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誤字報告ありがとうございます。

タイトルのナンバリングを修正しました。


 モルテ=フィーレ共和国では“冒険者”という言葉は浸透していない。少なくとも俺がこの世界に来てからというもの冒険者という言葉は耳にしていない。

 クラルテとギルドに行った時も冒険者という単語を目にしておらず、ギルド職員に話を聞くまで耳にしなかった。

 そしてギルド職員から聞いた話によると、冒険者という言葉が浸透していないのはギルドが依頼を受ける人々のことを“冒険者”ではなく“依頼請負人”と呼称しているから……との事らしい。

 何故ギルドがそのように呼称しているかというと、それはギルドに様々な依頼が集まる事に理由があるという。

 というのも、ギルドに集まる依頼は事務系の依頼から命懸けの依頼など多岐に渡って存在し、冒険とは無縁の依頼がその多くを占めているからだとか。 

 故に“冒険者”という名称ではなく“依頼請負人”という名称が定着したのだとギルド職員は教えてくれた。  


 また、ギルドの依頼を受けるにあたって俺も依頼請負人としてギルドに登録したのだが、なんでも依頼請負人にはランクや等級といった上下の区分が存在しないという。SランクやAランクといった区分がないのだ。


 だから一部の腕自慢の依頼請負人たちは称号や異名などの肩書きで上下関係を測るらしい。

 

 ────となると、地下研究施設の前に集まってるこいつらはクラルテの登場にさぞ困ったろうな。


 純白のマントは聖教会から勇者の証として贈られるものであり、勇者なんて肩書きを引っさげた人物は明らかにこの場の誰よりも格上の存在だ。ファーストコンタクトは誰だって慎重になる。 

 しかし、そんな中でスピラは俺たちに声を掛けてきた。

 それはクラルテが勇者だとスピラが気づいていなかったからのようだが、スピラの仲間のゼンはその反応を見るにクラルテを勇者だと気づいていたに違いない。


 ────つまり、ゼンはクラルテが勇者だと分かっていた上でスピラがクラルテに近づくのを止めなかった……って可能性がある訳だ。

 

 真偽は不明だが結果的にゼンたちは誰よりも早く俺たちと接触し、共に行動する事となった。

 

 ────ひょっとするとゼンは俺が思っている以上に策士なのかもしんねぇな。



 ◇◆◇



 純白のマントを纏ったその少女がこの場に現れた瞬間、私を含めたこの場の誰もが彼女を勇者と認識し、誰がいち早く彼女を仲間に出来るかという牽制と硬直の状態が生まれました。

 勇者である彼女を仲間に出来れば防衛設備の攻略の難易度は大きく下がる事でしょう。

 しかし、もし彼女が横暴な性格であったとしたら仲間にするのは危険な行為にもなり得てしまう。

 “仲間にしたいが先ずは勇者の様子を見極めてから”という空気が私たちの間では流れていました。

 ですが、相手が勇者だと気づいていなかった妹のスピラは既に勇者へと近づいていたのです。 

 スピラが勇者へ接近していく事に気づいた時、まだ私はスピラを静止さる事が出来たでしょう。

 ですがそうしなかった。私にはこれが絶好の機会だと思えて仕方なかったからです。

 下心を隠しようもない私よりも、何も気づいていない無邪気なスピラなら好感を持たれる可能性は高いだろうと。

 加えてスピラは勇者に憧れを持っています。それらを加味し、私は誰よりも早く勇者と接触する事を優先してスピラを送り出す事にしました。 

 その結果、まさかスピラが相手方と関係を悪化させてしまうというのは全く思いもよりませんでしたが。

 しかし、なんとか完全に拗れるような事態にはならずに済み、話を聞いてもらえる場まで用意してもらえたことは勇者フライハイトさんとイチジクさんの温情でしょう。

 

 そうして自己紹介が始まったのですが、私はこの自己紹介が始まるまでイチジクさんはフライハイトさんの従者だと思っていました。

 ですが、イチジクさんの自己紹介を聞いて私は自身の思い違いに気づかされました。


 イチジクさんは家名持ちでした。

 つまり、彼は爵位を持つ貴族である可能性が浮上したのです。

 家名があることが貴族の証拠にはなりませんが、もし貴族であった場合は下手な行動は命取りになりかねません。 

 すぐにイチジクさんから実家はずっと遠い場所にあるから安心して欲しいという言葉が返ってきましたが、言い換えればそれはずっと遠いその場所では貴族であるという意味に私は聞こえました。 

