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ちょっと短いですがキリがいいので。

 果たしてネーロに向けた俺の渾身の叫びによる成果は……。


「ふん、面白い……! その言葉! ゆめゆめ忘れるなよ?」 


 ネーロの魔法は軌道を変え、あらぬ方向へと飛んでいった。

 間一髪、ネーロの攻撃を中断させる事に成功したのだ。


 ────た、助かった〜〜〜〜っ‼


 しかし、生存を喜んだのもつかの間……。


 ────え……? いや、待て待て⁉ そっちにはクラルテが……⁉ 


 軌道を変えたネーロの魔法が行き着く先を確認して俺は顔を青ざめさせた。

 ネーロの卓越した制御によって確かにネーロの魔法は俺を避けた。

 だがその代わり、軌道を変えたネーロの魔法はクラルテとラスバブを新たな標的としたのだ。

 元より二人を狙っていたネーロの魔法と合わさり、より強力な弾幕が二人に襲い掛かる。

 ラスバブは(もや)で防御をするも物量により敢え無く上空に吹き飛ばされ、クラルテはラスバブを盾にする位置取りでネーロの魔法を受けて被害を最小限に留めたものの後方へと吹き飛ばされていく。


「クラルテっ⁉」


 その後もネーロの弾幕は二人を目掛けて降り注ぎ続け、砂塵が舞う。


 やがて全てのネーロの魔法が発射し終え、砂塵の晴れると、ラスバブはうつ伏せの状態、クラルテは施設の支柱に叩きつけられて横たわる状態なのが確認できた。


 「やはり私の最大出力の魔法を受け止めることは出来なかったか。だがこれで邪魔な奴らは消えた」


 クラルテの安否が気になるところだが……。


 ────こ、こっちに来やがる……⁉


 二人との決着がついた今、ネーロの関心は俺に向いている。ほぼ間違いなく俺が提示した決闘の勝利条件についてだろう。無視はできない。


「イチジク……。いや、オチバと呼んだ方がいいか」


 ネーロは俺の名前を把握していた。恐らくクラルテの発言から推察したのだろう。

  

 ────名前がバレちまってる……⁉ いや、落ち着け……。もう名前がどうこうって状況はとうに過ぎてる……。それにこいつの雰囲気だってそう悪い感じって訳じゃねぇ……。


 ネーロの表情や口調からは攻撃的な雰囲気は感じられなかった。


「よ、呼び方は好きに呼んでくれ。中のいい奴はオチバって呼び捨てにしてるぜ」

「ほう、ならばオチバと呼ぼう。私はお前を気に入った。まさかこの私の魔法を話術だけで回避するとはな。面白い」


 口から出任せだったが結果的にネーロのお眼鏡にかなったようだ。


「お前の持つそのような性質を魔性と呼ぶのだろうな」

「は……? 魔性……?」

「自覚なしか。それとも分かっていて惚けたフリをしているのか。ふん、まぁどちらでもいい。お前は王の決定を覆した。そしてそこに横たわる二人は私に及ばずとも強者であったが、その両者のいずれもがお前に傾倒していた。覚えておけ。強者を惹き付け、誑かし、意のままに操る性質、それが魔性だ」

「誑かすって……。人聞きが悪すぎるだろ……」


 確かに俺は変人を惹きつけてしまう星の下に生まれているのかもしれないが、断じて好き好んで変人たちを誑かそうなんて思ってたりはしない。

 それにその理屈で言えば俺に絡んできた漏れなく変人たちは強者ということになる。いや、変人は強者か。


「……っと、一瞬納得しちまいそうになったじゃねぇか⁉ 悪いがお前の想像は的外れだよ。俺は誰かを意のままに操ろうだなんて思ったことは一度もねぇし、実際に意のままに操れたことだって今まで一度もねぇからな」

「それはお前が単に気づいていないだけに過ぎない……が、今はそんな話はどうでもいい」

「お、お前が広げた話だろうが……⁉」

「ふん。それよりもだ。私はいずれ王となる。その時、私を支える優秀な配下たちが必要だ。オチバ、私はお前のその才能が欲しい。私の配下になることを許そう」

「は……? 勧誘……? えぇ……? これ会話成立してるか……?」


 正直なところ、なる訳がない。

 しかしながら、正面きってそれを言う勇気もない。

 というか、言ったところで穏便に収まる予感がしない。


「…………あー、分かった分かった。それならリーノとの決闘に勝ったら考える方向で」


 どう答えても碌な展開にならないと判断し、俺は又しても未来の俺に問題を先送りする。

 

「ほう。流石は私が見込んだ智謀よ。私が誇り高き決闘を無視できないと踏んでの交渉か。ならば話は早い。オチバ、私はお前の言う“暴力に頼らないやり方”とやらで王になってやろう。では早速だ。その具体的な方法を述べて見せよ」

「はぁ⁉ いや、だからその方法をお前が考えて俺に示すって話だろ⁉ 何で俺が教えなきゃいけないんだよ⁉」


 と言うより、そんな方法は勝利条件を設定した俺にだって分からない。何故なら切羽詰まった状況で何とか捻り出した行き当たりばったりな勝利条件だからだ。 


 ────け、けど……。具体的な方法を提示しない事でネーロに都合良く解釈されちまうのも結構マズいか……?


