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よろしくお願いします。

 

 “皇帝候補者とその後ろ盾となる派閥を調査する”という任務を受けてから既に四日が経過し、神の召喚が行われるであろうと推測される入学式まで残り三日を切っているのだが……。


 ────参ったな。全然調査が進展してねぇ。


 後ろ盾になっている派閥を特定するどころか、まだ判明していない皇帝候補者の手掛かりすら掴めていなかった。


 理由の一つには『貴族を探る行為には命の危険がある』と知った俺が調査の初日に怖気づいて半日を無駄にした事もある。

 だが、それについては最早“誠意のある丁寧な対応で聞き込み調査をする他ない”と腹を括って半ばヤケクソ気味に克服していた。


 問題は別にある。


 ────誰も耳を貸さねぇってことだな。


 当然のことながら、俺はセアリアス学園の生徒でないため制服姿ではない。


 つまり、この学園の生徒からすれば俺は一介の使用人、下手をすれば不審者にしか見えないのだ。


 何とか今のところアーディベル家の使用人服が立派なお陰でそのような誤解は受けていないが、少なくとも一瞥(いちべつ)されただけで貴族ではないと見なされているのは間違いなかった。


「かと言って、アーディベル家の名前を出しても逃げちまうんだもんな……」


 話を聞いてもらうためにアーディベル家の使用人だと説明すれば、殆どの貴族生徒は公爵家の不興を買う訳にはいかないと急に焦った様子でその場から逃げ出す始末だ。


 そうした事情を知ってから改めて観察してみれば、確かに俺の服装を見てアーディベル家の使用人だと判断できた生徒は早々に俺から距離を取っているのが感じられた。


 要は、俺から距離を取る生徒はアーディベル家を意識しているということで……。


 ────そういう奴らの方が何か情報を持ってる可能性は高いってこった。


 しかし、そういう生徒たちこそ俺を見つければ距離を取るように動くため接触するのが難しい。何より、仮に接触できても素直に情報を教えてくれるとも思えない。


 ────そこで庭園(ここ)に来たって訳だ。


 庭園が生徒たちのサロン──集会所のような役割をしているのはこの前リスティアお嬢様に案内されたことで知ることができていた。


 ここには多くの生徒が様々なグループを作ってお茶会をしている。


 だから俺は朝早くからルーギッドさんの供物を準備するとこの庭園へと足を運び、複雑な庭園内を往復しつつ、集まる生徒たちをつぶさに観察することにしたのだ。


 庭園は生け垣の仕切りで個室のような空間に見えてはいるが、ドアなどで密閉されている空間ではない。

 あまり褒められた手段じゃないが盗み聞きするのはそこまで難しくないだろう。


 ────まぁ、魔法で対策されてたら為す術もねぇけどな。



 ◆◇◆



 そうして朝から昼過ぎにかけて調査を続けていたのだが、未だに調査は進展せずにいた。


 ────うーん、こうも情報が集まらねぇってなるとやっぱり魔法で盗み聞きの対策はしてるっぽいよな……。そうすっと、既に皇帝候補者を擁してるって判明してる派閥から調べて皇帝候補者を見つけるのがいいのか……?


 俺は改めて判明している皇帝候補者の情報を纏めてみる。


 ────皇帝候補者はロイライハ帝国の次代皇帝としての資格を持つ人物の事を指すって話だったな……。


 その資格はロイライハ帝国建国に携わったとされるロイ神とライハ神の二柱から特別な属性魔法を授かる事で得ることができるとの事で……。


 ────その魔法は属性融合魔法って名前がついてて、皇帝候補者の数は属性融合魔法の数と同じだけ存在する……。つまり、火、水、風、土、光、闇の六人の皇帝候補者がいるって訳だ。


 現在俺が知る皇帝候補者の人数は三人だ。


 ────先ず一人目はアーディベル家が擁するドリス公爵家の“クラウディオ・ドリス”だな。面識はねぇけど、確か火の属性融合魔法を使うってピアード博士が言ってたな。


 容姿端麗で魔法の実力も申し分無く、皇帝候補者として注目される以前から人気があると聞く。派閥に関してはその中核をアーディベル家とドリス家が担っている。


 ────二人目はレファリオ。使う属性融合魔法は闇だ。


 フルネームは“レファリオ・アルメヒス”。

 レファリオの派閥に関して特筆すべき点はない。

 強いて言えばアーディベル家が後ろ盾になっているという事になるのだろう。


 ────三人目はフロンツィエ辺境伯の子息、ルフナだ。


 とはいえ、“ルフナ・ネフシャリテ”の属性融合魔法については不明な部分が多い。


 ルフナ本人やその従者のアリクティ、ルフナの父親であるフロンツィエ辺境伯によるとルフナは確かに属性融合魔法を使えるらしいのだが、素行の悪かったルフナが万が一にでも皇帝に選ばれてしまう可能性を排除しようと考えた辺境伯の意向でルフナの属性融合魔法は封印魔法で縛られているらしい。


