26
暑い季節になりました。
よろしくお願いします。
ゼンとドミによる集中砲火は門番に大きなダメージを与え、とうとう門番の装甲は破壊された。
「あれが……! ようやく弱点を引きずり出せたんだな……‼」
破壊された装甲の奥で球形の物体が明滅している。疑うまでもない。あれこそが門番の動力源。コアなのだろう。
であれば、次にやる事は明確だ。コアの破壊、もしくは機能を停止させられれば門番は動かなくなる。
「ドミ……! そのまま投げ続けてコアの破壊を試みてください……‼」
それを理解しているゼンはドミに攻撃を続けるよう指示し、ドミもそれに応えて瓦礫をコアに投げていく。
しかし……。
「…………ちょ、ちょっと頑丈すぎじゃねぇか?」
ドミの剛力による投擲が何度も直撃しているというのにコアが傷付いている様子は全くなかった。
「…………いや、コアが頑丈なんじゃないみてーだな。コアそのものが魔力で防壁を張ってるからドミ姉の攻撃が届いてねーんだ」
「スピラ⁉ どうしてお前にそんな事が……。っ⁉ お前その眼⁉ 魔眼を使ってんのか⁉」
スピラは魔眼で魔力の流れを見る事が出来る。その力で俺たちには見えない魔力の防壁を視認したのだろう。
だが先程はその魔眼を使ったから門番に脅威と捉えられ狙われる事となってしまったのだ。
「また門番に狙われちまうぞ⁉」
「……けど、そうならねーみたいだぜ?」
「あ、あれ……? 本当、だな……」
魔眼を使う事で再び門番に狙われてしまう状況を危惧していたが、門番はスピラに標的を定めていなかった。
「……つーか、誰かを標的にするどころか攻撃そのものを中断してるみてーだぞ? いや、そうか。コアの守りを優先してっからわたしを狙わねーんだな」
どうやら門番はスピラの魔眼よりもコアが晒されている状況の方が危険だと判断したらしい。
事実、今の門番は攻撃の手を止めて代わりにその巨腕を晒されたコアの盾にする姿勢を取っていた。
「……でも何でだ? コアは防壁で守られて攻撃は通じねぇ筈なのに……。何でわざわざ防御を……」
コアを守る防壁はドミの投擲した瓦礫を防ぐ程の性能を持っている。今更ドミの投擲で破壊されてしまう装甲で盾を用意する必要はない。
「そんなの決まってる! 向こうが防御に入ったっつー事は、わたしたちの攻撃が通じるって事だ! ……よし、魔眼で分かったぜ! コアの防壁は装甲とは真逆の性能をしてやがるみてーだ! 防壁は魔力が通った攻撃しか通らねー!」
「っ……! 今度は魔力がないと駄目なのかよ……⁉」
「しかも魔力勝負になるから強力な魔力で攻撃しないと駄目だぜ……!」
門番の不可解な行動理由、それはコアを守る防壁に明確な弱点があったからだった。
「なるほどね! そういうことなら今度こそボクの出番かな? いいよねオチバ?」
強い魔力でなければコアの防壁は突破できないと判明すると直ぐにクラルテが名乗り上げ、俺の返答を待つ。
俺たちの中で最も強力な魔力のある攻撃を持つのはクラルテだ。
そして今門番はこうして防御に専念してくれているが、この状態が続けばドミたちの攻撃に危険性はないとして攻撃に移るとも限らない。
全てを考慮した上でクラルテに任せない理由はないだろう。
「…………よし、それじゃあクラルテ。後は──」
「待てよ。わたしは反対だ」
クラルテに任せようとしたその時、スピラがそれを遮った。
「スピラ、お前がクラルテと一緒に戦いたいって気持ちがあるのは知ってる。けどこの大事な局面で急拵えなコンビを組んでも上手く連携は取れないんじゃねぇか? だから今は──」
「そうじゃねーよ! クラルテさんは門番からわたしらの事を守る為に沢山の魔力を消費してんだ‼ ……クラルテさんの魔力はもう殆ど残ってねーんだよ」
「え……? は……? クラルテ……? それ本当か……?」
本当かどうか思わず確認してしまうが、クラルテの返事を聞くまでもない。
俺がスピラと話をする為に門番の足止めをクラルテに頼んだ時、クラルテは門番の繰り出す猛攻を全て防いでくれた。それだけの攻防を経て消耗していない筈がなかったのだ。
────いや、それだけじゃねぇ……⁉
クラルテはその後も俺が門番の所で誘爆魔法の印を済ませるまで護衛をしてくれた。
クラルテは魔力の殆どを俺を守る為に使ってくれていたのだ。
「……魔眼を持ってるわたしにはそれが分かるんだ。クラルテさん、そんな状態でホントに戦えるのか?」
