが挑発だってのは分かってる。でも、アイツがわざわざこんな戦い方してた理由が〝わたしに思い知らせるため〟って事なら、わたしは絶対に退きたくねーんだよ」
「お前に……思い知らせるため?」
リスティア御嬢様が、自身の方がスピラより強いのだとスピラに思い知らせたかった、という事だろうか。
それはつまり、
「……お前、やっぱ弱いって言われたこと気にしてんの?」
「は、はぁ!?ちげーよ!?どう見てもわたしの方が強えーだろうが!?こっちは手加減してんだぞ!?」
「そ、そうだよな!……じゃあ、リスティア御嬢様がお前に思い知らせたかった事って……?」
俺が検討違いの答えを出したせいではあるが、スピラが顔を赤くさせて激しい剣幕を見せたため、直ぐに話の軌道を修正すると、
「うっ!?そ、それは……」
激しい剣幕こそなくなったものの、スピラは煮え切らない態度を見せる。
「わ、わたしが気にしてんのは、その、えーと、なんだ…………アンタの期待に応えられてねーっていう、わたしの不甲斐なさにだよ…」
それを聞いて俺は思わず呆然としてしまった。
なぜなら、それと似た感情に俺は覚えがあるからだ。
珍しく、しおらしい態度のスピラは更に続ける。
「アイツは、わたしがアンタの期待に応えられてねーって、これからも応えられねーって思い知らせようとしてんだ」
──そもそもリスティア御嬢様はスピラを火球で倒すつもりはなく、心を折るために動いてたって訳か。
「だから、ここで退いたらアイツの言うとおり、アンタの期待に応えられなかったって事になっちまう。それは………嫌なんだよ」
──分かるぜ、その気持ち。なら俺に出来んのは、
「だったら、落ち着いていけよ。そうすりゃお前が負けることなんてねぇよ」
──信じて、期待して、送り出すだけだ。
「スピラ、期待してるぜ」
「──ッ!!ああ!今度こそ、任せろ!!」
スピラは気合いが入ってくれたのか、不敵な笑みを浮かべてリスティア御嬢様と向かい合う。
すると、必然的に思い通りにいかず、不機嫌になる人物が出てくる。
「あーーーーもう!!それよ!!それが嫌なのよ!!分かったわ!!わたし、そうやって無視されるのにイライラしてたのよ!!」
「ハッ、どうした?折角の澄まし顔が崩れてるぜ?」
「う、うるさいわ!!さっきまで泣きそうな顔してた癖に!!あなたに言われたくないわよ!!」
「はぁ!?泣きそうになんかなってねーし!?アンタ、目悪いのかよ!!」
──なんか、子供のケンカみたいになってねぇ?
「目は良いわよ!!あなたの様子を見て魔力切れが近いって事も分かってるもの!!」
「そうかよッ!じゃあ試してみるかッ!?」
「上等よッ!!」
それから二人は互いに近づき、両手を伸ばし、取っ組み合う。
──………スピラ、お前冷静なんだよな?
俺の不安に感付いたのか、スピラが俺に視線を寄越す。
その深紅の瞳にはリスティア御嬢様に対する侮りも、冷静さを欠いた焦燥感もない。
その瞳を見て俺はスピラの勝利を確信したのだった。
面白いと思っていただけたら、評価よろしくお願いします。




