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よろしくお願いします。
俺からの情報が皆と共有され、次はリスティアお嬢様たちの得た情報を俺が共有する番となる。
「僕らから共有するのは、この学園に関する諸々についてです」
リスティアお嬢様たちを代表して口を開いたのはレファリオだ。
「知ってる事もあると思いますけど改めて纏めさせていただきます」
「そいつは助かる。今のところ学園について知ってんのは、生徒や教師の間じゃ貴族社会の上下関係が適用されねぇってことくらいだからな。確か、授業を円滑に進める為にあるんだっけか?」
「名目上はそういう風になってますね」
「……名目上?」
「ええ。生徒の中には帝国外から来ている生徒も少なくないですからね。下手をすれば外交問題です。何かしらの問題が起きた時に“学園が責任逃れするために制定した規則”という面が強い気がします」
「は、はは……。マジか……」
セアリアス学園の強かな一面に驚かされるが、むしろそうした面があるからこそ多くの帝国貴族たちはこの学園を信頼しているのだろう。
「先ず基礎的な情報から纏めますと、セアリアス学園は六年制の全寮制人材育成機関です。入学条件も十三歳以上という年齢制限と緩く、多額の入学金が必要という点さえ乗り越えられれば国籍を問わずに入学を認めているとの事です。それと例外的に特待生として選ばれた人物は入学金が免除されるようですね」
つまり、基本的にこの学園に通う生徒のほぼ全てが裕福な家柄の出という事だ。そして唯一その例から漏れるのがユーリィさんのような特待生という事になる。
そうしてレファリオからセアリアス学園の授業計画や体制なんかも聞いたところ、どうやらセアリアス学園は単位制のようなシステムで授業を進行しているとの事が分かった。
生徒たちは学園が提示する“必須科目”に加え、進級に必要な数の“自由科目”を選んで授業を受ける。
そして学期末にはそれぞれの授業で試験が実施され、合格基準を満たす事でその科目の単位を取得できる。
進級の条件はシンプルに、“必須科目と自由科目の合計取得単位が進級に必要な基準を満たしているか否か”という事だ。
────思った以上に大学って感じだな……。
セアリアス学園の授業形態がそんなに難しくなかった事に安心しきっていると、
「次の報告はライハ神の降臨についてですね……。近々フェリミリカ・ヴィッツ女王陛下がヴィッツ家に伝わる召喚魔法を行使してライハ神をこの地に呼び寄せるのではないか、という噂があちこちで流布されています」
突如として緊張感漂わせる話題が浮上する。
「え、マジ……? つーか、“ヴィッツ”ってことはやっぱりジークリット公女殿下の……」
「オチバの予想通りよ。フェリミリカ陛下はジークリット先輩のお母様で、このヴィッツ公国の君主であらせられる方ね」
「付け加えますとフェリミリカ女王陛下はセアリアス学園の理事長も兼任してますし、帝国貴族として公爵位を叙爵されている方でもあります」
「……軽く言ってるけどそれってめちゃくちゃな権力者じゃねぇの?」
「当たり前よ。凄い権力者に決まってるじゃない」
「……お前、よくそんな親がいるジークリット公女殿下を前に平然とできてたな?」
「き、緊張したに決まってるじゃない⁉ 最初ジークリット先輩がわたしたちの所に来た時どれだけわたしとレファリオが緊張してたのか覚えてないの⁉」
「……そういやそうだったか」
珍しくレファリオが緊張してたからよく覚えている。
「むしろ先程ジークリット様の隣を平然と歩くオチバさんを見て僕は肝を冷やしましたよ……。ウルリーケ様の前に立ったときもそうですけど、オチバさんって特別強い訳でもないのに基本的に誰が相手でも萎縮しませんよね……」
「え……? いや、んなことは……」
「あるわよ! わたしと初めてあったときも全然緊張してなかった気がするわ!」
