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よろしくお願いします。

 スピラを主力とした門番を倒す作戦が開始されると俺はゼンの所に向かって一目散に駆け出した。

 というのも、ドミは近場にいたから作戦を共有できていたのだがゼンは距離が離れていて具体的な作戦が共有できていないからだ。

 今の俺の役目はスピラを主力とした作戦に切り替わった事をゼンと共有して連携させる事にある。戦闘能力のない俺が伝令役をするのは必然だろう。


「了解しました……! では引き続き私やドミは瓦礫を門番にぶつけ続ければいいんですね……!」

「ああ! それと出来ればスピラが門番に近づけるように調整してくれ!」


 そしてゼンとの作戦共有は驚くほどスムーズに終えられた。道中、門番の攻撃が来る可能性を警戒していたのだが門番は俺に見向きもせず未だ防御の姿勢を維持している。


 ────これで俺に出来ることはもう何もねぇ……。


 戦闘能力を持たない俺に出来る役割はいざという時の伝令役だ。ここからは不用意に動く事が返って邪魔になり得ってしまう。今の俺に出来るのは作戦が上手くいくことを願って戦況を見守ることが精々だ。


 ────今のところ作戦に不備はないな。

  

 ゼンとドミは瓦礫の投擲で門番の防御を維持させられているし、クラルテもいつでもスピラの援護が出来るよう状況に目を配っている。後はスピラが隙を見てコアを急襲して破壊か停止させられれば成功だ。


「みんな頑張ってんのに俺だけ見守るしか出来ないってのは落ち着かねぇな……」

「イチジクさんは十分に道を示してくれましたよ」


 ドミの加勢で負担が大きく減ったからかゼンは砲弾を装填しながら俺に返答する余裕を見せる。


「そう言えばお礼を言ってませんでした。イチジクさん、妹を助けていただきありがとうございました」

「いや、そのお礼は受け取りづれぇって。結局危ない大役をスピラに任せちまったのは俺みたいなもんなんだぞ?」

「そんな事はありません。私たち全員が今も無事でいるのはイチジクさんの働きがあったからこそです。貴方たちと組めて本当に良かった。ですのでお礼は受け取って下さい」

「……そこまで言うならそのお礼は受け取っとくよ」


 とはいえ、やはりスピラたちに戦闘を任せきりにしている現状を素直に喜ぶ事は出来ない。

 俺に魔力があればゼンのように遠距離からでも少しは助けになれたのだろうか。


「それにしても……。これだけ魔力が必要な世界なら俺も魔力が使えるようにしてくれたらよかったのに……。またあの神に言いてぇ事が増えちまったな……」

「ふふ、ですがイチジクさんは魔力がなくても上手くやっていけそうですね。その洞察力と勇気は私が持ち合わせないイチジクさんの持ち味ですよ」 

「洞察力はともかく……。勇気ってのがスピラの所に走った事を指すなら勘弁してくれ。あれは俺もかなり無茶した自覚あるから」

「そうですか? あれだけ動けたのですから意外とそうした才能がイチジクさんにはあるように思えますけどね。……どうです? これを機に私たちのパーティに加わるというのは?」

「悪いけどこんな荒くれ事で生計を立てる予定は今の所ねぇな」

「それは残念です。スピラとも打ち解けられたようなので良いパーティになると思ったのですが……。おや、スピラが動きだしましたね」

「ああ」


 俺たちの会話はそこで途切れ、息を凝らしてスピラを見守る。

 だから直後に呟かれたゼンの言葉は全く耳に入っていなかった。

 

「…………初対面でスピラが心を許すのであれば申し分ありませんね。これなら私たちに課せられたもう一つの問題についても解決できそうです。是非ともイチジクさんたちには帝国へ来てもらわなければ……」


 

 ◇◆◇


 

