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暫く間が空いてすみませんでした。
ゼンには予知能力が、ドミには強靭な筋力が、そしてスピラには魔力を視る魔眼があるのだと告白された。
どうやら三人のそれらの能力は魔法とは異なる希少な能力らしいのだが、正直なところ俺はあまり驚いていない。
というのも、俺にしてみれば予知だろうと、強靭な筋力だろうと、魔眼であろうと、どれも等しく魔法みたいなものだとしか思えないからだ。
むしろそれらの情報を聞いて真っ先に気になる事といえば……。
「ゼンたちって一体何者なんだよ……」
そんな希少な特殊な能力を備えているゼンたちの素性についてだった。
「それは……」
「いや、言えない事情があるなら無理に言わなくてもいいって」
言い淀む様子があるという事は込み入った事情があるのだろう。
────つーか、すっかり忘れてたぜ……。俺にはいつも変な奴らが寄ってくるってことを……。
ドミはコミュニケーションが不得手だからか腕力で解決しようとする脳筋であり、スピラは少なくとも初対面の俺に対して狂犬のように噛み付いてくるような奴だ。そしてゼンでさえも誠実そうに見えて平然と隠し事ができる策士な奴だったりと、俺は今になってこの三人が個性豊かな変人だったのだと気付かされた。
────そんでこれまでの経験上、そういう変な奴らは大抵何かしらの特殊な事情を持ってんだよな……。
ゼンたちは報酬よりも名声を欲しているらしいが、門番のコアも欲している。
ゼンはこの門番のコアについて“一般の商会では値段が付けられないから買い取れない”と教えてくれたが、それは裏を返せば“ゼンたちは門番のコアを買い取ってくれるほどの大きな組織と繋がりを持っている”という事の表れではないだろうか。
有名になることを目指し、全員が特殊な能力を持ち、大きな力を持つ組織とも繋がりを持つパーティ。
それが俺から見えるゼンたちの姿だ。平穏を望むのであれば絶対に関わるべきじゃない断言できる。
「……っと、今はこんなこと考えてる場合じゃねぇよな」
ゼンたちの正体について考えるのは後だ。今は門番の弱点、コアを叩く方法を見つけなくてはならない。
「ゼン、説明の続きを頼む」
「……分かりました。先にも言いましたがスピラは魔眼によって魔力の流れを見ることが出来ます。いえ、具体的な事は本人から直接説明を受けた方が分かりやすいでしょう。スピラ」
「……ったく、分かったよ。わたしの眼は魔力が見えるんだ。人が持つ魔力も、誰かが残した魔力の跡なんかも見える。魔力は強けりゃ強いほど濃い色になるから、わたしは見ただけで魔力の強さが測れんだ。……そうだな、例えばクラルテさん光剣って凄い眩しいよな。あの輝きが魔力だ。クラルテさんは誰でも見えるくらい強い魔力を剣に纏わせて戦ってるんだよ」
スピラはクラルテの光剣を例に挙げ、クラルテの手に握られる剣が光り輝くのは強い魔力だからだと教えてくれた。
「でもあんなに強い魔力を出す人なんて滅多にいねーんだ」
やがてスピラの視線はクラルテから外れて俺に向き、睨むような視線をぶつけられる。
しかし、そうして視線が合った事でスピラの赤い双眼がいつの間にか深紅色に染まっている事に気付いた。
「わたしの眼は光剣よりもずっと弱い魔力を見ることが出来る。魔力を持つならあれと同じようなのが全部わたしには見えんだよ」
瞳の色の変化はまさに魔眼を使用した事による影響なのだろう。
「本題に入るぞ。わたしの眼で見た感じ、門番は魔力を帯びた攻撃に反応してんだ。しかも魔力の流れからすると攻撃してきた魔力を吸収するって仕組みもあるみてーだな。多分、吸収されただけ門番の動力源にもなっちまってる……。だから剣に魔力を纏わせて戦うクラルテさんの攻撃が門番に通じてねーんだ」
「なるほど……。それなら事前に聞いてた“門番は魔力に耐性がある”って情報とも整合性が取れる。ってなると、魔力を使わない攻撃が門番には有効って事か……? いや、でも確か“門番は物理耐性も高い”って情報もあったな……。それじゃあ当然先人たちも物理的に攻撃して失敗したってことか……」
ドミの物理攻撃が門番に弾かれなかった事からも物理攻撃そのものは有効だろう。