「……そういや、ミットヴィルでわたしと会った時も魔力なんか全然ねー癖してビビってなかったよな」
「あ……! そ……そう言えば! わ……私の方が使用人としては先輩なのに、お……オチバさんからは一度も尊敬されてる感じがしたことないです……!」
「さ、散々に言いやがって……⁉ 俺は柔軟な思考で冷静に対処してるだけだっての⁉ つーか、ティミ! お前に至ってはリスティアお嬢様に俺が追われてる時に凄い卑怯な手で足止めしようとしたの忘れてねぇからな⁉」
「ひ、ひぇ……⁉」
「ちょっと、オチバ。ティミをいじめないでちょうだい。ティミはわたしの為にやってくれたんだから」
「り、リスティアお嬢様ぁ〜」
「ぐっ……」
こういう時リスティアお嬢様がティミにとことん甘いのはいつもの光景だ。
────まぁ、それだけリスティアお嬢様がティミに心を許してるってことだからな……。
ここは大人の心でティミの件は一先ず脇に置いておくことにしよう。
「……では話を戻しますね」
そうして話が落ち着くとレファリオが話の舵を取り戻す。
「フェリミリカ女王が近々召喚魔法を行使するという噂ですが、信憑性はあります。召喚魔法の行使は通例としてセアリアス学園の行事と併せて執り行われてますからね。一番近い行事は入学式ですし、その時であれば皇帝候補者も一同に集まります。可能性は高いかと」
「なるほど。んで入学式の日取りってのは?」
「来週です」
「……そりゃ日に日にお祭り騒ぎの度合いが強くなってく訳だぜ」
「他人事じゃないわ。ライハ神の降臨はアーディベル家にとっても一大事だもの」
世間の盛り上がりように納得していると、自分たちも無関係ではないとリスティアお嬢様が声をあげた。
「ライハ神は選定公として次代皇帝を指名する為に降臨なされるの。アーディベル家のためにも、お父様のためにも、お父様のような貴族にわたしがなるためにも……! 皇帝候補者であるクラウディオ様の手助けをするのがわたしの役目なんだから!」
────リスティアお嬢様の気合は十分って感じだな。
リスティアお嬢様の言う“クラウディオ様”とは、アーディベル家の派閥が次代皇帝として推している皇帝候補者の一人、クラウディオ・ドリスという人物のことだ。
なんでも、文武両道かつ優秀な魔法を所有しており、人柄も良いとかで皇帝候補者の中でも抜きん出て人気があるという話を聞く。
しかし、ライハ神は人々からの人気がある人物だからと次代皇帝に指名する訳ではないらしい。
────ライハ神ってのは、皇帝候補者とその陣営が今までどうやって帝国に貢献してきたのかってのを見通せるんだっけか……?
かつて俺、クラルテ、スピラ、ドミ、ゼンで討伐したゴーレム。
あの一件にスピラたちが関わってきた理由はアーディベル家の派閥の武勇を広める為であり、更にはゴーレムの核を利用して帝国のさらなる魔法技術発展に尽力する姿勢をライハ神に見せるためだと聞いている。
そうした貢献度稼ぎがライハ神から皇帝として指名される要因となるのだろう。
恐らくは他の皇帝候補者と彼らを擁する派閥も同様に功績を上げようと動いているに違いない。
「……そうですね。リスティアお嬢様の言う通り、クラウディオ様の手助けをすることは大切だと思います。ですが、その為には先ず色々と他の皇帝候補者を調査する必要があるのではないでしょうか?」
リスティアお嬢様の考えに賛同する様子を見せたレファリオは、
「オチバさんもそう思いますよね?」
そう言って俺を見る。
「……そこでなんで俺を見んの?」
「それは調査を請け負う人物としてオチバさんが一番の適任者だと思うからですよ。僕やスピラ、ティミも動きますが、オチバさんの方が僕らよりも自由に動けますからね」
レファリオに言われて他の奴らを見渡してみれば、
「わたしもティミもリスティアの側から離れらんねーからな。できる範囲でなら手伝うぜ?」
「そ、その……! リスティアお嬢様の為に頑張って下さい……!」
