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いつも読んでいただきありがとうございます。

今日は二回投稿していますので最新話で来た方は今話を読む前に前話の確認をよろしくお願いします。

 

 イルハイアたちが身を寄せた小屋は亜人村の狩人たちが狩りに使う道具や罠を作る場所として、そして狩った獣の処理をする場所として頻繁に利用されている場所だ。

 つまり、この小屋の住居設備は最低限のものしかなく、広くないこの小屋の中で交わされる大人たちの会話は否が応でも同じ小屋の中にいるイルハイアの耳に筒抜けだった。


「族長、奴らの目的は何なんでしょうか?」

「殲滅が目的ではない……のでしょう。それが目的であれば子供たちを見逃す理由はない。逆に言えばこうして子供たちを捕まえもせず見逃しているという事は、彼らの目的は子供らになかったと考えられます」 

「では奴らの狙いは我々大人にあると?」

「状況からするとその可能性は否定できませんが……。その先にあるであろう目的は見えませんね……」


 村の子供たちの中でも年長者であるイルハイアは大人たちの会話内容が理解できてしまう。

 この時イルハイアは、大人たちの会話を理解できなくて状況が分からないままでいられる年少の仲間たちの事を少し恨めしいと感じてしまっていた。


 ────いや、違う……! 仲間の事をそんな風に思っちゃだめだ……! オレたちは協力しないと……! きっと父さんなら……。父さん……? そう言えば父さんは……?


 状況が落ち着いてきて考える余裕が生まれてくるとイルハイアの脳裏に父が過る。

 小屋に着いてからの族長たちの会話を思い返してみても父の話をしていた覚えはイルハイアにない。それはイルハイアが気持ちを落ち着けられず聞き逃していただけなのかもしれなかったが、一度気になってしまったらもう聞かずにはいられなかった。


「…………族長。村に残った父さんたちは戻ってくるんだよな……?」 

「……アルガイアは私たちに一晩この小屋で待つように言っていた。今晩中にアルガイアたちが戻らなければ明日の朝、残りの大人たちで村の様子を確認しに行くつもりです。…………今は無理をしてでも眠って体力を温存しなさい。いざという時に動けなくなると後悔しますよ」


 族長はイルハイアが望むような希望的観測を口にしない。

 それがどういう意味なのかはイルハイアにも分かった。

 だからイルハイアは族長の言う通り目を瞑り、ただ時間が過ぎ行くのを待つ事にする。

 そうして時間だけが過ぎていき……。


「…………覚悟を決めるしかないようですね」


 日を跨いでもアルガイアたちが小屋に現れなかった事で族長がその一言を口にした。

 この夜、余裕をなくした様子の大人たちが明け方まで話し合っていたのをイルハイアは覚えている。




「イルハイア。私たちはこれから村の様子を確認しに行く。万全を期して一塊(ひとかたまり)にならないで村へと向かいますが……。最悪の場合もあり得ます。明日の日の出までに私たちが誰一人戻らなければ子供たちを連れて北にある人間の村に行きなさい。その時はお前がこの子らの長です」

「…………分かったよ、族長」


 日の出を迎えるとイルハイアは族長直々に仲間たちを率いるように命じられた。 

 イルハイアが族長の命令に従ったのは意地だ。

 本当は族長らと共に村に行って父の安否をこの目で確かめたかったが、アルガイアの子として立派に胸を張れる自分を思い描いた時、この状況で年少の仲間たちを見捨てる選択はしてはいけないと思ったからだった。




 族長たちが出発し、日が中天に昇り、暮れ、夜を迎え、次の朝日が昇る。 

 (つい)に族長たちも日の出までにイルハイアたちの待つ小屋に戻って来なかった。

 イルハイアは族長らが逃げたとは考えていない。昨日出立した族長らは決死の覚悟をその顔に滲ませていたからだ。


 ────それだけ村が危険な場所になってるんだ……。


 この時、イルハイアの覚悟は定まった。


「族長の命令でこれからお前たちは戦士アルガイアの子、イルハイアが守る。みんなオレについてこい」 


 元々面倒見のいいイルハイアは年少たちから好かれていたというのもあり、イルハイアに反対する者はいなかった。

 イルハイアは年少たちに北の人間の村──ハウデムに向かう事を告げ、仲間と共に小屋を発つ。

 そうして最後にイルハイアたちは故郷との別れを済ませるつもりで亜人村の方角へと目を向けたのだが……。


「なんだよ、あれ……」


 そこで妙な建築物を見つけた。

 距離からして亜人村に建造されている訳ではないと分かるが、亜人村からそう遠くない位置にあるのは間違いない。数日前までは確実に存在しなかった巨大な建築物がいつの間にか建てられていた。

