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誤字報告助かります。

よろしくお願いします。


 俺とクラルテがアーディベル家で雇われる事が決まると、トントン拍子に俺たちが雇われの間に過ごすことになる使用人寮へと案内されることになった。


 使用人寮はアーディベル家本邸の裏手を進んだ奥まった場所に建てられており、上から見れば『コ』の字を形成する二階建ての建物になっている。


 中央の広場を通り抜けて正面のエントランス部分にたどり着くと、俺はロルフさんに連れられ男性寮に、クラルテは使用人寮にいた年配のメイドさんによって女性寮へと連れて行かれ、部屋を貸し与えられ一日を終えた。



 ◇◆◇



 翌日、俺は使用人寮のエントランスへと足を運んでいた。


 昨日部屋に案内してくれたロルフさんが去り際に教えてくれたことだが、アーディベル家で働く使用人たちは役職が細分化されているらしく、それぞれの役職で長が決まっているという。


 そしてその長たちは毎朝行われる報告会に参加する決まりがあるのだとか。


 報告会は、主に使用人たちの健康管理や仕事分担の確認、連絡事項の確認が目的で、今日はその報告会の場を借りて俺の紹介をするという話だ。


 そういう訳で今の俺は新品の使用人服に身を包んでいた。

 過度な装飾はないが、白を基調としたデザインは清潔な印象を与えてくれる。

 汚れれば目立ってしまうリスクがあるものの、それは何度でも買い換える事が出来るというアーディベル家の財力を示しているのか、それとも『我が家の使用人はそんなミスはしない』というアーディベル家の使用人の質の高さを他所に示しているのか。


「どっちにしろ汚すのが怖ぇな。高価なのは間違いねぇし」


 少なくとも俺とクラルテがノイギアにした借金なんて目じゃない額だろう。

 絶対に汚せねぇな、なんて考えながら歩いていると、いつの間にかエントランスに到着する。


 エントランスではロルフさんと昨日クラルテを案内した年配のメイドさんが綺麗な姿勢で静かに佇んでいた。

 二人の前には俺の先輩と思わしき使用人たちが男女で分かれて整列している。


 俺と同じ使用人服を着た男が二人。

 料理人服の男が一人。

 土いじり用の作業着と長靴を着用した非常に体格の大きな男が一人。

 アーディベル家の家紋の入った鎧を装備した男が一人。

 メイドが八人。


 この人たちがロルフさんの言っていた、細分化されたそれぞれの役職の長って人たちか。


 ざっと見たところ、これら十三人とロルフさん、年配のメイドさんを含めた十五人がこのエントランスに集まっていることになる。


 クラルテの姿がメイドたちの中に見えねぇけど、多分まだ起きれてねぇんだろうなぁ。


 とりあえず状況を把握した俺は、同じ使用人服の二名の隣に並んで他の使用人たち同様に時間が来るのを待つことにする。


 やがて、時間が来たのかロルフさんが口を開いた。


「それでは、報告会を始めましょう」


 報告会はロルフさんから聞いていた通り、使用人の体調確認から始まり、続いて使用人たちの本日の予定の確認が済むと、最後は連絡事項についての確認が始まり、ロルフさんが俺を呼ぶ。


「では、まず最初に私の方から連絡事項があります。オチバ殿、こちらへ。彼は昨日付けで旦那様よりリスティア御嬢様の教師として雇い入れられる事が決まりました」


 ロルフさんが俺のことについて言及すると、使用人たちの視線も俺に集中する。


「リスティア御嬢様の教師として雇われました、オチバ・イチジクです。皆さんよろしくお願いします」


 俺が自己紹介を終えると、ロルフさんが長たちの名前を呼んで自己紹介を促す。


「メナージュメイド長」


「アーディベル家のメイド長をしているメナージュです。役職通り、アーディベル家のメイドを統括しています。奥方様、御嬢様の身の回りの世話が私たちメイドの主な仕事となります」


