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「それじゃ! 先ずは正面から行かせて貰うよっ!」


 クラルテはそう宣言すると魔力を纏わせた剣の切っ先を背後に隠すようにし、門番へと一直線に駆ける。

 だが門番もクラルテがこの開けた空間に足を踏み入れた瞬間から既に反応を示しており、異様な駆動音を辺りに響かせながら接近するクラルテに向けて左の巨腕を真っ直ぐに構えていた。

 とはいえ、門番とクラルテの距離はまだまだ大きく離れている。物理的にこの距離ならば門番の巨腕はクラルテに届かない。


「いや、これは危ない気がする……!」


 しかし、クラルテは門番の動作が攻撃の前触れだと直感して警戒を強くする。けれど駆ける速度は緩めない。

 直後、門番の巨腕の側面に格納されていた機関銃が顔を出し、敵対者(クラルテ)に向けて魔力の弾が放たれた。


「でも狙いが精確すぎるかなっ!」


 クラルテは即座に魔力弾の弾道を見極めると蛇行しながら避け、門番へ近づいていく。


「腕が主力なんだね……! それなら最初に狙う場所はっ!」

 

 そして門番が剣の間合いに入った瞬間、クラルテは背後に構えていた魔力を纏わせた光り輝く剣──光剣で門番の腕関節を狙って切り上げた。


 だが……。


「うえっ⁉ 手応えなし⁉ へぇ……! これは……! ただ頑丈って訳じゃなさそうだね……!」


 腕関節を切り上げた光剣は弾かれ、クラルテの動きが硬直する。

 それと同時に門番は右の巨腕をクラルテに振り下ろそうとするが……。


「ふんっ‼ 私への警戒はしてないようだな……!」


 振り上げられた門番の右巨腕へ跳躍したドミがその拳を門番の右巨腕にぶつけてクラルテに振り下ろされる軌道を逸らす。


「ドミさん! ありがとうっ!」

「気にするな。援護は任せてくれ」


 クラルテは空かさず門番から距離を取り、ドミもクラルテとは反対方向へと後退する。二人で門番を挟み込んだ形だ。

 しかし、門番は挟み込まれた事など全く意に介さず、即座に次の標的を再びクラルテに合わせて最初と同じように巨腕の機関銃から魔力弾を放っていた。


「休む間もないねっ! もしかしたら“近くの人を狙う”って事なのかもっ! それと多分この門番は何らかの方法でボクの攻撃を受け流してるんだと思う! 剣で斬った時に力が逃げていくような感じがあったんだ!」


 クラルテは魔力弾を回避しながら先程のぶつかり合いで気付いたことをオチバたちにも聞こえるよう大きな声で共有する。


「避けるのはそう難しくないけど、このままじゃ倒せそうにないかもっ!」



 ◇◆◇



 俺とゼンは息を潜めながらクラルテたちと門番の戦いを観察していた。

 クラルテが積極的に攻めに徹してドミがそのフォローをする、という戦い方は門番の情報を引き出すという意味で上手いこと効果が出ている。


 一つ目は、門番の防御力の高さについて。

 どれだけクラルテが攻撃しても門番には傷一つない。クラルテの声によれば“受け流している”ようだが、その方法は未だ不明だ。


 二つ目は、門番の持続力について。

 門番は休むことなく攻撃を出し続けている。恐らくは魔力が続く限り動き続けるのだろう。どれだけの魔力が門番に備えられているのかは不明だが、あれだけ動き続けられるところを見るに魔力残量の問題なぞないに違いない。


 三つ目は、問題の攻撃について。

 確認できる限り門番は二つの攻撃方法を持っている。“巨腕による物理的な近接攻撃”と“巨腕の側面に装備されている機関銃が放つ魔力弾による遠距離攻撃”の二つだ。これらは傍から見ているだけでも高威力な攻撃だと分かる。しかし、これは威力が高いだけでクラルテたちに当たる心配はなさそうだった。それは恐らく門番に意思がないからなのだろう。門番は裏をかくような動きをしない上に攻撃の狙いは正確無比だった。更にはクラルテからの情報によると門番は近くにいる者を優先して攻撃する傾向があるらしい。戦闘に熟知した人であればあるほど門番の攻撃は見切りやすいという訳だ。

  

 今まで誰もこの門番を突破できなかった理由がまさにこれらの理由であり、この施設の入り口で集まる同業者たちが全く悲壮感を漂わせていなかった理由もこれらだったのだろう。 


「決定打のない戦いが続くけど負けに直結する危険な攻撃は飛んでこない……。多分みんなスタミナ切れで撤退したんだろうな。だから“もっと強力な仲間がいれば次こそは門番を倒せるかもしれない”って思って入り口に残って仲間を探してる訳か……」

 