 派閥に関しては辺境伯の動きが早かったからなのか、そもそもルフナが皇帝候補者だと世間に広まっている様子がない。

 しかし、学園内における素行の悪い生徒たちからすればルフナの評判は上々だったようで、仮にルフナが派閥を作ろうと動けば一つの勢力ができてしまえるようだ。


 ────残る判明してない皇帝候補者は三人か。……でもその中で一人だけ派閥だけは特定できてる。


 それがスィエルディーチ家が擁する“誰か”だ。

 当然ながら属性も不明。


 帝国一の武闘派であるスィエルディーチ家の派閥はアーディベル家の派閥と対をなす程に大きな派閥のようで、アーディベル家の派閥としても最も警戒すべき派閥だと注目している。


 ────他二人の皇帝候補者については全く情報がねぇからな。狙い撃つんならスィエルディーチ家の派閥が擁する皇帝候補者を特定するってのが現実的…………おっと、来たな。


 そして、たった今庭園へとやって来た生徒同士の話し声から微かに聞こえてきた“スィエルディーチ家”という単語を俺は聞き逃さなかった。


 視線をゆっくりと動かして庭園に入ってきたグループを確認する。


 ────後ろ姿しか確認できねぇけど……。男子生徒が二人に、女子生徒が一人か……?


 男子生徒の二人は肩の記章を見るに上級生のようで、(しき)りに下級生らしき女子生徒へと声を掛けている。


「……スィエルディーチ家が…………増してる!…………には…………しかない!」

「…………角を見れば…………強い! …………この派閥争いに勝てば…………」


 聞き耳を立てれば所々聞き取れない部分があるものの、男子生徒たちが派閥に関する話題で盛り上がっているのは間違いなさそうだ。


 ────一年生の女子生徒を勧誘してるって感じか……? けど、何かおかしな感じもするような……。


 違和感こそ覚えたが折角の手掛かりを逃す訳にはいかない。


 さらなる手掛かりを求めて三人の尾行と観察を続けていると……。


「…………⁉」


 三人の横顔を確認する瞬間が訪れた事でその違和感が明らかとなった。


 上級生の一人は虎と酷似した頭部をしていた。

 もう一人の上級生は蛇を想起させる頭部をしている。

 二人の上級生に囲まれた下級生に至っては、髪を掻き分けるようにして額から蒼白い二本の角が見え隠れしていた。


 ────この違和感……! 亜人だったからか……! ってなると、あいつらがスィエルディーチ家の派閥って線は薄くなる……! スィエルディーチ家は亜人や平民を毛嫌いする傾向にあるみてぇだからな……! こりゃもしかするとやっぱりあるのか……! 亜人たちの派閥が……‼


 その可能性はありえると思っていた。

 思い起こされるのは、セアリアス学園に着いた初日の帰り道だ。

 俺はそこで亜人の集団と出くわしていた。


 ────()()()はこれから皇帝を決めるってこの時期に有力貴族の情報を欲してやがった! 分身を送り込んでまで……! 


 帝国の常識において、亜人が貴族の情報を手に入れる事に意味などない。

 亜人が帝国貴族と対等に話し合う機会が存在しないからだ。


 ────それでもあいつは貴族と何らかの関わりを持とうと考えてた……! いや、その確信を持って貴族の情報を集めてたんだ……!


 それはあいつの中で、“いずれ亜人が貴族と対等の立場で渡り合う”という未来図があったからではないだろうか。


 帝国貴族と対等以上の立場で、帝国の誰もが蔑ろにできないような立場。


 ────んなもん、皇帝候補者がいるってこと以外考えらんねぇよなぁ……! 皇帝候補者の一人は亜人たちの派閥に属してやがる……‼ そんで、やっとお前に関する手掛かりも見つけられたぜ……! アリルド・レイジアン‼


 未判明だった皇帝候補者の派閥の特定とアリルド・レイジアンの手掛かりに俺は胸を躍らせるのだが……。



「そ、そんなのって酷い……‼」



 不意に悲愴的な感情の篭った女性の声が亜人たちとは別方向から響き渡り、


 ────な、何事だ……⁉


 俺の注意は亜人たちから声の主の方へと引き寄せられてしまった。


 騒ぎの一角へ視線を向けてみると、そこには逆立った金髪の男子生徒と涙を流す女子生徒が対峙している。

 雰囲気から察するに先程の台詞は涙を流す女子生徒によるものだろう。


 ────修羅場ってやつか……? ったく、驚かせやがって……。


 金髪の男子生徒と涙を流す女子生徒、どちらも俺と面識はない。


 関わらない事に越したことはないと視線を亜人たちに戻そうとしたその瞬間、


「……おいおい、マジか。あの人、また何か変な事になってんじゃん」


 俺の視線は涙を流す女子生徒の隣に寄り添うユーリィさんの姿を捉えてしまったのだった。




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