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久しぶりに早く投稿出来ました。

よろしくお願いします。

 

 ゼンの頼みとは、俺とクラルテに公爵令嬢の性格矯正計画に加担して欲しいというものだった。


 俺としてもロイライハ帝国に選定公としてやって来るというライハ神の話をゼンから聞いて、俺をこの世界に呼んだ神を知れるかもしれないチャンスを見過ごす手はない。


 クラルテも(くだん)の公爵令嬢が魔王因子に関与してる可能性もあるとロイライハ帝国に行くことには賛成のようで、ゼンの頼みを引き受ける次第となった。


 が、ここに来てクラルテが重要な事を思い出させてくれる。


「えーと、ロイライハ帝国に行く前に済ませたい用事があるんだけど……出発っていつ?」


「用事……あー、ノイギアから借りた金を返さないとな」


「急ぎの用があるのでしたら、こちらは後回しでも構いませんよ?ただ、スピラの怪我を出来るだけ早く帝国の研究機関で見てもらいたいのでそう長くは居られませんが……」


 スピラの腕の怪我は簡易的にだがミッドヴィルの治療院で見てもらい処方されている。

 しかし、スピラを含めたゼン、ドミの身体は帝国の研究機関によって調整された特別な身体らしく、あまり帝国外部にその情報を漏らしたくないのだそうだ。


「帝国に向かう旅支度もありますし、二日ほどでどうでしょうか?」


 モルテ=フィーレからミッドヴィルまで片道二日だったから時間が足りないとか、ミッドヴィルに今朝到着したばかりだぞとか、大きな戦闘の直後だろ、などと俺がゼンたちの曲がりなりにも冒険者を名乗るに相応しいその体力に驚愕していると、クラルテが問題ないと返事を返す。


「それじゃあ、二日後にここで集合だねっ!そうと決まったらオチバっ、急ぐよっ!」


 そそくさと集合時間を決めたクラルテは椅子から立ち上がり、俺の手を引いて歩きだす。


「え!?おいッ!?」


 クラルテに力で勝てない俺は抵抗するのも諦める。


「ったく、じゃあ二日後に!」


 引きずられてる状態で様にならないが、ゼンたちに挨拶を済ませるとクラルテに行き先を問う。


「で?ミッドヴィルからモルテ=フィーレまで二日だぞ?往復で四日だ。急いだって往復二日に出来ねぇと思うけど、何処に行くんだ?」


「そんなのすぐそこだよ。今はこれだけお金があるんだから有効活用しないとねっ!」



 ◇◆◇



 今、俺とクラルテの目の前には人の川、いや波が押し寄せて来ている。


 原因はクラルテがギルドに発注した依頼だ。



『"配達依頼"

 依頼人:勇者クラルテ・フライハイト

 場所:モルテ=フィーレ共和国

 報酬:二万フィロ

 備考:"ノイギアの店"の店主であるノイギアに配達物を届けること。受注希望者が複数いるなら面談で決めます』



 元々俺とクラルテが金を必要としてたのは、ノイギアから借りたパーティ用のスーツやドレス代の返済のため、そしてこれからの旅に必要な物を揃える支度金のためだった。


 だからクラルテから出た、時間がないならギルドで依頼すればいい、という案は中々に合理的で俺も感心していた。


「けど、人が多すぎんだろ……」


「ちょーっと、ボクも想定外だったかなぁって思ってるところ……」


 クラルテは直ぐにでも依頼請負人が出てくれるように配達依頼にしては破格の報酬での依頼を発注したところ、当然のように受注を希望する人が俺たちの元に押し寄せてくる事態となったのだ。


 最初は、我関せずといった様子のギルド職員たちだったが、人が増えるに連れて大きくなる野次や怒号で流石に動かざるを得なくなったらしく俺とクラルテによる面談希望者の列を整理してくれている。


 依頼を発注した手前、多少は申し訳ない気持ちもあるが、クラルテが依頼を発注する段階でギルド職員はこの依頼内容がこのような結果になることが予想できなかったのだろうか。

 そう考えると俺たちばかりが悪いわけでもないような気もする。


 そんな現実逃避に浸っている俺をがなり声が現実に引き戻す。


「おいコラ、俺様がその依頼やってやるっつってんだからそれで決まりだろぉーが!」


 決まりじゃねぇよ。


「俺様も暇じゃねぇーんだわ!もう依頼受注は早い者勝ちでいいだろぉーが!」


 お前みたいな奴に依頼を任せたくねぇからこその面談なんだよ。


 面談が始まってから暫く経つが、面談にやって来る奴等が(ことごと)く信用ならない風貌、言動で、一向に依頼を任せられる人物が見つかっていなかった。


 挙げ句、目の前の人相の悪い若い男は俺に向かってメンチを切り出し始めている。


 なんなの?やっぱりこの世界って罵倒が挨拶なわけか?


