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よろしくお願いします。


 俺は目の前に積まれた聖教通貨の数に圧倒されていた。


「す、すげぇな」


 ミッドヴィルのギルドで依頼の完了を報告した俺、クラルテ、ゼン、ドミ、スピラは、ギルドの片隅に設置されてる長机を陣取って報酬を広げていた。


 総額二十万フィルとなった依頼報酬額は、モルテ=フィーレ共和国で質素な生活をするなら向こう数十年は食うに困らない程と言えば俺がびびる理由にも理解して貰えるだろう。


「……ホントにこの報酬全部、俺とクラルテで貰っていいのか?」


「ええ、この通りゴーレムのコアは譲ってもらいましたので。事前に決めていた通り遠慮せずにどうぞ」


 ゼンは快く報酬を譲る素振りを見せ、ドミもゼンの決めた事に異を唱えるつもりはないのか腕を組み、目と口を閉じて頷いている。


「そうは言うけど……スピラは未練があるみたいなんだが」


 食い入るような目で机に積まれた大金を見ていたスピラは、俺の指摘に慌てて我に返る。


「な、なんだよ!?仕方ねーだろ!?こんな大金、見んのも触んのも初めてなんだからよ!?」


「スピラ、我儘を言わないで下さい。このコアを手に入れることが私たちの最優先目標だったのですから」


「わ、分かってるよ!」


 スピラも俺とゼンとの間であった交渉を破るつもりはないようで、迷いを断ち切るように瞼をぎゅっと閉じて明後日の方へと顔を背ける。


 けど俺としては、殆どたいした怪我もなくこれだけの大金を受け取る事に僅かながら罪悪感のようなものを感じている。


 ──結局、スピラが一番怪我してんだよなぁ。


 机を囲む俺たちの中で、唯一スピラだけが門番との戦闘で片腕を包帯で吊るしていた。

 スピラの怪我はいずれ回復するというが、その治療代もやはり安くはないだろう。


 だからって事前に決めた取り決めを俺の罪悪感から勝手に破るってのは、仲間であるクラルテや交渉相手のゼンに対して失礼な気もする。


「…………流石に約束とは言え協力して勝ち取ったもんを全部貰うってのは気が引けるしな。それにこれだけの大金、俺とクラルテだけじゃ使いきれねぇだろうし、俺が個人的に使える範囲で何か奢らせてくれよ」


「え、ま、マジか!?」


「おう」


 ここじゃ金を預ける銀行のような便利な機関はない。仮にあっても何処でも預けた金を引き出せるようなシステムは確立していないことは調査済みだ。それにこんな大金を持って旅をするなんて怖くて仕方ない。