 更には『代々家名を守ってきたご先祖様たち』という科白と『化けて出る』という呪いを彷彿とさせる科白にも引っ掛かりを覚えます。

 そして多少粗暴な雰囲気ながらも教養を感じさせる話し方からも、オチバ・イチジクという人物が只者ではない何かを秘めていると私は確信しました。

 勇者と行動を共にしていることも何かしらの事情があってのことだと考えるのが自然です。


 そうした事情から察せられる答えは恐らく遠い異国の地における高位の家柄に連なる人物なのでしょう。

 


 ◇◆◇

 


 わたしは強い人に敬意を払う。 

 例えばドミ姉やクラルテさんがそうだ。

 

 強靭な身体能力を持つドミ姉にわたしは今まで一度も腕力で勝てた試しがない。

 だからわたしはドミ姉を尊敬してる。

 

 クラルテさんは勇者だ。勇者は魔王を倒した実績がないとなれない。

 だからクラルテさんは初めて会ったけど尊敬できる。


 でも逆に、わたしは弱い奴を尊敬できない。

 ゼンなんかがそうだ。力が強いわけでもないし、使う魔法だって特別強力って訳じゃない。

 ゼンはわたしより弱い。

 だからわたしはいつからかゼンを呼び捨てにするようになった。

 別にゼンが嫌いな訳じゃない。好きか嫌いで言うなら好きな部類だと思う。もちろん家族として。

 でも、それでもわたしは弱い奴を尊敬できない。きっとそういう性分なんだと思う。

 

 そんな性分だからオチバって奴の事も当然わたしは尊敬なんて出来っこなかった。

 口の回るこのオチバという奴は少しだけゼンと似ている気もするけど、ゼンとは決定的に違う点がある。

 それは、“身の程を弁えていない”という点だ。

 その点がゼンと大きく違う。

 わたしはこのオチバって奴がゼンよりもずっと弱いってのがすぐに分かった。得物もなく、魔力は纏ってない。隙だらけの姿勢だ。

 オチバ(こいつ)はこの中の誰よりも弱い。 

 なのにオチバ(こいつ)はわたしたちと対等な立場にいるみたいな顔で偉そうな口をきいてる。

 わたしは弱い奴がくよくよしてるのも嫌いだけど、弱い癖に威張ってるような奴はもっと嫌いだ。

 もちろんそんな奴らがこの世の中には沢山いるってのは分かってるし、そんな奴らにいちいち噛み付いてたらきりが無いって事も分かってる。

 

 きっと、いつものわたしならこのオチバって雑魚の事も無視してたと思う。

 けど、この雑魚の隣にはクラルテさんがいた。

 勇者はわたしの憧れだ。こんな自衛すら出来ないような奴が勇者の仲間だなんて信じられなかった。

 だから無視できなかった。


 観察すればするほどこのオチバって奴の弱さが見えてくる。わたしがどれだけ圧を掛けても気づくことすらしない。この場の誰よりも弱いのはこのオチバだった。

 それをオチバ(こいつ)は理解してない。だからこいつは平然とした様子でいられる。

 それが心底からムカついた。

 弱い癖にクラルテさんと一緒にいる事が気に入らなかった。


「要するに今の状況は物怖じしないスピラが動いた結果、誰よりも早く俺たちに接触したってことだな」


 そして今、あろう事かこいつはクラルテさんに向けたわたしの弁明をそんな風にまとめやがった。しかも呼び捨てだ。

 こんな格下の奴に舐められてるのが許せなかった。悔しかった。


 けど、一番悔しかったのは一瞬でもゼンの思惑を見抜いたコイツに一目を置いてしまった事だ。

 兄妹として過ごしてきたからゼンの反応を見れば分かる。この雑魚はゼンの考えを読み切っていた。

 この雑魚にちょっとでも後れを取っている事実が何よりも悔しかった。


「お見それしました。イチジクさんのその洞察力はとても頼りになるに違いません。是非とも組んでもらえませんか?」

「褒められるのは悪い気がしねぇけど、返事をするにはまだ判断材料が足りねぇな。取り敢えずゼンたちと組むメリットってのを俺に教えてくれよ。損にならないんだろ? それとゼンがさっきスピラを止めるときに言ってた“目的”ってのも俺は気になってる。ゼンたちにはギルドの依頼以外の目的があるってことか?」


 またこいつはわたしを呼び捨てにしやがった。

 どうしてクラルテさんはこんな無礼な奴と一緒にいるんだろう。

 さっきの自己紹介でクラルテさんはこいつのことを強いって言っていたけど、こいつから強者の気配は一切感じられない。 

 クラルテさんが騙されてるのか、それとも本当はわたしが気づけないくらいこいつが実力を隠すのが上手いのか。

 わたしが訝しんでいる間にもゼンたちの会話は進む。


「分かりました。では先ず私たちと組むメリットから。一つ目は戦力の増加。二つ目は地下研究施設の間取り情報です。私たち一緒に行動すれば真っ直ぐ防衛設備の場所に行くことが出来ます」