「今ッ‼」


 ゼンとドミの波状攻撃に門番は防御姿勢を取り続け、タイミングを見計らっていたスピラがいよいよコアに向かって飛び出した。

 魔眼で活性化された魔力で普段よりも遥かに身体能力を向上させたスピラは掛け声を出して間もなく門番と接敵する。

 しかし、門番も突如として目の前に出現した大きな魔力を脅威だと感じたのだろう。コアを守る防御姿勢を崩した門番は巨腕を持ち上げるとスピラに狙いを定めた。

 

「今のわたしにそんなの当たんねーよ……‼」


 巨腕の機関銃から無数の魔力弾が放たれるがスピラは身を捩ってそれらを回避する。魔眼で身体能力を向上させているスピラは門番が放つ魔力弾の軌道を全て見切っていた。

 

 ────このまま全力で進む……! クラルテさんに任されたんだ! 絶対に成功させてやる……‼


 それは防御をかなぐり捨てた全力の速攻だ。

 スピラは致命的な被弾だけは避け、最高速度を維持してコアを目指して突き進んでいく。

 だがその速度は諸刃の剣でもある。門番との距離が縮まるに連れて門番の攻撃間隔も短くなり、思考する時間も短くなって回避の判断が遅れてしまうからだ。


────っ……⁉ これは避けられねー……⁉


 続いて門番は反対側の巨腕で直接スピラを押し潰す一撃を振り下ろしていた。今のスピラは強大な魔力を放っており、精確にスピラの動きを捕捉している門番の一撃をスピラは回避できない。

 

 ────いや……! それでも心配は要らねー‼ だって……‼ わたしにはあの人がついてんだ……‼


 瞬間、振り下ろされる巨腕の前に躍り出る影があった。


「それは最初にボクに見せてくれた攻撃だねっ! 防がせてもらうよっ!」


 クラルテは残る魔力で盾を生み出すと門番の一撃を受け止める。


「うん……! このくらいの魔力消費で済むなら暫くは持ちそうかな……!」


 そうは言うもののクラルテのその科白(せりふ)が強がりに過ぎないというのはスピラが一番よく分かっていた。


 ────今のでクラルテさんの魔力は殆ど底をついちまった……! ここから先はクラルテさんを当てにする訳にはにいかねー……‼ 


 そうして気合いを入れ直すスピラだったが、同時に遠くから慌てふためくオチバの声が聞こえてくる。


「ん……? 何だオチバのやつ……?」


 聞こえてきたオチバの声に視線を向ければ、そこにはクラルテを指差しながら頭を抱えるオチバの姿があった。その姿を見てスピラはオチバが何を言いたいのかを悟る。


「いや、無理だっての。わたしじゃ止められねーよ」

 

 オチバがゼンの所に駆け出した後、クラルテは『守りに徹するだけなら直ぐに魔力は尽きたりしない』だとか、『オチバは遠くから援護するようになんて言ってない』というような理屈をこねてスピラの近くで援護する事を譲らなかったのだ。

 スピラもギリギリまでクラルテを説得しようとしたが……。

 

「仕方ねーだろ。クラルテさん、アンタの言うことしか聞く気ねーんだから……」


 結局はクラルテに押しきられて今に至っている。


「ま、それだけクラルテさんがアンタを信頼してるって事なんだろーけど……。へへ、けど何でだろーな。今ならわたしもクラルテさんの気持ちが分からなくもねー! やっと分かった気がする……! オチバ、アンタは弱い……! けど、仲間に信頼されてるからどんな困難にも立ち向かえるんだな……!」


 やがて全ての妨害を乗り越えてコアの正面に辿り着いたスピラはコアに剣を突き立て……。


「これで終わりだッ!」


 魔眼で活性化された魔力で強化された剣先がコアに突き刺さり、剣先はその中心へ深く吸い込まれていく。

 すると次第に門番の動きが鈍くなり、駆動音も徐々に消え、門番が沈黙したことで周囲は静寂に包まれた。

 