 そんなことを考えてる間にも門番の絶え間ない攻撃はクラルテたちを襲い続けている。


「マズいな……。このままじゃクラルテたちのスタミナがなくなる一方だ。早くあの門番の弱点を見つけねぇと……」


 しかし、先程から俺とゼンは気づいたことを報告しあいながら門番の弱点を探しているが目立った進展はない。


「…………ん? そう言えばゼン。門番のコアってのはどこにあるんだ? 名前的にそれが弱点っぽい響きがするんだけど……」

 

 そうして門番の弱点になりそうな場所を探している内に俺はふと門番の弱点になりそうな話をゼンがしていたのを思い出した。


「はい。確かにコアは弱点です。人で言うところの心臓のようなものですね。コアの役割は門番の体全体に動力を送ることです。ですから効率を考えれば体の中心部にあることが多いのですが……」

「じゃあ、どうにかしてあいつの体の中心に……。って、そうか。あの装甲を突破できないのが問題か……」


 クラルテの光剣で傷一つ負わせられない装甲だ。それを成すのは至難の業だろう。

 

「ですがコアを狙うという着眼点については私も同意します。なんとかしてコアからの動力供給を断てれば門番は停止する筈ですから……。現状、私たちの中でフライハイトさんの攻撃が最も威力が高い。その攻撃が通じなかった事を考慮するのであれば、今私たちが考えるべきは“装甲を無視してコアを攻撃する方法の模索”でしょうね……」


 ゼンの言っている事は合理的だ。理解できる。 

 だが、その前に一つ引っ掛かる点があった。


「……クラルテは“受け流された”って言ってたよな? 力が逃げてくような感じがするって。ようは装甲が硬いから弾かれた訳じゃないって事だ……。なぁ、これってあの門番が魔法か何かを使ってるって事なのか?」 

「……なるほど、その可能性もありえますね。予備動作が無く、意思の無い門番でも使えるという状況から推測するのなら……。一番可能性が高いのはやはり魔道具でしょう。意思がなくても発動するという点から何らかの条件を満たした時に自動で発動する魔道具か、永続的に発動している魔道具という線が考えられます。もしくはそれらの能力を持つ素材で門番が作られているという可能性も……。とはいえ、何れにしてもフライハイトさんの攻撃が通じなかったのであれば私たちの誰の攻撃であってもあの装甲は突破できないでしょうね……」


 ゼンはあの門番は力を受け流す魔道具を使っているか、そうした素材で作られている可能性が高いと推測する。


 ────それでも、まだ何か引っ掛かってんだよな……。


 もう一度クラルテたちの攻防を思い返してみる。

 クラルテが接近して、門番が攻撃し、クラルテはそれを避けて反撃するけど効果はなく、続けて門番がクラルテを攻撃して、それをドミが……。


「あっ……⁉」


 思い返してようやく何に引っ掛かっていたのかが分かった。

 

「何かお気づきになられた様子ですね……? 教えていただいても?」

「ああ! ドミは門番の巨腕を弾き返せてたんだ! 力を受け流すってんならドミの拳だって例外なく受け流される筈だ……!」


 ドミはクラルテを助けるために門番の右巨腕に拳をぶつけてその軌道を逸らしていたのだ。


「これは門番が必ずしも力を受け流している訳じゃないってことの証明だ!」

「……確かに! ではフライハイトさんの攻撃とドミの攻撃の違いに攻略の鍵があるという事ですね……!」

「そうなる筈だ!」


 クラルテとドミの攻撃の違い。直ぐに思い当たる違いはやはり武器の違いだろう。クラルテは剣を用いて攻撃し、ドミは自らの拳で攻撃を繰り出している。


 ────直接触る場合は弾かれない……? いや、ドミだって拳にナックルガードを装着してる。肌で直接門番に触れてる訳じゃねぇ。


 では“直接触れる攻撃ならば弾かれない”という事でもないのだろう。


 ────だったら威力の違い……? “脅威になり得る一定の威力を持つ攻撃を弾く”とか……。いいや、それも違うな……。確かにクラルテの光剣の威力は桁違いだけど、ドミの拳だって巨腕の軌道を逸らすだけの威力はあった。


 それはドミの攻撃が門番に効いたとも言える。ドミの攻撃は門番にとっても十分脅威になり得る攻撃だった。


 ────少なくとも俺が門番を作る立場だったらドミほどの威力の攻撃は弾けるように作るぜ……。

 

 そう考えると“威力を理由に攻撃を弾いている”という可能性はかなり低いように思える。


 ────他にクラルテとドミの違いってなると……。門番に攻撃を加えた時の部位の違い……も違うな。


 確かに初撃でクラルテは門番の関節部を攻撃し、ドミは門番の巨腕そのものを攻撃していた。

 だが、その後もクラルテは門番の関節部以外の箇所にも攻撃を試みている。そして残念ながらクラルテの攻撃は全て弾かれる結果となっていた。

 つまり、“部位によって攻撃を弾く箇所がある”という線もない。


 ────なら攻撃する時の体勢が問題か……?


