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 門番の周囲は門番が発射する魔力弾やその余波である風の刃が荒れ狂い、危険地帯と化していた。

 そんな危険地帯の中でドミは門番を相手取り、スピラに向けられる攻撃を阻害し続けている。

 とはいえ、そんな危険地帯での戦闘だ。無傷では済んでいない。常に門番の近くにいるドミは大怪我こそないものの、既に多くのかすり傷を負ってしまっている様子が見受けられた。それでもドミが戦闘し続けられるのは、『強靭な身体』というドミの特別な力ゆえに成立する戦い方なのだろう。


「つってもドミだって体力は無限じゃねぇ……! 早いとこ門番のコアを見つけて叩かねぇと……!」


 そして俺も危険地帯である門番の懐近くまで辿り着く事ができていた。

 俺は特別な力や技もなく、魔力もなければ魔法も使えない。何の力もない俺はこの危険地帯にいるだけで大怪我間違いなしだ。

 そんな俺がこの危険地帯で無事でいられる理由はクラルテのお陰だ。

 クラルテの前では風の刃も魔力弾も無為と化す。

 風の刃は魔力弾の発射に伴う強い衝撃の余波で空気が押し出されることにより生じた現象であり、それを見抜いたクラルテは自らの強力な魔力を荒れ狂う風の刃にぶつける事で相殺した。流れ弾も同様に相殺されている。


「本当に頼りになるぜ……!」


 だがこの状況は“クラルテの魔力が続く限り”という時間制限付きだ。クラルテの魔力が途切れれば風の刃や魔力弾の流れ弾が一瞬にして俺たちを襲うだろう。


「なら俺も制限時間内に終わらせねぇと……!」


 作戦の第一関門はコアの正確な位置を知ることだったが、ここからが作戦の第二関門だ。

 俺は決して落とさないようにと硬く握りしめていた右手を開き、予めゼンから拝借した道具を確認する。 

 その道具は拳に収まる程度の大きさの木片であり、強く押し当てる事で粉状の筆跡を残せる性質を持つ。所謂(いわゆる)、チョークだ。このチョークはゼンの杖を削って作られたもので、ゼンの()()()()が仕掛けられている。


 俺たちはこの地下研究施設に入るにあたって互いの情報を共有し、その時ゼンが何を得意としているかを聞いていた。

 ゼンの長所は豊富な種類の魔法が使えることにあるとの事だ。威力こそクラルテの攻撃には劣るが火、水、土、風魔法といった有名どころや、それらを応用した魔法も数多く取得しているとも聞いている。

 その豊富な種類の魔法の一つが『誘爆魔法』だ。

 誘爆魔法は、予め(あらかじめ)誘爆魔法の設置された場所に使用者の魔力が近づくことで小爆発を発生させる魔法だという。また、爆発範囲は拳ほどの狭さだが威力は指を吹き飛ばすくらいはあるらしい。


 作戦の第二関門とは、この誘爆魔法を仕掛けられたチョークでコアのある位置にマーキングする事だ。

 そしてここでの一番の問題は接触時に門番が反応してし抵抗される可能性だったが、やはり門番は魔力に反応する仕組みなのだろう。俺が門番に触れても門番は特段反応を示さなかった。

 そんな訳で俺は門番と接触し、スピラが示したコアのある位置に次々とチョークで(マーキング)をつけていく。


「よし、設置完了。……門番に(マーキング)を打ち消されちまう感じもねぇな」


 チョークにはゼンの誘爆魔法が仕掛けられている。

 だからチョークでつけた印は門番に打ち消されてしまうのではという懸念を事前にゼンに尋ねていたのだが、その心配は無用だろうという答えを既に貰っていた。 

 なんでもその秘密はゼンの誘爆魔法の特性にあるとの事で、誘爆魔法は“起動設定された特定の魔力に反応して爆発を引き起こす魔法”なのだが、“起動するまで魔力を発しない”という特性を持っているからなのだとか。 

 今回チョークに仕掛けられた誘爆魔法の起動にはゼンの魔力に反応するよう設定されている。 

 つまり、門番につけたチョークの(マーキング)はゼンの魔力に反応するまで誘爆魔法を起動せず、魔力を発していない状態にあるという訳だ。


「魔力を発してないから門番に打ち消されないかもしれないってゼンの予想は大当たりだった訳だ……! クラルテ! 急いでここから離れるぞ!」

「了解! それで次は何するの?」

「そういや急いでたからちゃんと説明できてなかったな。次は──ってうおお⁉」


 クラルテと共に門番から離れた後、次の作戦をクラルテに説明をしようとしたその瞬間、鼓膜を震わす爆音が部屋全体に響いた。


「な、なに⁉ この爆発音⁉」

 