 この建築物は恐らくあのローブの集団によって建造されたものなのだろう。

 仲間を蹂躙され、生まれ育った故郷も好き勝手にされた。

 それ意識した瞬間にイルハイアは今にも飛び出してしまいそうになったが、無理やりその気持ちを抑えつける。


 ────父さんが勝てなかった相手に今のオレたちが適う筈もない……。我慢しろ……。


 イルハイアはこの屈辱的な光景と復讐心を心に刻み、心を押し殺して仲間を連れて旅立った。




 旅立ちから二日が過ぎ、イルハイアたちはようやくハウデムを目視する。

 しかし、ここでイルハイアはいよいよ目を背けていた事と向き合う事になった。


 ────オレたちはこの人間の村に来て何をする……?


 族長からの指示はここで終わっている。それはここから先の判断は現場の長であるイルハイアがすべきことだと考えたからなのだろう。

 人間に助けを求めるのか。それともローブの集団のように人間から奪うという選択肢を取るのか。他にもハウデムから伸びる街道に沿って他の村や街に向かう手もある。


 ────けど、人間を……。しかも仲間じゃないやつを信じられるか……?


 亜人村では“あまり人間と近づき過ぎないように”と教えられてきた。

 それに加え、蹂躙された村のことを思うとどうしても見ず知らずの他者を信じるという事がイルハイアには出来なかった。

 かといって、仲間の安全を優先するなら強硬手段に頼るのは危険極まりないというのもイルハイアは理解している。


 ────オレは……。どうすれば……。


 イルハイアの判断能力、思考能力は大きく鈍っていた。

 これにはストレスによる影響も大いにあるだろうが、それだけじゃない。

 イルハイアたちは狩人の小屋から狩りの道具を幾つか持ち出してはいたが、狩人として未熟な腕のイルハイアたちでは狩りを上手に熟せず、小屋を出てからのこの数日を殆ど飲まず食わずで過ごしていたというのも判断能力や思考能力を著しく鈍らせる要因だったと言えるだろう。


 ────だめだ……。体力がないのに戦っちゃいけない……。


 結局イルハイアは一晩考えても今後の判断に明確な答えを出す事が出来なかった。

 極限状態になっても強硬手段に出ないのはイルハイアの我慢強さや精神力の強さを物語っていると言えるだろう。 

 だが、年少の仲間たちは違う。イルハイアよりも体力や精神力が未熟な彼らがそんな状況に耐えられる筈もない。



 翌朝、ようやくイルハイアは仲間たちの精神と健康状態が限界寸前なのだと気がついた。


 ────間違ってた……。悩んでる場合じゃなかった……。


 虚ろな目をする者。ギラついた目をする者。体力を温存する為に動かず、辛うじて呼吸だけする者。

 早々に手を打たなければ死者が出てしまうような状況だ。


「…………オレたちはこれからこの村の畑から作物を盗む。オレの指示通りに動いてくれ」


 この日、イルハイアはハウデムの作物を盗む決断を下した。 

 そしてイルハイアたちは人目のないタイミングでハウデムの外れにある畑に押し入り、難なく作物を盗んだ。


「……ごめんなさい、父さん」


 狩猟を生活基盤とする亜人村では殆どの者が狩人として身を立てる。

 彼らは日々の研鑽を重ねて狩りの技術を向上させ、そうして得た技術による成果に誇りを持つ文化があった。

 だから亜人村では“戦いに工夫を重ねる者”を戦士として認める風習もある。

 逆に“己の才能に溺れる行為”や“誇りを穢す行為”は亜人村の文化において何よりも忌避されていた。

 例えば、魔力に頼り切って技術も何もない戦い方など亜人村では誇りある戦士として認められない。当然、他者の成果を奪う行為に誇りがあるなど認められる筈もない。

 年端もいかない年少たちにそうした意識が定着していたかは定かでないが、少なくともイルハイアは自ら(おこな)った“誇りなき行動”に自責の念を強く感じていた。 

 しかし、どんなに強く後悔すると分かっていても、村が襲われたことを思えば“見知らぬ人間を信用して頼る”という選択をするなどイルハイアには出来なかったのだ。


 ────仲間だけは守るから……。だから許してほしい、父さん……。



 