「おお、道案内は魅力的だな」

「まだ提示出来るものがありますよ。先ほども少しだけ言いましたが、地下施設に入るには順番待ちが必要なんです。いま私たちはその順番待ちをしていまして。私たちと組むことで今から順番待ちするよりも先んじて地下研究施設へ入れます」

「なるほど。取り分け急いでるって訳じゃねぇけど……。好き好んで待ちぼうけしたくはねぇし一応助かる話だな」 

「それに報酬や地下研究施設で発見した魔道具に関してもイチジクさんたちが全て引き取ってもらって結構です。無名の私たちにとって勇者とパーティを組んだという事実は良い風評になりますし、なにより私たちが勇者のパーティに匹敵するほどの実力を持っていると思えませんから」 

「……ちょっと待ってくれ。それって要するにゼンたちは報酬を受け取らねぇって意味だろ? 俺たちからしてみれば嬉しい話だけど、返って何か裏がありそうで怪しく思えちまうんだが……」

「そうですね。裏はあります。依頼の報酬及び地下研究施設で発見された魔道具を全てイチジクさんたちに譲る代わりに、二つほど私たちはイチジクさんたちにお願いしたい事があるのです」

「お願い? それがゼンたちの本当の目的に繋がるってことか?」 

「ええ。私たちはある目的を持ってこの地下研究施設を訪れました。その目的を達成する為ならば依頼の報酬に固執するつもりはありません。私たちの目的は名声と防衛設備である門番のコアにあるのです。二つのお願いというのは、名声の為にギルドへの依頼達成報告を私たちに譲ってほしいという点が一つ。もう一つは門番のコアを譲ってほしいという点です」

「門番のコア……?」

「門番のコアはその名の通り門番の活動を維持するのに必要な核のことです。これは魔道具という訳ではなく、言ってしまえば討伐証明の部位と認識していただければと」

「……それってひょっとして高く売れたりするのか? 実はそれを売った方が報酬より上手いって話なら考えたいところだけど……」

「確かに売れるならそれなりの価格になるとは思います。ですが流通量があまりにも少なく、ギルドや一般の商会では値段がつけられないと思いますから大きな商会や大貴族といった相手との(つて)が必要になるでしょうね」

「なら俺じゃ売れそうにないな。クラルテはそういう伝ってあるか?」

「残念だけどボクもないかな」 

「じゃあ仕方ないな。その門番のコアってのを譲る事については問題ねぇ。けど名声ってのはなんだ? この地下研究施設の三階層を突破するだけで手に入るもんなのか?」 

「地下研究施設の問題はモルテ=フィーレ共和国でも大きな悩みの種ですからね。解決に貢献したとあれば注目が集まり、名声が得られます。ですから具体的には、私たち主導で依頼を完了したという記録が残せるようギルドへの報告を私たちに任せてほしいのです」


 そうだ。わたしたちは名声を得るためにここまで来た。

 けど、この防衛設備って門番がとんでもなく強いって評判を聞いたゼンは他のパーティと組むことにしやがったんだ。わたしがいればそんな門番は敵じゃねーのに。

 

 しかもゼンは『どのパーティと組むかは慎重になるべきだ』って言って時間を掛けすぎてる。なんでも、パーティを組んだときに主導権を握る必要があるからって事らしい。

 だからわたしたちはゼンの判断で四人以上のパーティと組むって事をしなかった。人数差で主導権を奪われる可能性が高いからだ。

 

 そんな時に都合よく二人組が現れて、とにかくパーティを組んで防衛設備に挑む事しか頭になかったわたしはゼンの判断も待たずに動き出していた。クラルテさんが勇者だって気づけなかったのはそれが理由だ。


「とはいえ、イチジクさんたちも名声を求めてやって来たというのであればこの提案は難しい話になるのですが……。どうでしょうか?」

「いや。俺もクラルテも問題なねぇな。俺たちにとっても美味しい話だ。その提案、乗らせて貰えると助かる。よろしく頼むぜ、ゼン」

「そうですか……! ありがとうございます。此方こそよろしくお願いします、イチジクさん。フライハイトさん」


 ゼンのお陰でクラルテさんを仲間に引き入れることが出来た。

 だからってわたしはオチバ(こいつ)を肩を並べる仲間だとは思ってない。

 

 でも、ゼンはオチバ(こいつ)に“()()”を感じ取ったからクラルテさんじゃなくオチバ(こいつ)を交渉相手にした。

 きっとクラルテさんもこいつ(オチバ)に“()()”があるから一緒に行動してる。


 もしかしたら本当にオチバ(こいつ)にはわたしが気づけてない“()()”があるのかもしれない。

 わたしは、オチバ(こいつ)の持つその“()()”が気になり始めていた。

 

読んでいただきありがとうございます。

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