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投稿待たせてしまいました。すみません。
よろしくお願いします。
戦術的価値で言うなら魔法を使えるゼンの方が俺より遥かに高いと見て間違いない。
しかし、魔力に強い耐性を持つ門番が相手では戦術的価値という意味においてゼンも俺とさして変わらないだろう。
「ってなると、案外この局面に限っては俺の方がゼンよりも戦術的な価値が高かったりすんのかもしんねぇな……!」
「どうやら強がっている訳でもなさそうですね……!」
「そりゃあ門番が標的を定める規準は魔力の強さってので決まりみてぇだからな……! ドミが標的にされないのがそういう理由だってんなら、俺も標的にされる心配はないって事だ!」
俺はスピラからも魔力が見えないくらいというお墨付きも貰っている。俺たちの中で誰よりも門番からの注意を引かない存在が俺だった。
「なるほど、確かにイチジクさんであれば門番に近づいても標的にされる心配はないかもしれませんね……。ですが一体何をしようというんです?」
「それはだな──」
そうして俺は思いついたばかりの作戦をゼンに伝える。
「それは……。大変危険な策ですね……。しかし、上手く行けば逆転の一手になる……。」
「悪くない作戦だろ?」
「良し悪しで言えば最良かもしれません……。ですがイチジクさん。この作戦は貴方が門番に接近することを前提としています。いくら標的にされないとはいえ、門番に接近すれば今よりも危険な状況に身を置く事になるのは確実です。戦いに不慣れな貴方にその覚悟があるのですか?」
ゼンは俺に戦う覚悟を問い掛けていた。
「…………はっきり言うなら命を張る覚悟なんてのはねぇな。けど、クラルテたちを助けることに躊躇はねぇよ」
「……そうですか。それならもう言うことはありませんね。とはいえ、イチジクさんの提示した作戦は私としても始めての試みばかりですので失敗しても恨まないで下さいよ?」
「…………一応言っとくけど、俺だけじゃなくお前の妹たちの安否もお前の腕に掛かってるってことを忘れんなよ?」
「そうでしたね。安心してください、必ず成功させますので。ではこれをどうぞ」
「おう! 頼んだぜ!」
ここからはゼンと別行動だ。
俺は作戦の要となる道具をゼンから拝借すると戦いの真っ只中に向かって飛び出していく。
戦場では門番が今もスピラを執拗に狙って魔力弾を撃ち続け、更にはその巨足で歩行し距離までもを詰めつつあった。
「先ずはコアの正確な位置をスピラから聞き出す……!」
門番のコアが動力源としての役割を持つというのなら、それはつまりコアのある場所に最も強い魔力があるという事になる。
────なら、魔力を視認できるスピラならコアの位置も分かるって事だ……!
作戦の第一関門はスピラに接近してコアの位置を教えて貰う事だった。
「スピラ……! 門番の正確なコアの位置を教えてくれ‼」
「おまっ⁉ 何しに来てんだ……‼ 来んな! 危ねーぞ‼」
「ま、まじでこいつ狂犬みてぇだな……」
走り寄る俺にスピラは今にも噛みつかんとする剣幕で怒鳴り散らす。
「オチバ⁉ 何でこっちに……⁉ ここは危ないよ‼ ほらあっちで待ってて!」
「クラルテはクラルテでまるで保護者みたいな物言いだな⁉ ……じゃなくて作戦があるんだよ! 何とかスピラと話す時間が欲しい! 頼めるか⁉」
「いいよ! 任せて!」
クラルテは深く尋ねる事なく俺の頼みを承諾すると手元の光剣を回転させて盾にし、スピラと門番の間に位置取ると魔力弾の射線を遮った。
「長くは持たないけど……! ちょっと話すくらいの時間ぐらいは稼いで見せるよ……!」
「助かる‼」
門番は弾数無制限の魔力弾を撃ち続けており、クラルテの言葉通り長時間の足止めは厳しいだろう。
だが、このチャンスのお陰で俺は何とか駆けるスピラの後ろに付くことが出来た。
「お、お前……‼ 何にしてやがんだ……‼」
スピラは眉間にシワを寄せて今にも怒りを爆発させそう……というより既に爆発させているが、そんな猶予は俺たちにない。俺は有無を言わさずスピラの手を掴んでその足を止めさせた。
「わっ⁉ ちょっ⁉ おい⁉」
「スピラ! 頼みたい事があるんだ!」
「は、はぁ⁉ お前さっきから勝手な事ばっか言いやがって……‼」
スピラは俺がやって来た事に文句を垂れているようだが、作戦の全容を伝える時間はない。