 メナージュメイド長の印象は厳しそうな人、と言ったところか。おそらく怒らせたらめちゃくちゃ怖いタイプの人だ。


 アーディベル家のメイドはメナージュメイド長を含んだ九名で全員だそうだ。


「セイヴァリー料理長」


「料理長のセイヴァリーです。旦那様、奥方様、御嬢様の食事を担当させて貰ってます」


 続いてセイヴァリー料理長。

 かなりの自信家だ。公爵家に雇われる程の腕前とくればそうなるのは仕方ないのかもしれない。

 だが、他の使用人たちを見下している事は目を見れば分かる。

 こいつは何処かで考えを改めないと痛い目を見そうだな。


「ゲルトナー庭師」


「……ゲルトナーです。僕は……アーディベル家の庭園管理を……任されています」


 その次に紹介されたのはゲルトナー庭師だ。

 二メートル近くあるこの巨体なら庭で作業しているだけでも防犯効果がありそうだ。

 また、相手を気づかう動作が度々見受けられる。動きや口調がゆっくりなのは相手を驚かせない為だろう。

 そして、ゲルトナー庭師に向けられるメイドたちの視線の回数が多い事からもゲルトナー庭師が使用人たちからも慕われているのが分かる。


「最後にフォルカー衛士長」


「よっす、俺はアーディベル衛士隊衛士長のフォルカーだ。俺ら衛士隊の勤めは屋敷の警備及び領内の巡回だな。それと旦那様に奥方様、リスティア御嬢様が外出する際は、俺か俺が選んだ衛士が同行する手筈になってるんで、そん時は──」


「え、うわっ!?」


「──よろしくな!!」


 初対面でいきなり肩を組んでくるというバグった距離感で話してきたのは、アーディベル家の家紋が入った鎧を装備したフォルカー衛士長だ。


 裏表の無さそうな飄々とした雰囲気の人だが、それは警戒心を解くために意図的にした事なのか。

 一瞬で会話の距離を詰めてくる話術はフォルカー衛士長の素であったのか。

 真実次第で評価が一転するあたり、掴み所がない人物のようだ。


 さて、後は俺と同じ使用人服を着た二人……と思ったのだが、ロルフさんはフォルカー衛士長を最後にそれ以上の名前は呼ばず、他に連絡事項がないことを確認すると俺を残して各自解散の指示を出した。


 つまりあの使用人服を着た二人は、少なくとも今は俺が知る必要がないということなんだろう。


 メナージュメイド長、セイヴァリー料理人、ゲルトナー庭師、フォルカー衛士長……か。


 急に覚える名前が増えたが、この程度覚える事は難しくない。

 むしろ、まず間違いなく俺の経験上、この面子の中にヤバイ奴がいるに違いない。

 それを考えるだけで今から不安で胸がいっぱいだ。


 と、そんな未来の不安の前に、知らなければならない今の不安を尋ねることにする。


「あの、ロルフさん?クラルテが報告会にいなかったみたいですけど、何かありましたか?」


 すると、これまでポーカーフェイスを崩さなかったロルフさんが額に手を当てて、疲れた表情を見せる。


 おい、クラルテ何やったんだ?


「……あいつ何をやってしまったんですか?」


「それが、クラルテ殿はメナージュメイド長に任せたのですが、どうやら昨夜と今朝のクラルテ殿の様子を見てメナージュメイド長が顔を青くさせまして……」


 なるほど。クラルテは敬語に慣れてないし、ノイギアの家で生活してる間に気付いたけど、あいつあんまり身嗜みを整えたりする習慣もなかったからな。


「このままアーディベル家のメイドとして表に出すわけにはいかないと、メナージュメイド長直々にメイドの基礎教育をするという話になりまして……」


「それは本当にすみません……大変御世話になります……」



 ◇◆◇



「それでは、オチバ殿には昨夜旦那様より仰せつかった帝国の内情と依頼の詳細についての説明をさせていただきます。その後、オチバ殿には奥方様とリスティア御嬢様との顔合わせをしていただく予定となっております」