しかし、きっと先人たちは俺たち以上に物理攻撃を試してみた筈だ。その結果が今なのだから物理攻撃も門番に通用しないと考えられる。
魔力的にも物理的にも門番に隙はないのかもしれない。
そう結論づけるしかないと思い始めていたところ……。
「…………いえ、恐らくですがイチジクさんの言う通り門番への有効策は物理攻撃で間違いありません」
ゼンが何かに気付いた。
「門番は魔力を帯びた攻撃に反応して相手の魔力を吸収して威力を下げ、尚且つ吸収した魔力をそのまま自身の動力に利用しています。だから魔力を用いた攻撃手段において門番は無類の防御力を誇っている……。イチジクさん、魔力というのは基本的に誰もが備えているものなんです」
「誰もが魔力を備えてる……? え……? なぁ、それってもしかして……。あの門番は“物理的な攻撃を無理やり魔力を用いた攻撃に変換する能力がある”って言ってんのか……?」
「恐らくそうかと。どんな人も潜在的に魔力を持っています。あの門番は相手と接触した段階で相手の潜在的な魔力を吸収し、接触部に吸収した相手の魔力を集めることで魔力を伴う攻撃へと変換しているのでしょう」
それはつまり、この門番は魔力を持つ生き物に対して絶対に負けないという事だ。
誰もが魔力を持つ以上、誰も門番を倒せない。だから先人たちも物理攻撃が門番に効かないと判断したという事だろうか。
「い、いやいや⁉ それはおかしいだろ⁉ なら何でドミの攻撃は通ってんだ⁉ 誰もが魔力を持ってるってんならドミの攻撃だって魔力を門番に利用されちまう筈だろ⁉」
「……そりゃ、ドミ姉が魔力を持ってないからだよ。だからあの門番も魔力を吸収できなくてドミ姉の攻撃を受け流せなかったんだ」
俺の疑問をスピラが一瞬にして解消する。
どういう訳か分からないが、誰もが持って当たり前である筈の魔力をドミは有していないらしい。
しかし、それはつまるところ解決策の兆しが見えたという事でもある。
「…………なるほど、ようはドミを主力にした作戦を考えるのが効果的な訳か。よし! ならさっさと作戦を……。ん? 何だよお前らボーっとして?」
「い、いえ……! ただその……切り替えの早さに驚かされたといいますか……」
「お前……。今の話を聞いてわたしたちに聞きたい事とかねーのかよ……?」
どうやら俺の切り替えの早さにゼンとスピラは驚いていたらしい。とはいえ、俺からしてみれば二人が驚く事のほうが驚きだ。
「今は何を置いても門番を倒す方法を見つねぇとクラルテたちが危ねぇんだから当然だろ。それ以外の事に気を割いてる余裕なんてねぇよ」
やっと門番の攻略になるこもしれない手掛かりを見つけられたのだ。やれる事が判明したなら足踏みなんてしてる暇はない。こうしている間にもクラルテたちは門番と相対し続けている。クラルテたちのためにも俺たちは早急に次の作戦を考えなくてはならないのだ。
「……もしかして俺がドミに魔力がないことを不思議に思ってない事に引っ掛かってんのか? だったらそんなもん気にしてねぇよ。俺だって魔力なんて持ってねぇしな」
「いえ、そんな筈は……」
ゼンは『そんな筈はない』と言おうとしたのだと思うが、身近にドミという例があるから否定しきれなかったのだろう。
これまでの会話の流れからもこの世界の人は生まれつき魔力が備わっているのが当たり前だというのが分かる。
だが、きっと俺にはそんな力はない。何故なら俺は魔力という法則の存在しない世界で生まれた生命だからだ。この体が地球産のままであるなら俺の体に魔力なんてあるわけがない。
「スピラ、俺の眼なら分かるだろ」
「…………ああ、そういう事かよ。どうやって誤魔化してんだって思ってたけど、マジだったのか。ゼン、こいつ嘘は言ってねーぜ。わたしの眼で確認した。こいつに魔力は微塵もねーよ。有ってもそれくらい使い物にならないくらいに弱い魔力だ」
やはり俺の体に魔力はなかったようだ。その事実は割と残念ではあるが、今まで魔力のない世界で魔力のない人生を送ってきた俺にとってそれほど落胆することでもない。
だからこそドミが魔力を持ってない事についても特別何かを感じたりしなかった。
「とにかく今は作戦を……って、うわっ⁉」
驚いてしまった理由は、スピラが表情を苦々しく歪ませていたからだ。
明らかに何か不満を抱えている表情をしている。
この状況でまた何か突っ掛かってこられてはたまったもんじゃない、と身構えながら恐る恐るスピラの様子を窺っていると……。
