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よろしくお願いします。

 俺がやってきたこの世界では地球とは全然違う生態系の歴史がある。

 例えば、竜人だったり、獣人だったり、まだ見たことはないが魔物だったり色々だ。


 そして俺を乗せた馬車をひいているこの生物──魔馬は、魔力を操る事の出来る馬であり、魔物とはまた少し違ったカテゴリーに分類される生物らしい。


「それにしても、全然舗装されてる道じゃねぇのにこの魔馬ってのは乗り心地良くてビビるな……」


 魔馬は魔力を使って衝撃を吸収するようなことが出来るらしく、この魔馬は俺たちの乗り込んだ馬車もまとめて衝撃から守ってくれているという。


「この辺りの魔馬と言えば帝国産ですからね。貴族様の利用を想定して特別魔力の扱いが上手な魔馬を取り扱っているのでしょう」


 魔馬の手綱をひきながら後ろ向きにゼンが応じる。


「いいなぁ。ボクも魔馬で旅すれば良かったよっ」


 クラルテも魔馬による移動の心地よさを実感しているようだ。


 魔馬はミッドヴィルでゼン、ドミ、クラルテの三人のグループが確保に走ってくれていた。

 魔馬の気性は荒くはないが、何が起こるとも分からないためドミとクラルテの力仕事に強い二人、そして帝国の公爵家と繋がりのあるゼンがその役割分担だったのは当然と言える。


「ですが、魔馬は大きな財産ですからね。長旅となると常に魔馬を意識した道を選ばなければなりませんし、賊の目標になりかねませんから、それはそれで不便もあるというものです」


「うーん、そっかぁ」


「お、着いたみたいだぜ」


 馬車から身を乗り出して風を浴びていたスピラが、どうやら帝国の首都である帝都に到着した事を俺たちに知らせる。


「魔馬の旅もこうしてみるとあっという間だったなぁ」


「だねっ!」


 ミッドヴィルから帝国領内に入ったのは二日前だ。そしてそこからいくつかの村や街を経由したとは言え、更に二日で帝都に到着した事になる。


 四日の旅路と考えれば長いようで短いような気もする。歩きだったらと考えただけで萎える距離なのは間違いない。

 ノイギアへの届け物をリーノに任せ、ゼンたちと行動を共に出来たことは大正解だったと今なら断言出来る。


「なんだか、道行く人みんなこっち見てるね……」


「この魔馬が目立ってんのもあるけど、やっぱ割り込みしてっからかもしんねぇな」


 帝都に近づくに連れて、帝都への都入りを目的とした長蛇の列が見受けられるが、それを無視してゼンは魔馬を帝都に向けて進ませている。


「モルテ=フィーレ共和国と違い、帝国は階級社会ですから。帝都には多くの貴族も住んでますし、検問が厳重なのは仕方ありません。私たちだって公爵家の家紋が馬車に印されてなければこの列を並ばないといけませんでしたからね」