 つまり、この大金は近日中にある程度消費するのは決定事項でもあった訳だから問題はないだろう。


「そ、それって何でもいいのかよ?」


「食い物でも、武器でも、なんだったらアクセサリーでもいいぞ?」


「あ、アクセサリー!? よ、よし……欲しい物見つけてもオチバを呼びに行ってる間に売り切れちまうかもしんねーし。い、一緒に買いに行ってくんねーか?」


「まぁ、奢るんだし俺が付いていくのは当然だろ」


「よっしゃ!」


 それにしても思った以上にスピラの食い付きがいいな。


「ゼンとドミも何か欲しい物でもあんなら奢るぜ?」


 つっても、ドミが何か要求するイメージはあまりないな、と思っていると意外にもドミが口を開いた。


「私は特にない……と言いたいが折角の奢りと言うのであれば皆で席を囲んで食事をしたいな」


「……さらっと全員の食事を奢らせようとしてんのな」


「む、駄目なら忘れてくれ」


「待て待て!?駄目じゃねぇって!」


 驚いて思わず突っ込んでしまい、それを受けたドミが肩を落とす様子を目にして慌ててフォローするも。


「ふっ、冗談だ」


「お前の冗談は伝わり辛れぇよ!」


 そんな調子で会話に興じていると、俺に奢らせる内容でも考えていたのか、ずっと黙っていたゼンが俺に質問する。


「……奢っていただく代わりにお願いを聞いていただく、というのは構いませんか?」


「もう、嫌な予感がプンプンしてっけど一応言ってみろよ……あと、言うまでもねぇと思うけど今回みたいな荒事になるような願いなら断るからな?」


「それについては問題ありません。よろしければ、フライハイトさんにも聞いていただきたく」


 一呼吸置いて俺たちの視線を集めたゼンは、そのお願いとやらを話し始めた。


「イチジクさんとフライハイトさんのお二人には是非、私たちの故郷『ロイライハ帝国』へとお越しいただきたいのです」


 ロイライハ帝国、またよく知らない国名が出てきて色々聞きたい気持ちはあるが、グッと押さえてゼンの話しに耳を傾ける。


「まず、ロイライハ帝国についてお話させていただきますね。ロイライハ帝国は、ここミッドヴィルより北に広がる広大な大地のほぼ全てを領土としている君主制の国家です」


 そういや、モルテ=フィーレ共和国の外がどうなってるかとか、そもそもここが大陸なのか島なのかも把握してなかったな。

 聞いてる感じだと、どうやらここは大陸だったらしい。


「今、ロイライハ帝国では次代皇帝候補者たちによる帝位争いが繰り広げられていまして、私たちがゴーレムのコアを求めてここまで来たのもそれが関係していたんですよ」


 帝位争いとかめちゃくちゃ大きな事件が起こりそうなワードだな、と俺がひきつる顔を無理やり苦笑いで取り繕っているとゼンがその心配はないとフォローする。


「安心して下さい。確かに当事者である候補者たちや貴族階級の方々はしのぎを削ることになるのでしょうが、平民階級にとっては大きなお祭りに過ぎませんし、暗殺なんて企てたことがバレようものなら、候補者もそれを支持する派閥も選定公に取り潰されてしまいますから」


 次々と出てくる知らない単語やロイライハ帝国の事情を俺なりにまとめてみると以下のような事が分かった。



 一、ロイライハ帝国はバリバリの貴族社会で、皇帝を頂点とする君主制国家である。


 二、皇帝が退位を決めると、ロイライハ帝国内で高位の爵位を持つ家から次代皇帝候補者を募り、選定公という役職者に指名されることで皇帝位を授かることになる。


 三、選定公は、ロイライハ帝国の成り立ちに関わった神であるロイ神とライハ神が代々交互に担っており、今度の選定公にはライハ神が神の国から下界して勤める番となっている。


 四、ロイ神とライハ神は皇帝候補者及びその支持派閥の行いを見通す力を持っており、選定の際には皇帝候補者やその支持派閥の行った功績も罪過も帝国中に(つまび)らかにされるため、悪事を働くことは家の取り潰しになりかねない。


 五、皇帝候補者たちとそれぞれの一派たちは、選定公であるライハ神に指名されるためにあの手この手を尽くす。その一環でゼンたちはゴーレムのコアを手に入れることになった。



 なんでもゼンたちの依頼主は、ゴーレムに限らず大物の討伐が出来ることを世間に公表することで民衆の支持や選定公の注目を浴び、依頼主の派閥が支援する皇帝候補者の後押しを目論んでいるらしい。