「え、えーと……。その……。えへへっ。まぁまぁ、それでもここはボクに任せて──」
クラルテは明後日の方に視線を逸らし、最終的には笑顔で誤魔化そうとする。
「いやいや⁉ 誤魔化し方下手くそすぎんだろ⁉ ……そう言うことは早く言ってくれ。俺は危ない橋は渡らない主義なんだよ」
「で、でもでもっ! ボク的にはまだまだ余力があるから大丈夫な気がするんだよね……!」
「……で? スピラ、実際のところクラルテの魔力は本人が言うほど余力はあんのか?」
「全然信じてくれてないっ⁉」
「……かなり現実的かつ楽観的にみて、最初門番に見舞ってたくらいの一撃なら一回が限度。しかもその後は尽きた魔力を体力が補おうとする筈だからほぼ確実に動けなくなると思う。そんでそれより威力を落としたとしても門番に傷を負わせるくらいの攻撃ってなると……。それでも二回か三回が限度だ。こっちもその後は動けなくなる」
「よし、こりゃあクラルテは待機だな」
「そんなぁ⁉」
クラルテは目に見えて落ち込む姿を見せるが今の話を聞いてこれ以上クラルテに無茶をさせるわけにはいかない。
「そうなると他の人選で攻めなきゃなんねぇが……。魔力を乗せた攻撃ってなると魔力を持ってないドミは除外されるよな……。じゃあゼンとスピラに任せるしかねぇ訳か」
「いや、ゼンも無理だ。クラルテさんほどじゃねーけど魔力を消耗し過ぎてるし、前に出て門番の攻撃を躱せるほど動けるヤツじゃねー」
ゼンも誘爆魔法や砲台の準備で既にありったけの魔力を消費していた。スピラが魔眼で確認した上でそう言うのだからゼンに任せるべきでもないのだろう。
「だから……。わたしが行く」
「それしかねぇか」
「えぇっ⁉ 待ってよ⁉ なんでそうなるの⁉ ボクの方が絶対適任でしょ⁉」
「クラルテが万全な状態なら俺もそう思うぜ? けど、魔眼を使ってる時のスピラがクラルテより強い魔力を持ってるのは間違いねぇんだ。あの門番がクラルテの光剣を無視してスピラを狙い続けたからな」
“門番は強い魔力を脅威と認識して狙い先を選んでいる”というのが今の見解だ。
それを前提に考えるなら、現状一番強い魔力の持ち主はスピラになる。
「うぅ……。でも……。でもっ……!」
「別にずっと後ろで見ててくれって言ってんじゃねぇって。……攻撃役がスピラになる以上、スピラには出来るだけ攻撃する瞬間まで魔力を温存して貰いたい。だからクラルテにはスピラの補助を頼みたいんだ」
「…………頼む、クラルテさん」
「うぅ~~。………はぁ、分かったよ。ここはオチバの指示に従う。ボクはキミを……。スピラを守るのに徹する事にするよ」
「ほ、本当か! ああ! 任せてくれ! わたし、絶対にしくじらねーから!」
渋々ではあったがクラルテは悩んだ末に俺たちの案を呑む事にしてくれた。
スピラも念願のクラルテとの共闘が思わぬ形でやって来て嬉しいのだろう。
「でも一つだけ聞かせて。スピラにはボクの光剣に匹敵するだけの攻撃方法があるの?」
「そ、それは……」
「え? 何で言い淀むんだよ? 魔眼で強くなった魔力で武器を強化して攻撃すりゃ済む話なんじゃねぇのか?」
「……武器がその魔力に耐えられればね」
「ああ……。クラルテさんの言う通りだ。多分わたしの持ってる剣じゃ魔眼で強くなった魔力を耐えられねーと思う」
なんでも魔眼で強化された強い魔力にスピラの剣が耐えきれないのが問題らしい。
「ようは別の武器が必要って訳か……。だったらクラルテの剣を貸すってのはどうだ? 光剣の魔力に耐えられる武器なんだろ?」
「えっと……。ごめん。そういえば説明した事なかったね……。ボクの持ってる剣は何の変哲もない剣なんだ。この剣は光剣の軸にしてるだけで別に魔力で強化してる訳じゃないっていうか……。その、簡単に言うとこの剣にスピラの魔力を耐える性能はないんだよ。肝心な時に壊れちゃうかもしれない剣を渡す事は出来ないかな。それにこの剣を渡すくらいなら土魔法で新しく強度のある武器を用意した方がずっと良いと思う」
クラルテの剣ならばスピラの魔力に耐えられるかもしれないと思ったのだが当ては外れてしまったようだ。
しかし、代わりになりそうな案もクラルテから出た。
「土魔法で武器を……?」