「よし……! やった……‼ やったぜ‼ 門番を倒した……‼」


 門番の停止を確認したスピラは静寂を突き破るように勝鬨を上げる。

 だが、スピラは門番を倒した興奮のあまり“未だ門番のコアに突き刺さったままの剣”をすっかり忘れてはしゃいでしまっていた。


「あっ……⁉ ちょ⁉ 待って⁉ ヤバいヤバいヤバい⁉」


 喜んだのも束の間、スピラは倒れてきた門番の下敷きになってしまうのだった。



 ◇◆◇

 


 この世界の人々の身体能力は地球人の身体能力を遥かに越えている。それは魔力という力が元々備わっていて、魔力で身体能力を強化する事が出来るからだ。

 またこの世界には魔法という概念があり、魔力がなければ魔法は使う事が出来ない。

 ようするに魔力を持たない地球人の俺は魔法が使えず、身体能力の面でも他人より大きく劣った存在という訳だ。

 そんな俺がこの世界でも通用する武器があるとすれば、それは数々の変人たちと邂逅してきた経験で身に付いた“度胸"や“適応力”といった所だろうか。 

 後はもしかすると文化の影響で想像力はこの世界の人よりも豊かかもしれない。スピラが『やった』と勝鬨を上げた時、絶対にやってないフラグだと思って警戒したのは恐らくこの場で俺だけだっただろう。


 ────まぁ、フラグっちゃフラグだったな……。


 実際に起きたのはスピラが倒れた門番の下敷きになるという事態で、下敷きになっているスピラは今もギャーギャーと騒ぐだけの余裕が聞き取れる。声の様子から命に別状はなさそうだ。


「はは、どうやら大事には至らなかったようですね。安心しました」

「とは言え、早く助けてやらなきゃな」

「ええ。直ぐに向かいましょう」


 そうして門番の下敷きとなっているスピラの下に向かうと、現場ではクラルテとドミが既に門番を退かす作業について話している所だった。


「あ、オチバもゼンさんもお疲れ様!」

「おう。クラルテとドミもお疲れ」

「フライハイトさん、お疲れ様でした。ドミもご苦労様です」

「……ああ」


 ドミは相変わらず口数が少ないが視線を合わさると頷いて独自の挨拶を返してくれる。よく見れば口角が上がっており、何となく安堵の感情が読み取れるような気がしなくもない。

 

「で、功労者はこの下敷きか。俺も手伝うよ。つっても魔力がないから大した事はできねぇけどな」

「ううん、それでも助かるよ。ボクも魔力がすっからかんだからこの門番を動かすのは骨が折れそうだしね!」

「……あ、そうだよ⁉ お前魔力が少ないのに前に出たんじゃん⁉ 流石にあれはヒヤヒヤしたぞ⁉ ……まぁ無事だったから良いけどさ」

「え、えっと〜……。あれはボクだっていいところを見せたかったっていうか……。心配かけてごめんね」

「クラルテさんもオチバも反省会は後にして早くわたしを助けてほしーんだけど⁉」


 スピラから催促が入り、改めて俺たちは門番の下敷きになったスピラの救出に取り掛かる。


「分かった分かった。出来るだけ早く助けるよ。……ところでこいつって本当にもう動かないんだよな?」


 安心したところで突然な急展開、というのはベタな話だ。さっきスピラが立てたフラグはもう折れたと思いたいが、警戒するに越したことはない。

 とはいえ、慎重に門番の装甲を叩いてみても特段門番からの反応はなかった。


「動くわけねーよ。わたしはちゃんとコアに剣を刺したんだ。何ならわたしの魔眼で確認してやって……も……」


 尻すぼみになっていくスピラの声には嫌な予感しかない。 


「はぁ……⁉ こいつわたしの魔力を吸ってやがる……⁉ っ……⁉ ヤバい⁉ みんな逃げろ……‼」


 スピラが緊迫した声色で周囲に警告するも、直後門番から再び地鳴りのような駆動音が鳴り響く。

 俺たちは忘れていた。そもそもクラルテの攻撃が通じなかったのもこの『魔力を吸収する』という能力が原因だったのだ。これに関してはスピラだって例外じゃない。門番は今まさにスピラから魔力を吸収していた。