 一度目が上手く行けば二度目のハードルは大きく下がる。

 “簡単に食料が盗めてしまった”という事実は、イルハイアたちに“次もハウデムの作物を盗もう”という選択肢を容易に与えてしまう。

 盗みを成功させた翌日、イルハイアたちはまたしてもハウデムの畑から作物を盗んだ。 

 そうして連日ハウデムの作物を盗むことに成功してしまった事でイルハイアたちの盗みに対するハードルは本人たちが意識しないままにどんどん下がっていく。





「行商人から盗む……?」


 二日連続で盗みを成功させた翌日、“街道からハウデムに近づいてくる行商人の荷物を強奪しよう”という提案が仲間たちから上がった。


「……食料なら畑から盗るのだけで足りてるだろ」


 イルハイアはその提案に消極的だがはっきりと反対はしない。本人も気づかない内に盗む事に対するハードルが下がっているのが見て取れた。

 だが、却下されないのであれば仲間たちも提案を取り下げる理由はない。

 連続して盗みの成功をさせたのだから今度も成功すると根拠なく主張する者。

 戦いになれば人間に負ける筈ないとこれも根拠なく豪語する者。

 普段のイルハイアであればそんな意見に流される事はなかっただろう。

 しかし、この二日間で成功させた盗みの成功体験がイルハイアの判断を甘くした。 


「分かった……。行商人から荷物を盗もう」


 そして行商人を襲うイルハイアたちの作戦は実行に移され、失敗に終わった。

 行商人だって無策のまま魔獣や魔物に襲われる危険のある街道を通ったりはしない。しかも護衛を連れていないのであれば尚更それ相応の身を守る手段を持っていると見るべきなのだ。

 そうした考えに至らなかったのは、やはりイルハイアたちが慢心していたからとしか言いようがない。


 ────危なかった……。もしかしたら……。誰か死んでてもおかしくなかった……。


 行商人は魔道具を持っていた。イルハイアたちにとって幸運だったのは行商人の所持する魔道具が防衛と逃走に向いた魔道具であった事だろう。もし攻撃性能の高い魔道具を所持されていたならイルハイアたちは返り討ちにあっていたに違いない。

 今回イルハイアたちが助かったのは単なる偶然で、運が良かっただけだった。


 ────油断してた……。調子に乗ってた……。オレはみんなの命をあずかってるのに……。


 だが、この失敗は巡り巡ってイルハイアたちにとって功を奏したのかもしれない。

 この失敗があったからこそイルハイアは仲間を失う事を極度に恐れるようになり、ハウデムの作物を盗む行為も今までより慎重になろうと決心する切っ掛けになったからだ。


 ────もし次があるなら相手をもっと調べてからじゃなきゃだめだ……。


 また、“対人戦闘を想定するなら相手を慎重に見定めてから”という教訓もイルハイアは得た。

 尤もこの件以降“ハウデムの付近に盗賊が出没する”という噂が広がり、ハウデムに寄ろうとする行商人は全く現れなかったわけだが。




 こうしてハウデムの住人との接触を極力避けつつ、ハウデムの作物を盗んで日々を凌ぐ生活が二週間ほど過ぎた頃、“立派な魔馬車がハウデムに近づいている”という情報が街道を見張る仲間からイルハイアに届いた。

 イルハイアたちは前回の反省を活かして予め遠くから観察し、包囲網を作りつつ相手の戦力を測る。

 この段階でイルハイアが問題ありと判断すれば強襲作戦は中止となったはずなのだが……。


「…………強いやつがいる気配はないな」


 この時、魔馬車内にいるクラルテやフォルグーンといった強者たちは魔力の回復に集中していて周囲に気取られるような気配を発していなかった。

 その上、御者台にいる人物──オチバからは強者の気配など一切感じられず、緊張感も警戒心も感じられない。オチバと視線が合って存在がバレた仲間もいたようだが、それでも特にこれといって警戒される様子がなかったのはむしろ決行を後押しする要素にすらなった。

 イルハイアたちが作戦を断念する理由など何処にもない。


「よし、やるぞ……!」 


 強襲決行の合図としてイルハイアが魔馬車の前に飛び出していく。


 これが亜人村が襲われてから今日(こんにち)に至るまでの二十二日間の出来事だった。

読んでいただきありがとうございます。

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