俺はいかに真剣であるかを示すため、スピラと真正面から視線を合わせると掴んだスピラの手を両手で握るように持ち直して真摯に頼み込む。
「真面目な話なんだ! 聞いてくれ!」
「お、お、お前っ……! 何で手を握っ……⁉ マジでなに考えて……⁉」
スピラの表情は赤いが、先程よりも怒りの感情は薄れたように思える。きっと俺の真剣な気持ちが届いたのだろう。
「スピラの魔眼で門番のコアの位置が分からないか⁉ 見えるなら正確な位置を指差してほしい!」
「わ、分かった! 分かったから手を離せ⁉ こんな辱しめるようなことは止めろっての! コアは、えーっと……! あの辺だ! あの辺っ!」
「あの辺じゃ駄目なんだよ! 正確に教えてくれ!」
「〜〜〜〜っ⁉ ま、真ん中だ‼ もういいだろ⁉」
スピラは俺の手を振り払うと門番の体の中心を指差した。より具体的には人で言う心臓の位置よりも下を指差している。
「よしっ! 第一関門突破! これでコアの位置は把握できた! けど、そうすっとやっぱコアまで辿り着くのはそう簡単な話じゃなさそうだな……! さて、次は第二関門だ……!」
「まっ……⁉ 待てよ……‼」
作戦を続行しようとした所、今度はスピラが俺の腕を掴んで動きを止めた。
「今じゃねーってのは分かってる……! けど、どうしても気になって仕方ねーんだ! お前は……! お前はどうして戦う力がないのに自分より強い奴に立ち向かえる⁉ そもそもわたしらを助ける義理だってねーだろ‼」
そう言えば先程もスピラから同じような質問を投げ掛けられていたのを思い出す。
────さっきの質問は“何を支えに強くいられるのか”だっけか。
結局その答えは門番の攻撃で状況が一変した事により伝えられず終いだった。
しかし、その答えはちゃんと持ち合わせている。
「俺はただ自分の心に正直なだけだ。助けなかったらきっと後悔する……そう思ったから動くんだよ。助ける義理があるとかないとかは関係ねぇ」
「…………は?」
「あ、あれ……? うまく伝わってない感じか……? えっと、言いかえるなら意地とか信念みたいな感じなんだけど……。分かる……?」
「お前……! ふざけんな……‼ 適当な言葉ではぐらかそうとすんじゃねー‼」
「ふ、ふざけてるつもりはねぇよ。……後悔するにしても自分で選んだ選択で後悔したいってだけだ。だから関わりたいって思ったんなら躊躇わねぇで首を突っ込むし、関わりたくないって思ったんなら全力で逃げる。俺自身で選んだ結果だってんなら後悔しても納得はできるだろうぜ?」
「……っ! 答えになってねーんだよ! わたしが知りたいのはアンタの拠り所だ‼ アンタは魔力もないし、ドミ姉みたいな腕力もない! アンタじゃ絶対に門番を倒せない‼ それでも立ち向かえる拠り所が何なのかって聞いてんだ‼」
「拠り所って言われても……。強いて言うならまだ勝つ可能性があるから、とかか?」
「は、はぁ……? そんなの……。拠り所にはならねーだろ……。しかもそれって全部他人任せって事じゃねーか……。それに周りが何とかしてくれるってのが拠り所だってんなら、弱いアンタが逃げない理由にもなってねーだろ……」
「そうかもな。けど、そうして周りの誰かが何とかしてくれるってんなら逃げる必要だってねぇ筈だろ? だったら後は自分の気持ちが全てだ。今回は逃げたくないって気持ちが逃げたい気持ちを上回った。それだけだ」
「な、なんだよそれ……。お前……。弱い癖に……。行き当たりばったりな……。そんなこと続けてたら簡単に死ぬぞ……?」
「かもな。もちろん死にたくはねぇ。でも一度きりの人生だ。俺は自分の好きなように生きていたい。今までだってそうだ。資金が欲しいからここに来たし、クラルテを助けたいから立ち向かう。俺にクラルテを助ける力がないってんならそれが出来る力を持つ誰かに頼む。……スピラ。コアの位置を教えてくれてありがとな」
「………………分かんねー。でも、クラルテさんがアンタと一緒にいる理由は少し分かった気がする。ドミ姉を頼む」
取り敢えずスピラは納得してくれたという事だろうか。
ならば、直ぐに次の準備へ取り掛からなければならない。
と、そこで現状に変化が起きている事に気づいた。
「………あー、スピラ。いい感じで会話が終わったところマジで悪い。話が長かったせいで門番との距離がもう……」
門番の攻撃はクラルテが何とか防ぎきっているが、流石に門番の歩みは止めきれていなかったようだ。門番はもう少しでその巨腕を俺たちに届かせてしまうという距離まで詰めてきていた。