「っ……!! クラルテとゼンは門番に触れないように離れてくれ‼」

 

 詳しい事は分からない。

 だが誰よりも強い警戒心を持っていたお陰で俺が一番早くに立ち直った。俺はスピラの発言を受けて空かさず皆に指示を出す。


「う、うん……!」

「分かりました……!」


 クラルテとゼンは急ぎ門番から距離を取る。これで門番を囲むのは俺とドミだけになった。

 

「そんでスピラ! お前は直ぐに魔眼を使うのを止めろ!」

「っ……! そうだった……! ぐっ……⁉ 重っ……⁉」 


 スピラが魔眼の使用を止める。これで魔眼の強力な魔力をこれ以上門番に吸収される事はない。

 しかし、依然として元々スピラが持つ魔力については今も門番に吸収されてしまう状況だ。それに先程まで魔眼の魔力を吸収されてしまっていた事に変わりはない。 

 吸収する魔力が減った事で門番が動き出すのに暫く時間は掛かってくれそうだが、それと同時にスピラの負担も増大していた。

 只でさえ門番の下敷きになってしまい体力を消費しているというのに魔力までも奪われ続けている状況だ。しかも魔眼の発動を止めた事で今までのような強力な身体能力までもが失われている。スピラの苦しげな声が段々と弱々しくなっていく。スピラの体力に限界が近づいていた。

 

「お、オチバ……。どうすればいい……このままじゃスピラの体力が持たない……。私の腕力で力任せに門番を持ち上げるにも一瞬が限界だ……。スピラが抜け出すだけの時間は作れない……。それに今のスピラでは自力で抜け出す体力もあるかどうか……」


 ドミが饒舌になっている。激しく動揺しているのだ。


 ────どうする……⁉ スピラを助けるにはどうしたら……⁉


 スピラを助けるには門番を退けるのが一番だ。


 ────魔力を与えて門番が動けるようにするか……⁉


 しかし、それで門番が動く保証はない。それどころか動けないスピラに止めを刺す可能性すらある。


「っ……! コアだ! 結局こいつの動力源はコア以外にねぇ! コアを完全にこいつから切り離す‼ そうすりゃ魔力のある攻撃が吸収されちまう問題はなくなる筈だ‼」


 それは可能性でしかなく確実と言える根拠もないが、それでも試すしかない。

 俺は短剣を握りしめて門番の装甲を引っ掻いてみる。


「よし……! 小さいけど一応傷はつけられるみてぇだ……!」

 

 この短剣はクラルテが土魔法で作り、スピラが魔力で強化してくれたものだ。

 つまり、“門番は魔力で強化されたこの短剣を防げなかった”という事になる。

 この事から“門番は武器に付与された魔力を吸収する訳ではなく、接触者本人の魔力を直接吸収している”というような推測できた。

 ようは俺が魔力を持ってないから門番は魔力を吸収する事なく俺の振るう短剣で傷を負ったのだろう。


「でもそれが分かれば十分だ……! ドミ! 一瞬でいい! 門番を持ち上げて俺がコアに接触できる道を作ってくれ! 俺がコアを完全に壊す!」

「一瞬なら出来る……。だがそれではお前もスピラと同じように門番の下敷きになってしまうんじゃないか……?」

「いいや、その心配は偶然にもスピラのお陰で解決してんだ。こいつのコアにはスピラの刺した剣が刺さってて少しだけ空間が出来てる。なんとかそこに体を捩じ込められれば押し潰される前にコアをぶっ壊せる筈だ」

「………………そうか。オチバ、妹を頼む」

「おう」


 ドミは門番を持ち上げる準備を整えると俺に向かって頷き……。

 

「持ち上げるぞ……!」


 ドミの合図で門番と床に隙間が生まれ、姿勢を低くした俺は暗闇の中へ滑り込んでいくのだった。

 

読んでいただきありがとうございます。

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