 クラルテは何がどうなっているのか分からない様子だが、俺はその原因に心当たりがある。

 

「大丈夫……! 今の爆発音はゼンの仕業だ……! 第三関門──次の作戦はゼンに任せてたからな……!」


 爆発のタイミングはゼンに任せていたが、どうやら俺たちが門番から離れるのを確認して直ぐに動いたらしい。 

 振り向いて門番の様子を窺えば、(マーキング)された位置に向かって拳ほどの大きさの(たま)が次々と飛来し、それらの弾が接近する度に(マーキング)から爆発が生じていた。



 ◇◆◇

 


 オチバに誘爆魔法を仕掛けたチョークを渡して見送った後、早速ゼンは次の作戦に必要な道具を作る作業に取り掛かっていた。


「流石に……! 疲れる作業ですね……! ですがやらなければ妹たちを助けられません……!」

 

 ゼンは土魔法を用いて部屋の壁や床を削って拳ほどの大きさの丸岩を作ってはその中に魔力を注ぐ作業を繰り返していくが、ゼンの魔力量は特別多いわけでもない。当然の如く魔力を使い続ければ疲労は直ぐにやってくる。


「はぁ、はぁ……。それにしても……。イチジクさんは見込み通りの人でしたね……。やはり予知に従ってイチジクさんたちと接触したのは正解でした……」


 それでもゼンは作業の手を止めず、いつの間にか魔力の使い過ぎによる疲労で無意識に口をついてそんな事を口走っていた。 

 ゼン、ドミ、スピラはそれぞれが魔法とは違う特別な能力を持っている。

 ドミには強靭な身体、スピラには魔眼、そしてゼンには予知能力だ。

 だが、ゼンの予知能力は決して使い勝手が良いものでもない。何故ならこの予知能力はゼン本人の意思で発動することが出来ず、予知する内容も選べないうえ、行動次第では予知した未来が簡単に変わってしまう能力だったからだ。

 しかし、この予知能力があったからこそゼンはオチバたちと出会う未来を知り、今日この日に地下研究施設へやって来る事ができた。


「この出会いに感謝します……。きっと彼らなら帝国の…………。口に出てるのにも気づかないくらい疲弊してたみたいですね……」

  

 ゼンは作業の手を止めると自ら作り出した大量の丸岩の一つを手に持ち、手元の丸岩と門番とを交互に見やって苦笑する。


「ドミならともかく私の腕力では流石に届くはずもありませんね……」


 今ドミはスピラの援護で手一杯の様子だった。呼び戻そうものならスピラの被弾は避けられない。


「となれば……。次はこれを届かせる道具を作らなくてはいけませんね……」

 

 続けてゼンは丸岩を門番に届かせる道具を作るため辺りを見回す。


「……あれが丁度良さそうですね」


 ゼンが目をつけたのは、この部屋に足を踏み入れたときから壁に設置されている機関銃だった。ゼンは土魔法を使って機関銃を手元に手繰り寄せると、それを素材に新たな形へと作り変えていく。


「単純に思えて中々精密な作業が求められますね……」


 そうして出来上がったのは大筒──携帯できる大砲だ。この大筒は素材元の機関銃と同様、魔力を利用して弾を射出する。

 

「…………どうやらイチジクさんも準備を終えたようです」


 ゼンはオチバたちが門番から離脱するのを見つけると出来たばかりの大筒に弾となる丸岩を詰め、オチバが門番に施した(マーキング)に狙いを定めると大筒に魔力を注いでいく。

 やがて大筒内に魔力が充満し、発射の準備が整った。

 

「仕様上、単発でしか撃てませんし遠距離武器を扱うのは初めてですが──」


 そしてゼンが大筒の引き金を引くと手元で爆発音が鳴るが、直後に門番の位置から発生したそれを打ち消すほどの爆音が鼓膜を揺さぶる。


「──誘爆魔法が起動する距離まで近づけさせられれば問題はありません」


 誘爆魔法は設定した魔力を感知することで爆発を起こす魔法だ。

 丸岩に込められたゼンの魔力を(マーキング)に近づける事で誘爆魔法を起動する。それがオチバとゼンの作戦だった。

 ゼンは次の弾を詰め、門番に向けて引き金を引いていく。

 