「お、落ち着いてオチバっ! それとキミは暇じゃないならわざわざボクらの依頼なんて受注しなくていいからっ!」


「う……ッ!うすッ!!」


 人相の悪い男は、クラルテにいくらか声を掛けられると満足気な様子で去っていく。


「マジでなにしに来たんだよ……」


「あわよくば勇者様に声を掛けて貰える絶好の機会ですからね」


 横から口を挟んだのは面談の列を整理していたギルド職員の女性だ。


「あなたに対して態度が大きいのも、風体があまり強そうではないあなたが勇者様と行動を共にしている事に不満があるからでは?」


「……なるほど」


 モルテ=フィーレでは強さに頓着しない一般人が多かったから絡まれることはなかった。


 だが、ミッドヴィルは外国との国境線であり、魔物の出現率が首都のモルテ=フィーレより多いため、強者(つわもの)も多く滞在している。


 腕に自信のある奴が多いミッドヴィルだからこそ、勇者は当然の如く、その同行者にも目が行くってことか。


 そう考えると初対面のスピラが俺にしていた反応は、ある意味当然だった訳だ。


「今は資金も潤沢だし、俺もそれなりにカッコのつく服装を用意しなきゃいけねぇな」


 そう決意した直後に次の面談希望者が現れる。


 先程の男と違い、人柄の良さそうな青年だ。

 頭上に乗った耳や、正面からでも見える大きな尻尾から種族は獣人だろう。


「ちわーッス!」


 多少、軽薄な口調だが今までの面談希望者と比べれば雲泥の差だ。それに獣人なら足の早さにも期待できる。


「って、勇者様いないッスね……ここ勇者様の旅仲間面接会場で合ってるッスか?」


「違うが!?最早依頼の件そっちのけなんだけど、どうなってんだギルド!?」


「え、違うんスか!?………じゃあ、人違いということで、お疲れ様ッス」


 やっと現れた比較的常識人に見えた獣人は、他の面談希望者の類いに漏れない非常識っぷりを言動だけで見せつけ、勇者がいないと見や否や颯爽と去っていった。


 そして、一部始終を見ていたギルド職員が俺の堪忍袋に止めを刺した。


「というか、この列の殆どが勇者様を見るため並んでいる人だと思いますよ」


「あああああ!!もうやってられっかあああ!?」


 なんだってそんな物見遊山する奴等のために時間を使わなきゃいけねぇんだ!



 ◇◆◇



「では配達依頼の募集は取り下げという事でよろしいですね?」


「うん、流石に手に負えなくなってきちゃったし……」


「真面目に依頼受ける気のある奴がどいつなのか判別できねぇよ」


「此方としても力及ばず申し訳ないです」


 全然申し訳なさそうに見えないギルド職員に見送られてギルドから出てきた俺たちは、どうしたものかと頭を悩ませる。


「結局、ここからモルテ=フィーレまで片道二日ってこと考えると誰かに頼むしかねぇんだけどなぁ」


「ごめん、ボクも配達依頼するだけでここまで難航するなんて思わなかったよ……」


「気にすんなよ、誰かに頼むってのは俺も良い案だと思ったぜ?」


「こうなったら、ボクが一人でノイギアにお金を届けるよっ」


「まぁ、最悪そうするしかねぇか」


 すぐにでもミッドヴィルを出れば、単純計算でもゼンたちとの距離は二日分ですむ筈だ。それに俺という荷物がなけりゃクラルテなら片道に二日もかからない可能性が高い。


「……もう暗くなってきてんな」


 考えて見れば、早く稼がなくちゃという思いが先行してかなりのハイペースで事が進んでいる。


 何たって俺とクラルテは今朝ミッドヴィルに到着したばかりで、直ぐに依頼達成のために地下施設へと急行し、そこで数時間もの間潜り続け、門番と大きな戦闘を繰り広げ、依頼達成後もギルドで先程の一悶着があったのだ。


「……なんか一気に疲れてきたな」


「そう?ボクは旅で二、三日くらい寝ないのは慣れてるけど、オチバも旅をするならもっと鍛えなくちゃねっ!」


 果たして鍛えてどうにかなるものなのか甚だ疑問だが、疲れ果てている自分に気づいたらもう突っ込む気力も沸いてこない。


「……いっそノイギアに金を返すのも次に会ったときでよくねぇ?」


「そういうわけにはいかないよっ!貰った物ならまだしも、借りた物は返す!そういう小さな悪事がオチバの中にある魔王因子を刺激して──」


「……もう何でもいいからどっかで宿でも取ろう」


「オチバ、ちゃんと話し聞いてる?」


 クラルテの面倒なスイッチが入ってしまい、俺が逃れるように首を回して今晩の宿を探していると、豪奢過ぎず、質素過ぎでもない、それなりの質であろう宿が目に留まる。


「……見た感じ悪くなさそうだし、ここにしとくか。えーと、宿の名前は」


 "カザン亭 ミッドヴィル支店"


「どこかで見たことあるような名前な気がする、けど……」


 疲れがピークに達していた俺は思い出すことが出来ず、漠然と嫌な予感だけが頭の中を(よぎ)る。


 己の直感を信じて入らないべきかを悩んでいると、"カザン亭 ミッドヴィル支店"の扉に手を伸ばし、宿に入ろうとするゼンたちと目が合った。


「おや、さっきぶりですね。イチジクさん」


「おい、なんかオチバめちゃくちゃ疲れてるみてーだけど大丈夫か?」


 スピラとドミもゼンに続いて俺たちに気づき、クラルテもさっきぶりの挨拶を交わす。


「めちゃくちゃ疲れてるよ。だから宿を探してんだけど、ここってお前らも泊まってんの?」


「え!?クラルテさんもここ泊まんのかよ!?いーじゃん!いーじゃん!ここにしようぜ!」


 スピラの反応からここに泊まってるのは明白だったが、それをゼンが補足してくれる。


「ええ、最近出来たばかりの宿のようで、ロイライハ帝国の通貨も利用できると聞いたのが決め手でしたね」


「なるほど。ってか、帝国で正教通貨が主流じゃないから報酬に頓着してなかったんだなっ!?」


「おや、気づいてしまいましたか」


 そんなこんなで雑談を繰り広げていく内に、ゼンたちが利用し続けてるってんなら悪い宿じゃないだろうと結論付けた俺は、この宿に対する警戒心を無くし、ゼンたちの後に続いて扉を潜っていった。




読んでいただきありがとうございます。


カザン亭については、2話と10~15話辺りに出てきています。


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