 俺とロルフさんはアーディベル家本邸の空き部屋へと場所を移していた。

 この部屋はアーディベル家の学習部屋や稽古部屋として代々利用されているらしく、いずれ俺が公爵令嬢と接する場所もここになると思われる。


「先ずは帝国が直面している帝位継承争いについての話をしたいと思っていますが、オチバ殿はどのくらい知っておられますかな?」


 俺はゼンから聞いた話を思い出す。


 帝国が皇帝を頂点とする君主制国家であること。


 皇帝が退位を決めると、選定公という役職者によって指名された皇帝候補者が次の皇帝となること。


 選定公は、ロイライハ帝国の成り立ちに携わった神であるロイ神とライハ神が代々交互に担っており、今回はライハ神が選定公を担う番だということ。


 ロイ神、ライハ神は皇帝候補者とその支持派閥の功績や罪過を見通す力を持っており、皇帝候補者とその支持派閥がロイライハ帝国に相応しくない存在であると判断されれば、最悪の場合は家の取り潰しも考えられること。


 そのため、皇帝候補者たちとそれぞれの支持派閥は、正々堂々と帝国の利益に繋がる功績を積み上げる競争を広げているということ。


 これらの事をロルフさんに伝え、最後にゼンたちのことについても付け加える。


「ゼンたちがゴーレムの核を求めていたのも、詰まるところアーディベル家の支持する皇帝候補者を支援するため、という事は聞いています」


 他には、公爵令嬢の性格が非常に苛烈で手を焼いていて、近い将来このままじゃアーディベル公爵家が原因で支持する皇帝候補者の評判に大きな影響が出るらしい、ってことも聞いているが。


 まさか仕える主人の娘の悪口を言うわけにもいかねぇしな。


「なるほど、皇帝候補者と選定公についての理解はおおよそ問題無さそうです。では、アーディベル家の支持する皇帝候補者、ドリス公爵家のクラウディオ様については御存じですか?」


「いえ、初めて聞きました」


 クラウディオ・ドリス。それがゼンたちやアーディベル家が支持する皇帝候補者の名前か。


「本来であればアーディベル家も皇帝候補者の名乗りを上げられれば良いのですが、皇帝候補者となるには幾つかの条件があるのです。その一つは男性であること。当代のアーディベル家は男児に恵まれない状況下での帝位継承争いとなってしまいました。そこで今度の帝位継承争いでは他家から擁立された皇帝候補者を支える形で帝位継承争いに参加することとなったのです」


 公爵ともなれば敵も多いだろうし、次代の皇帝によってはアーディベル家の立場が危うくなる可能性も低くないということだろう。


 そうなると、将来のアーディベル家やアーディベル領の領民を守るためにも次代皇帝との縁があるかどうかが重要になってくる。


 皇帝候補者に名乗り上げられないなら、帝位継承争いに首を突っ込んで、今の内に未来の皇帝との縁を結ぶのが狙いという訳だ。


「その皇帝候補者こそ、ドリス公爵家の長男であるクラウディオ・ドリス様なのです」


 ここまでの話なら、今のところ大きな問題はアーディベル家の世継ぎ問題くらいなもんだな。

 それに、アーディベル家の世継ぎ問題は帝位継承争いにあまり影響を与えなそうだ。


「そして、クラウディオ様はリスティア御嬢様の許嫁でもあるのです」


 やっと出たな、リスティア御嬢様。


「ですが、最近になってリスティア御嬢様の素行の悪さが問題視されるようになりまして、クラウディオ様との婚約関係にも疑問の声が出て来るようになったのです」


 これが有名な婚約破棄ってやつになるのか?

 つーか、結局リスティア御嬢様は一体何をやらかしたんだよ。


「では、そろそろ奥方様との面通りの時間となりますので、どうぞこちらへ。この続きは奥方様が話されるとのことです」


 勿体ぶったところで話は打ち切られ、続きは公爵夫人から聞くことになると告げられた俺は、公爵夫人が待っている場所へとロルフさんに案内されるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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