 ドミは拳を門番の巨腕に攻撃する際、対象が頭上より高い位置にあることもあって跳躍しながら攻撃している。足が地に接していないのだ。

 対してクラルテはしっかり地面と足を接地させた状態で剣を振るっている。


 ────攻撃した本人の体を通して地面に力を受け流してるとしたら……。いや、それも違う……。それが事実なら“門番は遠距離攻撃に弱い”って情報がもっと流れてる筈だ……。


 それに力を地面に受け流すのであれば、それは攻撃者の体ではなく門番自身の体を利用して地面に受け流す方がより確実だろう。

 また、攻撃した本人(クラルテ)を通して地面に力を受け流すにしてもあれだけの威力だ。クラルテ自身に何の変化もないというのは不自然極まりない。

 ならば地面に力を受け流しているという事もないのだろう。


「くそっ! 分っかんねぇ……!」

「…………ゼン、気付いたことあんだけど?」


 俺が頭を捻って考えているとスピラが何かに気付いた。


「それはスピラの力で分かったことですか?」

「……ああ。そうだけど文句あるか」


 ゼンの問いにスピラはバツの悪そうな顔を浮かべつつ、反発的な態度で答える。 


 事前に共有していた話において“スピラの力”というのを俺は聞いていない。全く知らない初耳の情報だ。


「……その力を使う際には一言相談してほしいのですが、分かりました。スピラ、気付いたことを教えて下さい」

「ゼンたちはクラルテさんとドミ姉の戦い方の違いに悩んでんだろ? それって“魔力で戦ってるかどうか”ってことなんじゃねーの?」


 そしてスピラは当たり前のようにクラルテとドミの違いを指摘した。


 ────魔力で戦う…………?


 だが、俺にはスピラが何を言っているのか理解が追いつかない。


「……なるほど。確かにそれなら()()()()()()()()()()()()()のにも頷けますね」

「…………話の腰を折るようで悪い。教えてくれると助かる。どういうことだ?」


 スピラの言葉にゼンは理解を示すが、俺にはなんの事だかさっぱり分からず説明を求める。


「そうでしたね。スピラの能力については共有していませんでしたのでオチバさんが分からないのも無理はありません。すみませんでした」

「スピラの能力……?」


 これはつまり、パーティを組んだのに敢えて共有しなかった情報があったという事なのだろう。


 とはいえ、それは咎めることじゃないのかもしれない。この殺伐とした世界で初対面の相手に手札を全て見せるのは自殺行為に等しいと思えるからだ。

 奥の手は隠しておくべきであり、逆の立場なら俺だって全ての手札を晒すことはしないだろう。


 完全に割り切れた訳じゃないがここでゼンたちを責めるのはお門違いだという事くらい分かる。

 そもそもこんな危険な場所に足を踏み入れたことそのものが自己責任なのだ。


「いや、別に謝る必要とかはねぇって。危険な世界だしな。奥の手の一つや二つくらい持って当然だ。むしろ、その奥の手でこの状況を打破できるってんなら礼を言いたいくらいだぜ」


 奥の手どころか戦闘能力すら皆無のくせしてこんな場所にやって来てしまった自分自身にほとほと呆れつつ、今の本音を吐露する。

 しかし、どういう訳かそうした俺の返答にゼンとスピラは驚愕している様子だった。


「ど、どうした二人とも……?」

「い、いえ……。下手をすれば命に関わるような事を隠していたというのにそうした反応をされるとは思っていなかったので……。改めて申し訳ありませんでした。その懐の広さに感謝します」

「……騙されてたようなもんなのに怒らねーのな。弱い奴なりの処世術ってやつか? けど、身の程をちょっとは分かったみてーだな」

「おいおいおい⁉ ゼンはともかくお前はマジでどうした⁉ それ褒めてるつもりか⁉ いや、絶対バカにしてるだろ⁉」

「な……⁉ お前呼ばわりしやがって……‼ せっかく少しは認めてやろうかと思ったけどやっぱなしだ‼ つーか、今はドミ姉とクラルテさんの方だろ‼」

「お、おおう……。それは間違いねぇんだけど……。釈然としねぇな……」


 スピラの心境にどんな変化が起こったのか分からないが、クラルテたちを優先することに関しては俺も賛成だ。


「それじゃ話を戻すけど、クラルテとドミの違いが“魔力で戦ってること”だとか、“スピラにしか気付けなかったのも無理はない”って科白(せりふ)について、話せる範囲で説明してくれるんだよな?」


 俺の問いにゼンはスピラを一瞥(いちべつ)し、スピラが頷いたのを確認して口を開く。


「……説明しましょう。イチジクさんとフライハイトさんに共有していなかった私たちの情報について。私たち兄妹にはそれぞれ特殊な力があるのです。私には限定的な予知能力が、ドミには魔力を必要としない強靭な筋力が、そしてスピラには魔力を目視できる魔眼があるのです」

「…………なるほど、さてはお前ら只者じゃねぇな?」

 

 俺は今になってゼンたちが普通の冒険者でないことに気付き始めるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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