 と、まぁそんな話を聞かされた訳だが、俺にとって重要なのは選定公というのが神であると言うことだ。

 ひょっとするとこれは俺をこの世界に連れてきた神の情報を得られるチャンスなのかもしれない。そう考えれば俺にとっては渡りに船な話である。


 ただ、一つ疑問があるとすれば、


「俺たちを呼びたい理由ってなんなんだ?……いや、なんとなく想像はつくけど一応聞かせてくれ」


「流石の察しの良さですね。はい、イチジクさんたちには私たちの派閥が支持する皇帝候補者の手伝いをしていただきたいのです」


 まぁそういう事だよな。

 ゼンたちが依頼主と深い繋がりでもなきゃ他の候補者派閥にコアを流すかもしんねぇし、ゼンたちもその依頼主と同じ皇帝候補者の派閥だろうということは予想出来た。


「派閥ってことはじゃあ、お前らってロイライハ帝国だともしかして貴族になんのか?」


「いえ、私たち兄妹は貴族ではありません。ですが私たちはアーディベル公爵家が所有する研究機関に所属していまして、重要な使命を承けるくらいには重用されてるんですよ」


 研究機関か、ゼンたちの特殊な力ってのはここに起因するんだろう。


「公爵家って、またすげぇ力のありそうな家だな。つーか、手伝うにしたって俺たちに何させようってんだよ?あー、クラルテは勇者の肩書きがあるからそういう意味で派閥に組み込みたいとかなら分からないでもない、のか?」


「うーん、どうだろう?ロイライハ帝国って、ロイ神とライハ神を尊重はしてるけど、崇めてる訳じゃないみたいだし、そもそも勇者の肩書きって聖教が通じる場所じゃないとあんまり通用しないんだよね……」


 俺の予想はクラルテ自身によって懐疑的なものになり、ますます俺たちをロイライハ帝国に呼びたい理由が分からなくなったが、その理由はゼンによって説明される。


「実はアーディベル公爵家は今、ある問題を抱えていまして、その解決にイチジクさんたちが適任だと思ったからですよ」


「……ある問題ってなんだよ」


「この話それなりに重要な内容ですので、続きを聞くのでしたら話が広まらないようにするためにも一緒に帝国まで来ていただきたいのですが……いいですか?」


 ゼンは俺だけじゃなくクラルテの表情を見て確認する。


「俺はクラルテが良いなら問題ねぇよ」


 俺にとっては俺を呼んだ神の居場所を知る手掛かりになるかもしれない以上、クラルテが否と言わない限り帝国に行くのは賛成だ。


「ボクもノイギアに借金を返した後の予定は決まってないし、もしかしたらその問題が魔王因子に関係してるかもしれないから構わないよっ!」


 クラルテも目の前で困っているというゼンの話を聞いて力になれるならとやる気を見せる。


 俺とクラルテの帝国に行くという意思がゼンに伝わると、ゼンは引き続きアーディベル公爵家が抱えるある問題について話し始める。


「アーディベル公爵家の当主であるウルリーケ公爵様には一人娘のリスティアお嬢様がいらっしゃるのですが」


 所謂、公爵令嬢ってやつか。


「ウルリーケ公爵様が領民にも慕われる良き領主であるのに対してリスティアお嬢様は、少し、いえ、かなり苛烈な性分でして」


 しかも、悪役公爵令嬢ってやつか。

 この流れ、ひょっとすると皇帝候補者って乙女ゲーム系の読み物で当てはめれば攻略対象ってやつなんじゃねぇの……?


「リスティアお嬢様がこのまま苛烈な性分のままですといずれ間違いなく、決定的な間違いを犯してしまうと思われるのです。それを防ぐためにリスティアお嬢様の性格を矯正出来る人材を探していた、という訳なんですよ」


「……え、それで何で俺が適任ってなんの?」


 すると、俺が惚けてるとでも思ったのか、ゼンは声を小さくして俺にだけ聞こえるように言う。


「隠さなくとも分かりますよ。イチジクさんは何処(いずこ)の貴族の出なんですよね」


「……は?」


「隠しきれない教養、そして瞬時に最善手を選べる観察眼、そしてウルリーケ公爵様と同じ、私やドミ、スピラのような特殊な人であっても隔てなく接する慈愛の心。きっとリスティアお嬢様の性格を正して下さると信じてます」


 そういうのは、悪役令嬢系物語の転生主人公にでも頼んでくれよ!?




読んでいただきありがとうございます。

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