確かにこの中で自由に動ける人材は俺しかいないらしい。
「……けど、それって大丈夫なのか? 俺はディアンってのに目をつけられてるみてぇだし、俺みたいな部外者丸出しの奴が皇帝候補者の調査なんてしてたら直ぐに他派閥の注目まで集めちまうと思うんだけど……」
「確かに他派閥からの注目を集めてしまうのはあまり良い手段とは言えませんね。ですが皇帝候補者本人たちは悪評を作りたくない筈です。ライハ神に見透かされてしまいますから。ですから皇帝候補者本人を見つける分には大した問題にもならないでしょう」
「なるほどな……」
「……まあそもそもの話、“オチバさんが注目を集めない”という状況が想像できないからこそのこの案なんですけど」
「え……?」
「今までの経験からして“オチバさんが何らかの騒動に関わらないとは思えない”という事です」
「なっ……⁉ いや、それについては完全に否定しきねぇのが心苦しいな……⁉」
勿論自分から騒動を起こすつもりなんてさらさらないのだが、騒動に巻き込まれない保証だって何処にもない。
「どうせ目立つ事になるのでしたら、いっそオチバさんには他の皇帝候補者の調査をしていただいて目立って貰おうかなと……。それにオチバさんが目立てば目立つほど皆の目がオチバさんに向いて僕らも調査に動きやすくなりますからね」
要は囮という事だ。
「……リスティアお嬢様。以上の事から、僕はオチバさんに皇帝候補者たちの調査を任せるべきだと提案させていただきます。クラウディオ様の手助けについては他派閥の状況を確認してからが宜しいかと」
「……そうね、ありがとうレファリオ。……でもそれって危ない話のような気がするわ」
「はい。ですからその辺りはしっかりとオチバさんと相談し、熟考してもらってから──」
「いや、考えるまでもねぇ。俺に任せてくれ。俺はもう既にディアンってのから目をつけられてるしな。今更他の皇帝候補者の派閥から睨まれたって大して変わらねぇだろ? 何だったら皇帝候補者に加えてその後ろ盾になってる派閥について調べてもいいぜ? それならレファリオの言う通り直ぐに目立てるだろうし、目立つ事で皆の助けになるってんなら俺も悪い気はしねぇしな!」
大手を振って聞き込みができるという点。
そして目立っても許されるという点。
この二点は俺にとっても非常に都合が良い。
何せ俺は神についての情報を得るためにこの国へとやって来たのだ。
加えてこの学園にいるであろうアリルドとも接触を図りたいし、ピアード博士とした魔剣研究に関する約束だってある。
────やる事が山積みだからな……。どうやったって目立っちまう可能性の方が高ぇし、目立つのがリスティアお嬢様たちの役に立つってんならそれくらいお安い御用だぜ……!
そういった考えのもとに決断を下したのだが、
「お、オチバ……! あなた、わたしのためにそこまで……! 学園の生徒でもないのに貴族の派閥を調査するなんてしたら命の危険だってあるかもしれないのに……!」
「い、命の危険……?」
どうやらその決断は早計だったようだ。
「分かったわ! わたし、あなたの覚悟を信じる! オチバ、あなたには皇帝候補者たちとその後ろ盾となる派閥についての調査を命じます……! 期待してるわ……!」
「…………あっ⁉」
考えてみれば簡単な話だった。
皇帝候補者とその支援をする派閥は、確かに調査をする俺を害することはないのだろう。それはライハ神に咎められたくないからだ。
しかし、皇帝候補者とは全く関係のない貴族派閥だってこの学園には存在する。
そうした派閥にとって探りを入れてくる輩はただの敵でしかなく、皇帝候補者とも無縁の派閥だから他者を害することに躊躇いがない。
────や、やっちまった……⁉
こうして俺は、“皇帝候補者たちとその後ろ盾となる派閥の調査”という超絶難易度の任務を安請け合いしてしまったのであった。
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