「…………お前、意味分かんねーよ」
スピラが口を開く。
「なんでお前はそんな弱いのに自信満々なんだ? おかしいだろ。魔力がないのにこんな場所まで来るなんて……。ドミ姉みたいに魔力の代わりになる力があんのかって思ったけど、やっぱそんなもんはなかった……」
その声色には静かな怒気と苛立ち──。
「お前は……。お前は何を支えにしてる……? そんなに弱い癖してどうしてそんな風に強く立ってられんだよ……?」
そして怯えの色が含まれているように感じられた。
聞き様によってはまるで煽られているみたいな科白だが、実際スピラが言う通り俺は弱い。
元の世界ではそれなりに体は動く方だったがスポーツ選手というレベルではなく、戦闘技術に関しては完全に素人だ。
そんな俺が何を支えにしているのか。
そんなものは決まってる。
「それは──」
しかし、俺が答えを言う前に状況は一変した。
「オチバっ⁉ 門番に見つかってるよ⁉」
クラルテの声が耳に入って門番の方に振り向くとまさにその巨腕から機関銃の銃口が顔を覗かせ、俺たちに向けられている。
「おいおいおい⁉ 近い奴を狙うんじゃなかったのか⁉」
今の今まで俺たちが門番の標的になることはなかった事から門番は近場の人を優先的に狙うのだとばかり俺たちは結論づけていたが、どうやらその前提は間違っていたらしい。
「つーか⁉ 今の俺たちって一応お前の隠密魔法を使ってる状態なんだよな⁉」
「そうだよ……! その上で見つかってる‼」
つまり、門番は視覚情報に頼って俺たちを狙っている訳でもないという事だ。
「……そういうことですか‼ スピラ! 魔眼を止めてください! 恐らく門番は強い魔力に反応しているんです‼」
「そういう事かよ……!」
「待て待てお前ら⁉ 俺にも説明してくれ⁉」
「ようは魔眼を使ってるからわたしを狙ってこっちに攻撃しようとしてんだよ! けどそれならわたしと一緒にいなけりゃ流れ弾がゼンたちに行くこともねーってことだなッ‼」
「あっ⁉ おいっ⁉」
「スピラ⁉ 待ってください⁉」
門番の標的が自身なのだと理解したスピラは俺とゼンにそう言い捨てると双眼を深紅に染めながら──魔眼を発動させた状態を維持しながら門番へと突き進んでいく。
その動きは門番に動きを読まれないために複雑な軌道を描くが、スピラはクラルテほどの動きをすることが出来ず門番の弾幕を躱しきれていない。
そんなスピラをクラルテとドミはフォローしに動くが一向に門番の標的はスピラのままだ。
「なんでっ⁉ 光剣を使ってるのにスピラしか狙わないっ⁉」
ゼンの予想が聞こえたクラルテは再び門番の注意を引く為に魔力を込めて光剣を構えたのだが、門番は見向きもせずスピラを狙って撃ち続けている。
「っ……‼ 魔眼を使い続けているからスピラが狙われ続けているのかもしれません‼」
「だからどういう事だよ⁉」
「スピラの魔眼は平常時は魔力を蓄えていますが、魔眼の発動時にそれら蓄えた魔力を用いて自身の体中の魔力を飛躍的に活性化させる事が出来るんです!」
なんでそんな能力を使って突っ込んでいったのか……とは流石に言えない。
間違いなくスピラは俺とゼンを門番の射線から遠ざける為に魔眼を使って遠ざかったのだ。
「ったく、俺たちの為に無茶しやがって……! 大怪我する前に何とか助ける方法を考えねぇと……‼」
「そうしたいのは山々ですが……! どうすれば……⁉ 今のスピラは門番の攻撃を避け続けるので精一杯です! それに魔眼の発動を止めるということは魔眼による身体強化も止めるということ! この状況で魔眼を止めるのは自殺行為です……!」
とはいえ、クラルテとドミも今は手を離せない。クラルテとドミの援護があるからスピラは門番の攻撃を何とか避け続けられているという状況なのだ。二人が少しでも援護の手を緩めれば門番の攻撃はスピラに命中してしまう事だろう。
「そうなるとこの状況を打破出来る奴は俺とゼンしかねぇってことかよ……! つーか、俺たち女子に守ってもらってばっかだな……⁉」
「そうなりますね……! ですが私は魔法が使える分イチジクさんよりは戦術的価値が高いかもしれません……! 妹を助ける為なら何でもします! 何か良い考えがあるなら存分に私を使ってください……!」
読んでいただきありがとうございます。