「うん。初歩的な属性魔法ならボクにも使えるからね。ボクの残った魔力を使えばそれなりの耐久性を持った簡易的な武器が作れると思う。……まぁ、それをするとしたら今度はスピラの魔力に耐えられる素材を用意しなくちゃいけないった問題が出てくるんだけどね」
魔法といえど無から有は生み出せないようで、武器を作るには魔力とは別に素材が必要との事だ。しかも今回は魔眼で強化されたスピラの魔力に耐えきれる素材でなければならないときている。
「待てよ……? 魔力に強い素材ってんなら……。こいつはどうだ? これを素材にした武器でもスピラの魔力で壊れちまうか?」
そこで俺が懐から取り出したのは、片手で掴める程度の大きさの直方体だった。
「えっ……⁉ こんなのどこから持ってきたのオチバ⁉」
「どこって……。そこら中に落ちてるだろ。それにこいつに魔力を蓄える性質があるって教えてくれたのはクラルテだぜ?」
「あっ……⁉ そっか‼ これってこの施設にあった魔道具の部品……‼」
そう。この直方体は少し前まで“とあ《・》る機械の部品”として組み込まれていたものだ。
そしてこの直方体は門番の装甲破壊作戦を考える際、ゼンが土魔法で機関銃を分解して利用できるかを確認する時に取り外させた副産物となる。
「魔力を蓄えるなんて性質があるって聞いたからな。どこかで使えるかもって思ってゼンに取り外しを頼んで正解たったぜ」
「うん! これならスピラの魔力に耐えられる武器が作れるよっ! それに素材ならここに沢山あるしね!」
早速クラルテは土魔法を使って部屋に設置されている壊れた機関銃を分解し、魔力を蓄える部分にあたる直方体を基幹にして武器製作に取り掛かると……。
「こんな感じでどうかな……! 耐久性は十分な筈だよ」
あっという間に武器を作り上げてしまった。
「流石クラルテさん! もう出来ちまった!」
「それにしても出来上がるのが早すぎ……るのはクラルテだから不思議でも何でもねぇか。そんでこれは……。剣と短剣か」
クラルテは剣を一本、短剣を二本。計三本の武器を作ってくれていた。
「うん。剣はスピラに。残りの二本の短剣は保険でスピラとオチバにそれぞれ一本ずつ用意したよ」
「…………待って? 俺の分って言った?」
「取り敢えず三本とも纏めてスピラに渡しておくね。短剣のうち一本はキミの魔眼で強化してからオチバに渡してくれるかな?」
「ああ……! 任せてくれ……! 直ぐにやる!」
クラルテは俺の問いに答えることなく三本の武器をスピラに手渡して魔力を込めるように言うと、今度は俺のに呆れた表情を向けてくる。
「……オチバ。いくらボクだって分かるよ。何だかんだ言って結局オチバも門番に突っ込んで行くんでしょ? さっきだってスピラと話す為に無茶したしさ。だったら護身用に持っていっても損はないと思うよ?」
「はぁ⁉ そんなことしねぇよ⁉ さっきは門番の弱点をスピラから聞き出さなくちゃならなかったから頑張っただけだって⁉ 今回は俺が動くつもりはねぇよ⁉ …………それはそれとして武器はあるに越したことはねぇから有り難く貰うけどな。ありがとよ」
「ほらやっぱり。それっていざとなったら動くってことじゃん……。まぁ、ボクと引き分けた魔王とクルエル教徒を倒せるオチバなら心配ないか……」
「おいおい⁉ お前まだノイギアの冗談が尾を引いてんの⁉ だからあれは運良く倒せただけで……!」
「大丈夫。あの二人が運良く偶然倒せるような相手じゃないのは対峙したボクが一番よく分かってるから。オチバは自分でも気づいてないだけで強い力が──魔王因子があるんだよ。今はそれが覚醒してないから気づいてないだけ。覚醒したらあんな門番は敵じゃないし、仮に覚醒して暴走しても絶対にボクが何とかするから安心して」
「どんどん勘違いが深まってやがる……⁉ くそ! ノイギアお前のせいだぞ⁉ 覚えてろよ⁉ 絶対に仕返ししてやる⁉」
「魔力の補充、終わったぜ。ほらよ」
と、俺がノイギアへの仕返しを決心していると丁度スピラも武器に魔力を込め終わったようだった。
「おう、ありがとな。…………ノイギアの仕返しを考えんのは資金調達が終わってからにするか。よし、それじゃあ後はそれぞれが出来ることをするだけだ」
スピラから短剣を渡され、二人と顔を見合わせる。
「目標はコアの破壊、もしくは停止。主力はスピラ。他は可能な限りスピラの補助。みんなで協力してスピラがコアに攻撃できる隙を作るぞ!」
読んでいただきありがとうございます。