「ってな訳で……。門番の相手を暫く頼む……!」
そうしてスピラに迫る危機を知らせると門番の射程から駆け足で離脱する。
「あっ⁉ おいオチバお前……⁉ ったく……! 仕方ねーな……!」
◇◆◇
「その様子だと上手くあの子とは話がついたみたいだね、オチバ」
俺が門番の射程から離脱するとスピラも一度門番の相手から離脱し、俺の方にやって来て並走していた。
「クラルテ……! スピラの援護は大丈夫なのか?」
「そっちは今ドミさんに任せてる。ボクじゃ魔力弾を防げても門番の直接攻撃とか足止めは出来ないからね」
そう言われて門番の方へ視線を飛ばしてみると、ちょうどドミがその驚異的な身体能力で門番の巨腕を足場に空中を跳ね回り、次々と門番に打撃を加えているところだった。
「それにいざとなったらボクとドミさんが交代であの子を守ってあげればなんとかなるだろうしねっ!」
「……クラルテ、もしかしてスピラの事まだ怒ってるのか?」
クラルテの声色や表情に怒気はないが、スピラに対して必要以上に冷たい雰囲気を感じる。その証拠にクラルテはまだ一度もスピラの名前で呼んでいない。そうした態度を取る理由は、自惚れでなければ恐らく仲間の俺をバカにされた事にあるのだろう。
「道中の時もスピラと一緒に戦うのを避けて置いていったろ。スピラの奴、お前と一緒にガーディアンと戦いたがってたぞ」
「そうだったっけ? それは気づかなかったな〜。というか、別にボクも怒ってる訳じゃないよ? なんか自然とそうなっちゃったんだよね。潜在的に対抗意識があるのかな……?」
「対抗意識って……。お前があいつに……? どう見てもクラルテの方が強いだろ……」
「あはは! それは確かに! じゃあ勇者としての勘って事で!」
「……へぇ。クラルテがそう言うってことは、スピラってやっぱり強いんだな」
「へ……? え〜? どうかな〜? というか、オチバもあの子が強いって事は分かるんだね?」
「いや、そりゃあ俺と比べたら誰だって強いだろ……。単に俺はクラルテの勘なら当たりそうだなって思っただけっていうか……。つーか、『オチバも』って科白が出てくる辺りクラルテもスピラの強さを認めてるって事じゃねぇか」
「あはは。バレちゃったか。そうだね。あの子は強い。でも、今のあの子を認めるつもりはないかな」
「……仲良くしてくれとは言わねぇけど、あんまり強く当たんのも程々にしといてやれよ? 俺は気にしてねぇんだから」
「…………しょうがないなぁ。うん、分かった。オチバが気にしてないのにボクが意固地になるのも変だしね」
と、話しながら走っている間に俺たちは門番の右側に回り込む事に成功していた。
「さて、そろそろだな……。クラルテ、付いてきてくれて助かった!」
「ううん、どういたしまして!」
クラルテには俺の狙いを話していなかったが、俺の動きから俺が何か目的を持って行動していると察して護衛に付いてくれたのだろう。
結果的に門番はスピラを標的にし続けて俺たちには目もくれなかったが、門番の魔力弾の流れ弾が飛んでこないとも言い切れない。クラルテの存在はいざという時の備えとしては大変心強かった。
「ところで、クラルテに一つ聞きたい事があるんだけど……。この状況で俺が門番の懐に入り込む方法ってあるか? あるなら可能な限り安全な経路を教えてほしい」
遠くからでは認識しきれなかったが門番の構える巨腕の下──懐では発射される魔力弾の余波や流れ弾が飛び交って危険地帯が形成されていたのだ。
このままでは近づけないと悟ってクラルテに相談すると……。
「しょうがないなぁ! ボクに任せて! 安全な方法があるからさ!」
「本当か……⁉」
クラルテにはこの状況下でも安全に進める経路が見えているらしい。
「あ、そう言えば……。『俺にクラルテを助ける力がないってんならそれが出来る力を持つ誰かに頼む』……だっけ? あれ嬉しかったよ!」
「お、お前っ⁉ 聞こえてたのか⁉」
「さぁオチバ! ボクが先導するからちゃんと付いてきてね! 案内するよ!」
「からかいやがってっ⁉ 後で覚えてろよっ⁉ え……? 待って……? 案内……?」
クラルテの不穏な指示に戸惑いつつも俺はクラルテの後ろをひた走り、強引に危険地帯を走り抜けるて門番の懐へと辿り着くのだった。
読んでいただきありがとうございます。
一週一回のペースは維持していこうと思います。