 そう、俺たちがこの都入りのための長蛇の列を並ばないで済んでいるのは、ゼンが公爵家の関係者であり、魔馬車にアーディベル公爵家の陣営を示す家紋が印されているお陰だ。


「助かるけど、あんまり良い目立ち方じゃねぇよなぁ」


「そろそろ衛兵たちによる検問がありますが、簡単な取り調べですので素直に応じてください」


 ゼンから忠告を貰うと、早速衛兵たちが検問のために俺たちに近づいてきた。


「アーディベル公爵家の方ですね?恐れ入りますが決まりですので中を改めさせて頂いてもよろしいでしょうか!」


「ええ、構いません」


 貴族が割り込むことは日常茶飯事なのだろう。

 衛兵たちは特別驚くような反応もなく、手慣れた様子で魔馬車の家紋を確認すると、御者であるゼンにも確認を取り、魔馬車の中身や俺たちの持ち物を素早く点検していく。


「御協力ありがとうございます!怪しいものはありませんでした!どうぞ、お通り下さい!」


「いえいえ」


 衛兵が取り調べが終わったことをゼンに伝えると、ゼンは軽く会釈して魔馬車を走らせた。


「随分あっさりと終わるもんなんだな……」


 この世界において出自の存在しない俺は、僅かながらも取り調べという状況を想像して緊張していたが、あまりにも直ぐに終わった取り調べに拍子抜けしていた。


 だが、俺のその言葉にドミ以外のみんなが顔を合わせる。


「まぁ、魔法で危険物がないか探られてたしな」


「帝国は魔法先進国ですから、一見目に見えなくともしっかりと取り調べされていましたよ」


「多分あの魔法を弾いたらもうちょっと捕まってたかもしれないよね?いきなり来たからボクうっかり弾いちゃう所だったよっ」


 反応を見れば分かる、つまりは。


「俺だけ気づいてなかったってことかよ!?」


「オチバはドミ姉と同じで魔力がねーから仕方ねーって」


「害のある魔法ではないので説明不足でしたね。すみません」


 スピラ、ゼンが俺をフォローしてくれるが、やはり魔力がないというのはこの世界で大きなハンデになることを実感する。


「安心しろ。私も最初の頃は気づけなかった」


 すると、俺と同じで魔力を持たないドミが相も変わらず腕を組ながら応答する。


「ん?最初ってことは今は魔力が分かるってことか?」


「ああ」


 口数こそ少ないが、同じ魔力を感じられない者として僅かながらも親近感を持つ俺としては気になる話だ。そんな方法があるなら是非とも知りたい。


「そんなに難しい事じゃない。相手が魔力を使おうとする動きの気配を読めばいいだけだ」


「……ありがとう。参考にならないってのがよく分かったよ」


 それが出来るのはドミの動体視力があってこそだろ。


「ですが、何はともあれ。ロイライハ帝国の心臓、帝都へようこそ」


 こうして、俺たちはロイライハ帝国の首都である帝都へと足を踏み入れたのだった。



 ◇◆◇



「それで?何が、帝都へようこそ、だよ」


 帝都に到着して直ぐに俺たちはそのまま帝都を発ち、隣のアーディベル公爵領へと進んでいた。


「ははは、まぁそう怒らないで下さい。帝都に寄る機会なんてアーディベル公爵領に居ればいくらでもありますから」


 と言うのも、そもそもゼンはアーディベル公爵家の手勢であり、拠点もアーディベル公爵領にあり、ゴーレムの核を届ける相手もアーディベル公爵領に滞在しているという状況だったわけで、止めに俺を呼び寄せた理由である(くだん)の悪役令嬢と思わしき人物もアーディベル公爵領にいるとなれば俺たちが帝都に留まる理由なんて存在しない。


「アーディベル公爵家当主であるウルリーケ様からも直接説明されることになると思いますが、念のため、改めてイチジクさん、フライハイトさんをアーディベル公爵家に招いた目的を説明──」


「分かってるよ。もう何度も聞いたって。俺とクラルテをアーディベル公爵家の御令嬢であるリスティア様の家庭教師として雇うようにゼンが当主様であるウルリーケ様に提案するって話だよな?」


「はい、概ね合ってます」


 期限は決まってないが、長くても選定公が次の皇帝を指名するまでの一ヶ月はロイライハ帝国に留まる事も聞いている。


「加えて、リスティア御嬢様が暴走しないようにする事も留めておいて下さいね。さて、もう到着しますよ」


 そう言われて間もなくアーディベル公爵家の門前に到着し、俺たち全員が魔馬車から降りる。


 アーディベル公爵家の屋敷は、事前にゼンから聞いていた通り清廉潔白な当主の人柄を彷彿とさせるような、シンプルかつ上品な意匠によって統一された格式の高い雰囲気を醸し出している。


「ようこそおいで下さいました御客様。(わたくし)、アーディベル家の家令を勤めておりますロルフ・アルメヒスと申します、どうぞお見知りおきを」


 アーディベル家の家令を名乗る老齢の男性が、恭しい態度で俺たちを出迎える。

 まさに執事といった貫禄のある佇まいで、きっちりと身だしなみを整えている姿からも真面目で礼儀正しい性格が伺えた。


「ロルフさん、こちらの方々はオチバ・イチジクさんとクラルテ・フライハイトさんです。任務先で出会い、私が是非アーディベル公爵へ紹介したいと熱望し連れて来た次第です」


「旦那様への紹介、と言いますとリスティア御嬢様の件ですか。承知しました」


 ロルフさんの自己紹介に続いてゼンが俺とクラルテを紹介する。ゼンとロルフさんの態度から互いに知らぬ仲という訳じゃなさそうだ。


 ロルフさんは控えている使用人を呼びつけると屋敷の中へと向かわせ、俺とクラルテに視線を合わせる。


「イチジク様、フライハイト様。只今、旦那様の予定を確認させておりますが、御嬢様の件ですので旦那様は直ぐにお通しすると思われます。旦那様の準備が出来次第向かわれますので客室の方でお待ち頂いてもよろしいでしょうか?」


(……おい、初対面で丁寧な挨拶してるぞ!?)


(お、オチバっ!?だからそれは今までが異常なだけだって何度も言ってるじゃんっ!?)


 あまりにも衝撃的な真面目な対応に思わず小声でクラルテに突っ込んでしまったが、せっかくの常識人とのファーストコンタクトを無下にするわけにはいかないと俺が代表してロルフさんに返事をする。


「御紹介預かりました、オチバ・イチジクです。はい、客室の方で待機させて貰いますね」


(うぇっ!?誰っ!?)


 俺が普段しない礼儀正しい言葉づかいにクラルテは驚いているようだ。


 そうか、この世界じゃ高級な物を扱う商人や貴族、聖職者でもなけりゃ日常的に丁寧語を身近に感じないもんな。普段の俺しか知らないクラルテは驚きもするか。


「……なるほど。ゼン殿はなかなかの掘り出し物を見つけたようですね」


 ロルフさんも、まさか貴族や聖職者の格好に見えない俺の言葉づかいに多少は驚いたらしく、そのポーカーフェイスを一瞬だけ崩し、何やら好印象を思わせる言葉を呟いた。


 元の世界で培った、なんてことのない処世術に過ぎないが、何やらまた勘違いされたような気がしなくもない。


 だが、何を勘違いしてるのかも分からないため、否定のしようがなく、俺は冷や汗をかく事しか出来ない。


「では、そのように。ゼン殿も御二人を紹介する責任者として同席をお願いしてもよろしいですかな?」


「分かりました」


 すると、先ほど屋敷へと向かった使用人が戻ってきてロルフさんに耳打ちする。


「……旦那様は直ぐにでも会談の準備をなさると仰っておられます。イチジク様、フライハイト様、そしてゼン殿はどうぞこちらへ」


 ロルフさんが屋敷に向かって歩いていくと、ゼンは振り向いてドミとスピラに指示を出す。


「ドミとスピラは魔馬車で先に研究棟に向かってスピラの怪我を見てもらって下さい。こちらの用がすんだらそちらに行きますのでそれまで待機でお願いしますね」


「ああ、分かった」


「それじゃ、オチバもまた後でなー」


 研究棟というのは、おそらくゼンたちが所属するというアーディベル公爵家の研究機関の本拠地だろう。

 ドミとスピラは魔馬車に乗り込み、ドミが手綱を握ると魔馬車は去っていった。


「それではロルフさんに付いていきましょう」


 こうして俺は初めて貴族と対面することになるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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