 これはある意味でネーロの勝利条件のハードルを上げるチャンスとも言えた。

 だとすれば、やれるだけやるしかない。


「……つーか、言われなきゃ分かんねぇか?」

「……何だと?」

「いや〜? 確かに俺はその答えを知ってるぜ? けど、俺から直接答えを聞いてそれを実行するってのは決闘としてどうなのか〜ってね。お前、そんな方法で勝って後悔しない?」

 

 当然ハッタリだ。ネーロの求める答えなんてこれっぽっちも分からない。

 だが、そんな挑発じみた俺の言葉にネーロは鋭い眼光を飛ばしてくる。

 俺も負けじとネーロの眼光から目を逸らさない。

 

「……ふん、いいだろう」


 すると、やがてネーロが折れた。


 ────そ、そうだよな……! ネーロ、お前はプライドが高い……! プライドの高いお前はここまで言われて“俺から直接答えを聞き出す”なんて真似は絶対に出来ねぇ……! そう思ってたぜ……!


 これでもうネーロが決闘に勝利する可能性は殆どない。ネーロの勝利条件が俺の匙加減次第になったからだ。

 ネーロがどんな方法で王になろうとも、俺が認めない限りネーロの勝利は絶対にない。

 同時に俺がネーロの敗北を認めない限りリーノの勝利もない。

 もうこの決闘は引き分けしかないのだ。 


「…………そうか、お前の言いたい事が何となく理解できたぞ」


 ネーロとリーノに命を握られる心配が無くなってホッとしている最中、ネーロが何やら呟いた。


「お前から決闘の勝利条件を聞き出して勝利したとしても、それは私がお前の口先に踊らされた道化というだけ。決して王の見せるべき姿ではない……とお前は伝えたかった訳か」

「え……? お、おう……‼ その通りだ!」


 別に王の在り方を伝えたかったつもりなんて欠片もないのだが、それはそうとして好意的に捉えてもらえるのならそれに越したことはない。


「だがこのままだと私の勝利は些か厳しいか……」


 ネーロもこの勝利条件が不利なんて事は分かっているのだろう。


「とは言え、私が勝利する可能性もあるか……」 

「…………え?」  

「ふん……。オチバ、今はお前の掌の上で踊ってやる。だがいずれ認めさせてやろう。私こそが────なにッ⁉」


 聞き捨てならないネーロの科白(せりふ)に困惑する最中、一瞬の間にそれは起きた。 

 突如としてネーロの足下に黒い(もや)が立ち昇り、膨大な量の靄がネーロの全身を包み込んだのだ。

 靄に取り巻かれたネーロは靄を振り払おうと飛び退く。

 だが、それが裏目に出てしまっていた。

 

「くっ……⁉ これは……⁉ 体の制御が効かな──⁉」

  

 ネーロの脚はネーロの想定を遥かに越えた全力の脚力で地面を蹴り、そのまま受け身も取れず壁面と衝突してしまう。

 靄の影響を受けてしまったネーロは、“靄を振り払う為に飛び退く”という意識に囚われ、力の加減が出来なかったのだ。


「同志、素晴らしい陽動でしたわ……」


 こんな攻撃方法を持つ者など、この場には一人しかいない。

 

「ら、ラスバブ……⁉」


 ネーロの魔法を受けて気を失っていたラスバブが意識を取り戻し、ネーロに不意打ちを仕掛けたのだ。


「強者を惹き付ける魔性、でしたか……。ふふ……。いま分かりましたわ……。あなたは……クルエル教徒を導く使徒でございましたのね……」

 

 ネーロが完全に気絶していると判断した彼女は、今度はふらふらとした足取りで俺に近づいてくる。


 ────ち、近付いて来やがった……⁉ つーか、なんでこいつはこの状態で動けるんだよ……⁉


 ラスバブは身体はボロボロだ。ドレスは所々破け、頭やら露出した部分やら至る所に流血が見られる。そんな状態で近づかれるのは完全にホラーだとしか形容のしようがない。


 ────こ、怖えぇ⁉ 


 靄の影響で俺の中の恐怖心が急激に増幅されていく。

 恐怖心が俺に助かる方法を探せと訴える。


 ────ど、どうする⁉ 逃げる⁉ いや、こいつに背中を見せんのは怖すぎる⁉ なら助けてもらうか⁉ 駄目だ⁉ 距離的に間に合わねぇ⁉ どうしたら……⁉ 


 助かる為にラスバブを退ける方法はないかと必死に模索するが、逃走も救援も現実的じゃない。


 ────もう立ち向かうしか方法はないってのかよ⁉ ………………いや、それが正解か⁉


 恐怖心が限界値を越えて正常な判断能力を失った俺は、平時なら絶対に選ばない解決策を導き出してしまっていた。

 しかし、形振り構う余裕のない俺は即座にその解決策を実行に移す。

 

「同志ラスバブ、お疲れ様です」


 そうして敵意を抱かせない顔でラスバブに近づいた俺は……。

 

「うおおおお‼」

「同志……⁉ がっ……⁉」


 ラスバブの脳天目掛けて手刀を放ち、見事ラスバブの意識を刈り取る事に成功していた。


「はぁはぁ……。瀕死の女性に暴力を振るうのは気が引けっけど……。よし! これで一件落着だ……!」

 

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