「そして誘爆魔法は起動にこそ魔力を利用しますが……。爆発そのものは魔力が込められていません」


 (マーキング)は魔力で起動して爆発するが、爆発自体はただの物理攻撃でしかない。魔力での攻撃ではないから門番にも通じるという理屈だ。


 実際、この攻撃は門番に効いていた。

 門番は自身の損傷原因を探るためスピラに対する攻め手を止め、既にスピラとドミは門番の近接攻撃射程から逃れる事に成功している。


「残りの魔力に不安はありますが……。限界までこのまま装甲を攻撃させて貰いますよ……」



 ◇◆◇



 ゼンの魔力が込められた砲弾が門番に接近すると誘爆魔法が起動して(マーキング)が爆発する。

 爆発は門番に大打撃を与える程の威力はないが、動きを阻害する事には成功した。爆発の衝撃で機関銃の照準はスピラに狙いを定められていない。 

 ゼンの誘爆魔法によって門番の攻撃は途絶えた。

 だが、それは一過性のものに過ぎない。

 何故なら誘爆魔法の(マーキング)もいずれは爆発の影響で削れて消え、ゼンの魔力にも限界があるからだ。


「ってな訳で……! ここからは俺たちが攻勢に出る番だ!」

「えーと、でも具体的にはどうやって攻勢に出るつもりの……? ボクの攻撃は門番に通じないみたいだし、それにボクたち門番からけっこう離れちゃってるけど……」

  

 クラルテの言うように俺たちは門番から距離を取っていた。誘爆魔法に巻き込まれないようにする為だ。

 当然ながらスピラとドミも今は俺たちと共に門番から離れている。

 スピラは相当の体力を消耗しているようで呼吸を整えるのに集中していた。

 対してドミはあれだけ動き回っていたというのに息切れ一つしていない。しかし、特に意見はないのか黙して俺とクラルテの会話に耳を傾けていた。


「あー、悪い。勢いで言ったけどぶっちゃけゼンの誘爆魔法次第ってとこだな……。実はあの門番って魔力を持ってる奴の攻撃には自動で防御する能力があるみたいなんだよ」

「そうなの……⁉ それでボクの攻撃が全然通らなかったんだ……」

「ああ。だから今はゼンの誘爆魔法で門番の装甲を壊せるかどうかってのに全て掛かってる状況だ。これで無理そうなら……」


 などと撤退を視野に入れた時……。

 

「ふむ、それはつまりあの目印のある箇所を壊せばいい、という事だな?」

 

 そこでドミが反応を示す。

 

「え……⁉ ドミ……⁉ お、おう……。そうだけど……」

「そうか。なら任せておけ」


 そして次の瞬間、ドミは自らの拳で床を叩き割っていた。


「ドミ⁉ お前いったい何して……⁉」

「あっ! そういうことかっ! よし! ボクも手伝うね!」


 ドミの奇行に困惑していたところ、クラルテはドミの行動の意味が理解できたらしく同じく光剣で床を砕き出す。

 辺りには破壊活動によって生まれた瓦礫が幾つも散らばり、続けてドミは散らばった瓦礫の中から手頃の大きさのものを一つ選ぶと手に取る。


「なに、誰でも出来る簡単な遠距離攻撃……だ‼」


 直後、ゼンの誘爆魔法による爆発とは異なる破砕音が空間に響き渡った。

 また、破砕音とほぼ同時に生じた強烈な風圧に俺は腕で顔を覆う。

 何が起こったのか。

 ドミが瓦礫を投擲したのだ。

 ドミが投擲した瓦礫は(マーキング)された門番の装甲に寸分違わず命中し、強力な一撃を受けた門番は体勢を崩している。


「ふむ、それほど難しくはないな。それ、もう一投だ……!」


 ドミは瓦礫の投擲を再開する。


「……もしかして誘爆魔法より効果があるんじゃねぇの?」


 遠くでゼンが落ち込んでいる姿が見えた気もするが、無事に勝てるならそれに越したことはない。


「っ……! おい! 装甲にヒビが入ってねーか⁉」


 スピラの指摘に視線を門番に送れば確かに(マーキング)した箇所の装甲は割れて欠けている。

 そして割れた装甲の奥に“いかにもこれがコアだ”と主張するように明滅する物体が確認できたのだった。

 

読んでいただきありがとうございます。

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